プラザキサの中和薬プリズバインド静注液の承認了承〜2016年9月7日医薬品第一部会審議品目④

平成28年9月7日、厚生労働省の薬食審・医薬品第一部会で10製品の承認が審議され、すべて了承されました。
今回は、審議が行われた品目の中から、プリズバインド静注液についてまとめます。
プリズバインドはプラザキサの特異的中和薬です。
なお、プリズバインド静注液は平成28年9月28日に製造販売が承認されました。

平成28年9月7日薬食審・医薬品第一部会での審議品目

今回審議され、承認が了承されたのは以下の通りです。

一つずつまとめていきたいと思います。

プリズバインド静注液の承認了承

成分名:イダルシズマブ(遺伝子組換え)

  • プリズバインド静注液2.5g

申請者:日本ベーリンガーインゲルハイム
効能・効果:以下の状況におけるダビガトランの抗凝固作用の中和

  • 生命を脅かす出血又は止血困難な出血の発現時
  • 重大な出血が予想される緊急を要する手術又は処置の施行時

用法・用量:通常、成人にはイダルシズマブ(遺伝子組換え)として1回5g(1バイアル2.5g/50mLを2バイアル)を点滴静注又は急速静注する。ただし、点滴静注の場合は1バイアルにつき5~10分かけて投与すること。

これまでダビガトラン(商品名:プラザキサ)の抗凝固作用を中和する薬は存在していませんでした。
プリズバインドが承認されれば、緊急手術を要するときや大出血が起こってしまった際の対処方法となります。

NOACからDOACへ

プリズバインドの話に入る前に、その標的となるダビガトラン等の話を。
ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(DEMS)、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)、アピキサバン(商品名:エリキュース)、エドキサバン(商品名:リクシアナ)といえばNOACです。
昨年くらいからこのNOACという呼称をDOACに変えようという流れがあります。

もともと、NOACというのはNovel/New Oral AntiCoagulant(新規経口抗凝固薬)の略でした。
ですが、ダビガトランが販売開始となった2008年(日本国内では2011年)から数年たち、もう「新規」とは言えなくなったため、「Non-vitamin K antagonist Oral AntiCoagulant(非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬)」をNOACとして使用する流れがありました。
ですが、「Non-VKA Oral AntiCoagulant」を「Non-AntiCoagulant(抗凝固薬は不要)」と誤解されるリスクがあるという話になってしまったようです。
現在、国際血栓止血学会(ISTH)が推奨しているのが、「DOAC」という略称です。
Direct Oral AntiCoagulant(直接経口抗凝固薬)の略でDOAC。
DOACという記載を目にする機会が少しずつ増えてきた気がします。

手術時のDOAC休薬期間の比較

手術を受ける際、どのくらい前からDOACの休薬を行えばいいかといことについてまとめておきます。

ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ®)

添付文書には以下のように記載されています。

重要な基本的注意

  • 14.手術や侵襲的手技を実施する患者では、出血の危険性が増大するため危険性に応じて本剤の投与を一時中止すること。可能であれば、手術や侵襲的手技の24時間前までに投与中止すること。完全な止血機能を要する大手術を実施する場合や出血の危険性が高い患者を対象とする場合には、手術の2日以上前までの投与中止を考慮し、従来の抗凝固療法と同様に代替療法(ヘパリン等)の使用を考慮すること。また、手術後は止血を確認した後に、本剤の投与を再開すること。

また、メーカー配布資料には、腎機能別の手術前の休薬期間も記載されています。

  • Ccr>80mL/minの場合:24時間(出血リスク大 2〜4日)
  • 50≦Ccr<80mL/minの場合:24時間(出血リスク大 2〜4日)
  • 30≦Ccr<50mL/minの場合:少なくとも48時間(出血リスク大 4日)
リバーロキサバン(イグザレルト®)

添付文書には以下のように記載されています。

重要な基本的注意

  • 3.本剤の投与中に手術や侵襲的処置を行う場合、臨床的に可能であれば本剤の投与後24時間以上経過した後に行うことが望ましい。手術や侵襲的処置の開始を遅らせることができない場合は、緊急性と出血リスクを評価すること。本剤の投与は、手術や侵襲的処置後、患者の臨床状態に問題がなく出血がないことを確認してから、可及的速やかに再開すること。
アピキサバン(エリキュース®)

添付文書には以下のように記載されています。

重要な基本的注意

  • 9.待機的手術又は侵襲的手技を実施する患者では、患者の出血リスクと血栓リスクに応じて、本剤の投与を一時中止すること。出血に関して低リスク又は出血が限定的でコントロールが可能な手術・侵襲的手技を実施する場合は、前回投与から少なくとも24時間以上の間隔をあけることが望ましい。また、出血に関して中~高リスク又は臨床的に重要な出血を起こすおそれのある手術・侵襲的手技を実施する場合は、前回投与から少なくとも48時間以上の間隔をあけること。なお、必要に応じて代替療法(ヘパリン等)の使用を考慮すること。緊急を要する手術又は侵襲的手技を実施する患者では、緊急性と出血リスクが増大していることを十分に比較考慮すること。
エドキサバン(リクシアナ®)

添付文書には以下のように記載されています。

重要な基本的注意

  • 8.本剤の投与中に手術や侵襲的処置を行う場合、本剤の投与後24時間以上経過した後に行うことが望ましい。手術や侵襲的処置の開始を遅らせることができない場合は、緊急性と出血リスクを評価すること。本剤の投与再開は、手術や侵襲的処置後、患者の臨床状態に問題がなく出血がないことを確認してから、可及的速やかに行うこと。なお、必要に応じて代替療法(ヘパリン等)の使用を考慮すること。

 

ダビガトランの中和薬であるイダルシズマブ

プリズバインドの主成分であるイダルシズマブ(Idarucizumab)はヒト化モノクローナル抗体フラグメントです。
(ヒト化モノクローナル抗体:抗原結合部位以外をヒトの抗体に置き換えることでヒトの体内に入っても異物として認識されないようにしたモノクローナル抗体)
イダルシズマブは選択的直接トロンビン阻害剤であるダビガトランと特異的に結合することで、ダビガトランの抗凝固作用を中和します。
その結合は、ダビガトランとトロンビンの結合よりも、300倍以上強力とされています。

イダルシズマブの投与により、トロンビン時間や活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)の延長はダビガトランを投与していない場合と同程度までに抑制されることが確認されています。
その効果は速やかに発現し、さらに48時間にわたって持続することが確認されています。

今後登場予定のDOAC中和薬

イダルシズマブの他にもDOAC中和薬の開発が行われています。
リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンのような第Xa因子阻害剤の中和薬がアンデキサネット(Andexanet alfa)です。
アンデキサネットは第Xa因子に対する親和性が第Xa因子阻害剤よりも高いため、第Xa因子と第Xa因子阻害剤の結合を競合的に阻害し、その抗凝固作用を抑制します。
また、無機小分子で、水素結合による非特異的に結合で、選択的直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)、第Xa因子阻害剤(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)全てに結合するCiraparantag(以前はAripazineという名称で呼ばれていました)も開発中のようです。

ちなみに、先日紹介したチカグレロル(ブリリンタ®)の中和薬も開発中のようです。

まとめ

DOACの中和剤が必要になるケースというのはさほど多くはないかもしれませんが、必要性は確実にあります。
これまでは、ダビガトラン投与時に大出血が起こった場合の対処方法というのは、あくまでも出血による影響を緩和する保護的なものしか存在しませんでした。
原因療法としては

  • 服用2時間以内であればDEMSの吸収を防ぐための活性炭投与
  • 主に腎排泄なので利尿を促すことで排泄促進
  • 血液透析(約60%が排除可能)

などです。
イダルシズマブが使用可能になれば直接的な原因療法となります。
また、起こりうるケースに対応できる選択肢があるというのはとても大切です。
販売されれば、使うかどうかは別として、起こりうるケースに対する対策として頭に入れておくべき薬ですね。

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