平成30年5月23日、厚生労働省の医薬品食品審議会(薬食審)医薬品第二部会が開催されました。
新薬4製品の製造承認の可否、2製品の適応追加の可否について審議され、全て承認が了承されました。
6月下旬ごろに正式に承認される予定です。
また、報告品目として3製品の適応・用法・用量の追加が報告されました。
今回は簡単にまとめ、後日、一つずつ詳しくまとめてリンクしていく予定です。
新規医薬品
今回審議された新規医薬品は4製品ですべて承認了承されました。
レフィキシア静注用
2018年7月2日に承認済
[http://www.novonordisk.co.jp/content/Japan/AFFILIATE/www-novonordisk-co-jp/Extweb/news/2018/07/02/18-18.pdf:title=レフィキシア®[一般名:ノナコグ ベータ ペゴル(遺伝子組換え)]、 半減期延長型の血友病 B 治療薬として国内での製造販売承認を取得]
- 医薬品名:
- レフィキシア静注用500
- レフィキシア静注用1000
- レフィキシア静注用2000
- 成分名:ノナコグベータペゴル(遺伝子組換え)
- 申請者:ノボ ノルディスクファーマ
- 効能・効果:「血液凝固第IX因子欠乏患者における出血傾向の抑制」
半減期延長型の血液凝固第IX因子製剤
血液凝固第IX因子をPEG化することで半減期を延長した製剤です。
血友病Bの患者に対し、40IU/kgを週1回投与することで効果を維持できます。
半減期延長型の血液凝固第IX因子製剤は、オルプロリクス静注用(成分名:エフトレノナコグ アルファ(遺伝子組換え))、イデルビオン静注用(成分名:アルブトレペノナコグ アルファ(遺伝子組換え))に続いて3製品目になります。
ダフクリア錠
2018年7月2日に承認済
ダフクリア錠200㎎ 製造販売承認取得のご案内
- 医薬品名:ダフクリア錠200mg
- 成分名:フィダキソマイシン
- 申請者:アステラス製薬
- 効能・効果:「感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)」
クロストリジウム・ディフィシル感染性腸炎の新たな選択肢
ダフクリア錠の有効成分であるフィダキソマイシンはRNAポリメラーゼ阻害剤に分類される抗菌薬です。
適応菌種はクロストリジウム・ディフィシル*1です。
選択的な抗菌スペクトルを持つのが特徴で、クロストリジウム・ディフィシルに対して選択的・殺菌的に作用することが可能です。
そのため、他の腸内細菌に対する影響が少ないと言われています。
偽膜性大腸炎を含むクロストリジウム・ディフィシル感染性腸炎に対して使用されます。
日本国内で現在使用されている治療薬にはメトロニダゾールとバンコマイシンがありますが、感受性の低下や再発等の問題が生じており、ダフクリア錠が新たな選択肢に加わることが期待されています。
スピラマイシン錠
2018年7月2日に承認済
スピラマイシン 製造販売承認取得のご案内
- 医薬品名:スピラマイシン錠150万単位「サノフィ」
- 成分名:スピラマイシン
- 申請者:サノフィ
- 効能・効果:「先天性トキソプラズマ症の発症抑制」
先天性トキソプラズマ症の発症抑制
妊娠中にトキソプラズマに初感染した場合、トキソプラズマが胎盤を介して胎児に感染してしまう可能性があります。
その場合、胎児は「先天性トキソプラズマ症」を発症し、流産や死産、水頭症などの原因となる場合があります。
現在は適応外でアセチルスピラマイシン錠(成分名:スピラマイシン酢酸エステル)が使用されていますが、日本産婦人科学会からの要望に基づいて開発された薬剤です。
ガザイバ点滴静注
2018年7月2日に承認済
ヒト化抗 CD20 モノクローナル抗体「ガザイバ®点滴静注 1000 mg」 「CD20 陽性の濾胞性リンパ腫」に対する承認を取得
- 医薬品名:ガザイバ点滴静注1000mg
- 成分名:オビヌツズマブ(遺伝子組換え)
- 申請者:中外製薬
- 効能・効果:「CD20陽性の濾胞性リンパ腫」
糖鎖改変型タイプII抗CD20モノクローナル抗体
現在、CD20陽性のB細胞性濾胞性リンパ腫に対する標準治療は「リツキシマブと化学療法の併用」です。
今回審議されたガザイバ(オビヌツズマブ)は「濾胞性リンパ腫」の治療でリツキシマブを上回る有用性が確認されています。
リツキシマブ(製品名:リツキサン)もオビヌツズマブも腫瘍細胞のCD20に対する抗体ということでは同じですが、オビヌツズマブはより抗体依存性細胞傷害*2活性を高めた医薬品になります。
臨床試験ではリツキサンに対して有意に無増悪生存期間を延長しています。
オビヌツズマブのADCC活性たの高さはFc領域のフコースを除去する技術を用いて開発されていること、タイプⅡの結合様式を持つことに由来します。
後に記載するようにトレアキシン点滴静注用と併用(報告品目)します。
新規 効能・効果の追加について審議された医薬品
今回、新たな適応の追加について審議されたのは2製品で両方とも承認了承されています。
リムパーザ錠の適応追加
2018年7月2日に承認済
リムパーザ®(オラパリブ)、がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌の治療薬として適応を拡大
- 医薬品名:
- リムパーザ錠100mg
- リムパーザ錠150mg
- 成分名:オラパリブ
- 申請者:アストラゼネカ
- 追加される効能・効果:「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がん」
日本初のPARP阻害薬リムパーザ
今年の4月18日に薬価収載・発売されたばかりのリムパーザ錠に新たな適応が追加されることになりそうです。
リムパーザ錠(オラパリブ)は日本初のポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ*3阻害薬です。
現在承認されている適応は「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣がんにおける維持療法」のみです。
詳しい作用機序等は過去記事を参照してください。
平成30年4月18日に薬価収載された医薬品一覧 – 薬剤師の脳みそ
適応に「BRCA遺伝子変異」の有無が記載される初めての薬剤
正式に承認されれば「BRCA遺伝子変異」を判定した上で使用する初めての薬剤になります。
ちなみに、現在承認されている「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣がんにおける維持療法」においては「BRCA遺伝子変異」の有無は問われません。
これはBRCA遺伝子変異を持つ卵巣がん」が高率で「白金系抗悪性腫瘍剤感受性」であるためです。
海外での承認状況を見てみると、米国で「BRCA遺伝子変異(病的変異または病的変異疑い)陽性の乳がん」の適応で承認されています。(2018年2月時点)
日本での承認はそれよりも厳しく「HER2陰性の手術不能または再発乳がん」という縛りが加わるようです。
イラリス皮下注用の適応追加
2018年7月2日に承認済
「イラリス®」、全身型若年性特発性関節炎の治療薬として効能追加の承認を取得
- 医薬品名:
- イラリス皮下注用150mg
- イラリス皮下注射液150mg
- 成分名:カナキヌマブ(遺伝子組換え)
- 申請者:ノバルティスファーマ
- 追加される効能・効果:「既存治療で効果不十分な全身型若年性特発性関節炎」
ヒト型抗ヒトIL-1βモノクローナル抗体
イラリス(成分名:カナキヌマブ(遺伝子組換え))はヒトインターロイキン*4-1βに対する遺伝子組換えヒト免疫グロブリンG1モノクローナル抗体で、炎症性サイトカインであるIL-1βに特異的に結合し、活性を抑制することで様々な炎症反応を改善します。
現在、イラリスは下記の適応を有しています。
- 以下のクリオピリン関連周期性症候群
- 家族性寒冷自己炎症症候群
- マックル・ウェルズ症候群
- 新生児期発症多臓器系炎症性疾患
- 既存治療で効果不十分な家族性地中海熱
- TNF受容体関連周期性症候群
- 高IgD症候群(メバロン酸キナーゼ欠損症)
- 2011年9月:新薬として製造承認取得
- クリオピリン関連周期熱症候群*5
- 2016年12月:適応追加
全身型若年性特発性関節炎の新たな治療選択肢
16歳未満に発症した関節炎のうち、原因不明(特発性)で、症状が6週間以上続くものが若年性特発性関節炎*10とされています。
今回追加されるのは、そのうち「全身型」に分類(全身型若年性特発性関節炎*11は)されるものに対する適応になります。
現在は、ステロイドによる治療が中心となっていますが、それでも効果不十分の場合に使用されることになります。
報告品目
報告品目は医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査段階で承認して差し支えないとされ、部会では審議せず、報告のみでよいと判断されたもの。
トレアキシン点滴静注用(ガザイバ点滴静注との併用)
- 医薬品名:
- トレアキシン点滴静注用25mg
- トレアキシン点滴静注用100mg
- 成分名:ベンダムスチン塩酸塩
- 申請者:シンバイオ製薬
- 追加される効能・効果:既存の効能・効果である「低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫」において併用療法を追加
審議品目のガザイバ点滴静注と併用が追加される予定です。
タフィンラー・メキニスト(適応拡大)
- 医薬品名①:
- タフィンラーカプセル50mg
- タフィンラーカプセル75mg
- 成分名①:ダブラフェニブメシル酸塩
- 医薬品名②:
- メキニスト錠0.5mg
- メキニスト錠2mg
- 成分名②:トラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物
- 申請者:ノバルティスファーマ
- 追加される効能・効果:BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫に対する術後補助療法
先日3月23日に「BRAF遺伝子変異を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」に対する適応を追加取得したばかりでしたが、既存の「BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫」に加えて、「術後維持療法」での適応も追加される予定です。
イムブルビカ(適応拡大)
- 医薬品名:イムブルビカカプセル140mg
- 成分名:イブルチニブ
- 申請者:ヤンセンファーマ
- 追加される効能・効果:未治療の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)
既存の適応は「再発又は難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」と「再発又は難治性のマントル細胞リンパ腫」ですが、慢性リンパ性白血病については未治療でも使用可能になる予定です。
*1:CD:Clostridium difficile
*2:ADCC:Antibody-Dependent-Cellular-Cytotoxicity
*3:PARP:poly[ADP]- ribosepolymerase
*4:IL:InterLeukin
*5:CAPS:Cryopyrin-Associated Periodic Syndrome
*6:FMF:Familial Mediterranean fever
*7:TRAPS:TNF Receptor-Associated Periodic Syndrome
*8:HIDS:Hyper IgD Syndrome
*9:MKD:Mevalonate Kinase Deficiency
*10:JIA:Juvenile Idiopathic Arthritis
*11:SJIA:Systemic Juvenile Idiopathic Arthritis