令和2年1月29日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会が開催され、5つの製品について審議が行われ、すべて承認が了承されています。
今回承認間近となったのは、新規マルチキナーゼ阻害薬カボメティクス錠、レブラミドカプセルやアレセンサカプセル、ロズリートレクカプセルの適応追加などです。
2020.2.21付でレブラミドカプセル、アレセンサカプセル、ロズリートレクカプセル、ピリヴィジェン10%点滴静注、オレンシア点滴静注用/皮下注、オプジーボ点滴静注の一部変更が承認されました。
2020年1月29日の薬食審・医薬品第二部会
今回は新有効成分含有医薬品が一つ、新効能・新用量医薬品が4つ、合計5製品について審議され、全ての承認が了承されています。
審議品目(承認了承)
新有効成分含有医薬品
- カボメティクス錠(カボザンチニブリンゴ酸塩):「根治切除不能又は転移性の腎細胞がん」(AXL/MET/VEGFRキナーゼ阻害薬)
新効能・新用量医薬品
- レブラミドカプセル(レナリドミド水和物):「再発又は難治性の濾胞性リンパ腫及び辺縁帯リンパ腫」を追加(免疫調節薬、サリドマイド誘導体)
- アレセンサカプセル150mg(アレクチニブ塩酸塩):「再発又は難治性のALK融合遺伝子陽性の未分化大細胞リンパ腫」を追加(ALK阻害薬)
- ロズリートレクカプセル(エヌトレクチニブ):「ROS1融合遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」を追加(ROS1/TRK阻害薬)
- ピリヴィジェン10%点滴静注(pH4処理酸性人免疫グロブリン):「無又は低ガンマグロブリン血症」を追加(液状静注用人免疫グロブリン製剤)
また、2製品、3種類の効能追加が報告品目として挙げらています。
報告品目
- オレンシア点滴静注用/皮下注(アバタセプト):「関節リウマチ」の効能・効果に「関節の構造的損傷の防止を含む」(適応拡大)を追加(CTLA4-Ig)
- オプジーボ点滴静注(ニボルマブ):「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸がん」と「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な進行・再発の食道がん」を追加(ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体)
2021年2月21日付で一部変更については承認されています。カボメティクスについては未承認なので気をつけてね!
審議品目(新有効成分含有医薬品・新投与経路医薬品)
まずは審議が行われた医薬品5製品について。
カボメティクス錠:根治切除不能又は転移性の腎細胞がん
承認の種類 | 新有効成分含有医薬品 |
---|---|
医薬品名 | カボメティクス錠20mg カボメティクス錠60mg |
成分名 | カボザンチニブリンゴ酸塩 |
申請者 | 武田薬品 |
効能・効果 | 根治切除不能又は転移性の腎細胞がん |
用法・用量 | 成人:カボザンチニブとして1回60mgを空腹時に経口投与 |
指定等 | なし |
海外承認 | 化学療法歴のない根治切除不能又は転移性の腎細胞がん:アメリカ(2017年12月)、EU(2018年5月) 化学療法歴のある根治切除不能又は転移性の腎細胞がん:アメリカ、EU(2016年) |
参考資料
- AXL/MET/VEGFRキナーゼ阻害剤カボザンチニブの日本における製造販売承認申請について(2019年4月25日)
- キナーゼ阻害剤カボザンチニブのがん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞癌に関する日本における製造販売承認申請について(2020年1月29日)
AXL/MET/VEGFRキナーゼ阻害薬で化学療法歴のない根治切除不能または転移性の腎細胞がんに用います。
主にVEGFR2を介したシグナル伝達分子(細胞外シグナル調節キナーゼ等)のリン酸化を阻害すること腫瘍増殖抑制作用を発揮すると考えられています。
腎細胞癌に対する適応をもつ代表的薬剤とそれぞれの位置付け
現時点で腎細胞がんに対する適応で承認されている薬についてまとめてみます。
「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」の適応を持つ薬剤(腎細胞癌の一次治療に使用可能な薬剤)
分子標的薬
- ソラフェニブ(ネクサバール錠):チロシンキナーゼ阻害薬(マルチキナーゼ阻害薬)
- スニチニブ(スーテントカプセル):チロシンキナーゼ阻害薬(マルチキナーゼ阻害薬)
- アキシチニブ(インライタ錠):チロシンキナーゼ阻害薬(マルチキナーゼ阻害薬)
- パゾパニブ(ヴォトリエント錠):チロシンキナーゼ阻害薬(マルチキナーゼ阻害薬)
- エベロリムス(アフィニトール錠):mTOR*1阻害薬
- テムシロリムス(トーリセル点滴静注液):mTOR阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬
進行腎癌に対する薬物療法の選択基準
(日本泌尿器科学会:腎癌診療ガイドライン 2017年版より)
分類 | 推奨治療薬 | ||
---|---|---|---|
一次治療 | 淡明細胞型腎細胞癌 | 低リスク※ | スニチニブ、パゾパニブ 代替治療薬:ソラフェニブ、IF-α、低用量IL-2 |
中リスク※ | イピリムマブ+ニボルマブ併用 スニチニブ、パゾパニブ 代替治療薬:ソラフェニブ、IL-α、低用量IL-2 | ||
高リスク※ | イピリムマブ+ニボルマブ併用 代替治療薬:スニチニブ、テムシロリムス | ||
非淡明細胞型腎細胞癌 | スニチニブ、テムシロリムス | ||
二次治療 | チロシンキナーゼ阻害薬後 | アキシチニブ、ニボルマブ 代替治療薬:エベロリムス、ソラフェニブ | |
サイトカイン療法後 | アキシチニブ、ソラフェニブ 代替治療薬:スニチニブ、パゾパニブ | ||
mTOR阻害薬後 | – | ||
三次治療 | チロシンキナーゼ阻害薬2剤後 | ニボルマブ 代替治療薬:エベロリムス | |
チロシンキナーゼ阻害薬/mTOR阻害薬後 | ソラフェニブ、アキシチニブ 代替治療薬:スニチニブ、パゾパニブ | ||
その他 | – |
※IMDC 分類
注:2019年12月20日付で「アベルマブ+アキシチニブ併用」、「ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用」も「根治切除不能又は転移性の腎細胞がん」に対する適応を取得、一次治療で使用可能となっているので近い将来ここに加わるのだと思います。
マルチキナーゼ阻害剤 カボザンチニブ
カボザンチニブはAXL/MET/VEGFRを阻害するチロシンキナーゼ阻害薬(マルチキナーゼ阻害薬)です。
血管新生を促進する血管内皮増殖因子受容体 VEGFR*4、腫瘍細胞の浸潤および転移に関与するMET、癌細胞の耐性化に関わるAXLを阻害することで効果を発揮します。
参考までに各チロシンキナーゼ阻害剤(TKI*5)とその標的分子をまとめておきます。
腎癌適応を持つTKIと標的分子
- ソラフェニブ(ネクサバール錠):VEGFR、PDGFR、KIT、Flt3、Raf
- スニチニブ(スーテントカプセル):VEGFR、PDGFR、KIT、Flt3
- アキシチニブ(インライタ錠):VEGFR、PDGFR、KIT
- パゾパニブ(ヴォトリエント錠):VEGFR、PDGFR、KIT
- カボザンチニブ(カボメティクス錠):VEGFR、AXL、MET、Flt3、RET、TIE2
レブラミドカプセル:適応追加「再発又は難治性の濾胞性リンパ腫及び辺縁帯リンパ腫」(承認済)
表が画面に入りきらない場合は横にスクロールできます。
承認の種類 | 新効能・新用量医薬品 |
---|---|
医薬品名 | レブラミドカプセル2.5mg レブラミドカプセル5mg |
成分名 | レナリドミド水和物 |
申請者 | セルジーン |
追加される効能・効果 | 再発又は難治性の濾胞性リンパ腫及び辺縁帯リンパ腫 |
追加前の効能・効果 | 多発性骨髄腫 5番染色体長腕部欠失を伴う骨髄異形成症候群 |
指定等 | なし |
海外承認 | アメリカのみ(2019年10月) 濾胞性リンパ腫:EU(2019年11月) |
承認日 | 2020年2月21日 |
参考資料
- 抗造血器悪性腫瘍剤レブラミド®、リツキシマブとの併用療法における再発又は難治性の濾胞性リンパ腫及び辺縁帯リンパ腫に対する効能・効果及び用法・用量に係る医薬品製造販売承認事項一部変更承認を取得
- レナリドミド、再発又は難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫に対する効能・効果及び用法・用量に係る医薬品製造販売承認事項一部変更承認申請について
- 再発又は難治性の低悪性度リンパ腫患者さんを対象とした レナリドミドとリツキシマブの併用療法 (R²群)の結果をASH2018にて発表
濾胞性リンパ腫と辺縁帯リンパ腫
濾胞性リンパ腫と辺縁帯リンパ腫はどちらも悪性リンパ腫です。
リンパ球の中のB細胞から発生するB細胞性非ホジキンリンパ腫に分類されます。
※非ホジキンリンパ腫:リード・シュテルンベルグ細胞やホジキン細胞が見られないリンパ腫
一般的にはいずれも悪性度は高くないとされています。
濾胞性リンパ腫
濾胞性リンパ腫:FL*6
リンパ節の中に癌細胞がたくさん固まってできる球状の腫瘍性濾胞が見られるのが特徴で、それが増殖していきます。
濾胞中の癌細胞は、細胞表面マーカー検査でCD20、CD10が陽性、高い割合でBCL2遺伝子を発現しているのが特徴です。
辺縁帯リンパ腫
辺縁帯B細胞リンパ腫:MZL*7
リンパ組織の特定の領域(辺縁帯)から発生する悪性リンパ腫の一種です。
発生した場所 によって以下の3種類に分けられます。
- 脾辺縁帯リンパ腫:脾臓に発生
- 節性辺縁帯リンパ腫:リンパ節に発生
- 節外性辺縁帯リンパ腫:他のリンパ組織に発生
※節外性辺縁帯リンパ腫はMALT*8(粘膜関連リンパ組織)リンパ腫と同義
レナリドミドの作用機序
レナリドミドは経口の免疫調節薬(IMiDsR*9)です。
サイトカイン産生調節作用、造血器腫瘍細胞に対する増殖抑制作用、血管新生阻害作用等の薬理作用により効果を発揮すると考えられています。
今回追加される「再発又は難治性の濾胞性リンパ腫及び辺縁帯リンパ腫」に対する適応ではリツキシマブと併用して用いるようになっています。
アレセンサカプセル150mg:適応追加「再発又は難治性のALK融合遺伝子陽性の未分化大細胞リンパ腫」(承認済)
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承認の種類 | 新効能・新用量医薬品 |
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医薬品名 | アレセンサカプセル150mg |
成分名 | アレクチニブ塩酸塩 |
申請者 | 中外製薬 |
追加される効能・効果 | 再発又は難治性のALK融合遺伝子陽性の未分化大細胞リンパ腫 |
追加前の効能・効果 | ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌 |
指定等 | 希少疾病用医薬品 |
海外承認 | なし(2019年11月) |
承認日 | 2020年2月21日 |
参考資料
- アレセンサ、再発又は難治性のALK融合遺伝子陽性の未分化大細胞リンパ腫に対する適応追加の承認を取得
- アレセンサカプセル 150mg 使用上の注意等改訂のお知らせ
- アレセンサカプセル150mg 効能・効果 用法・用量追加のご案内
- ALK阻害剤「アレセンサ」 再発又は難治性のALK融合遺伝子陽性の未分化大細胞リンパ腫に対する効能・効果追加の承認申請について
未分化大細胞リンパ腫
未分化大細胞型リンパ腫は悪性リンパ腫の一種です。
非ホジキンリンパ腫のうち、中悪性度に分類される末梢性T細胞リンパ腫の一型です。
未分化大細胞リンパ腫
未分化大細胞リンパ腫:ALCL*10
CD30、EMA陽性という特徴をもつ大型のリンパ球系細胞が増殖するリンパ腫。
ALK融合遺伝子(腫瘍細胞内での遺伝子組換え)の有無などの特徴から以下のように分類される。
- ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫(Anaplastic large cell lymhoma, ALK positive)
- ALK陰性未分化大細胞型リンパ腫(Anaplastic large cell lymhoma, ALK negative)
- 原発性皮膚CD30陽性T細胞増殖性疾患(Primary cutaneous CD30 positive T-cell lymphoproliferative disdorders)
- 原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫(pcALCL*11)
- リンパ腫様丘疹症(Lymphomatoid papulosis)
アレクチニブの作用機序
アレクチニブは第二世代ALK阻害薬です。
ALK融合タンパク質を特異的に阻害することでALK陽性腫瘍の増殖を抑制、アポトーシスを引き起こします。
ALK遺伝子は細胞増殖に関わるチロシンキナーゼの一種である未分化リンパ腫キナーゼ(ALK*12)を発現する遺伝子です。
通常、細胞膜に発現しているALKに増殖因子が結合、活性化することで、シグナル伝達が核に伝達され、癌細胞の増殖が促されます。
ALK遺伝子が他の遺伝子と融合してできるALK融合遺伝子はALK融合タンパク質(EML4-ALK融合キナーゼ)を発現します。
ALK融合タンパクは増殖因子がなしで活性化し、常にシグナル伝達が核に伝達している状態になってしまい、癌細胞の増殖が促進されてしまいます。
ALK阻害薬であるアレクチニブはALK融合タンパクに高選択的に結合することで、ALK融合タンパクにATPが結合、活性化するのを防ぐことでALK陽性腫瘍の増殖を抑制します。
ロズリートレクカプセル:適応追加「ROS1融合遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」(承認済)
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承認の種類 | 新効能・新用量医薬品 |
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医薬品名 | ロズリートレクカプセル100mg ロズリートレクカプセル200mg |
成分名 | エヌトレクチニブ |
申請者 | 中外製薬 |
追加される効能・効果 | ROS1融合遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん |
追加前の効能・効果 | NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形癌 |
指定等 | なし |
海外承認 | アメリカのみ(2019年10月) |
承認日 | 2020年2月21日 |
参考資料
- ロズリートレク、ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんに対する適応追加の承認を取得
- ロズリートレクカプセル100mg、200mg 使用上の注意等改訂のお知らせ
- ロズリートレクカプセル100mg、200mg 効能・効果 用法・用量追加のご案内
- FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル、ロズリートレクのROS1肺がんのコンパニオン診断として承認を取得
- ロシュ社が開発中のentrectinibはROS1陽性の肺がん患者さんに対し2年以上にわたる持続的な効果を示した
ROS1融合遺伝子
ROS1融合遺伝子は非小細胞肺がんのおよそ1%に見られる遺伝子変異です。
ROS1遺伝子が他の遺伝子と融合してできたROS1融合遺伝子から生成されるROS1融合タンパクは、増殖因子による活性化を必要とせず、常に癌細胞を増殖させるシグナルをオンにしてしまいます。
エヌトレクチニブの作用機序
エヌトレクチニブはROS1(c-rosがん遺伝子1)とTRK(神経栄養因子受容体)ファミリーを選択的に阻害するチロシンキナーゼ阻害薬です。
ROS1とTRKキナーゼ活性を阻害することで、ROS1融合遺伝子もしくはNTRK融合遺伝子を持つがん細胞の増殖を抑制します。
2019年12月に「FoundationOne CDx がんゲノムプロファイル」はロズリートレクのROS1肺がんのコンパニオン診断として承認を取得済みです。
コンパニオン診断とは?
分子標的薬は特定の遺伝子異常をターゲットとする薬剤であるため、投与前に遺伝子診断を行う必要があります。
ある薬剤を使用するために必要となる遺伝子診断をその薬剤の「コンパニオン診断」と呼びます。
- companion:仲間、友、相手役など
ピリヴィジェン10%点滴静注:適応追加「無又は低ガンマグロブリン血症」(承認済)
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承認の種類 | 新効能・新用量医薬品 |
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医薬品名 | ピリヴィジェン10%点滴静注5g/50mL ピリヴィジェン10%点滴静注10g/100mL ピリヴィジェン10%点滴静注20g/200mL |
成分名 | pH4処理酸性人免疫グロブリン |
申請者 | CSLベーリング |
追加される効能・効果 | 無又は低ガンマグロブリン血症 |
追加前の効能・効果 | 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の筋力低下の改善 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の運動機能低下の進行抑制(筋力低下の改善が認められた場合) |
指定等 | なし |
海外承認 | アメリカ、EUなど(2019年1月) |
承認日 | 2020年2月21日 |
参考資料
無又は低ガンマグロブリン血症
免疫グロブリンGが不足していたり作られない状態を免疫不全と言い、以下の2つに分類されます。
- 原発性免疫不全症候群(PID*13):先天性の免疫異常により免疫機能が低下した状態
- 続発性免疫不全症候群(SID*14):癌、HIVなどのウイルス感染、放射線照射、抗悪性腫瘍剤投与、免疫抑制剤投与などにより免疫機能が低下した状態
そのうち、体内で免疫グロブリンGが全く作られない状態を無ガンマグロブリン血症、少しだけ作られる場合や何らかの原因により免疫グロブリンGが低下している場合を低ガンマグロブリン血症と呼びます。
報告品目
PMDA*15(医薬品医療機器総合機構)の審査段階で部会での審議を行わず報告のみでよいと判断されたものです。
承認予定の内容だけ簡単に紹介します。
オレンシア:適応変更「既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)」(承認済)
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承認の種類 | 新効能医薬品 |
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医薬品名 | オレンシア点滴静注用250mg(①) オレンシア皮下注125mgシリンジ1mL(②) オレンシア皮下注125mgオートインジェクター1mL(②) |
成分名 | アバタセプト(遺伝子組換え) |
申請者 | ブリストル・マイヤーズスクイブ |
追加される効能・効果 | ①既存治療で効果不十分な下記疾患 関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎 ②既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む) |
追加前の効能・効果 | ①既存治療で効果不十分な下記疾患 関節リウマチ、多関節に活動性を有する若年性特発性関節炎 ②関節リウマチ(既存治療で効果不十分な場合に限る) |
指定等 | なし |
海外承認 | 点滴静注用:アメリカ(2005年12月)、EU(2007年5月) 皮下注:アメリカ(2011年7月)、EU(2012年7月) |
承認日 | 2020年2月21日 |
参考資料
- T細胞選択的共刺激調節剤「オレンシア®点滴静注用250mg」「オレンシア®皮下注125mgシリンジ1mL/オートインジェクター1mL」関節リウマチの効能又は効果に「関節の構造的損傷の防止」に関する記載を追加する製造販売承認事項一部変更承認取得のお知らせ
- T細胞選択的共刺激調節剤「オレンシア®点滴静注用250mg」、「オレンシア®皮下注125mg シリンジ1mL」および「オレンシア®皮下注125mg オートインジェクター1mL」の関節リウマチにおける関節の構造的損傷の防止に係る製造販売承認事項一部変更承認申請のお知らせ
T細胞活性化のメカニズム
T細胞は抗原提示細胞から抗原刺激を受けることで活性化されます。
抗原刺激を受けたT細胞にはCD28が発現し、そこに抗原提示細胞のCD80/86が結合することで、共刺激シグナルの伝達が開始されます。
抗原刺激シグナルと共刺激シグナルが揃うことでT細胞は活性化し、共刺激シグナルがないとT細胞はアポトーシスに向かいます。
抗原提示がない場合、T細胞にはCD28と同じくCD80/86をリガンドとするCTLA-4が発現しており、CD80/86とCTLA-4が結合することで負のシグナル伝達が起こり、T細胞は抑制されています。
アバタセプトの作用機序
アバタセプトはT細胞選択的共刺激調節薬と呼ばれています。
ヒトCTLA-4受容体とヒトIgG抗体のFc領域を結合した製剤です。
CTLA-4はCD28よりもCD80/86に対する親和性が高いため、アバタセプトはT細胞の活性化を競合的に阻害します。
今回追加される「関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)」の効能・効果を持つ生物製剤にはアクテムラ、エンブレル、シムジア、シンポニー、スマイラフ、ヒュミラ、レミケードがあります。
オプジーボ点滴静注:適応追加「がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸がん」、「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な進行・再発の食道がん」(承認済)
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承認の種類 | 新効能医薬品 |
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医薬品名 | オプジーボ点滴静注20mg オプジーボ点滴静注100mg オプジーボ点滴静注240mg |
成分名 | ニボルマブ(遺伝子組換え) |
申請者 | 小野薬品 |
追加される効能・効果 | ①がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸がん ②がん化学療法後に増悪した根治切除不能な進行・再発の食道がん |
追加前の効能・効果 | 悪性黒色腫 切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌 根治切除不能又は転移性の腎細胞癌 再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫 再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌 がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃癌 がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫 |
指定等 | 食道がん:優先審査品目 |
海外承認 | MSI-Highを有する結腸・直腸がん:アメリカ(2017年7月) 食道がん:なし(2019年10月) |
承認日 | 2020年2月21日 |
参考資料
- オプジーボ®点滴静注の「根治切除不能な進行・再発の食道癌」および「治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸癌」に対する効能又は効果の追加に係る国内製造販売承認事項一部変更承認を取得
- オプジーボ(一般名:ニボルマブ)が、食道がん患者を対象とした第III相ATTRACTION-3試験において、化学療法と比較して、統計学的に有意な全生存期間のベネフィットを示した結果を2019年ESMOで発表
- オプジーボ®点滴静注(一般名:ニボルマブ)、がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸がんに対する効能・効果の追加に係る製造販売承認事項一部変更承認申請
オプジーボ(ニボルマブ)の作用機序
ニボルマブはヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体(免疫チェックポイント阻害薬)です。
本庶佑先生とジェームズ・P・アリソン先生がノーベル生理学賞(免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用)を受賞した研究を基に開発された薬剤です。
癌細胞が持つ免疫反応を回避する機能を阻害することで効果を発揮します。
活性化された免疫細胞(T細胞やB細胞)の表面には、PD-1*16と呼ばれる、免疫細胞のアポトーシス(細胞自己死)に拘わる分子が存在しています。
PD-1は免疫のブレーキ役(免疫チェックポイント)として免疫応答を調節しています。
また、PD-1に特異的に結合する物質(リガンド)とて発見されたのがPD-L1とPD-L2です。
PD-1にPD-L1が結合すると、免疫細胞としての反応が抑制されてしまいます。
がん細胞は自身の表面にPD-L1を発現させることで、免疫反応による攻撃を回避します。
オプジーボの有効成分であるニボルマブはヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体です。
ニボルマブはPD-1の細胞外領域(PD-1リガンド結合領域)に結合することで、PD-1とPD-L1の結合を阻害します。
その結果、免疫反応にかかっていたブレーキが解除され、がんを抗原とする抗原抗体反応を増強、悪性腫瘍の増殖を抑制すると考えられています。
免疫チェックポイント阻害薬と高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)
今回、オプジーボに追加される適応のうち、「治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸癌」について説明します。
マイクロサテライトとはゲノム上に存在する反復配列のうち、数塩基単位の配列の繰り返し(マイクロサテライトリピート)部分を指します。
細胞分裂に伴う遺伝子複製では一定の確率でエラーが起こり、異なる塩基配列の遺伝子が複製(変異)されてしまいます。
単純な塩基配列が繰り返されるマイクロサテライト部分は特にエラーが生じやすくなっています。
例えばマイクロサテライトの繰り返し回数が10回のものがあるとして、エラーが生じることで11回になったり9回になってしまったりします。
通常の細胞であればこういったエラーが生じても修復する機能(ミスマッチ修復機能)が存在するのですが、一部の癌細胞では修復機能が欠損しており、異なる反復回数のマイクロサテライトが増えてしまいます。
こういった状態を「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High*17)ということなので癌細胞の遺伝子全体で変異が起こりやすくなっています。
変異によって生じたタンパク質は免疫反応のターゲットとなる腫瘍特異抗原を作りやすくします。
その結果、T細胞などの免疫細胞は(MSI-Highの)癌細胞を認識しやすくなっているため、ニボルマブなどの抗PD-1抗体が抗腫瘍効果を発揮すると考えられます。
ちなみに、切除不能の結腸・直腸がん患者のうちMSI-Highを持つ割合は約5%と言われており、標準治療のフッ化ピリミジン系抗がん剤(ゼローダ、ティーエスワンなど)を含む化学療法の有効性が乏しいことが報告されています。
MSI-Highをターゲットとする免疫チェックポイント阻害薬は今回のオプジーボで2剤目です。
同じヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であるキイトルーダ(ペムブロリズマブ)は2018年12月21日により広い範囲の適応として「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」を取得しています。
キイトルーダはMSI-Highが確認されればがん種横断的に使用できます。
免疫チェックポイント阻害薬と食道癌
食道がんに対する適応を有する免疫チェックポイント阻害薬はオプジーボが初めてです。
オプジーボは化学療法群(ドセタキセルまたはパクリタキセル)と比較して、主要評価項目である全生存期間(OS*18)の有意な延長を示し、死亡リスクを 23%低減しています。(ATTRACTION-3試験:Kato K, et al.: Lancet Oncol. 20(11): 1506-1517, 2019)
日本では、シスプラチンと5-FUの効果がなくなった食道がんの二次治療において明確な生存期間の延長効果を示した薬剤がないため、オプジーボが標準治療になるのではないかと期待されています。
補足:免疫チェックポイント阻害薬の適応
現時点で承認されている免疫チェックポイント阻害薬の適応についてまとめます。
表が画面に入りきらない場合は横にスクロールできます。
作用機序 | 製品名 | 成分名 | 適応 | ||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
悪性黒色腫 | 非小細胞肺がん | 小細胞肺がん | 腎細胞がん | ホジキンリンパ腫 | 頭頚部がん | 悪性胸膜中皮腫 | 結腸・直腸がん | 食道がん | 尿路上皮がん | MSI-High固形がん | メルケル細胞がん | TN乳がん*19 | |||
抗PD-1抗体 | オプジーボ | ニボルマブ | ヤーボイ併用 単独:術後補助療法 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | MSI-High | ◯ | – | 結腸・直腸がん | – | – | |
キイトルーダ | ペムブロリズマブ | 術後補助療法 | 化学療法併用 単剤:PD-L1発現 | – | アキシチニブ併用 | ◯ | ◯ | – | – | – | ◯ | ◯ | – | – | |
抗PD-L1抗体 | バベンチオ | アベルマブ | – | – | – | – | – | – | – | – | – | – | – | ◯ | – |
テセントリク | アテゾリズマブ | 単剤:2次治療 化学療法併用:1次治療 | 進展型 | – | – | – | – | – | – | – | – | – | ◯ | ||
イミフィンジ | デュルバルマブ | – | ステージ3 | – | – | – | – | – | – | – | – | – | – | – | |
抗CTLA-4抗体 | ヤーボイ | イピリムマブ | ◯ (オプジーボ併用) | – | オプジーボ併用 | – | – | – | – | – | – | – | – | – | – |
※2020.2.21時点
*1:mammalian Target Of Rapamycin
*2:Programmed cell Death-1
*3:Programmed cell Death-1 Ligand-1
*4:Vascular Endothelial Growth Factor Receptor
*5:Tyrosin Kinase Inhibitor
*6:Follicular Lymphoma
*7:Marginal Zone b-cell Lymphoma
*8:Mucosa Associated Lymphoid Tissue
*9:immunomodulatory drugs
*10:Anaplastic Large Cell Lymphoma
*11:primary cutaneous Anaplastic Large Cell Lymphoma
*12:Anaplastic Lymphoma Kinase
*13:Primary ImmunoDeficiency disease
*14:Secondary ImmunoDeficiency disease
*15:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency
*16:Programmed cell death-1
*17:MicroSatellite Instability-High frequency)」と言います。
MSI-Highが見られるということはミスマッチ修復機能が欠損している(DNAミスマッチ修復機能欠損:dMMR((deficient MisMatch Repair
*18:Overall Survival
*19:トリプルネガティブ乳がん