令和元年9月6日、厚生労働省医薬・生活衛生局は、添付文書の使用上の注意を改訂するよう日本製薬団体連合会に通知しました。
今回は2つの内容の改訂指示が出されています。
※副作用に関する記載を中心とした記事ですが、あくまでも医療従事者を対象とした記事です。副作用の追加=危険な薬剤というわけではないのがほとんどです。服用に際して自己判断を行わず医療従事者の指示にしたがってください。
使用上の注意の改訂指示(令和元年9月6日)
PMDAへのリンクを貼っておきます。
令和元年度指示分 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
今回、添付文書の改訂が実施されたのは以下の2つについてです。
- ロモソズマブ(イベニティ皮下注):心血管イベント発現リスク
- トレラグリプチン(ザファテック錠):25mg承認に伴う腎障害に合わせた用量
ちなみに、今年度からpmdaが発出する改定案の一部は旧記載要領と新記載要領の両方が掲載されるようになっています。
- 旧記載要領:「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(平成9年4月25日付け薬発第606号局長通知)
- 新記載要領:「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」(平成29年6月8日付け薬生発0608第1号局長通知)に基づく改訂
現時点で各医薬品が採用している記載方式に従ってまとめます。
ロモソズマブ(イベニティ)による心血管系事象発現リスク
- イベニティ皮下注105mgシリンジ
(添付文書・IF・RMP) - 成分名:ロモソズマブ(遺伝子組換え)
- 製造販売:アステラス・アムジェン・バイオファーマ
- 効能・効果:骨折の危険性の高い骨粗鬆症
- 用法・用量:通常、成人にはロモソズマブ(遺伝子組換え)として210mgを1ヵ月に1回、12ヵ月皮下投与する。
- 薬価収載:2019年2月
- 販売開始:2019年3月
- 当ブログ記事:イベニティ皮下注〜スクレロスチンを阻害し骨形成促進・骨吸収抑制を併せ持つ骨粗鬆症治療薬 – 薬剤師の脳みそ
- 使用上の注意改訂のお知らせ ※心血管系事象(虚血性心疾患又は脳血管障害)発現のリスク及び適用患者選択について
- 適正使用のお願い(2019年7月作成)(虚血性心疾患又は脳血管障害発現のリスクについて)
- 「市販直後調査」ご協力のお願い(2019年7月作成)-イベニティ®による虚血性心疾患又は脳血管障害発現のリスクについて-
- 医師提示用カード(患者さん向け)
心血管系事象について、「警告」欄を新設、心血管系事象発現リスクを理解した上で適用患者を選択する旨が記載されます。
また、「重要な基本的注意」に「少なくとも、過去1年以内の虚血性心疾患又は脳血管障害の既往歴のある患者に対して、本剤の投与は避けること。」の文章が追加されています。
添付文書改訂に至った経緯
イベニティによる心血管系事象については、販売当初から話題に上がっていました。
海外での比較試験の結果、アレンドロン酸ナトリウム投与群と比べてイベニティ投与群のほうが心血管系事象の発言割合が高い傾向が認められていることについて添付文書にも記載されており、RMPでも重要な潜在的リスクとして重篤な心血管系事象が記載されています。
販売開始後、2019年7月24日には、国内での心血管系事象症例が報告されたことを踏まえ、販売元からの注意喚起が行われました。
イベニティ皮下注〜スクレロスチンを阻害し骨形成促進・骨吸収抑制を併せ持つ骨粗鬆症治療薬 – 薬剤師の脳みそ
これらの経緯を踏まえて、今回の添付文書改訂に至ったというわけです。
改訂指示の内容
【新記載要領】に従ってまとめます。
添付文書に「警告」欄が追加され、以下の内容が記載されます。
警告
海外で実施されたアレンドロン酸ナトリウムを対照とした比較試験において、心血管系事象(虚血性心疾患又は脳血管障害)の発現割合がアレンドロン酸ナトリウム群に比較して本剤群で高い傾向が認められている。また、市販後において、本剤との関連性は明確ではないが、重篤な心血管系事象を発現し死亡に至った症例も報告されている。本剤の投与にあたっては、骨折抑制のベネフィットと心血管系事象の発現リスクを十分に理解した上で、適用患者を選択すること。また、本剤による治療中は、心血管系事象の発現がないか注意深く観察するとともに、徴候や症状が認められた場合には速やかに医療機関を受診するよう指導すること。
引用元:イベニティ皮下注 添付文書
添付文書の「効能・効果に関連する使用上の注意」は以下のように改訂されます。
下線部が追記された内容になります。
〈効能・効果に関連する使用上の注意〉
- 本剤の適用にあたっては、日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会の診断基準における以下の重症度に関する記載等を参考に、骨折の危険性の高い患者を対象とすること。
- 骨密度値が-2.5SD以下で1個以上の脆弱性骨折を有する
- 腰椎骨密度が-3.3SD未満
- 既存椎体骨折の数が2個以上
- 既存椎体骨折の半定量評価法結果がグレード3
- 本剤の投与にあたっては、本剤のベネフィットとリスクを十分に理解した上で、適用患者を選択すること。
引用元:イベニティ皮下注 添付文書
また、重要な基本的注意が以下のように変更されます。
下線部が追記された内容です。
2. 重要な基本的注意
- 本剤を投与する場合には、虚血性心疾患及び脳血管障害の徴候や症状を患者に説明し、徴候や症状が認められた場合は、速やかに医療機関を受診するよう指導すること。
- 虚血性心疾患又は脳血管障害のリスクが高い患者への投与は、本剤の骨折抑制のベネフィットと心血管系事象の発現リスクを考慮して判断すること。少なくとも、過去1年以内の虚血性心疾患又は脳血管障害の既往歴のある患者に対して、本剤の投与は避けること。
引用元:イベニティ皮下注 添付文書
報告内容
直近3年度・・・といっても販売開始半年なのでその間の情報とは思いますが、因果関係が否定できない症例こそないものの、虚血性心疾患又は脳血管障害関連症例、及び原因不明死亡症例が36例、死亡7例が報告されています。
改訂の理由及び調査の結果
本邦での販売開始以降、心血管系関連(虚血性心疾患又は脳血管障害)の事象が複数報告され、死亡に至る症例も報告された。専門委員の意見も踏まえた調査の結果、本剤と心血管系事象又は死亡との因果関係が否定できない症例は認められなかったものの、事象の重篤性や海外の措置状況も踏まえ、添付文書を改訂することが適切と判断した。
引用元:ロモソズマブ(遺伝子組換え)の「使用上の注意」の改訂について
因果関係は不明ながらも重篤性を重視した結果・・・ということですね。
そのほか 思ったこと
やはりというかなんというか・・・。
因果関係は不明ではありますが、心血管イベントについて無視することはできませんよね。
販売開始前から懸念されていた内容なので当然といえば当然の流れでしたね。
あれ?
2019年7月の注意喚起の際に公開された市販後国内副作用発現一覧には因果関係が否定できない死亡例が報告されてるんですが、これってどういうことなんでしょう?
その後、精査を重ねた結果、因果関係が否定できないものではなかったってことでしょうか?
トレラグリプチン(ザファテック) 腎機能に応じた用量の細分化
- ザファテック錠100mg
- ザファテック錠50mg
- ザファテック錠25mg ←追加
(添付文書・IF・RMP) - 成分名:トレラグリプチンコハク酸塩
- 製造販売:武田薬品
- 効能・効果:2型糖尿病
- 用法・用量:通常、成人にはトレラグリプチンとして100mgを1週間に1回経口投与する。
- 審議・承認了承:2015年1月30日(薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会)
- 製造販売承認
- 100mg・50mg:2015年3月26日
- 25mg:2019年8月21日
- 薬価収載
- 100mg・50mg:2015年5月20日
- 25mg:未定
- 販売開始
- 100mg・50mg:2015年5月28日
- 25mg:未定
- 当ブログ記事:
ザファテック錠(トレラグリプチン)〜週一回投与のDPP4阻害薬 – 薬剤師の脳みそ
ザファテック錠100mg・50mg・25mg 添付文書改訂のお知らせ
今回の改訂に先立ち、令和元年8月21日付でザファテック錠25mgの剤形追加も承認されています。
ザファテック錠25mg製造販売承認(剤形追加 )取得のご案内
これまで高度の腎機能障害については禁忌とされていましたが、今回の改訂と25mg錠の登場により透析中の末期腎不全患者までが適応の範囲になりました。
改訂指示の内容
【旧記載要領】に従ってまとめます。
添付文書の「禁忌」から「高度の腎機能障害患者又は透析中の末期腎不全患者」から削除されます。
【禁忌】
(1) 重症ケトーシス、糖尿病性昏睡又は前昏睡、1型糖尿病の患者[輸液、インスリンによる速やかな高血糖の是正が必須となるので本剤の投与は適さない。] (2) 重症感染症、手術前後、重篤な外傷のある患者[インスリン注射による血糖管理が望まれるので本剤の投与は適さない。](3) 高度の腎機能障害患者又は透析中の末期腎不全患者[本剤は 主に腎臓で排泄されるため、排泄の遅延により本剤の血中濃度が上昇するおそれがある。](【薬物動態】の項参照)
(4)(3) 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
引用元:ザファテック錠 添付文書
「用法・用量に関連する使用上の注意」については下線部の通り、中等度に加えて「高度腎機能障害患者/末期腎不全患者」の用法・用量が追加されています。
<用法・用量に関連する使用上の注意>
(1) 中等度以上の腎機能障害患者では、排泄の遅延により本剤の血中濃度が上昇するため、腎機能の程度に応じて、下表を参考に投与量を減量すること。
中等度以上の腎機能障害患者における投与量
血清クレアチニン(mg/dL)※ クレアチニンクリアランス(Ccr,mL/min) 投与量 中等度腎機能障害患者 男性:1.4< 〜 ≤2.4
女性:1.2< 〜 ≤2.030≤ 〜 <50 50mg、週1回 高度腎機能障害患者/末期腎不全患者 男性:>2.4
女性:>2.0<30 25mg、週1回 末期腎不全患者については、本剤投与と血液透析との時間関係は問わない。
※:Ccr に相当する換算値(年齢60歳、体重65kg)
引用元:ザファテック錠 添付文書
また、「慎重投与」についても下線部の通り、中等度「以上」の腎機能障害に改められています。
【使用上の注意】
1. 慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
次に掲げる患者又は状態
(1) 中等度以上の腎機能障害のある患者又は透析中の末期腎不全患者[腎機能の程度に応じて本剤の血中濃度が増加する。本剤の投与量を減量し、患者の状態を慎重に観察すること。]
引用元:ザファテック錠 添付文書
改訂に至った経緯
武田薬品工業はザファテック錠25mgの開発に際し、25mgを週1回投与したときの有効性及び安全性を検討する臨床試験(SYR-472-3003試験)を行い、その結果をもとに、製造販売承認申請ならびに禁忌から「高度の腎機能障害患者又は透析中の末期腎不全患者」を削除する申請を行いました。
臨床試験の結果を踏まえ、25mg錠を「高度の腎機能障害患者又は透析中の末期腎不全患者」に使用した場合の有効性と安全性が認められ、今回の改訂(と25mg錠の承認)に至っています。
特に気になる安全性についてですが、調査結果報告書は以下のように記載されています。
3.専門協議
3-2.高度腎機能障害患者及び末期腎不全患者に本剤25mgを投与した際の安全性について
一方、専門委員から、以下のような意見が出された。
- SYR-472-3003試験において、重篤な有害事象ではないが、上咽頭炎の発現割合がプラセボ群に比べ本剤群で高い傾向が示されている。上咽頭炎が薬剤による有害事象と認識されることは稀であることも踏まえると、高度腎機能障害患者及び末期腎不全患者に本剤25mgを投与した際の感染症リスクについては、注意深い安全性監視が必要と考える。
- 本剤50mg及び本剤100mgの製造販売承認時までに国内で実施された第III相試験(CCT-002試験)及び第III相単独又は併用長期投与試験(OCT-001試験)において、本剤単独投与時に低血糖を認めたのは1例のみであったこと、SYR-472-3003試験において認められ た副作用のほとんどが低血糖であったことを踏まえると、高度腎機能障害患者又は末期腎不全患者では低血糖が発現しやすいとも考えられ、適切な注意喚起が必要と考える。
機構は、専門委員の意見を踏まえ、以下のように考える。
高度腎機能障害患者又は末期腎不全患者では、本剤25mg投与中は患者の状態を慎重に観察する旨注意喚起するとともに、自発報告のみならず、特定使用成績調査、研究報告等の情報も踏まえ、低血糖及び感染症の発現状況に注視し、必要に応じて適切な注意喚起が必要と考える。
引用元:調査結果報告書 令和元年8月21日 独立行政法人医薬品医療機器総合機構
副作用としては低血糖と感染症のリスクが高めるようなので注意が必要となります。
まとめ 考えたこと
ザファテック錠25mgの登場により、これまで禁忌となっていた高度の腎機能障害患者又は透析中の末期腎不全患者についてもザファテックが服用可能となります。
透析患者については透析での除去率が気になるところですが、調査結果報告書に記載されていました。
4.腎機能障害者を対象とした臨床薬理試験(101試験:本剤50mg及び100mgの製造販売承認申請参考資料)
外国人成人男女を対象に、本剤50mg単回投与時の薬物動態及び薬力学的作用に及ぼす腎機能の影響を検討するための臨床薬理試験において、本薬の薬物動態に及ぼす血液透析の影響が検討された。4時間の血液透析で除去された本薬量の平均値(4例)は、投与量の9.2%(変動係数5.8%)であった。
引用元:調査結果報告書 令和元年8月21日 独立行政法人医薬品医療機器総合機構
ということで透析による除去量についてもそこまで影響はなさそうですね。
今のところ発売日は未定です。
これまで禁忌だったものが禁忌で無くなるということで、今まで投与を諦めていた患者さんに対しても処方が開始される可能性がありますね。
在庫の必要性も含めて処方元との連携をとっておきたいところです。