平成28年9月7日、厚生労働省の薬食審・医薬品第一部会で10製品の承認が審議され、すべて了承されました。
今回審議が行われた品目のうち、希少疾病用医薬品であるウプトラビ錠についてまとめます。
平成28年9月28日に承認済みです。
平成28年9月7日薬食審・医薬品第一部会での審議品目
今回審議され、承認が了承されたのは以下の通りです。
- リクラスト点滴静注液:年に一回投与のビスフォスフォネート製剤
- カーバグル分散錠:NAGS欠損症、イソ吉草酸血症、メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症などによる高アンモニア血症に対する治療薬
- リアルダ錠:ペンタサ、アサコールに続く3つ目のメサラジン製剤
- ミケルナ配合点眼液:キサラタンとミケランを合わせた点眼液
- エビリファイ:小児の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性に対する適応追加
- ウプトラビ錠:肺動脈性高血圧症への適応を持つPGI2受容体作動薬
- ジャクスタピッドカプセル:ホモ接合体家族性高コレステロール血症に対して効果を発揮するMTP阻害薬
- プリズバインド静注液:プラザキサの中和薬
- ブリリンタ錠:プラビックス、エフィエントに続く新規抗血小板薬
- ミカトリオ配合錠:日本初の3剤配合降圧剤 テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジド
- ポリドカスクレロール1%注:適応条件の緩和と用法・用量の追加(報告品目)
- 献血グロベニン-I静注用:ギラン・バレー症候群への適応追加(報告品目)
- トレシーバ注:注射時刻についての制限緩和(報告品目)
一つずつまとめていきたいと思います。
ウプトラビ錠の承認を了承
成分名:セレキシパグ
- ウプトラビ錠0.2mg
- ウプトラビ錠0.4mg
申請者:日本新薬
効能・効果:「肺動脈性肺高血圧症」
用法・用量:「通常、成人にはセレキシパグとして1回0.2mgを1日2回食後経口投与から開始する。忍容性を確認しながら7日間以上の間隔で1回量として0.2mgずつ増量して維持用量を決定する。なお、最高用量は1回1.6mgとし、いずれの用量に置いても、1日2回食後に経口投与する。」
肺動脈性肺高血圧症(PAH)とは?
肺動脈性肺高血圧症(PAH:Pulmonary Arterial Hypertension)は「難治性呼吸器疾患(指定難病)」に認定されている疾患で、肺高血圧症(PH:Pulmonary Hypertension)の一種です。
PHには他に
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH:Chronic ThromboEmbolic Pulmonary Hypertension)
- 肺動脈閉塞症(PVOT:Pulmonary veno-occlusive disease)
- 肺毛細血管腫症(PCH:Pulmonarycapillary hemangiomatosis)
- 肺疾患に伴う肺高血圧症
などがあります。
PAHは肺の血管の内部が狭くなったり硬くなったりするために、血液の流れが悪くなることにより生じる疾患です。
PAHはその原因により
- 特発性PAH(IPAH:Idiopathic Pulmonary Arterial Hypertension)
- 遺伝性PAH(HPAH:Heritable Pulmonary Arterial Hypertension)
- 薬物誘発性PAH(アミノレックス・フェンフルラミン等の食欲抑制薬によるもの)
- 他疾患に関連するもの
などに分類されます。
PAHの症状
人間は血液によって酸素を体中に送っていますが、血管が狭く細くなってくると血液があまり流れることができず、十分な酸素を運ぶことができなくなります。
それを改善しようとすると、心臓に負荷がかかると共に、肺動脈の血圧が上昇します。
この状態が続くことで、肺に血液を送る右心室の肥大が起こり心不全につながったり、肺の酸素不足や全身の循環不良を引き起こしてしまいます。
初期の段階では、体を動した時にのみ、息苦しさや倦怠感、失神などの症状が現れます。
ですが、病気が進行すると普段から足がむくんだり、少し体を動かしただけで症状が出現するようになります。
「呼吸不全に関する調査研究班」による調査によると、2013年度の肺動脈性肺高血圧症の患者数は2,587名です。
ウプトラビ錠の特徴
ウプトラビはIP受容体選択的作動薬です。
これまで使用されてきたIP受容体作動薬には、PGI2及びその誘導体がありましたが、多くは経口投与以外の製剤で、また、生体内で容易に分解されるため血中濃度を維持させるのが困難でした。
ウプトラビの成分であるセレキシパグは、非プロスタノイド構造を持つIP受容体作動薬で、経口投与が可能で、1日2回の服用で血中濃度の維持を可能としています。
IP受容体とPGI2
ウプトラビの作用は他のPGI2及びその誘導体の作用に準じます。
そこでまず、PGI2の作用についてまとめます。
PGI2(ProstaGlandin I2、プロスタサイクリン)はIP受容体(プロスタサイクリン受容体)に結合することで、アデニル酸シクラーゼ(AC:Adenylate Cyclase)を活性化させます。
活性化されたACはATPからcAMPの産生を促進し、cAMPはcAMP依存性プロテインキナーゼA(PKA:Protein Kinase A)を活性化させ、活性化されたcAMP-PKAは血管平滑筋を弛緩させます。
また、PGI2はcAMPを介した血小板凝集抑制作用や血管内皮細胞増殖抑制作用を持つことが知られています。
選択的プロスタサイクリン受容体(IP受容体)作動薬
ウプトラビの成分であるセレキシパグはIP受容体に選択的に結合することで、主に以下の3つの作用を発揮します。
- 血管平滑筋弛緩作用
- 血小板凝集抑制作用
- 血管内皮細胞増殖抑制作用
これらの作用により、肺動脈の血流を改善し、肺動脈性肺高血圧症に対する効果を発揮します。
セレキシパグはプロドラッグ
セレキシパグは生体内で加水分解を受け活性代謝物であるMRE-269になります。
MRE-269のcAMP生成量はセレキシパグの15~33倍とされています。
MRE-269の血中濃度が維持されることにより、1日2回の投与で効果を発揮することが可能です。
禁忌など注意点
禁忌の中で気になるのは以下の二つです。
- 2.重度の肝障害患者
- 3.肺静脈閉塞性疾患を有する肺高血圧症の患者
重度の肝障害患者
重度の肝障害患者の場合、セレキシパグ及び活性代謝物MRE-269の血漿中非結合型分率が中等度の肝障害患者に比べ高かったことが理由に挙げられています。
また、国内及び海外の臨床試験においても、重度の肝障害患者(Child-PughクラスC、スコア10以上)は除外されているため、安全性が確立されていないことから、禁忌に設定されたようです。
肺静脈閉塞性疾患を有する肺高血圧症の患者
海外第III相試験において、肺静脈閉塞性疾患(PVOD:Pulmonary Veno-Occlusive Disease)に伴う肺水腫が1例報告されています。
また、米国添付文書やSmPC(Summary of Product Characteristics、製品概要)で、PVODと確認された場合、本剤の投与を中止することが記載されているようです。
PVODはPAHと臨床上の鑑別が非常に難しいことから注意が必要です。
肺血管拡張剤(主にプロスタサイクリン)により重篤な肺水腫を引き起こす場合、PVODである可能性があると報告されているため、ウプトラビ投与中に肺水腫を起こした場合は投与を中止して、PVODの可能性を考慮しなけばならないということです。
まとめ
選択的PGI2受容体作動薬であるウプトラビ錠についてまとめました。
PAHの治療薬には、
- PGI2およびその誘導体
- エンドセリン受容体拮抗薬
- ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害剤
- 溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤
などがあります。
本文中にも書きましたが、PGI2およびその誘導体は生体内での半減期が非常に短く、静脈用フローラン(成分名:エポプロステノール)などは持続静注で使用しないと安定した効果を発揮することができません。
経口で十分な効果を発揮することができ、さらに投与回数も1日2回で済むウプトラビはPAH治療における大きな選択肢の一つになると思います。