オプジーボ・ヤーボイの悪性黒色腫に対する併用療法など〜平成30年5月25日の承認内容

  • 2018年5月29日
  • 2021年1月10日
  • 承認
  • 22view
  • 0件

平成30年5月25日、厚生労働省は医薬品5製品について一部変更承認(一変承認)しました。
それぞれ以下のように適応が追加されます。

  • オプジーボ・ヤーボイ:悪性黒色腫に対する併用療法
  • ゼルヤンツ:潰瘍性大腸炎
  • ボトックス注:痙攣性発声障害
  • ヌーカラ皮下注:好酸球性多発血管炎性肉芽腫症

特に、オプジーボ・ヤーボイについては日本で初めてのがん免疫療法薬の併用療法の承認となります。

日本初のがん免疫療法治療薬2剤併用療法

悪性黒色腫に対するオプジーボ(成分名:ニボルマブ)とヤーボイ(成分名:イピリマブ)の併用療法が承認されています。
がん免疫療法治療薬同士の併用療法の承認は日本で初めてになります。

オプジーボ点滴静注

オプジーボ点滴静注 添付文書オプジーボ点滴静注 インタビューフォーム

  • 医薬品名:
    • オプジーボ点滴静注20mg
    • オプジーボ点滴静注100mg
  • 成分名:ニボルマブ(遺伝子組換え)
  • 申請者:小野薬品
  • 効能・効果:「根治切除不能な悪性黒色腫」
  • 追加された用法・用量:

    化学療法未治療の根治切除不能な悪性黒色腫患者の場合
    イピリムマブ(遺伝子組換え)との併用において、通常、成人にはニボルマブ(遺伝子組換え)として、1回1mg/kg(体重)を3週間間隔で4回点滴静注する。その後、ニボルマブ(遺伝子組換え)として、1回3mg/kg(体重)を2週間間隔で点滴静注する。

オプジーボ の作用機序

オプジーボの作用機序を簡単に復習しておきます。
活性化された免疫細胞(T細胞やB細胞)の表面には、PD-1(Programmed cell death-1)と呼ばれる、免疫細胞のアポトーシス(細胞自己死)に拘わる分子が存在しています。
PD-1は免疫のブレーキ役(免疫チェックポイント)として免疫応答を調節しています。
また、PD-1に特異的に結合する物質(リガンド)とて発見されたのがPD-L1とPD-L2です。
PD-1にPD-L1が結合すると、免疫細胞としての反応が抑制されてしまいます。
がん細胞は自身の表面にPD-L1を発現させることで、免疫反応による攻撃を回避します。

オプジーボの有効成分であるニボルマブはヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体です。
ニボルマブはPD-1の細胞外領域(PD-1リガンド結合領域)に結合することで、PD-1とPD-L1の結合を阻害します。
その結果、免疫反応にかかっていたブレーキが解除され、がんを抗原とする抗原抗体反応を増強、悪性腫瘍の増殖を抑制すると考えられています。

イピリムマブ(製品名:ヤーボイ)併用とPD-L1発現率

今回の一変承認に伴い、添付文書の様々な部分が改訂されています。
特に気になる部分を記載しておきます。

用法及び用量に関連する使用上の注意

  1. 根治切除不能な悪性黒色腫の場合、イピリムマブ(遺伝子組換え)の上乗せによる延命効果は、PD-L1を発現した腫瘍細胞が占める割合(PD-L1発現率)により異なる傾向が示唆されている。イピリムマブ(遺伝子組換え)との併用投与に際してPD-L1発現率の測定結果が得られ、PD-L1発現率が高いことが確認された患者においては、本剤単独投与の実施についても十分検討した上で、慎重に判断すること。

 

ヤーボイ点滴静注液

ヤーボイ点滴静注液 添付文書ヤーボイ点滴静注液 インタビューフォーム

  • 医薬品名:ヤーボイ点滴静注液50mg
  • 成分名:イピリマブ(遺伝子組換え)
  • 申請者:ブリストル・マイヤーズスクイブ
  • 効能・効果:「根治切除不能な悪性黒色腫」
  • 追加された用法・用量:

    – 化学療法未治療の場合:通常、成人にはイピリムマブ(遺伝子組換え)として1日1回3mg/kg(体重)を3週間間隔で4回点滴静注する。なお、他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は、ニボルマブ(遺伝子組換え)と併用すること。

    • 化学療法既治療の場合:通常、成人にはイピリムマブ(遺伝子組換え)として1日1回3mg/kg(体重)を3週間間隔で4回点滴静注する。

ヤーボイは、T細胞の活性化を抑制するCTLA-4の働きを抑え込むことで、腫瘍抗原特異的なT細胞の活性化と増殖を促して腫瘍増殖を抑制する作用を持つ。

ヤーボイの作用機序

ヤーボイの作用機序を簡単に復習しておきます。
ヤーボイの有効成分であるイピリムマブはヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体です。
細胞傷害性T細胞(CTL:Cytotoxic T Lymphocyte)はがん細胞に対する免疫細胞です。
抗原提示細胞上のCD80/86分子を認識して活性化するのですが、活性化したCTLの表面に出現する細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4:Cytotoxic T Lymphocyte-Associated protein 4)が抗原提示細胞上のB7.1(CD80)及びB7.2(CD86)分子と結合することでネガティー部フィードバックが働き活性が低下してしまいます。
また、がん組織中に存在する制御性T細胞(Treg:Regulatory T cell)は抑制系サイトカインを放出し、T細胞の働きを弱めています。

イピリムマブはCTLA-4に結合し、抗原提示細胞上のCD80/86分子との結合を阻害します。
この働きにより、活性化T細胞のネガティブフィードバックは抑制され、腫瘍抗原特異的なT細胞の増殖・活性化が促進されます。
また、イピリムマブはTregの機能低下等の作用も持っており、この働きにより腫瘍免疫反応を亢進させます。

ニボルマブ(製品名:オプジーボ)併用とPD-L1発現率

今回の一変承認に伴い、添付文書の様々な部分が改訂されています。
特に気になる部分を記載しておきます。

用法及び用量に関連する使用上の注意

  1. 本剤のニボルマブ(遺伝子組換え)への上乗せによる延命効果は、PD-L1を発現した腫瘍細胞が占める割合(PD-L1発現率)により異なる傾向が示唆されている。ニボルマブ(遺伝子組換え)との併用投与に際してPD-L1発現率の測定結果が得られ、PD-L1発現率が高いことが確認された患者においては、ニボルマブ(遺伝子組換え)単独投与の実施についても十分検討した上で、慎重に判断すること。

 

ゼルヤンツ錠の適応追加

ゼルヤンツ錠 添付文書ゼルヤンツ錠 インタビューフォーム

  • 医薬品名:ゼルヤンツ錠5mg
  • 成分名:トファシチニブクエン酸塩
  • 申請者:ファイザー
  • 追加される効能・効果:「中等症から重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)」
  • 追加される用法・用量:

    潰瘍性大腸炎
    導入療法では、通常、成人にトファシチニブとして1回10mgを1日2回8週間経口投与する。なお、効果不十分な場合はさらに8週間投与することができる。
    維持療法では、通常、成人にトファシチニブとして1回5mgを1日2回経口投与する。なお、維持療法中に効果が減弱した患者では、1回10mgの1日2回投与に増量することができる。また、過去の薬物治療において難治性の患者(TNF阻害剤無効例等)では、1回10mgを1日2回投与することができる。

トファシチニブの潰瘍性大腸炎に対する作用機序

詳しくは過去記事(更新済み)にも記載しています。

トファシチニブはヤーヌスキナーゼ(JAK*1)を阻害することでJAK-STAT*2シグナル伝達経路を遮断し、種々の炎症反応に対して効果を発揮します。
今回のゼルヤンツに対する適応追加で、ゼルヤンツはJAK阻害薬として初めての潰瘍性大腸炎治療薬となります。

使用上の注意の追記

今回の一変承認に伴い、添付文書の様々な部分が改訂されています。
潰瘍性大腸炎の適応追加に伴い使用上の注意が追記されているので記載しておきます。

用法及び用量に関連する使用上の注意
潰瘍性大腸炎

  1. 本剤の導入療法の開始後16週時点で臨床症状や内視鏡所見等による治療反応が得られない場合は、他の治療法への切り替えを考慮すること。
  2. 本剤の維持療法中に本剤1回10mgを1日2回経口投与しても臨床症状の改善が認められない場合は、本剤の継続投与の必要性を慎重に検討し、他の治療法への切り替えを考慮すること。
  3. 中等度又は重度の腎機能障害を有する潰瘍性大腸炎患者、中等度の肝機能障害を有する潰瘍性大腸炎患者には、減量し(1回投与量を減量。1回投与量を減量することができない場合は投与回数を減らす。)、本剤を慎重に投与すること。
  4. 免疫抑制作用が増強されると感染症のリスクが増加することが予想されるので、本剤とTNF阻害剤等の生物製剤や、タクロリムス、アザチオプリン等の強力な免疫抑制剤(局所製剤以外)との併用はしないこと。なお、本剤とこれらの生物製剤及び免疫抑制剤との併用経験はない。

 

ボトックス注の適応追加

ボトックス注用 添付文書ボトックス注用 インタビューフォーム

  • 医薬品名:
    • ボトックス注用50単位
    • ボトックス注用100単位
  • 成分名:A型ボツリヌス毒素
  • 申請者:グラクソ・スミスクライン
  • 追加される効能・効果:「痙攣性発声障害」
  • 追加される用法・用量:「通常、成人にはA型ボツリヌス毒素として以下の用量を内喉頭筋に筋肉内注射する。」

痙攣性発声障害に対する初の治療薬

今回の適応追加でボトックス注は痙攣性発声障害の適応を持つ初の薬剤になります。
痙攣性発声障害については一般社団法人SDCP発声障害患者会に詳しい解説が掲載されています。

ヌーカラ皮下注の適応追加

ヌーカラ皮下注用100mg 添付文書ヌーカラ皮下注用100mg インタビューフォーム

  • 医薬品名:ヌーカラ皮下注用100mg
  • 成分名:メポリズマブ(遺伝子組換え)
  • 申請者:グラクソ・スミスクライン
  • 追加される効能・効果:「既存治療で効果不十分な好酸球性多発血管炎性肉芽腫症」
  • 追加される用法・用量:「通常、成人にはメポリズマブ(遺伝子組換え)として1回300mgを4週間ごとに皮下に注射する。」

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症への適応追加

ヌーカラ(成分名:メポリズマブ)は重症の気管支喘息の治療薬として承認されている薬剤です。
好酸球の細胞表面に発現しているIL-5受容体α鎖へのIL-5の結合を阻害することにより、好酸球の増殖を抑制し、気管支喘息の憎悪を抑制します。
今回同様の作用機序が好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に効果を発揮することから適応が追加されます。

ステロイドによる治療で効果不十分に適応

ヌーカラを好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に対して使用するのはステロイドによる治療で効果不十分の場合です。
添付文書には以下のように記載されています。

効能又は効果に関連する使用上の注意
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症:過去の治療において、全身性ステロイド薬による適切な治療を行っても、効果不十分な場合に、本剤を上乗せして投与を開始すること。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症は難病に指定されている疾患です。
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(指定難病45)(難病情報センター)に説明が詳しく記載されています。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)は、従来アレルギー性肉芽腫性血管炎(allergic granulomatous angiitis:AGA)あるいはチャーグ・ストラウス症候群(Churg Strauss syndrome:CSS)と呼ばれてきた血管炎症候群で、2012年の国際会議で名称変更がなされた。日本語名も、これに呼応して検討され、表記のように定められた。
臨床的特徴は、先行症状として気管支炎喘息やアレルギー性鼻炎がみられ、末梢血好酸球増多を伴って血管炎を生じ、末梢神経炎、紫斑、消化管潰瘍、脳梗塞・脳出血・心筋梗塞・心外膜炎などの臨床症状を呈する疾患である。30~60歳の女性に好発し、男:女=4:6でやや女性に多い。
我が国における年間新規患者数は、約100例と推定されている。年間の医療施設受診者は、約1,800例と推定されている。

*1:Janus Kinase

*2:Signal Transducers and Activator of Transcription

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

NO IMAGE
最新情報をチェックしよう!