平成28年8月5日、厚生労働省の薬食審・医薬品第二部会が行われました。
報告品目として5品目の適応追加等が挙げられていたいましたが、平成28年8月26日に正式に承認されました。
今回はその内容についてまとめます。
平成28年8月4日薬食審・医薬品第一部会での審議品目
今回審議され、承認が了承されたのは以下の通りです。
- デザレックス:ロラタジン(クラリチン®)の活性代謝物を主成分とする第二世代抗ヒスタミン薬
- リフキシマ:リファマシン系抗生物質による肝性脳症治療薬
- オプジーボ:腎細胞癌への適応追加
- トレアキシン:慢性リンパ性白血病の適応追加
- イナビル:小児の予防適応追加、成人の単回予防投与追加
- スピリーバレスピマット:気管支喘息の重症例以外にも使用可能に
- ゼローダ:直腸がんにおける補助化学療法の適応追加
- アフィニトール:神経内分泌腫瘍(NET)全般に使用可能に
- バリキサ:臓器移植時のサイトメガロウイルス感染症の発症抑制に使用可能に
何回かに分けてまとめていきたいと思います。
イナビルに小児の予防適応追加、成人の単回予防投与追加
成分名:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物
- イナビル吸入粉末剤20mg
申請者:第一三共
予防における効能・効果の変更
今回承認されたのは、予防適応に関するものです。
平成25年12月20日に成人の予防適応が追加されていましたが、今回、新たに加わったのは以下の二点です。
- 小児10歳未満の適応追加
- 成人の単回投与の追加
当然ながら予防適応なので保険対象外です。
変更前後の適応の比較
変更前後の適応を比較してみます。
下線部が追加された部分です。
- 変更前の効能・効果
- 2. 予防に用いる場合
- 成人及び10歳以上の小児:ラニナミビルオクタン酸エステルとして20 mgを1日1回、2日間吸入投与する。
- 2. 予防に用いる場合
- 変更後の効能・効果
- 2. 予防に用いる場合
- 成人:ラニナミビルオクタン酸エステルとして40mgを単回吸入投与する。また、20mgを1日1回、2日間吸入投与することもできる。
- 小児:10歳未満の場合、ラニナミビルオクタン酸エステルとして20mgを単回吸入投与する。
- 10歳以上の場合、ラニナミビルオクタン酸エステルとして40mgを単回吸入投与する。また、20mgを1日1回、2日間吸入投与することもできる。
- 2. 予防に用いる場合
ラニナミビルについて
長時間作用型ノイラミニダーゼ阻害剤で、A型及びB型インフルエンザに対して効果を発揮します。
オセルタミビル(タミフル®)やザナミビル(リレンザ®)、ペラミビル(ラピアクタ®)と同様に、細胞膜表面に存在するノイラミニダーゼ(NA)という酵素を阻害します。
NA阻害により、シアル酸の切断を阻害、感染細胞からインフルエンザ・ウイルスを遊離できなくさせ、その増殖を防ぎます。
スピリーバレスピマットが気管支喘息の重症例以外にも使用可能に
成分名:チオトロピウム臭化物水和物
- スピリーバ2.5μgレスピマット60吸入
- スピリーバ1.25μgレスピマット60吸入(新剤形)
申請者:日本ベーリンガーインゲルハイム
変更となる効能・効果:気管支喘息(重症持続型の患者に限る)(効能・効果の縛りが削除)
気管支喘息全般にスピリーバが使用可能に
平成26年11月18日付で承認されていた「気管支喘息(重症持続型の患者に限る)」の適応ですが、その制限が削除されました。
また、1.25μgの低用量の規格が登場することで、「気管支喘息」であればその症状に応じた用量調節を行って使用することが可能となりました。
気管支喘息の気道閉塞性障害に基づく諸症状の緩解
通常、成人にはスピリーバ1.25μgレスピマット1回2吸入(チオトロピウムとして2.5μg)を1日1回吸入投与する。
なお、症状・重症度に応じて、スピリーバ2.5μgレスピマット1回2吸入(チオトロピウムとして5μg)を1日1回吸入投与する。
下線部が変更部分です。
ちなみに、気管支喘息(重症持続型の患者に限る)の適応追加については以前記事にしています。
スピリーバレスピマットの新剤形追加
スピリーバ1.25μgレスピマット60吸入が新たに追加になります。
薬価収載はまだなので、販売開始は少し先でしょうか?
一つ、気になるのは、スピリーバ2.5μgレスピマットを1回1吸入するのではなく、スピリーバ1.25μgレスピマットを1回2吸入するというところ。
なんで、スピリーバ2.5μgレスピマットを1回1吸入ではダメなんでしょ?
わざわざ、スピリーバ1.25μgレスピマットの製造承認を取得したくらいですから、何か理由があるはず・・・。
最初はレスピマットの構造が1か月以上の使用に耐えれないのかな・・・とも思いましたが、それなら30吸入用を作った方が手技が複雑にならずに済みますよね。
追記
レスピマットが1回1吸入ではなく1回2吸入の理由を聞くことができました。
なんでも、2吸入の合計じゃないと用量が安定しないとのとこ。
つまり、スピリーバ2.5μgレスピマットを1回吸入しても2.5μg吸入されるとは保証されないが、2回連続で吸入すれば合計5μgで安定する。
スピリーバ1.25μgレスピマットも同様に、1回吸入しても1.25μg吸入されるとは保証されないが、2回連続で吸入すれば合計2.5μgで安定するということらしいです。
連続して使えばということは・・・、スピリーバ2.5μgレスピマットの場合、1回目は2μg、2回目は3μgのようなイメージなんでしょうか?
本当に!?
あまり納得はできませんね。
喘息とチオトロピウム
アレルゲンにより、炎症性のケミカルメディエーターが放出されると、その刺激により、アセチルコリンが過剰に放出されます。
アセチルコリンは気管支平滑筋に存在するムスカリンM3受容体に結合し、気管支を収縮させ、喘息を悪化させてしまいます。
チオトロピウムはムスカリン受容体を阻害することで、アセチルコリンの作用に拮抗し、気管支の収縮を防ぐことができます。
チオトロピウムはムスカリンM3受容体のみでなく、M1やM2受容体も阻害してしまいます。
ムスカリンM2受容体については、アセチルコリンの過剰放出に反応して、その放出を抑制する役割があるので、あまり阻害しない方が好ましいです。
チオトロピウムはM2受容体も阻害しますが、その結合時間が短いのが特長なので、気管支喘息への使用に適しています。
ゼローダに直腸がんにおける補助化学療法の適応追加
成分名:カペシタビン
- ゼローダ錠300
申請者:中外製薬
変更後の効能・効果:手術不能又は再発乳癌、結腸癌における術後補助化学療法、治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌、胃癌(訂正部が削除された部分です。)
ゼローダによる直腸癌補助化学療法
ゼローダ(成分名:カペシタビン)を用いた直腸癌治療は世界的にも標準治療として知られています。
オキサリプラチン(エルプラット®)との併用療法であるXELOX療法と、それにベバシズマブ(アバスチン®)を併用するXELOX+ベバシズマブ療法です。
また、日本国内では直腸癌の術前化学療法は一般的ではないようですが、欧米においては、術前に化学療法と放射線療法の併用を行うことが標準的な治療となっています。
大腸癌ガイドラインや教科書でも、術後及び術前の放射線との併用療法において、ゼローダが選択薬剤の1つであることが明記されています。
これらのことを踏まえて、適応追加として問題ないと判断されたようです。
カペシタビンについて
カペシタビンはフルオロウラシル(5-FU®)、テガフール/ウラシル(ユーエフティー®、UFT)、テガフール/ギメラシル/オテラシルカリウム(ティーエスワン®、TS-1)と同じフッ化ピリミジン系代謝拮抗剤と呼ばれる抗悪性腫瘍剤の一つです。
細胞分裂が盛んで、抗がん剤の影響を受けやすい、消化管や骨髄細胞では効果を発揮しにくくするために、腫瘍細胞内で活性化されるよう設計されたフルオロウラシルのプロドラッグです。
まず、肝臓でカルボキシルエステラーゼにより代謝されて5′-DFCR(5′-deoxy-5-fluorocytidine)に変換されます。
次に、肝臓や腫瘍組織でシチジンデアミナーゼにより代謝されて5′-DFUR(5′-deoxy-5-fluorouridine)に変換されます。
最後に、腫瘍組織に多く存在するチミジンホスホリラーゼ(TP:Thymidine Phosphorylase)により代謝され、活性体であるフルオロウラシルとなり、効果を発揮します。
アフィニトールが神経内分泌腫瘍(NET)全般に使用可能に
成分名:エベロリムス
- アフィニトール錠2.5mg
- アフィニトール錠5mg
申請者:ノバルティス
変更となる効能・効果:「膵神経内分泌腫瘍」→「神経内分泌腫瘍」
膵神経内分泌腫瘍から神経内分泌腫瘍への適応拡大
神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine Tumors: NET)はホルモンを生成・分泌する神経内分泌細胞に由来する腫瘍希少がんです。
膵臓や消化管、肺に生じることがほとんどですが、全身の様々な臓器で発生することがあります。
今回、膵NETからNETへと適応が拡大になることで、膵臓のみでなく、消化管や肺由来のNETにも使用可能となります。
エベロリムスについて
リンパ脈管筋腫症(ラパリムス®)や腎細胞癌(トーリセル®)に使用されるラパマイシン(シロリムス)の誘導体で、いわゆる分子標的治療薬に位置付けられます。
mTOR(Mammalian Target Of Rapamycin)阻害剤とも呼ばれており、細胞内情報伝達分子であるmTORを阻害することで効果を発揮します。
mTORを阻害することで、IL-2(インターロイキン-2)によるT細胞の増殖を抑制することから、心移植、腎移植後の免疫抑制剤(サーティカン®)としても使用されています。
エベロリムスはmTOR複合体1(mTORC1)を阻害することにより、細胞増殖シグナルや血管発育シグナルを阻害します。
腫瘍細胞の増殖抑制と血管新生阻害という2つの作用によりがん細胞のアポトーシスを誘導します。
バリキサに臓器移植時のサイトメガロウイルス感染症の発症抑制の適応追加
成分名:バルガンシクロビル塩酸塩
- バリキサ錠450mg
申請者:田辺三菱製薬
追加される効能・効果:臓器移植(造血幹細胞移植を除く)におけるサイトメガロウイルス感染症の発症抑制
バルガンシクロビルについて
ガンシクロビル(デノシン®)をL-バリンでエステル化することで、経口投与可能としたプロドラッグです。
まず、腸管や肝臓のエステラーゼで加水分解されてガンシクロビルに変換されます。
次に、サイトメガロウイルス感染細胞内でプロテインキナーゼ(UL97)にリン酸化を受けてガンシクロビル一リン酸に変換されます。
最後に、もう一度リン酸化を受けて活性型であるガンシクロビル三リン酸となります。
ガンシクロビル三リン酸はサイトメガロウイルスのDNA合成において、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)と競合的に拮抗することで、DNA合成を阻害し、サイトメガロウイルスの増殖を抑制します。