モルヌピラビルは「MSD」と米国のバイオベンチャー「リッジバック・バイオセラピューティクス」が共同開発している経口新型コロナウイルス治療薬です。
2021年11月4日、英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)に承認され、世界で初めて承認された新型コロナの飲み薬となりました。
2021年12月23 日には米食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可を出し、2021年12月24日には日本で特例承認されました。
製品名はラゲブリオカプセルです。
モルヌピラビルの作用機序
モルヌピラビル(molnupirivar)は核酸アナログ製剤で、新型コロナウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼを阻害して増殖を抑制する薬(RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害薬)の一種ですが、その作用機序は従来のものとは少し異なります。
モルヌピラビルはプロドラッグです。
体内で代謝を受けNHC(β-D-N 4-HydroxyCytidine)となり細胞内に取り込まれた後、シチジンに類似したヌクレオチドアナログNHC-TP(β-D-N 4-HydroxyCytidine 5′-TriPhosphate)となります。
NHC-TPはRNA依存性RNAポリメラーゼによってシチジンの代わりにRNAに取り込まれますが、エラーとしては認識され、排除されることはありません。
NHC-TPはシチジンとウリジンの両方に誤認識される性質を持っています。
そのためシチジンの代わりにNHC-TPを含むRNAが複製され際に、NHC-TPの部分はシチジンとしてコピーされたりウリジンとしてコピーされたりしてしまいます。
その結果、ウイルスの遺伝子配列に大量のエラー(変異)が生じます。
このようにモルヌピラビルはウイルスの遺伝子に致死的な変異を生じさせることで抗ウイルス作用を発揮します。
ラゲブリオカプセルの添付文書を読み解く!
ここからはラゲブリオカプセルの添付文書を読み込みながらその特徴を解説していきます。
妊娠中は禁忌
まずは禁忌についてです。
2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)
2.1 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
2.2 妊婦又は妊娠している可能性のある女性
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
ラゲブリオカプセルは「妊娠または妊娠ている可能性のある女性」に対しての投与は禁忌とされています。
作用機序を見ればわかるように、モルヌピラビルはウイルスRNAの合成を阻害することで効果を発揮する薬剤です。
ですが、その活性代謝物はシチジンヌクレオチドアナログであり、人の遺伝子に影響を与える可能性があります。
投与中〜投与後4日間は避妊を行う必要あり
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.4 生殖能を有する者
妊娠可能な女性に対しては、本剤投与中及び最終投与後一定期間は適切な避妊を行うよう指導すること。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
このように投与中と投与終了後一定期間は避妊を行うように記載されています。
投与後一定期間についてですが、「妊娠している女性、妊娠している可能性のある女性、又は妊娠する可能性のある女性」への投与に関するお願いの中で「服用終了後4日間」は適切な避妊を行うことが推奨されています。
妊娠する可能性のある女性に対しては、本剤投与中及び最終投与後一定期間(少なくとも、最終投与後4日間*)に性交渉を行う場合は、パートナーと共に適切な避妊を行うよう指導してください。
*最終投与後の避妊期間は、個々の被験者におけるN-ヒドロキシシチジン(NHC:モルヌピラビルの主要代謝物)の半減期の最大値(約19時間)の5倍に相当する。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg RMP資料 「妊娠している女性、妊娠している可能性のある女性、又は妊娠する可能性のある女性」への投与に関するお願い MSD株式会社
催奇形性リスクに関するチェックリスト
催奇形性については後述するRMPの中で「重要な潜在的リスク」として記載されています。
そのため、RMP資材として「妊娠している女性、妊娠している可能性のある女性、又は妊娠する可能性のある女性」への投与に関するお願いが用意されており、その中で服用前のチェックリストが用意されています。
- 妊娠している女性又は妊娠している可能性のある女性は服用できません。前回の月経後に性交渉を行った場合は妊娠している可能性があります。妊娠中又は妊娠している可能性がある場合は担当の医師、看護師又は薬剤師にお知らせください。なお、妊娠初期の妊婦では、妊娠検査で陰性を示す場合があることにご留意ください。
- この薬は動物実験で、催奇形性などが認められております。
- 妊娠する可能性のある女性は、本剤服用中及び服用終了後一定期間(少なくとも、服用終了後4日間)に性交渉を行う場合は、パートナーと共に適切な避妊を行ってください。
- 万が一、薬が残ってしまった場合でも絶対に他の人に譲らないでください。
・症状が良くなった場合でも5日間飲み切ってください。
・副作用等で中止する場合には、医師、看護師又は薬剤師に相談してください。- この薬を服用中及び服用終了後一定期間(少なくとも服用終了後4日間)に妊娠した、あるいは妊娠していることがわかった場合には、直ちに医師、看護師、又は薬剤師に相談してください。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg RMP資料 「妊娠している女性、妊娠している可能性のある女性、又は妊娠する可能性のある女性」への投与に関するお願い MSD株式会社
投薬に際してはこのリストをチェックしながら確認を行う流れになります。
胎児に与える影響
添付文書には以下のような記載があります。
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には投与しないこと。
動物実験で胎児毒性が報告されている。妊娠ラットの器官形成期にモルヌピラビルを投与した実験において、N-ヒドロキシシチジン(NHC)の臨床曝露量の8倍に相当する用量で催奇形性及び胚・胎児致死が、3倍以上に相当する用量で胎児の発育遅延が認められている。また、妊娠ウサギの器官形成期にモルヌピラビルを投与した実験において、NHCの臨床曝露量の18倍に相当する用量で胎児体重の低値が認められている。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
人に関するデータはありませんが、ラットならびにウサギに対するデータからも妊娠中の投与については厳格な注意が求められます。
重症化リスクを有する軽症・中等症患者が対象
4. 効能又は効果
SARS-CoV-2による感染症5. 効能又は効果に関連する注意
5.1 臨床試験における主な投与経験を踏まえ、SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有する等、本剤の投与が必要と考えられる患者に投与すること。また、本剤の投与対象については最新のガイドラインも参考にすること。
5.2 重症度の高いSARS-CoV-2による感染症患者に対する有効性は確立していない。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
ラゲブリオカプセルの投与対象は「重症化リスクを有する軽症・中等症患者」ということになります。
重症化のリスク因子
重症化リスク因子ですが、「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 第6.0版(2021年11月2日改訂)」にまとめられています。
- 65歳以上の高齢者
- 悪性腫瘍
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 慢性腎臓病
- 2型糖尿病
- 高血圧
- 脂質異常症(BMI30以上)
- 喫煙
- 固形臓器移植後の免疫不全
- 妊娠後期
重症化リスクを軽減する因子としてワクチン接種があげられます。
発症後5日以内に投与開始
投与開始のタイミングですが
7. 用法及び用量に関連する注意
SARS-CoV-2による感染症の症状が発現してから速やかに投与を開始すること。臨床試験において、症状発現から6日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
つまりは発症後5日以内に投与を開始する必要があるってことですね。
発症後速やかに服用を開始しないと効果が期待できないのは他の抗ウイルス剤に類似しています。
18歳未満は適応外
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.7 小児等
18歳未満を対象とした臨床試験は実施していない。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
18歳未満に対する臨床試験は行われていないため、投与対象は18歳以上となります。
1回4カプセルを1日2回服用
用法用量は以下の通りです。
6. 用法及び用量
通常、18歳以上の患者には、モルヌピラビルとして1回800mgを1日2回、5日間経口投与する。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
1回800mgということはラゲブリオカプセル200mgを1回4カプセル服用・・・ということになります。
ご覧の通り、ラゲブリオはカプセルの中で一番大きい0号サイズとなっています。
これを1回に4カプセルとなると、飲めない人は本当に飲めないという可能性もありますね・・・。
食事の影響はない
服用時点には食事に関する制限がありません。
16. 薬物動態
16.2 吸収
16.2.1 食事の影響
健康成人にモルヌピラビル200mgを単回経口投与した際、高脂肪食摂取後投与では空腹時投与に比べてNHCのCmaxは35%減少し、AUCは両条件下で同程度であった(外国人データ)。本剤は、食事とは関係なく投与可能である。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
高脂肪食の摂取に関わらずAUCに大きな変化は見られないので、食事を気にせず服用可能ということがわかります。
代表的な副作用
ラゲブリオカプセルには重大な副作用の記述はなく、副作用も多くないので全てを列挙します。
- 胃腸障害:下痢、悪心(1%以上5%未満)、嘔吐(1%未満)
- 神経系障害:浮動性めまい、頭痛(1%以上5%未満)
- 皮膚及び皮下組織障害:発疹、蕁麻疹(1%未満)、中毒性皮疹(頻度不明)
消化器系の副作用とめまい・頭痛に注意が必要ですね。
腎障害の影響は少ない
16. 薬物動態
16.5 排泄
健康成人にモルヌピラビル800mgを1日2回5.5日間反復経口投与 注5) した際、NHCの尿中排泄率は3%であった(外国人データ)。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
モルヌピラビルは全身循環に入る際にはNHCに加水分解されているため、NHCの尿中排泄率が3%ということから腎排泄ではなく、腎機能の影響はほとんど受けないことがわかります。
16. 薬物動態
16.6 特定の背景を有する患者
16.6.1 腎機能障害者
モルヌピラビル及びNHCの主要な消失経路は腎排泄ではないため、腎機能障害がこれらの排泄に影響を及ぼす可能性は低い。母集団薬物動態解析の結果、軽度及び中等度の腎機能障害がNHCの薬物動態に及ぼす意味のある影響はみられなかった(外国人データ)。重度腎機能障害患者(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)又は透析を必要とする患者におけるモルヌピラビル及びNHCの薬物動態の評価は実施していない。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
肝障害の影響は少ない
16. 薬物動態
16.6.2 肝機能障害者
肝機能障害者におけるモルヌピラビル及びNHCの薬物動態の評価は実施していない。非臨床試験の結果、NHCの主要な消失経路は肝代謝ではないと考えられた。また、モルヌピラビルは主に消化管及び肝臓でNHCへ代謝される一方、モルヌピラビルの加水分解に必要な代謝酵素は広範な組織に分布しているため、肝機能障害がモルヌピラビル及びNHCの曝露量に影響を及ぼす可能性は低い。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
モルヌピラビルは全身どこでも代謝可能ということで、肝機能悪化時も投与制限なしで服用できます。
モルヌピラビルの効果:入院・死亡を半減
中間解析の結果が掲載されています。
主要評価項目:無作為化29日目までの理由を問わないすべての入院又は死亡した被験者の割合
- モルヌピラビル群(385例):入院7.3%、死亡0%
- プラセボ群(377例):入院13.8%、死亡2.1%
全死亡・全入院ともに下げ、主要評価項目である「無作為化29日目までの理由を問わないすべての入院又は死亡した被験者の割合」はモルヌピラビル投与群で半減しています。
ちなみに最終報告時点では約30%減になっています。
包装単位は1回飲み切り分
包装は40カプセルのバラ包装のみのようです。
ラゲブリオカプセルは1回4カプセル、1日合計8カプセルを5日間ということで、ちょうど1回の治療で1瓶使い切れるようになりっていますね。
投与に際しては同意が必要
本剤は、本邦で特例承認されたものであり、承認時において有効性、安全性、品質に係る情報は限られており、引き続き情報を収集中である。そのため、本剤の使用に当たっては、あらかじめ患者又は代諾者に、その旨並びに有効性及び安全性に関する情報を十分に説明し、文書による同意を得てから投与すること。
引用元:ラゲブリオカプセル200mg 添付文書 MSD株式会社
RMP資材で治療に係る同意説明文書(ひな形)が用意されており、処方の際にはこの同意書の内容を確認してもらった上で、患者・医師双方がサインを行い保管する形になっています。
リスク管理計画書(RMP)について
リスク管理計画書に記載されているリスクは以下の通りです。
- 重要な特定されたリスク:なし
- 重要な潜在的リスク:骨髄抑制、催奇形性
- 重要な不足情報:なし
実際に投与する際には催奇形性のリスクについて十分に配慮する必要があります。
RMP資材(同意書等)
PmdaではRMP資材が公開されています。
医療従事者向けRMP資材
患者向けRMP資材