ACE阻害剤やARB服用中にST合剤を使用すると突然死を起こす可能性あり。
そんな内容がBMJ誌2014年10月30日号の論文で報告されました。
「Co-trimoxazole and sudden death in patients receiving inhibitors of renin-angiotensin system: population based study」(RA系阻害剤服用患者の突然死とST合剤に関する集団研究)
Co-trimoxazole and sudden death in patients receiving inhibitors of renin-angiotensin system: population based study | The BMJ
論文の概要
カナダ・オンタリオ州のデータベースを用いて、過去17年間、ACE阻害薬またはARBを使用している高齢者のうち、抗菌薬を併用し、曝露から7日以内に死亡していたケースを対象に分析を行っています。
その結果、アモキシシリン(日本での商品名:サワシリン、オーグメンチン)、ノルフロキサシン(日本での商品名:バクシダール)は突然死リスクに変化を与えませんでしたが、ST合剤(トリメトプリム・スルファメトキサゾール、日本での商品名:バクタ)は突然死リスクを有意に上昇させるという結果になっています。
この研究で得られたデータを、ST合剤の処方1000件当たりに換算すると、14日以内で約3件突然死が発生することになります。
QT延長の副作用をもつシプロフロキサシン(日本での商品名:シプロキサン)でも突然死リスクは上昇しており、ST合剤が突然死リスクを上昇させる背景には、認識されていない重症高カリウム血症による不整脈が存在する可能性があるのではないかとされています。
ACE阻害剤、ARBと高カリウム血症
ACE阻害薬、ARBともに、高カリウム血症のリスクを上昇させることは有名です。
RA系を阻害することでその最終産物であるアルドステロンが低下し、結果的にカリウムが上昇します。
ACE阻害剤、ARBを長年服用している患者さんは多いですし、そこにスピロノラクトン(商品名:アルダクトンA)が加わることも珍しくありません。
腎機能が低下している高齢者の場合、急激にカリウム上昇を起こす可能性もあります。
急激なカリウム上昇はなくても、これらの薬剤がそのまま継続して使用された結果、高カリウム血症を引き起こす可能性もあります。ですが、高齢者の場合、腎機能の悪化に伴うカリウム上昇と判断されて、薬剤性のものと区別されていないケースがあるかもしれません。
ST合剤で高カリウム血症?
ST合剤にはカリウム上昇の副作用が知られています。
添付文書を見てみると。
重大な副作用
13. 高カリウム血症,低ナトリウム血症(頻度不明):これらの電解質異常があらわれることがある。異常が認められた場合には投与を中止し,電解質補正等の適切な処置を行うこと。特に本剤を高用量で投与する場合(ニューモシスチス肺炎の治療)は,十分に注意すること。
という風にしっかり記載されています。
ST合剤はS:スルファメトキサゾールとT:トリメトプリムの合剤です。
このうち、トリメトプリムは遠位尿細管の上皮細胞電位を変化させることで、カリウム排泄を減少させます。
ST合剤を使用中の患者の約8割に、血清カリウム濃度の上昇が見られるとの報告もあります。
なお、添付文書ではニューモシスチス肺炎治療に使用する高用量(成人:1日量9~12錠)の場合のみ注意のような記載になっていますが、高齢者や腎機能低下者においては低用量でも高カリウム血症が起こることが報告されています。
ST合剤とRA系阻害剤の併用による高カリウム血症
これまでの話をまとめると、ST合剤とRA系阻害剤を併用することで高カリウム血症の頻度が上昇することは当然のように思えますが、添付文書の相互作用の欄には記載がありません。
ですが、これらの併用による高カリウム血症は過去に様々な形で報告されています。
「Trimethoprim-sulfamethoxazole induced hyperkalaemia in elderly patients receiving spironolactone: nested case-control study」
BMJ誌2011年9月17日号に掲載された論文
Trimethoprim-sulfamethoxazole induced hyperkalaemia in elderly patients receiving spironolactone: nested case-control study | The BMJ
スピロノラクトンを継続使用している高齢者にトリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤(ST合剤)を処方すると、アモキシシリンを用いた場合に比べ、高カリウム血症による入院が12.4倍になる。
「Trimethoprim-Sulfamethoxazole-Induced Hyperkalemia in Patients Receiving Inhibitors of the Renin-Angiotensin System: A Population-Based Study」
Arch Intern Med誌2010年6月28日号に掲載された論文
JAMA Network | JAMA Internal Medicine | Trimethoprim-Sulfamethoxazole–Induced Hyperkalemia in Patients Receiving Inhibitors of the Renin-Angiotensin System: A Population-Based Study
レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬の投与を受けている高齢者の尿路感染治療にトリメトプリム-スルファメトキサゾール(ST)合剤を用いると、他の抗菌薬を投与した場合に比べ、高カリウム血症関連入院のリスクが6.7倍になる。
どんなケースで注意が必要?
日本でのST合剤と言えば、バクタ配合錠やバクタ配合顆粒、もしくはそのジェネリックのダイフェン、バクトラミン。
どういうケースで使用されるのでしょうか?
よく見られるのは、尿路感染症、蜂窩織炎といったところでしょうか?
広い抗菌スペクトルを持ち、セファロスポリンに耐性を持つ細菌にも効果を発揮するため使用されます。
また、ニューモシスチス肺炎に関しては治療よりも予防(バクタ配合錠の場合、1日1錠)で使用されるケースが多いです。
免疫抑制剤を使用している患者さんやリウマチ治療中の患者さんに処方されるケースが多いのではないでしょうか?
これらの患者さんが高齢者だったり、基礎疾患に高血圧があり、RA系阻害薬を服用していてもまったくおかしくないですよね。
珍しくない、身近な組み合わせだけに、日常的に遭遇する可能性があります。
ニューキノロンやセフェムなどの選択を提案するケースもあるかもしれませんね。
RA阻害剤やST合剤を見たときにすぐにカリウム上昇がイメージできないといけませんね。