【令和5年5月9日付】RAS阻害剤の添付文書改訂指示

令和5年5月9日、厚生労働省医薬・生活衛生局は、新たな副作用が確認された医薬品等について、添付文書の使用上の注意を改訂するよう日本製薬団体連合会に通知しました。
今回は6つの改訂指示が出されていますが、RAS阻害薬に関するものについて詳しくまとめたいと思います。

※副作用に関する記載を中心とした記事ですが、あくまでも医療従事者を対象とした記事です。副作用の追加=危険な薬剤というわけではないのがほとんどです。服用に際して自己判断を行わず医療従事者の指示にしたがってください。

PMDAへのリンクを貼っておきます。
令和4年度指示分 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
000252352.pdf (pmda.go.jp)

添付文書の改訂指示が出されたのは以下の6つです。

  • アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤含有製剤、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤及び直接的レニン阻害剤:生殖能を有する者に対する注意
    1. アジルサルタン、アジルサルタン・アムロジピンベシル酸塩(アジルバ、ザクラス、ジルムロ)
    2. アラセプリル(セタプリル)
    3. アリスキレンフマル酸塩(ラジレス)
    4. イミダプリル塩酸塩(タナトリル)
    5. イルベサルタン、イルベサルタン・アムロジピンベシル酸塩、イルベサルタン・トリクロルメチアジド(アバプロ、イルベタン、アイミクス、イルアミクス、イルトラ)
    6. エナラプリルマレイン酸塩(レニベース)
    7. オルメサルタンメドキソミル、オルメサルタンメドキソミル・アゼルニジピン(オルメテック、レザルタス)
    8. カプトプリル(カプトリル)
    9. カンデサルタンシレキセチル、カンデサルタンシレキセチル・アムロジピンベシル酸塩、カンデサルタンシレキセチル・ヒドロクロロチアジド(ブロプレス、ユニシア、カムシア、エカード、カデチア)
    10. テモカプリル塩酸塩(エースコール)
    11. デラプリル塩酸塩(アデカット)
    12. テルミサルタン、テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩、テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩・ヒドロクロロチアジド、テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド(ミカルディス、ミカムロ、テラムロ、ミカトリオ、ミコンビ、テルチア、)
    13. トランドラプリル(オドリック)
    14. バルサルタン、バルサルタン・アムロジピンベシル酸塩、バルサルタン・シルニジピン、バルサルタン・ヒドロクロロチアジド(ディオバン、エックスフォージ、アムバロ、アテディオ、コディオ、バルヒディオ)
    15. ベナゼプリル塩酸塩(チバセン)
    16. ペリンドプリルエルブミン(コバシル)
    17. リシノプリル水和物(ゼストリル、ロンゲス)
    18. ロサルタンカリウム、ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド(ニューロタン、プレミネント、ロサルヒド)
    19. サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物(エンレスト)
  • メサラジン(リアルダ、アサコール、ペンタサ):中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、薬剤性過敏症症候群
  • 酢酸亜鉛水和物(ノベルジン):胃潰瘍
  • レフルノミド(アラバ):皮膚潰瘍
  • アンピシリン水和物、アンピシリンナトリウム、アンピシリン水和物・クロキサシリンナトリウム水和物、アンピシリンナトリウム・クロキサシリンナトリウム水和物(ビクシリン):肝機能障害
  • イオベルソール:急性汎発性発疹性膿疱症

pmdaが発出する改定案の一部は旧記載要領と新記載要領の両方が掲載されるようになっています。

RAS阻害剤:生殖能を有する者に対する注意の追加

RAS(Renin-Angiotensin System:レニン-アンジオテンシン系)阻害剤とまとめてしまいましたが、アジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI:Angiotensin converting enzyme Inhibitor)、アンジオテンシンⅡ受容体阻害剤(ARB:Angiotensin II Receptor Blocker)、直接的レニン阻害薬(DRI:Direct Renin Inhibitor)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI:Angiotensin Receptor-Neprilysin Inhibitor)を指しています。

改定指示の内容

まずは【旧記載要領】、下線部が追記された部分です。
「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」が新設されます。

妊婦、産婦、授乳婦等への投与
妊娠する可能性のある女性に投与する場合には、本剤の投与に先立ち、代替薬の有無等も考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、投与が必要な場合には次の注意事項に留意すること。

(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。
(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。
・妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。
・妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。
・妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。〔妊娠していることが把握されずアンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤を使用し、胎児・新生児への影響(腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡等)が認められた例が報告されている。

次に【新記載要領】、下線部が追記された部分です。
「9. 特定の背景を有する患者に関する注意」が新設されます。

9.4 生殖能を有する者
妊娠する可能性のある女性
妊娠していることが把握されずアンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤を使用し、胎児・新生児への影響(腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡等)が認められた例が報告されている。
本剤の投与に先立ち、代替薬の有無等も考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断され る場合にのみ投与すること。また、投与が必要な場合には次の注意事項に留意すること。

(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。
(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。
・妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼ すリスクがあること。
・妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに担当医に相 談すること。
・妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。

サクリトビルバルサルタン(エンレスト)については、【新記載要領】、下線部が追記されます。

9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.4 生殖能を有する者
妊娠する可能性のある女性 妊娠していることが把握されずアンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を使用し、胎児・新生児への影響(腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡等)が認められた例が報告されている。
本剤の投与に先立ち、代替薬の有無等も考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、投与が必要な場合には次の注意事項に留意すること。
(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。
(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。
・妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。
妊娠可能な女性には、本剤投与中及び本剤投与終了後一定期間は適切な避妊を行うよう指導すること。
・妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。
・妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。

改訂理由

以下の通り、国内での曝露による児への影響が疑われる症例(児の副作用関連症例)が集積されています。
(主に「医薬品適正仕様のお願い」が公開された2014年以降のデータ)

アンジオテンシン変換酵素阻害剤:1 例【死亡0例】

  1. アラセプリル:0例
  2. イミダプリル塩酸塩:0例
  3. エナラプリルマレイン酸塩:1例【死亡0例】
  4. カプトプリル:0例
  5. テモカプリル塩酸塩:0例
  6. デラプリル塩酸塩:0例
  7. トランドラプリル:0例
  8. ベナゼプリル塩酸塩:0例
  9. ペリンドプリルエルブミン:0例
  10. リシノプリル水和物:0例

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤含有製剤:23例(うち1例は、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤含有製剤2剤を使用)【死亡7例】

  • アジルサルタン:1例【死亡0例】
  • イルベサルタン:0例
  • オルメサルタン メドキソミル:6例【死亡4例】
  • カンデサルタン シレキセチル:6例【死亡2例】
  • テルミサルタン:2例【死亡0例】
  • バルサルタン:3例【死亡0例】
  • ロサルタンカリウム:3例【死亡0例】
  • アジルサルタン・アムロジピンベシル酸塩:0例
  • イルベサルタン・アムロジピンベシル酸塩:0例
  • イルベサルタン・トリクロルメチアジド:0例
  • オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン:1例【死亡0例】
  • カンデサルタン シレキセチル・アムロジピンベシル酸塩:0例
  • カンデサルタン シレキセチル・ヒドロクロロチアジド:0例
  • テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩:0例
  • テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩・ヒドロクロロチアジド:0例
  • テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド:0例
  • バルサルタン・アムロジピンベシル酸塩:1例【死亡1例】
  • バルサルタン・シルニジピン:0例
  • バルサルタン・ヒドロクロロチアジド:1例【死亡0例】
  • ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド:0例

アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害剤

  1. サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物:0例

PMDAからの医薬品適正使用のお願い

今回の改訂指示にあわせて、2014年9月に公開された「医薬品適正仕様のお願い」も改訂されています。

000252410.pdf (pmda.go.jp)

まとめ

RAS阻害薬について、投与開始時に妊娠中かどうかを確認するのは当然として、投与開始後のフォローはどの程度てきていますか?

これはRAS阻害薬と妊娠に限らず考えておかなければいけないことだと思います。

妊娠中禁忌となる薬剤は当然として、SERMと歩行状況のように、患者さんの変化により禁忌でなかったものが禁忌となるケースは少なくありません。

投与開始時に、そのことを想定して伝えることはもちろん、定期的に確認を行なっていくことも大切です。

薬剤情報を点として捉えるだけでなく、患者さんのライフサイクル・イベントを意識して捉えることができるようになっていきたいと思います。

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

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