一年ほど前にイグザレルトについてまとめたことがありました。
読み返してみるとあまりにも不勉強だったと恥ずかしくなりました。
イグザレルトの処方も随分経験していますので、今回、改めてプラザキサとイグザレルト、エリキュースの特徴について、違いを比較しながらまとめてみようと思います。
ワルファリンカリウム(商品名:ワーファリン)と異なり、納豆・クロレラ・緑黄色野菜などのビタミンKの摂取を気にしなくてもいいこと、用法・用量を守ればPT-INRの追跡を行う必要がないのがダビガトラン(商品名:プラザキサ)・リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)・エドキサバン(商品名:リクシアナ)・アピキサバン(商品名:エリキュース)など新規経口抗凝固薬の特徴だと思います。
リクシアナは下肢整形外科手術施工の静脈血栓塞栓症(VTE)に対する適応のみで入院中に使用するようになっているため、薬局でお目にかかることは今のところないと思います。
プラザキサ・イグザレルト・エリキュースは適応が「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」ですので、循環器の処方を受ける薬局では触れる機会も多いと思います。
新規経口抗凝固剤DOACの適応
新規経口抗凝固薬(NovelOralAntiCoagulants:NOAC)DOAC(Direct Oral AntiCoagulant:直接経口抗凝固薬)について簡単におさらいを。
心房細動(AF)とは不整脈の中でも一般的なもので加齢など(高血圧、冠動脈硬化症、心不全など)により発生率が増加します。
AFにおいては心房内(左房)での血液のうっ帯が起こります。
その結果、血栓が生じやすくなり、それが全身に流れていき、血栓症や脳梗塞を引き起こしてしまいます。
それを防止するために、抗血栓薬を服用します。
効能・効果には「非弁膜症性心房細動」(NVAF)と記載されていますが、弁膜症性心房細動の代表的なものは「リウマチ性弁膜症」(リウマチ性僧帽弁疾患)と言って、幼少期の溶連菌感染によるリウマチ熱が原因ですが、感染症の治療発達により随分減少しました。
他に弁膜症性心房細動に含まれるものとして、僧帽弁逸脱症、僧帽弁輪石灰化を伴うAF、心臓の弁置換術後のAFが挙げられます。
弁膜症性心房細動にはワーファリン、NVAFにはワーファリンもしくはプラザキサ・イグザレルト・エリキュースを使用することで血栓症の発症を抑制することが可能です。
新規経口抗凝固剤のメリット
以前はワーファリンを主に使用していましたが、ビタミンKの摂取に気を使う必要があるため患者のQOL低下に繋がることと、タンパク結合率だったりCYPだったりと様々な要因により効果に影響を受けるため常にPT-INRの測定を行い注意が必要でした。
入院中と入院後で急に効果が変化したり、大量に摂取しないとPT-INRが目標値まで到達しなかったりするケースも珍しくなく、相互作用による振れ幅を減らすために併用禁忌であるブロコーム(商品名:パラミヂン)を併用するケースもあります。
新規経口抗凝固剤においては、ビタミンKの摂取やPT-INRの変化を気にする必要がないのが大きなメリットです。
初回の投与量さえ間違わなければ基本的に同じ用量で服用を続ければOK。(もちろん、腎機能や肝機能の急激な変化に際しては用量調節が必要ですが・・・。)
では、プラザキサ、イグザレルト、エリキュースについてまとめます。
プラザキサ・イグザレルト・エリキュースの作用機序
- プラザキサ:トロンビン阻害剤
- イグザレルト・エリキュース:FXa阻害剤
生体内の流れで言えば、
酸化型ビタミンK
↑↓
↑↓ × ← ワーファリン
↑↓
ビタミンK依存性凝固因子(II、VII、IX、X ※肉納豆=2,9,7,10ってやつですね)
プロトロンビン(II)
↓
↓ 活性型第X因子 × ← イグザレルト・エリキュース
↓
トロンビン(IIa)× ← プラザキサ
↓
フィブリン→フィブリノーゲン
見にくいですが、こういった作用部位となっています。
上流のビタミンK依存性凝固因子をすべて阻害してしまうワーファリンに比べて、より下流で凝固因子を絞って阻害するNOACの方が出血リスクは少ないことがわかると思いますが、抗Xaと抗トロンビンのどちらが優れているかは不明です。
プラザキサ・イグザレルト・エリキュースの代謝・排泄
プラザキサはブルーレターが印象的でしたが腎機能による影響を受けます。
これに関しては程度の差はあれど、他の薬剤も同様で、それぞれの腎排泄の割合は、
- プラザキサ:80%
- イグザレルト:65%
- エリキュース:20%
となっています。
代謝に関しては、
- プラザキサ:グルクロン酸抱合
- イグザレルト:CYP3A4・2J2
- エリキュース:CYP3A4
です。
肝機能に関してはイグザレルトは影響が大きいため、中等度以上の肝障害に関しては禁忌となっています。
どの薬剤もP糖タンパクによる排泄を受けるのも特徴です。
(前述の記事イグザレルト – 薬剤師の脳みそではプラザキサのみしか影響を受けないような書き方をしていたため訂正します)
プラザキサ・イグザレルト・エリキュースの併用禁忌
- プラザキサ:イトラコナゾール(商品名:イトリゾール)
- イグザレルト:HIVプロテアーゼ阻害剤、アゾール系抗真菌剤
- エリキュース:併用禁忌なし
プラザキサ・イグザレルト・エリキュースの用法用量
腎機能によって用量の調節を受けるのはどの薬剤も同じです。
イグザレルトについては、バイエルがホームページ上でクレアチニンクリアランス計算機を公開していますので参考に。
クレアチニンクリアランス計算機 | 診療カリキュレーター | 診療サポートエリア | イグザレルト.jp
イグザレルトは1日1回ですが、他の薬剤では1日2回となっています。
ただし、イグザレルトは食後となっていますね。これは水溶性が低いためですが、仮に空腹時に服用してもそこまで大きな差はないようです。
プラザキサは大き目のカプセルで少し飲みにくく、通常用量が75mg 2cap/回(腎機能低下時は110mg 1cap/回)なのが欠点です。
プラザキサは湿気に弱いため一包化もできません。
プラザキサはワーファリンに比べてディスペプシア(胃部不快感)の副作用が多いですが、これはカプセルであることとその大きさによるものです。
これについては、食事中に服用することにより改善できるようなので、そういう患者さんがいれば是非そう説明してみてください。
ワーファリンからの切り替え
最後に、ワーファリンからNOACDOAC(プラザキサ•イグザレルト•エリキュース)への切り替えですが、厳密にはPT-INRのモニタリングが必要です。
PT-INRが治療域の下限(70歳未満:2未満、70歳以上:1.6未満)を下回ってから切り替えるようになっています。
患者さんに検査値を見せてもらってもいいですが、採用時にドクターと話して起きたい点ですね。
NOACDOAC同士の切り替えについては用法通りの切り替えで問題ないようです。
ワーファリンによるコントロールが困難な場合も多いですし、NOACDOACはワーファリンよりも出血に対する安全性が高いことがわかっているので積極的に使用していくべきだと思います。
ただし、腎機能と併用薬に要注意を!
あとは薬価の問題であったり、ワーファリンから切り替えてまで使用するかどうかの問題ですね。
腎機能の影響を受けにくく、肝機能の影響もなく、併用禁忌もなく、血栓抑制効果もワーファリンより優れているというエビデンスをもつエリキュースが第一候補になると思います。
肝機能障害なければ一日一回のイグザレルトも捨てがたいって感じでしょうか?