ステルイズ水性懸濁筋注シリンジはベンジルペニシリンベンザチン水和物の水性筋注プレフィルドシリンジです。
日本感染症教育研究会からの成人及び小児における梅毒(神経梅毒を除く)に対する使用について開発要望を受け、厚労省の未承認薬・適応外薬検討会議の評価を経て開発要請が行われた薬剤で、海外では70年近く使用されている薬剤です。
筋注のため薬局では処方されることはありませんし触れる機会のない薬ですが、昨今の梅毒感染者数の増加に伴い注目される新薬として登場しました。
梅毒の感染数が過去最多 国立感染研、全国的に増加(m3.com内の記事へのリンクです)
ベンジルペニシリンベンザチン(PCGベンザチン)は体内でベンジルペニシリン(ペニシリンG=PCG:PeniCillin G)となり、殺菌作用を発揮します。
ペニシリンという抗生物質の基本となる薬剤を用いた新薬ということ、コロナ禍の日本で流行の兆しを見せている梅毒に使用する新薬として、医療従事者としては知っておくべき要素が多い薬剤であるためまとめてみました。
梅毒とその治療方法について
ステルイズについての説明に入る前に、まずは梅毒という感染症について簡単に説明したいと思います。
梅毒は梅毒トレポネーマ(TP:Treponema pallidum)による感染症で、性感染症(STD:Sexually Transmitted Disease)の代表的な疾患の一つにあげられます。
主に性行為の際に生じた皮膚や粘膜の小さな傷からスピロヘータの一種である梅毒トレポネーマが侵入することで感染します。
梅毒の症状は段階的に進行していきますが、治療なしでも症状が消失し、病期と病期の間に無症状期間が存在するため、梅毒と診断されないまま感染が広がってしまうことがあります。
梅毒の症状と分類
梅毒は症状の有無や病期、感染経路により分類されます。
第1期梅毒(早期梅毒)
梅毒に感染すると約3週間くらいで侵入部位(主に性器や口唇)に小豆大程度の硬いしこりのようなもの(硬結)ができます。
痛みはありませんが時間の経過とともにその部分が盛り上がり中心に潰瘍(硬性下疳)ができます。
その後、両鼠蹊部等のリンパ節に指先程度の痛みを伴わない硬いしこりが生じ、これを無痛性横痃と呼びます。
これらの症状は治療しなくても2〜3週間程度で消失し、第2期梅毒になるまでは無症状が続きます。
そのため、硬結や硬性下疳のできる場所によっては感染に気付けないこともあります。
第2期梅毒(早期〜後期梅毒)
感染後3ヶ月くらいになると感染が全身に広がり、第2期の症状が現れます。
第2期では様々な症状が存在します。
頻度の高いものの例を挙げると
- 丘疹性梅毒疹:背中や腕、手のひら、足の裏など体のあちこちに赤茶色の丘疹ができる
- 梅毒性乾癬:手のひらや足の裏に乾癬に似た表面に白くボロボロとしたフケのようなものがついた赤茶色の斑ができる
- 梅毒性バラ疹:体や顔、手足にピンク色のアザのようなものができる
このほかにも扁平コンジローマ、嚢胞性梅毒、梅毒性白斑、梅毒性アンギーナ、梅毒性脱毛などの症状が見られることがあります。
第2期の症状も自然に消失するが、第3期に移行するまで再発を繰り返すこともあります。
感染後1年未満を早期梅毒、1年以上経過したものを後期梅毒と分類しており、後期梅毒は性交渉での感染性を持ちません。
第3期梅毒(後期梅毒)
感染後3年以上になると、結節性梅毒疹やゴム腫と呼ばれる、皮下組織や骨にできる大きく硬いしこりがみられます。
現在は第3期まで進行することは稀です。
第4期梅毒(後期梅毒)
梅毒が脳や血管、神経などにまで感染を広げてしまった状態で、脳症や大動脈破裂、麻痺などの重篤な症状が引き起こされ、日常生活を送ることは困難になります。
無症状梅毒
梅毒トレポネーマに感染しているが症状のない場合も存在します。
臨床症状は見られないが、抗原検査で陽性を示します。
第1期〜第2期の移行期、第2期〜第3期の症状消失期の可能性があるのと、梅毒に一度感染すると治療後もTP抗原は陽性となるので、そのことにも注意して診断する必要があります。
無症状梅毒に対して症状のある梅毒のことを顕性梅毒といいます。
先天梅毒
梅毒に感染している母親から生まれた子供が感染しているケースを指します。
先天梅毒でないものを後天梅毒と呼びます。
梅毒の治療
第一選択はペニシリンです。
天然型ペニシリンであるバイシリンG顆粒(ベンジルペニシリンベンザチン水和物)1回40万単位 1日3〜4回を用いるのが最も効果的と言われていますが、
合成ペニシリンであるアモキシシリン1,500mg/日を1日3回に分けて4週間投与するケースが多いです。
ペニシリンアレルギーがある場合の第二選択としてミノサイクリン 200mg/日を1日2回に分けて4週間投与。
第三選択としてスピラマイシン 1,200mgを1日6回に分けて4週間投与します。
第1期の場合は2〜4週間、第2期の場合は4〜8週間、第3期の場合は8〜12週間を目安に治療を行いますが、再発に注意し、検査をしながら投与期間を判断します。
経口治療の問題点とステルイズのメリット
これまで日本で行われてきた経口ペニシリンによる治療は内服期間が長いため、症状が軽減した時点で自己判断で治療をやめてしまう等コンプライアンスの心配があります。
また、経口ペニシリンによる治療は実はエビデンスが確立されてはいません。
ペニシリン自体に効果があることは確立されていますが、古くから日本で行われている経口投与による治療についての正確な研究は行われていません。
米国疾病対策センター(CDC:Centers for Disease Control and prevention)が推奨しているベンジルペニシリンベンザチン水和物の筋注療法は1回の投与で血中濃度を7〜10日以上保つことができるためコンプライアンスの心配がなく、エビデンスが確立されている治療方法です。
日本以外の世界中で70年以上使用されていたものが、今回ようやく承認された形です。
ステルイズ水性懸濁筋注を理解するポイント!
ここからはステルイズ水性懸濁筋注シリンジの添付文書やインタビューフォームを見ながら気になったポイントをまとめていきたいと思います。
禁忌:過敏症の既往歴
ペニシリン系抗菌薬による有害事象と聞くと最初に浮かぶのがペニシリンショックですよね。
過去にステルイズ水性懸濁筋注を投与して過敏症を経験したことがある方は当然ですが禁忌となっています。
ステルイズ水性懸濁筋注は半減期が1週間と長く、持続的に体内で効果を発揮する薬剤であるためアレルギー歴には特に注意を払う必要があります。
禁忌の項以外にも以下のような記述があります。
8. 重要な基本的注意
8.1 本剤によるショック、アナフィラキシーの発生を確実に予知できる方法がないので、次の措置をとること。
・事前に既往歴等について十分な問診を行うこと。なお、抗生物質等によるアレルギー歴は必ず確認すること。
・投与に際しては、必ずショック等に対する救急処置のとれる準備をしておくこと。
・投与開始から投与終了後まで、患者を安静の状態に保たせ、十分な観察を行うこと。特に投与開始直後は注意深く観察すること。
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 ペニシリン系又はセフェム系抗生物質に対し過敏症の既往歴のある患者(ただし、本剤に対し過敏症の既往歴のある患者には投与しないこと)
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
11. 副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1 重大な副作用
11.1.1 ショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
抗生物質によるアレルギー歴、特にペニシリン系やセフェム系抗生物質に対する過敏症の既往歴を確認することが大事になります。
効能・効果:適応は梅毒のみ
4. 効能又は効果
<適応菌種>梅毒トレポネーマ
<適応症>梅毒(神経梅毒を除く)
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
神経梅毒とは梅毒トレポネーマの感染が中枢に及んだものを指します。
第3期以降に麻痺や髄膜炎を引き起こすことが多いですが、早期から中枢系への感染を起こすケースも存在します。
ステルイズが神経梅毒に対する適応を有していないのは脳脊髄液内で十分なPCG濃度を得られないためです。
神経梅毒に対してはベンジルペニシリンカリウムの点滴静注(注射用ペニシリンGカリウム) 1日1200〜2400万単位を10〜14日間、もしくはセフトリアキソンの点滴静注(ロセフィン静注用 等) 1日1gを14日間行います。
用法・用量:年齢と感染してからの期間で異なる
6. 用法及び用量
成人及び13歳以上の小児:
<早期梅毒>通常、ベンジルペニシリンとして240万単位を単回、筋肉内に注射する。
<後期梅毒>通常、ベンジルペニシリンとして1回240万単位を週に1回、計3回、筋肉内に注射する。
2歳以上13歳未満の小児:
<早期梅毒>通常、ベンジルペニシリンとして240万単位を単回、筋肉内に注射する。なお、年齢、体重により適宜減量することができる。
<後期梅毒>通常、ベンジルペニシリンとして1回240万単位を週に1回、計3回、筋肉内に注射する。なお、年齢、体重により適宜減量することができる。
2歳未満の小児:
<早期先天梅毒、早期梅毒>通常、ベンジルペニシリンとして体重1kgあたり5万単位を単回、筋肉内に注射する。
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
上にも書きましたが、早期梅毒と後期梅毒の違いは以下のようになっています。
- 早期梅毒:感染後1年未満(性交渉での感染あり)
- 後期梅毒:感染後1年以上(性交渉での感染なし)
早期・後期の分類に加えて年齢によって用法・用量が異なりますが、年齢に関わらず、早期梅毒に対して使用する際は単回投与で治療が完了します。
後期梅毒の場合は週1回を計3回投与となっています。
週に1回の投与で治療を行える理由
ご覧の通り、ステルイズは早期梅毒に対しては1回の投与で治療が完了、後期梅毒に対しても週に1回の投与で治療を行うことが可能です。
他のベンジルペニシリン(PCG)製剤の場合をみてみると以下のように頻回の投与となっており、これを毎日継続する必要があります。
用法及び用量
<梅毒>
通常、成人には、ベンジルペニシリンとして1回300〜400万単位を1日6回、点滴静注する。
なお、年齢、症状により適宜減量する。
引用元:注射用ペニシリンGカリウム 添付文書 Meiji Seika ファルマ株式会社
6. 用法及び用量
通常、成人にはベンジルペニシリンベンザチン水和物として1回40万単位を1日2~4回経口投与する。
梅毒に対しては、通常、成人1回40万単位を1日3~4回経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
引用元:バイシリンG顆粒40万単位 添付文書 MSD株式会社
単位数にも注目です。
ステルイズ(PCGベンザリン)の場合、PCGとして240万単位を単回投与ですむのに、
注射用ペニシリンGカリウム(PCGカリウム)の場合PCGとして1回300〜400万単位を1日6回→1日1800万〜2400万単位を4週間、
バイシリンG顆粒(PCGベンザリン)の場合1回40万単位を1日3〜4回→1日120万〜160万単位を4週間投与する必要があります。
ベンザチンの働き
ベンジルペニシリン(PCG)は梅毒トレポネーマに対して強力な抗菌作用を発揮し、最小発育阻止濃度(MIC:Minimum Inhibitory Concentration)は0.0005μg/mL(0.0008単位)との報告があります。(1単位=PCG 0.625μgで計算)
また、PK/PD理論を考慮した場合、ペニシリン系抗菌剤はTime above MICに該当するため、血中濃度がMICを上回る時間が重要となります。
ですが、PCGは酸に不安定なため経口投与が難しいことや半減期が非常に短いため血中濃度を維持しにくいという欠点がありました。(そのため注射用ペニシリンGカリウムは高用量のPCGを1日6回=4時間ごとで投与することになっています)
これらの欠点を改善するために開発されたのがPCGベンザチンになります。
ベンザチンはジアミンの一種でPCGを安定させる効果があります。
ベンザチンにより酸に不安定なPCGを経口投与可能としたのがバイシリンG顆粒(PCGベンザチン)ですが、腸管内からの吸収が悪く、期待するほどの効果を得ることはできていませんでした。
そこで、PCGベンザチンの溶解性が低いという特徴を利用して懸濁性PCGを筋肉内に注射し、徐々に溶解させることでPCGの血中濃度を維持させることに成功したのがステルイズ水性懸濁筋注で、少なくとも一週間はMICを維持することが可能です。
腎機能に関連する注意
PCGは主に腎臓から排泄されます。
また、投与後に重篤な腎障害を起こした報告もあります。
8. 重要な基本的注意
8.2 間質性腎炎、急性腎障害等の重篤な腎障害があらわれることがあるため、本剤を使用する際には適宜腎機能検査を実施する等、患者の状態を十分に観察すること。
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.2 腎機能障害患者
本剤の血中濃度が上昇し、副作用が強くあらわれるおそれがある。
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
11. 副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.1 重大な副作用
11.1.4 間質性腎炎、急性腎障害(いずれも頻度不明)
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
妊娠中の注意(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応)
ステルイズの添付文書には妊娠中の注意としては以下の文書が記載されています。
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
いわゆる有益性投与の記載のみなんですが、一つ注意したいのが副作用の欄に記載されているヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応です。
11. 副作用
次の副作用があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
11.2 その他の副作用
その他:ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(頻度不明)
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(JHR:Jarisch-Herxheimer Reaction)とは、梅毒などの治療を行った際にその原因菌が大量に破壊されることに伴って発熱や倦怠感、発赤、梅毒の皮膚症状の悪化などの症状が引き起こされる症状を言います。
抗菌剤によるアレルギー反応ではなく、破壊された原因菌から放出される因子によるアレルギー反応と考えられています。
全ての人に起こるわけではありませんが、早期梅毒では半数以上の患者で起こると言われています。
投与後2〜8時間に起きることが多く、治療を行わなくても24時間以内に改善することがほとんどです。
妊婦がJHRを起こした場合、子宮収縮が誘発され、早産を引き起こす可能性があります。
妊娠中の梅毒治療に際しては、産科医との連携の上で行われるものとは思いますが、このことは頭においておいた方がいいですね。
ちなみにヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応は梅毒以外にもレプトスピラ症や回帰熱の治療でも起きることがあるようです。
また、別の疾患を治療しようとして(ヘリコバクターピロリの除菌等)抗菌剤を投与して、実は梅毒にも感染していてJHRを起こしてしまうケースもあるようです。
投与方法と注意点
14. 適用上の注意
14.1 薬剤投与時の注意
14.1.1 投与前に目視で粒子状物質及び色調の変化がないか確認すること。溶液に粒子状物質や変色があった場合は使用しないこと。
14.1.2 本剤は深部筋肉内投与のみに使用し、隣接した部位も含め静脈内(他の静注液内に混注する場合も含む)、動脈内及び神経近傍への投与は行わないこと。これらの部位への投与により永続的な神経障害があらわれるおそれがある。また、静脈内投与による心肺停止及び死亡が報告されている。
14.1.3 本剤は臀部の上外側四分円(背側臀部)内又は中臀筋部の上部に深部筋肉内投与すること。前外側大腿への本剤の繰り返し投与による大腿四頭筋の線維化や萎縮が報告されているため前外側大腿への投与は推奨しない。新生児、幼児又は小児への投与は大腿中央の外側面が望ましい。また、繰り返し投与する場合は注射部位を変更すること。
14.1.4 本剤は粘性が高いため、240万単位には18ゲージ、60万単位には21ゲージの注射針を用い、針が詰まらないよう、ゆっくりと一定速度で注射すること。
14.1.5 注射針を刺入したとき、激痛やしびれ等を訴えたり、血液の逆流をみた場合は直ちに針を抜き、部位をかえて注射すること。
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
投与時の注意が記載されていますが、注目したいのは「隣接した部位も含め静脈内(他の静注液内に混注する場合も含む)、動脈内及び神経近傍への投与は行わないこと。これらの部位への投与により永続的な神経障害があらわれるおそれがある。また、静脈内投与による心肺停止及び死亡が報告されている。」の部分です。
この部分は米国添付文書(USPI:United States Prescribing Information)に基づいて記載されているようです。
USPIには警告として「 警告:本剤は静注用製剤ではないため,静脈内投与したり,他の静注用製剤に混合したりしないこと。PCG ベンザチンを誤って静脈内投与し,心肺停止および死亡に至った症例が報告されている。」の記載があります。
不注意により PCG ベンザチンを血管内投与(動脈内投与や動脈近傍への投与を含む)した場合,重度の神経血管障害が生じる。これらの神経血管障害には,永久麻痺を伴う横断性脊髄炎,四肢の指やさらに近位部の切断を要する壊疽,注射部位とその周囲の壊死や腐肉の形成(ニコラウ症候群の診断に一致する)などが含まれる。このような重度の障害が臀部,大腿および三角筋への投与で報告されている。血管内投与により生じたと考えられるその他の重篤な合併症として,注射部位の遠位および近位の四肢における投与直後の蒼白化,斑点形成またはチアノーゼならびにその後の過胞形成,下肢の前部または後部区画の筋膜切開を要する重度の浮腫などが報告されている。上述した重度の障害および合併症は,乳幼児および若年小児での発生が最も多い。
引用元:ベンジルペニシリンベンザチン筋注剤 2.5 臨床に関する概括評価
相互作用は他のペニシリン製剤に準ずるが・・・
10. 相互作用
10.2 併用注意(併用に注意すること)
抗凝血薬(ワルファリン等):出血傾向を増強するおそれがある。(抗凝血薬の血液凝固抑制作用が増強される可能性がある。)
プロベネシド:血清中ペニシリン濃度を上昇させ、排泄を遅延させる。(プロベネシドがペニシリンの腎尿細管分泌を競合的に阻害することによりペニシリンの排泄速度を遅らせる。)
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
ワルファリンとプロベネシドの相互作用は他のペニシリン製剤と同様です。
プロベネシドについては、ペニシリンの排泄を遅らせ血中濃度を持続させることを期待してあえてペニシリン製剤と併用することがありますが、ステルイズは血中半減期が188.8時間(日本人データ)と非常に長いため、併用によりさらに遅延させてしまうと有害事象を引き起こすリスクのみが上昇してしまう可能性があります。
13. 過量投与
神経筋易刺激性亢進又は痙攣発作を惹起するおそれがある。
引用元:ステルイズ水性懸濁筋注シリンジ 添付文書 ファイザー株式会社
まとめ
ペニシリン系抗菌薬、梅毒の治療薬・・・。
一見すると、なぜ今さら?という医薬品なんですが、海外では70年以上使用されており、ガイドラインでは第一選択、日本感染症研究会からの開発要望に基づいて開発された医薬品ということで、今まで承認されてなかったことが不思議なくらいの製品です。今回の承認により、米国疾病予防管理センター(CDC:Centers for Disease Control and Prevention)のガイドライン通りのレジメンを選択することが可能となりました。
薬局で実際に触れることはない薬剤ですが、薬剤師として理解しておくことが必要と思います。自分も作用機序を調べたりしているうちにいろんなことの復習になりました。
特殊な薬剤ですから、お薬手帳で確認できた時に注意点を把握することと、患者さんへの配慮をもてるように心がけたいですね。
ちなみにステルイズの名称は「Sterilize(殺菌する)」に由来しているそうです。