(記事作成時点から時間が経過したので加筆修正を行なっています)
イクセロンパッチとリバスタッチの基剤が変更になりました。
以前から変更する変更するとMRさんから聞いていましたが、ようやく変更。
当薬局でも全ての規格が切り替わりました。
イクセロンパッチとリバスタッチパッチが一気に変更になったわけではなく、まずは6月末にイクセロンパッチの変更品が出荷開始、その後、7月にリバスタッチパッチの変更品が出荷になりました。
小野薬品のMRさんからはリバスタッチパッチが実際に納品されるのは9月ごろになるのではないか?と聞いていましたが実際そのくらいでしたね。
うちの薬局は(厄介なことに)イクセロンパッチもリバスタッチパッチも大量に処方されるので変更情報について整理しておきます。
イクセロンパッチ・リバスタッチパッチの基剤ならびに包装デザイン変更
- アルツハイマー型認知症治療剤 「リバスタッチ®パッチ」および「イクセロン®パッチ」の新基剤製剤の承認を取得(2019年3月14日)
- アルツハイマー型認知症治療剤 「リバスタッチ®パッチ」および「イクセロン®パッチ」の新基剤製剤の承認を取得(2019年3月14日)
基剤の変更
基剤の変更とありますが、貼付部分に使用している基剤が変更になります。
これまでのシリコン系基剤から合成ゴム基剤に変更することで、貼付部位の紅斑や瘙痒などの症状を軽減させることができるそうです。
それでいて、粘着力については従来品と同等になるように製造されています。
添付文書から新旧の添加物を比較してみます。
新基剤 | 旧基剤 |
---|---|
|
|
旧基剤が「その他3成分」なんて記載になっているので詳細はわかりませんが、「ポリエチレンテレフタレートフィルム」以外の添加物が変更になり、その種類も減っている(新:4成分、旧:6成分)ことがわかりますね。
新規粘着基剤技術を採用
今回の新基剤製剤にはケイ・エムトランスダームの粘着基剤技術が使用されているようです。
カネカグループ ケイ・エム トランスダームの粘着基剤技術がアルツハイマー型認知症治療剤に採用
従来の製剤には貼付部位の紅斑やそう痒症などの皮膚症状の副作用報告があったことから、小野薬品およびノバルティス ファーマとケイ・エム トランスダームが協働して新基剤製剤の開発を進めてきました。今回承認を取得した新基剤製剤に採用されているケイ・エム トランスダーム独自の粘着基剤技術は、合成ゴム基剤として従来必須であった粘着付与剤を使用しなくても適度な粘着性を持たせることができる技術であり、肌に優しく、貼り心地が良い粘着基剤の実現が可能です。
引用元:カネカグループ ケイ・エム トランスダームの粘着基剤技術がアルツハイマー型認知症治療剤に採用
基剤の変更で何が変わる?
リバスタッチパッチの資料に基剤による違いが詳しく記載されています。
添加物の特性
- 合成ゴム粘着処方は、シリコン粘着剤処方よりも粘着力が低く、皮膚刺激性などの原因となる粘着付与剤を含まないことが特徴です。
- 流動パラフィンはホワイトミネラルオイルとも呼ばれ、軟膏・クリーム剤の基剤として使用されております。また、流動パラフィンはヒトの皮膚へ塗布しても角質層の最上層のみに浸透し、皮膚から生体内に浸透しないと考えられます。
- ポリイソブチレンは皮膚に対する十分な粘弾性を有し、柔軟性にも優れています。
引用元:リバスタッチ®︎パッチ新基剤製剤の特徴
旧基剤では粘着力が強すぎたため、剥がしにくいだけでなく、皮膚の角質が剥離してしまい、それは炎症の原因となっていました。
新基剤を用いた製剤では過剰な粘着力は低下させつつ、24時間の貼付を維持できる粘着力は保たれています。
ウサギにおいて、皮膚一時刺激性試験が実施されており、旧基剤を用いた製剤が「中等度の刺激物」という評価だったのに対して、新基剤を用いた製剤は「弱い刺激物」という評価になっています。
角質剥離量を比較する試験においても、新基剤を用いた製剤の剥離量は旧基剤のものより有意に減少しています。
当然ですが生物学的同等性試験も実施されています。
包装デザインの変更
イクセロンパッチのデザインについてはノバルティスさんから配布された案内から抜粋します。
デザイン、特に包装が大幅に変更になりますね!
でも、個人的には規格ごとの色の違いがはっきりわかる今までの包装の方が好みかもしれません。
リバスタッチパッチの包装変更はこんな感じです。
リバスタッチパッチの包装は印象が変わらない感じで好感度高いです。
どちらも包装が大きくなっており、患者さんからは中身も大きくなってるんじゃないかと心配されますが、中身の大きさ(面積)は一緒です。
ただ厚みが増しているので、それに伴って包装のマチが大きくなったってことですね。
新基剤変更品の出荷時期は?
MRさんに確認したところ、
- イクセロンパッチは2019年6月末から出荷開始
- リバスタッチパッチは2019年7月から出荷開始
とのことです。
イクセロンとリバスタッチで出荷時期が異なる理由については後で説明します。
イクセロン®︎パッチ(ならびにリバスタッチ®︎パッチ)について
ここでイクセロンパッチとリバスタッチパッチの特徴について復習しておこうと思います。
医薬品名 | イクセロンパッチ4.5mg/9mg/13.5mg/18mg リバスタッチパッチ4.5mg/9mg/13.5mg/18mg |
---|---|
成分名 | リバスチグミン |
製造販売元 | ノバルティスファーマ(イクセロン) 小野薬品工業(リバスタッチ) |
効能・効果 | 軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制 |
用法・用量 | 通常、成人にはリバスチグミンとして1日1回4.5mgから開始し、原則として4週毎に4.5mgずつ増量し、維持量として1日1回18mgを貼付する。 また、患者の状態に応じて、1日1回9mgを開始用量とし、原則として4週後に18mgに増量することもできる。 本剤は背部、上腕部、胸部のいずれかの正常で健康な皮膚に貼付し、24時間毎に貼り替える。 |
リバスチグミンの作用機序
リバスチグミンはコリンエステラーゼ阻害剤に分類されます。
同様の作用機序を持つ薬剤に、
- ドネペジル塩酸塩(アリセプト®︎等)
- ガランタミン臭化水素酸塩(レミニール®︎等)
があります。
アルツハイマー型認知症とコリンエステラーゼ
健常な場合の脳では、大脳皮質で十分な量のアセチルコリンが作られています。
アセチルコリンはコリン作動性神経が刺激されることで放出され、ムスカリン受容体やニコチン受容体に結合することで、認知機能の維持に関するシグナル伝達を進めます。
ですが、アルツハイマー型認知症の場合、十分な量のアセチルコリンを作るのが難しくなっています。
そのため、コリン作動性神経が刺激されても、放出されるアセチルコリンが少なく、認知機能を維持するためのシグナルがうまく伝達されません。
リバスチグミンを含むコリンエステラーゼ阻害剤は脳内でのアセチルコリンの分解を抑制し、アセチルコリンの量を高めることで効果を発揮します。
リバスチグミンの特徴
2019年6月の時点で日本国内でアルツハイマー型認知症に対して使用されるコリンエステラーゼ阻害剤は3成分存在しており、それぞれが特徴を持っています。
簡単にまとめると以下の通りです。
- ドネペジル:高いアセチルコリンエステラーゼ選択性
- ガランタミン:アセチルコリンエステラーゼ選択性とニコチン受容体の活性化作用
- リバスチグミン:アセチルコリンエステラーゼ阻害作用とブチリルコリンエステラーゼ阻害作用
リバスチグミンの特徴はアセチルコリンエステラーゼだけでなくブチリルコリンエステラーゼも阻害することです。
ブチリルコリンエステラーゼについてはアリセプトのホームページに記載されていました。
マーカー部分に注目してください。
- Q質問:アリセプトのコリンエステラーゼ阻害作用の特徴について教えてください。
- A回答:アリセプトは、2種類あるコリンエステラーゼのうちの神経伝達に関与するアセチルコリンエステラーゼ(AChE)を選択的かつ強力に阻害します。
コリンエステラーゼにはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)とブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)の2種類があります。AChEは神経細胞に存在し、神経伝達物質であるアセチルコリンのみを分解します。一方、BuChEは末梢組織や脳のグリア細胞に存在しますが、基質特異性が低く、その役割についてはよく分かっていません。
引用元:アリセプトのすべて 第Ⅱ章 作用機序と適応疾患
ライフサイエンス研究用試薬と機器の輸出入や製造・販売を行なっているフナコシのページに記載されている内容はよりわかりやすいです。
ブチリルコリンエステラーゼとは
Butyrylcholinesterase(BChE)は,Acetylcholinesterase(AChE)と同じコリンエステラーゼ群に属する4量体の糖タンパク質です。主に血液,腎臓,腸,肝臓,肺,心臓および中枢神経系に存在します。ブチリルコリンエステラーゼは,ブチリルコリンを優先的に基質としてコリンに加水分解しますが,アセチルコリンも加水分解します。
アルツハイマー病では,コリン作動性ニューロンの変性・脱落が生じます。認知症の症状進行に伴い,アセチルコリンエステラーゼ活性の低下とブチリルコリンエステラーゼ活性の亢進が認められますが,このブチルコリンエステラーゼ活性の亢進は,アセチルコリンエステラーゼ活性の低下により引き起こされると考えられています。また,ブチリルコリンエステラーゼ活性を阻害すると,ブチリルコリンエステラーゼによるβアミロイドの新規生成が減少することが報告されています。そのためブチリルコリンエステラーゼは,病態進行のバイオマーカーや将来的な治療ターゲットとして注目されています。引用元:認知症研究に有用なBChE活性測定キット DetectX Butyrylcholinesterase Fluorescent Activity Kit
とまあ、ブチリルコリンエステラーゼ阻害作用により具体的な効果ははっきりしませんが、様々な効果が期待されることがわかります。
唯一の貼付型 アルツハイマー型認知症治療薬
イクセロンパッチならびにリバスタッチパッチは唯一の貼付型のアルツハイマー型認知症治療薬、コリンエステラーゼ阻害剤です。
リバスチグミンはもともと経口剤として開発されていましたが、消化器系への負担が強すぎて、開発が断念された経緯があります。
消化器系への負担を回避するために経皮型製剤として開発されたのがイクセロンパッチとリバスタッチパッチです。
リバスチグミンが他の2成分よりも分子量が小さいことも経皮型製剤としての開発を進めた要因です。
コリンエステラーゼ阻害剤3成分の分子量を比較してみると確かに一番小さいですね。
- ドネペジル:分子量415.95
- ガランタミン:分子量368.27
- リバスチグミン:分子量250.34
貼付剤は内服薬と比較して血中濃度の上昇が緩やかで安定した濃度を保ちやすくなっています。
そのため、吐き気などの消化器系の副作用を抑えることができます。
認知症が進むと服薬に対する抵抗感が増えたり、嚥下機能の低下により服用を継続することが難しくなりますが、貼付剤であればその問題は解決できます。
(貼付自体に抵抗感を持つ例はあると思いますが)
また、介護者が目視で使用状況を確認できることも大きなメリットになります。
ただし、貼付剤ならではのデメリットもあります。
その代表的なものが皮膚障害です。
イクセロンパッチとリバスタッチパッチを調剤する際は毎日場所を変えて貼付するように指導を行なっていると思います。
さらには皮膚障害の予防のために、貼付前日にヘパリン類似物質(ヒルドイド®︎等)で皮膚バリアを高めてから貼付するように指導しているケースもあると思います。
ですが、それでも皮膚障害を完全に防ぐことは難しく、そのために使用を断念するケースも珍しくありません。
このような点から医療現場では今回の基剤変更を待ち望まれていました。
新基剤変更品 切り替え直後の問題点(イクセロンパッチ4.5mg・9mgに限る)
イクセロンパッチの基剤変更品の初期ロットでは1つの問題が明らかになっています。
その内容についてはすでにノバルティスが以下のような説明用の資材を作っています。
新基剤変更品ではパッチ上の印字が油分等で剥がれやすくなっています。
見た目上、患者さんが驚くかもしれませんし、衣服や皮膚に汚れがついてしまう可能性があります。
イクセロンよりもリバスタッチの変更が遅い理由
最初の方にも書きましたが、今回の基剤変更品、イクセロンパッチが6月下旬、リバスタッチパッチが7月に出荷開始予定となっています。
その原因はこの印字の問題です。
これを解消した上で発売されるのがリバスタッチパッチ、問題へ対応しつつ少しでも早く発売しようとしたのがイクセロンパッチということですね。
当初はイクセロンパッチの全規格で文字のかすれが起きるかもしれないということでしたが、発売までに4.5mgと9mgの初期ロットのみというところまで対応してきたようです。
おそらく初期ロットは既に流通し終わったんじゃないかなあと思います。(2019年11月20日)
実際のサンプルを触ってみた
ということで、サンプルをもらったので色々と比較してみました。
並べてみると、新包装の方が少し大きいんですね。
包装を開けて中のパッチを取り出すとこんな感じです。
本当に消えるのかな・・・と試してみます。
ゴシゴシ。
あ・・・。
あーあ・・・。
結構、簡単に文字がかすれてしまいました。
服についても洗えばすぐ落ちるそうですが、知らずにこれを経験するとちょっとびっくりするかもしれませんね。
初期ロットのみということなので、新基剤に変更したばかりの際、4.5mgと9mgを調剤する際には忘れずに伝えないといけませんね。
まとめ:皮膚刺激性が減った製剤の登場は期待大!
イクセロンパッチ・リバスタッチパッチは介護者がいる状況であれば、目視で使用を可能できるため、認知症治療薬として非常に扱いやすい製剤です。
ですが、その最大の欠点が皮膚刺激性でした。
ヒルドイドなどのヘパリン類似物質製剤で皮膚のバリアを高めても、かぶれてしまう人はすぐかぶれてしまっていました。
今回、新基剤を用いた製剤に変更することで、皮膚刺激性が原因でイクセロンパッチ・リバスタッチパッチが使用できなかった人も使用することはできるようになると思います。
足の裏に貼るなんてメーカーとしては勧めていない使用方法を聞いたこともありますが、今回の基剤変更でその必要もなくなるかもしれませんね。
実際に切り替わってどうですか?
当薬局ではイクセロン・リバスタッチの両製剤・全規格が切り替わりました。
使用量が多いので色んな方の声は聞きますが、今のところかぶれが劇的に減ったという方には出会っていません。
やはりかぶれる人はかぶれます。
過去にイクセロンorリバスタッチでかぶれてしまって使用できなかった人に処方されたこともありますがやはりダメでした。
結局、足の裏に貼るように指示された方もいました。
この新基剤、厚みがあって柔らかいので横にずらす力には弱いんなじゃないかなと個人的に感じています。
なので密着している服を脱ぐときなど、パッチが剥がれてしまうのに注意しています。
同じ理由で足の裏に貼る方法も向いていないと思うんですけどね・・・。
そもそも、どの程度吸収されるのか?
参考資料
- イクセロンパッチ 添付文書 ノバルティスファーマ
- イクセロンパッチ インタビューフォーム ノバルティスファーマ
- リバスタッチパッチ 添付文書 小野薬品工業
- リバスタッチパッチ インタビューフォーム 小野薬品工業
- カネカグループ ケイ・エム トランスダームの粘着基剤技術がアルツハイマー型認知症治療剤に採用
- 【アリセプト】 アリセプトのコリンエステラーゼ阻害作用の特徴について教えてください。(アリセプトのすべて Q21 P34)