ツイミーグ(イメグリミン)が承認、販売開始され1年以上が経過しました。
みなさんはツイミーグに対してどのような印象を持っていますか?
おそらく、メトホルミンに類似した薬剤という印象を持っている方が少なくないのではないかと思いますが、実際に比較してみると、類似していると言える部分とそうではない部分があることがわかります。
製品名 | ツイミーグ錠500mg (TWYMEEG Tablets) |
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一般的名称(成分名) | イメグリミン塩酸塩 (Imeglimin Hydrochloride) |
クラス | グリミン系 |
製造販売元 | 住友ファーマ(旧 大日本住友製薬) |
命名の由来 | Dual を意味する”twin”と一般名の”imeglimin”から |
効能又は効果(適応) | 2型糖尿病 中等度以上(eGFRが45mL/min/1.73㎡未満)の腎機能障害は非推奨 (有効性・安全性を指標とした臨床試験未実施) |
用法及び用量 | 通常、成人にはイメグリミン塩酸塩として1回1000mgを1日2回朝、夕に経口投与する。 |
禁忌 |
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副作用 |
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重要な基本的注意 | ビグアナイド系薬剤は作用機序の一部が共通している可能性あり 併用により消化器症状が多く認められた |
RMP |
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製造販売承認 | 2021年6月23日 |
薬価基準収載 | 2021年9月10日 |
発売日 | 2021年9月16日 |
処方日数制限 | 2022年10月1日 解除済 |
今回はツイミーグという薬の性質について、まとめてみたいと思います。
(イメグリミン、メトホルミンのどちらも作用について未解明の部分が多いですし、現在研究中のところが多い薬剤なので、曖昧な情報を含んでいることにご注意ください)
ツイミーグとメトホルミンの類似性
ツイミーグ(イメグリミン)のパンフレットを読むとメトホルミンと似ている薬という印象を持ちます。
まずは、どんな部分がどの程度似ているのかをまとめてみます。
化学構造の類似性
構造式を見てみるとイメグリミンとメトホルミンの構造はとてもよく似ています。
分子式で見ると、メトホルミンにエチル(炭素原子×2)を追加した形で、上の図の赤色部分のみが構造上の違いになっています。
これを見ると、イメグリミンはメトホルミンに似た性質を持った薬剤じゃないかと考えますよね?
実際にツイミーグの添付文書(8、重要な基本的注意)には以下のように記載されています。
8. 重要な基本的注意
8.5 本剤とビグアナイド系薬剤は作用機序の一部が共通している可能性があること、また、両剤を併用した場合、他の糖尿病用薬との併用療法と比較して消化器症状が多く認められたことから、併用薬剤の選択の際には留意すること。ツイミーグ錠500mg 添付文書
ってことはツイミーグはメトグルコの改良型のような位置付けなのかな?
と思いますよね?
じゃあ、実際のところはどうなのか、詳しく解説していきたいと思います。
作用機序の共通点
ツイミーグの作用機序について見ていきましょう。
以下の図は住友ファーマが公開しているツイミーグの作用機序(ツイミーグ:作用機序|住友ファーマ 医療関係者向けサイト)を元にまとめたものです。
ツイミーグの作用は2つ。Dual(Twin) Effectを持つことが名前の由来にもなっています。
- 膵作用:膵β細胞におけるグルコース濃度依存的なインスリン分泌を促す
- 膵外作用(糖新生抑制・糖取り込み能改善):肝臓・骨格筋での糖代謝を改善
これらの作用は図に示されるように、主にミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰ(complexⅠ)(NADH:ユビキノンオキシドレダクターゼ)とNAMPT(NicotinAMide PhosphoribosylTransferase)遺伝子に対する作用を介して発揮されます。
NAMPT遺伝子の発現を増加させることで、細胞内NAD+を増加(ミトコンドリア機能改善)、ランゲルハンス島細胞内のATPとCa2+増加させることで、グルコース濃度依存的なインスリン分泌を促進します。
さらに、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを阻害することで、活性酸素(ROS:Reactive Oxygen Species)を低下させ、膵臓β細胞保護作用を発揮します。
また、メトホルミン同様に、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰに対する作用を介して骨格筋や脂肪細胞への糖取込能を改善すると同時に、肝臓での糖新生抑制作用を発揮します。
ツイミーグとメトホルミンの違い
メトホルミンとツイミーグ、似たような薬と思って調べていると、あれ?と思う部分がたくさんあります。
作用機序と乳酸アシドーシスの有無、他剤との併用の3つに注目してまとめてみます。
復習:メトホルミンの作用機序
まずはメトホルミンの作用記事を復習してみましょう。
メトホルミンの作用は大きく分けて3つです。
- 肝臓における糖新生抑制
- インスリン抵抗性の改善
- 小腸からの糖吸収抑制作用
作用機序は非常に多岐にわたり、現在も、新たな機序が発見されています。
(今回はメトホルミンの作用機序はメインではないので簡単にまとめてみます。)
- ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを非競合的に阻害(酸化的リン酸化経路の阻害)
→ATP産生を抑制
→細胞内のATP減少、AMP増加(AMP/ATP比の増加)- 十二指腸粘膜のAMPK(5′ Adenosine MonoPhosphate-activated protein Kinase:AMP活性化プロテインキナーゼ)活性化
→「GLP-1受容体-PKAシグナル伝達経路」と「腸-脳-肝の神経伝達経路」を刺激
→肝糖新生抑制(①) - 骨格筋、脂肪細胞におけるAMPK活性化
→糖輸送体GLUT4(GLUcose Transporter type4)の細胞膜上への移行
→骨格筋、脂肪細胞における糖取り込みを促進(②) - 肝臓で増加したAMPがアデニル酸シクラーゼを抑制
→cAMP産生減少
→プロテインキナーゼA(PKA:Protein Kinase A)活性低下
→肝糖新生酵素不活化
→肝糖新生抑制(①)
- 十二指腸粘膜のAMPK(5′ Adenosine MonoPhosphate-activated protein Kinase:AMP活性化プロテインキナーゼ)活性化
- 肝臓でmGPDH(mitochondrial Glycerol-3-Phosphate DeHydrogenase:ミトコンドリア内膜のグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ2)を非競合的に阻害
→肝臓の酸化還元状態を変化
→乳酸とグリセロールのグルコース変換を低減
→肝糖新生抑制(①) - 腸管における胆汁酸再吸収阻害胆汁酸の下部消化管L細胞受容体への結合増加
→GLP-1分泌の増加(②)- 腸内細菌叢の変化
→腸管からのグルコース排泄作用(③)
- 腸内細菌叢の変化
メトホルミンの作用において重要なのは以下の3つの作用です。
- ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを介したAMPKの活性化
- mGPDを介した肝糖新生の抑制
- 胆汁酸再吸収阻害等の消化菅での作用
最近の研究では、メトホルミンの血糖値改善作用は腸管での働きが中心となっているんじゃないかと言われています。
また、メトホルミンによる抗がん作用や抗老化作用が研究(抗がん剤として開発を進めるミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰ阻害剤も存在します)されていますが、そのメカニズムにAMPKの活性化が関わっていると言われています。
メトホルミンとは異なる?イメグリミン(ツイミーグ)の作用機序
メトホルミンの作用機序を踏まえて、ツイミーグ(イメグリミン)の作用機序を詳しく見てみましょう。
イメグリミンの作用機序についてもまだ明らかになっていない部分が多いです。
イメグリミンはAMPKを活性化させない
メトホルミンはミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを阻害することでAMPKを活性化させる効果を持ち、それが様々な作用につながっていました。
ですが、イメグリミンはAMPKを活性化させないことが明らかになっています。
ということで、ツイミーグ(イメグリミン)とメトホルミンのミトコンドリア呼吸鎖複合体に対する作用の違いをまとめてみます。
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰに対する作用
- ツイミーグ(イメグリミン):競合的に阻害
- メトホルミン:非競合的に阻害
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅲに対する作用
- ツイミーグ(イメグリミン):活性化
- メトホルミン:作用なし(あっても弱い)
ミトコンドリア呼吸鎖複合体に対する作用の違い
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを強く阻害してしまうと、ATP産生を完全に止め、毒性を発揮してしまいます。
METI(Mitochondrial Complex I Electron Transport Inhibitors)剤と呼ばれる殺虫剤はミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを強く阻害することで殺虫効果を発揮します。
メトホルミンはミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを非競合的に阻害しますが、METI剤のように強く阻害するわけではありません。
そのため毒性を発揮することなく、ATPの産生量を低下させ、AMP/ATP比を増加させることで、AMPKの活性化を起こします。
ツイミーグ(イメグリミン)はミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを競合的に阻害します。
競合阻害であるため、基質であるNADHとユビキノンが十分存在していればATP産生量には影響は与えません。
また、ATP産生に関与するミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅲの活性を上昇させる作用も持っています。
そのため、ツイミーグ(イメグリミン)は、AMPKを活性化させることなく(ATP産生量を多く減らすことなく)、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰ阻害作用を発揮することが可能です。
その結果、ROSの産生を抑制し、膵β細胞の保護、糖取込能の改善、糖新生抑制等の効果を発揮します。
イメグリミンは乳酸アシドーシスを起こさない?
ここまで説明していきた作用機序を整理してみます。
代表的製品名 (成分名) | ツイミーグ (イメグリミン) | メトグルコ (メトホルミン) |
---|---|---|
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰ | 競合阻害 (ATP産生↓) | 非競合阻害 (ATP産生↓↓) |
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅲ | 活性化 (ATP産生↑) | ー |
NAMPT遺伝子 | 活性化 | ー |
mGPDH(mGPD) | ー | 阻害 (乳酸↑) |
酸化的リン酸化経路が阻害(ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰが阻害)された場合、嫌気的解糖系が活発になります。
ツイミーグ(イメグリミン)とメトホルミンはどちらもミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを阻害しますが、非競合的に阻害するメトホルミンの方がミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰを阻害する作用が強く、嫌気的解糖系を活発にさせる効果も大きくなります。
嫌気的解糖系ではグルコースをピルビン酸から乳酸に分解します。
そのため、ツイミーグ(イメグリミン)と比較してメトホルミンでは乳酸が増加しやすくなります。
また、それに加えて、メトホルミンはmGPDH(ミトコンドリア内膜のグリセロール-3-リン酸デヒドロゲナーゼ2)阻害作用を有しています。
mGPDHは乳酸の代謝に関与しており、メトホルミンはこの酵素を阻害するため、乳酸の蓄積をさらに進め、乳酸アシドーシスを引き起こしやすくなっています。
ビグアナイド、GLP-1受容体作動薬との併用について
ここまで読んでもらったら違和感ないとは思いますが、ツイミーグはメトホルミンと併用可能です。
保険上、全ての糖尿病治療薬と併用可能なことがツイミーグの特徴でもあります。
国内第3相試験 [TIMES 2試験:単独および他の血糖降下薬との併用療法長期試験](住友ファーマHPの資料より作成)
ベースライン からの変化量 (52週時) | 単剤 (n=134) | SU (n=127) | αGI (n=64) | グリニド (n=64) | ビグアナイド (n=64) | チアゾリジン (n=65) | DPP-4i (n=63) | SGLT2i (n=63) | GLP-1RA 注射 (n=70) |
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HbA1c (%) | -0.46±0.07 | -0.56±0.08 | -0.85±0.09 | -0.70±0.13 | -0.67±0.09 | -0.88±0.11 | -0.92±0.11 | -0.57±0.07 | -0.12±0.13 |
空腹時血糖 (mg/dL) | -11.83±28.05 | -15.95±30.45 | -20.36±28.70 | -17.27±34.13 | -25.56±25.09 | -17.25±28.96 | -27.15±28.96 | -12.61±22.41 | -20.63±39.79 |
上の図は国内第3相試験(TIMES2試験)における、各薬剤にツイミーグを加えた際の上乗せ効果を比較したものです。
見てもらえればわかるように、他の薬剤と同様にビグアナイドにツイミーグを追加した場合もHbA1c、空腹時血糖を低下させます。
ただし、ビグアナイド併用時は胃腸障害が増加する傾向が見られるため、消化器系の副作用に注意が必要となります。
ただ、気になるのはGLP-1受容体作動薬に追加した場合。
空腹時血糖は下げていますが、HbA1cは全然下がっていません。
年齢別・腎機能別のデータを見てみます。
国内第3相試験 [TIMES 2試験:単独および他の血糖降下薬との併用療法長期試験](住友ファーマHPの資料より作成)
年齢別 HbA1cのベースラインからの変化量(52週時、GLP-1RA注射への上乗せ)
- 65歳未満:0.03±0.16(n=46)
- 65歳以上:-0.48±0.17(n=24)
腎機能別 HbA1cのベースラインからの変化量(52週時、GLP-1RA注射への上乗せ)
- CKD1(eGFR≧90mL/min/1.73m2):-0.45±0.23(n=17)
- CKD2(60≦eGFR<90mL/min/1.73m2):-0.02±0.15(n=53)
まとめ
最後まで読んでいただき、ツイミーグの印象はどうなったでしょうか?
読み始める前にメトホルミンに似た薬と思っていた人は、がらっと印象が変わったんじゃないでしょうか?
単純に構造式だけを見た場合、イメグリミンとメトホルミンはそっくりです。
ですが、立体構造を考えた場合はどうでしょうか?
エチルが加わり、6員環が作られることで、イメグリミンはメトホルミンに比べて立体的に大きな構造になります。
(立体構造が気になる方はhttps://molview.org/で確認してみてください)
これに対して、メトホルミンをはじめとするビグアナイドはその名前の通り(Bi-guanide)、グアニジン2つが窒素原子を共有した構造になっています。
イメグリミンでは閉じてしまっている部分が開いており、空間的に反応を起こしやすい構造となっています。(イメグリミンはグアニジンの面影はほぼなくなってますね)
これらのことから、イメグリミンとメトホルミンは似てるようで全然異なる性質を持つことがわかります。
これは実際の作用の上での違いにもつながっています。
NAMPT遺伝子やmGPDHに対する阻害の違いは当然ながら、唯一の共通点であるミトコンドリア呼吸鎖複合体に対する作用においても、complexⅠの阻害の仕方(競合、非競合)、complexⅢに対する作用(活性化)の有無と、違いの方が多くなっています。
「メトホルミンに類似した構造」、「作用の一部が同じ」という言葉だけをみると、類似した医薬品と思い込んでしまいますが、じっくり作用を見ていくと、類似するとは言い難い薬剤になっています。
「ミトコンドリアに対する作用を有する」という意味ではグリミン系(イメグリミン)はビグアナイド系のライバルとなる存在なんだと思います。
メトホルミン同様、今後も様々な作用が解明される、可能性を秘めた薬剤として期待したいと思います。
参考資料
- ツイミーグ錠500mg 添付文書|住友ファーマ
- ツイミーグ錠500mg インタビューフォーム|住友ファーマ
- ツイミーグ錠500mgに係る医薬品リスク管理計画書|住友ファーマ
- ツイミーグ(製品情報ページ)|住友ファーマ
- メトグルコ錠250mg/500mg 添付文書|住友ファーマ
- メトグルコ錠250mg/500mg インタビューフォーム|住友ファーマ
- Foretz, M., Guigas, B. & Viollet, B. Understanding the glucoregulatory mechanisms of metformin in type 2 diabetes mellitus. Nature Reviews Endocrinology volume 15, 569–589 (2019)
- Sophie, Hallakou-Bozec. et al. Mechanism of action of Imeglimin: A novel therapeutic agent for type 2 diabetes. Diabetes Obes Metab. 2021 Mar;23(3):664-673.
- Sophie, Hallakou-Bozec.et al. Imeglimin amplifies glucose-stimulated insulin release from diabetic islets via a distinct mechanism of action. PLoS One. 2021; 16(2): e0241651.