ステロイドの一般名は紛らわしい〜外用ステロイドのランク分けとエステル基

ジェネリック医薬品の普及が進み、一般名処方が当たり前になっています。
そんな中、薬剤師を悩ませるのがステロイド外用薬の一般名処方。
エステルの違いによって性質が異なるため、ベースとなる名称が同じでもエステルによって別の医薬品として扱われます。
注意が必要とわかっていながらも、普段、皮膚科の処方箋を目にする機会がなかなかないため詳しくまとめないままでいました。
先日、休日当番で大忙しの中、皮膚科の一般名処方を受け付けて固まってしまいました。
自身の反省も込めて、皮膚科の一般名処方を見ても迷わないようにまとめておきたいと思います。

外用ステロイドのランクと一般名(成分名)

まず、医療用医薬品として承認されている外用ステロイド(塗り薬)をランク別にまとめます。
ランクについては、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021を参考にしています。
いかに示す通り、日本国内ではⅠ〜Ⅴ郡に分類されていますが、米国ではⅠ〜Ⅶ群に分類されています。
参考:MSDマニュアル プロフェッショナル版 – 主な外用コルチコステロイドの相対的力価
(外用ステロイドについては国際的な基準はなく、日本国内ではアトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021の分類が使用されています。)

添付文書上の成分名と厚生労働省の一般名処方マスタ、成分の標準的な名称が異なる場合は()としてそれぞれを記載しています。
さらに、基本となる構造は同じだけどエステル基のみが異なるものについては基本となるステロイド名に色をつけてみました。

外用ステロイドのランク
表が画面に入りきらない場合は横にスクロールできます。

Ⅰ群 strongest(ストロンゲスト)
クロベタゾールプロピオン酸エステル0.05%デルモベート
ジフロラゾン酢酸エステル0.05%ダイアコート、ジフラール※1
Ⅱ群 very strong(ベリーストロング)
モメタゾンフランカルボン酸エステル0.1%フルメタ
ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル0.05%
ベタメタゾン酪酸プロピオン酸エステル0.05%)
(酪酸プロピオン酸ベタメタゾン0.05%)
アンテベート
フルオシノニド0.05%トプシム
ベタメタゾンジプロピオン酸エステル0.064%リンデロンDP
ジフルプレドナート0.05%マイザー
アムシノニド0.1%ビスダーム
ジフルコルトロン吉草酸エステル0.1%
(吉草酸ジフルコルトロン0.1%)
ネリゾナ、テクスメテン
酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン0.1%パンデル
Ⅲ群 strong(ストロング)
デプロドンプロピオン酸エステル0.3%エクラー
デキサメタゾンプロピオン酸エステル0.1%
(プロピオン酸デキサメタゾン0.1%)
メサデルム
デキサメタゾン吉草酸エステル0.12%ボアラ、ザルックス
ハルシノニド0.1%アドコルチン※2
ベタメタゾン吉草酸エステル0.12%リンデロンV、ベトネベート
フルオシノロンアセトニド0.025%フルコート
ベクロメタゾンプロピオン酸エステル0.025%パラナイン※3、プロパデルム※4
Ⅳ群 medium(ミディアム)
プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル0.3%
(吉草酸酢酸プレドニゾロン0.3%)
リドメックス、スピラゾン
トリアムシノロンアセトニド0.1%レダコート
アルクロメタゾンプロピオン酸エステル0.1%アルメタ
クロベタゾン酪酸エステル0.05%キンダベート
ヒドロコルチゾン酪酸エステル0.1%ロコイド
デキサメタゾン0.1%グリメサゾン、オイラゾン
Ⅴ群 weak(ウィーク)
プレドニゾロン0.5%プレドニゾロン

色をつけているのはエステルのみが異なるもの。
エステル部分まで含めての医薬品名とわかっていながらも混乱を招くのです・・・。

※1:ジフラール軟膏/クリームは販売中止(2020年3月末日で経過措置満了)
※2:アドコルチン軟膏/クリームは販売中止(2010年3月末日で経過措置満了)
※3:パラナイン軟膏は販売中止(経過措置満了)
※4:プロパデルム軟膏0.025%/クリーム0.025%は販売中止(2016年3月末日で経過措置満了)
https://yakuzaishi.love/entry/propaderm-20150603

一般名が紛らわしい外用ステロイド

基本となる化合物名は同じでもエステルが異なることで強さのランクが異なります。
これは様々なエステルを結合させることで、皮膚での活性をあげたり、皮膚の透過性を高めたり、基剤への溶解率をあげたりしているためです。
そこで基本となる化合物名に注目して分類してみました。

ベタメタゾン

  • ベタメタゾン酪酸プロピオン酸エステル0.05%(アンテベート): very strong
  • ベタメタゾンジプロピオン酸エステル0.064%(リンデロンDP): very strong
  • ベタメタゾン吉草酸エステル0.12%(リンデロンV、ベトネベート):strong

クロベタゾン

  • クロベタゾールプロピオン酸エステル0.05%(デルモベート):strongest
  • クロベタゾン酪酸エステル0.05%(キンダベート):medium

デキサメタゾン

  • デキサメタゾンプロピオン酸エステル0.12%(メサデルム):strong
  • デキサメタゾン吉草酸エステル0.12%(ボアラ):strong
  • デキサメタゾン0.1%(グリメサゾン、オイラゾン):medium

プレドニゾロン

  • プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル0.3%(リドメックス):medium
  • プレドニゾロン0.5%(プレドニゾロン):weak

ヒドロコルチゾン

  • 酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン0.1%(パンデル):very strong
  • ヒドロコルチゾン酪酸エステル0.1%(ロコイド):medium

ベタメタゾンには気を付けろ!

一番紛らわしいのが、

  • ベタメタゾン酪酸プロピオン酸エステル0.05%(アンテベート): very strong
  • ベタメタゾンプロピオン酸エステル0.064%(リンデロンDP): very strong

この2つですね。
並べてみれば、「酪酸」と「ジ」の違いは明確なのですが、単品で見るとわかりにくい・・・。
だって、どちらもプロピオン酸エステルなんですもん・・・。
同じvery strongなのが救いです。

  1. 「ベタメタゾン」→一般名ではエステルの違いに注意だな!
  2. 「プロピオン酸エステル」→よし、エステルもチェックした!
  3. 「酪酸」かよ・・・。(「ジ」かよ・・・。)

なんて思考パターンでミスってしまわないように気をつけてくださいね。

ちなみに、まとめていて気づきましたがリンデロンDPの「DP」は「DiPropyl」(ジプロピル)の略なんですね。

ステロイドとエステル基

ステロイドは側鎖にエステル結合による修飾を行うことでその性質を変化させ、医薬品としています。
例えば、水に難溶性のステロイドですが、コハク酸エステルもしくはリン酸エステルとすることで静注薬として製造可能としています。
軟膏剤の場合、脂肪酸によるエステル化を行うことで活性を変化させることができます。
リドメックスコーワ軟膏(プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル)のインタビューフォームには以下のように説明されています。

I.概要に関する項目
1.開発の経緯
構造活性相関を検討した結果、ヒドロコルチゾンのA環に二重構造を導入することにより活性が増強すること、ベタメタゾンの17位及び21位を脂肪酸によりエステル化することにより、活性が増強し、局所作用に対して全身作用が低下することを考慮し、プレドニゾロン酢酸エステルの17位水酸基に吉草酸をエステル結合したプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル(PVA)に着目した。

引用元:リドメックスコーワ軟膏0.3%/クリーム0.3%/ローション 0.3% インタビューフォーム 興和株式会社

プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル(リドメックスコーワ)ではプレドニゾロン酢酸エステルの17位水酸基に短鎖脂肪酸である吉草酸をエステル結合させることで皮膚での活性を強化、全身性の副作用を軽減させることを可能にしています。

アンテドラッグステロイド

このように、目的とする部位で効果を発揮した後、速やかに代謝されることで失活するように設計された薬剤のことをアンテドラッグ(antedrug)と言います。
塗り薬において、アンテドラッグステロイドとは目的部位である皮膚では強い活性を発揮し、体内に吸収されると失活し、弱いステロイドに変わるものを指します。
ステロイドの場合、生体内にあるエステラーゼを利用して設計されているアンテドラッグが多いです。
例えば、そこまで強くないステロイドにエステルを結合させることで活性を高め、皮膚で効果を発揮させた後、エステラーゼにより失活するようにしています。
上に示した「プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル」は塗布されると皮膚ではmediumクラスのステロイドとして効果を発揮し、体内に吸収されると代謝によりエステル部分が取れ、weakクラス「プレドニゾロン」となります。
アンテドラッグステロイドとして設計されているものを挙げてみると以下のようなものがあります。

  • ジフルプレドナート(マイザー)
  • 酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン(パンデル)
  • プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル(リドメックス)
  • ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(プロパデルム)
  • ヒドロコルチゾン酪酸エステル(ロコイド)
  • ブデソニド(パルミコート、シムビコート、ビレーズトリ)
  • フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルタイド、アドエア、フルナーゼ)

ステロイド外用薬と脂肪酸

ステロイド外用薬に使用されている脂肪酸をまとめておきます。

  • 酢酸(C2)
  • プロピオン酸(C3)
  • 酪酸(C4)
  • 吉草酸(C5)

側鎖のC(炭素)の数に比例して活性が高まる(クラスが上になる)のがわかりますね。

ちなみに、フランカルボン酸エステルとして知られているステロイドに

  • フルチカゾンフランカルボン酸エステル(レルベア、アニュイティ、アラミスト)
  • モメタゾンフランカルボン酸エステル(フルメタ、アズマネックス、エナジア、ナゾネックス)

があります。
フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルタイド、アドエア、フルナーゼ)と比較して、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(レルベア、アニュイティ、テリルジー、アラミスト)の方が活性や持続時間が長いことが知られています。

そのほかの外用ステロイド

今回の記事ではステロイド外用薬(塗り薬)についてまとめましたが、エステルの話が出たのでそのほかの外用ステロイドについてもまとめておきます。(ステロイドと抗生物質の配合軟膏も含みます)

デキサメタゾン

  • デキサメタゾン(サンテゾーン眼軟膏、アフタゾロン、デキサルチン)
  • デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム(オルガドロン点眼・点耳・点鼻液)
  • デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム(サンテゾーン点眼液、D・E・X点眼液T、ビジュアリン点眼液/眼科耳鼻科用液)
  • デキサメタゾンシペシル酸エステル(エリザス)

ベタメタゾン

  • ベタメタゾン吉草酸エステル(リンデロンVG、ベトネベートN)
  • ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン点眼液、リンデロン点眼・点耳・点鼻液、点眼・点鼻用、リンデロンA液、サンベタゾン眼耳鼻科用液、ステロネマ注腸)
  • ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(ドボベット)

プレドニゾロン

  • プレドニゾロン(クロマイ‐P)
  • プレドニゾロン酢酸エステル(プレドニン眼軟膏)
  • プレドニゾロンリン酸エステルナトリウム(プレドネマ注腸)
  • メチルプレドニゾロン(ネオ メドロールEE軟膏)

フルチカゾン

  • フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルナーゼ、フルタイド、アドエア、フルティフォーム)
  • フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アラミスト、アニュイティ、レルベア、テリルジー)

そのほか

  • ヒドロコルチゾン(テラ・コートリル)
  • トリアムシノロンアセトニド(アフタシール、アフタッチ、ケナログ、オルテクサー)
  • ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(リノコート、ナイスピー、キュバール、サルコート)
  • ブデソニド(パルミコート、シムビコート、ビレーズトリ、ゼンタコートカプセル、レクタブル注腸)
  • フルオロメトロン(フルメトロン)
  • フルオシノロンアセトニド(フルコートF)
  • フルドロキシコルチド(ドレニゾンテープ)
  • モメタゾンフランカルボン酸エステル(フルメタ、アズマネックス、エナジア、ナゾネックス)
  • シクレソニド(オルベスコ)

※:販売中止

まとめ

いかかでしょう?
改めてまとめてみると覚えにくく紛らわしい名前だらけのステロイド外用薬と再確認できますね。
エステルの違いでクラスが異なることもあり、間違えが重大な事故につながる可能性もあります。

今回の記事のように、エステル結合の違いについて学ぶことで、活性の強さやアンテドラッグなどの性質を持たせていることを知れば、ステロイドの構造の違いに対する意識づけを行えるのではないかなと思います。

エステル結合まで含めた化合物名として命名されている(ジフルプレドナート)ものばかりだとありがたいんですけどね。。。

また、患者さんが併用薬を伝える際にも注意が必要になりますね。
例えばヒドロコルチゾンっていう塗り薬と言われたら very strongかmediumかわからないですもんね。
やはりお薬手帳は大事ですね。

参考資料

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

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