ドパミン受容体作動薬による薬剤離脱症候群など〜2019年8月22日改訂指示

令和元年8月22日、厚生労働省医薬・生活衛生局は、新たな副作用が確認された医薬品について、添付文書の使用上の注意を改訂するよう日本製薬団体連合会に通知しました。
今回は大きく分けて4つの改訂指示が出されています。

※副作用に関する記載を中心とした記事ですが、あくまでも医療従事者を対象とした記事です。副作用の追加=危険な薬剤というわけではないのがほとんどです。服用に際して自己判断を行わず医療従事者の指示にしたがってください。

使用上の注意の改訂指示(令和元年8月22日)

PMDAへのリンクを貼っておきます。
安全対策に関する通知等(医薬品) | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

添付文書の改訂が実施されたのは大きく分けて以下の4つです。

  • 各ドパミン受容体作動薬:薬剤離脱症候群
  • カベルゴリン(カバサール錠):上記に加えて髄液鼻漏・視野障害の再発
  • トファシチニブクエン酸塩(ゼルヤンツ錠):静脈血栓塞栓症
  • 乾燥BCGワクチン:髄膜炎

ちなみに、今年度からpmdaが発出する改定案の一部は旧記載要領と新記載要領の両方が掲載されるようになっています。

現時点で各医薬品が採用している記載方式に従ってまとめます。

ドパミン受容体作動薬による薬剤離脱症候群

各種ドパミン受容体作動薬について、薬剤離脱症候群に関する改訂が行われています。
また、カベルゴリン、タリペキソール塩酸塩、ブロモクリプチンメシル酸塩、ペルゴリドメシル酸塩、ロピニロール塩酸塩については悪性症候群についての改訂も行われています。
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。

  • ロピニロール塩酸塩:
    • レキップ錠0.25mg(添付文書IF
    • レキップ錠1mg(添付文書IF
    • レキップ錠2mg(添付文書IF
    • ロピニロール錠0.25mg「各社」
    • ロピニロール錠1mg「各社」
    • ロピニロール錠2mg「各社」
    • レキップCR錠2mg(添付文書IF
    • レキップCR錠8mg(添付文書IF
    • ロピニロールCR錠2mg「各社」
    • ロピニロールCR錠8mg「各社」
  • プラミペキソール塩酸塩水和物:
    • ビ・シフロール錠0.125mg(添付文書IF
    • ビ・シフロール錠0.5mg(添付文書IF
    • プラミペキソール塩酸塩錠0.125mg「各社」
    • プラミペキソール塩酸塩錠0.5mg「各社」
    • ミラペックスLA錠0.375mg(添付文書IF
    • ミラペックスLA錠1.5mg(添付文書IF
    • プラミペキソール塩酸塩LA錠0.375mg「各社」
    • プラミペキソール塩酸塩LA錠1.5mg「各社」
  • タリペキソール塩酸塩:ドミン錠0.4(添付文書IF
  • ロチゴチン:
  • カベルゴリン:
    • カバサール錠0.25mg(添付文書IF
    • カバサール錠1.0mg(添付文書IF
    • カベルゴリン錠0.25mg「各社」
    • カベルゴリン錠1.0mg「各社」
  • ブロモクリプチンメシル酸塩:
  • ペルゴリドメシル酸塩:
  • アポモルヒネ塩酸塩水和物:アポカイン皮下注30mg(添付文書IF

改訂指示の内容

【旧記載要領】に従ってまとめます。
それぞれ、添付文書 > 重要な基本的注意 に以下の内容が追記されます。
下線部悪性症候群の記載について、アポモルヒネ塩酸塩水和物には記載なし、プラミペキソール塩酸塩水和物、ロチゴチンには改訂前から記載されています。

重要な基本的注意
本剤の減量・中止が必要な場合は、漸減すること。急激な減量又は中止により、発熱、意識障害、無動無言、高度の筋硬直、不随意運動、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、発汗、血清CK(CPK)の上昇等を症状とするSyndrome malin(悪性症候群)があらわれることがある。また、ドパミン受容体作動薬の急激な減量又は中止により、薬剤離脱症候群(無感情、不安、うつ、疲労感、発汗、疼痛等の症状を特徴とする)があらわれることがある。
引用元:使用上の注意改訂情報(令和元年8月22日指示分)

また、添付文書 > 副作用 には以下の内容が追記されます。

副作用
その他の副作用
薬剤離脱症候群※(無感情、不安、うつ、疲労感、発汗、疼痛等)
※異常が認められた場合には、投与再開又は減量前の投与量に戻すなど、適切な処置を行うこと。
引用元:使用上の注意改訂情報(令和元年8月22日指示分)

報告内容

過去3年度、国内で「薬剤離脱症候群関連」の症例報告はありませんでしたが、

海外症例が集積したこと、ドパミン受容体作動薬における薬剤離脱症候群の想定されている機序を踏まえると、ドパミン受容体作動薬全体で薬剤離脱症候群について注意喚起を行うことが適切と考え、専門委員の意見も踏まえた調査の結果、改訂することが適切と判断した。
引用元:ドパミン受容体作動薬の「使用上の注意」の改訂について

と言うことだそうです。

考察・雑感

まずは薬剤離脱症候群。
パーキンソン病に対するドパミン作動薬は主に黒質線条体系を刺激するように作られているが、オピオイドのような中脳皮質辺縁系に対する刺激作用もあると言われています。
そのため、薬物依存が形成され、中止や減量に伴って離脱症状が引き起こされる可能性があります。
添付文書に「無感情、不安、うつ、疲労感、発汗、疼痛」とありますが、オピオイドによる作用の逆と思えば少しイメージしやすいかもしれませんね。

次に悪性症候群の復習。
重篤副作用疾患別対応マニュアル 悪性症候群
ドパミン神経系に作用する薬物を見たら悪性症候群を考慮する必要があります。
特に精神神経用薬の変更時(増量・減量・中止を含む)には注意が必要です。
ドパミン拮抗薬での錐体外路障害については意識していると思いますが、ドパミンアゴニストを減量する際にも脳内では同様の変化が起こるため悪性症候群が引き起こされるリスクになります。
変更後1ヶ月以内の発熱、発汗、脈拍増加、手足の震えやこわばり、よだれや会話困難、嚥下機能の低下などに注意する必要があります。

カベルゴリンによる髄液鼻漏・視野障害の再発

カベルゴリンに関しては上記の薬剤離脱症候群に加えて、髄液鼻漏・視野障害の再発についても改訂が行われています。
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
カベルゴリン:

  • カバサール錠0.25mg(添付文書IF
  • カバサール錠1.0mg(添付文書IF
  • カベルゴリン錠0.25mg「各社」
  • カベルゴリン錠1.0mg「各社」

改訂指示の内容

【旧記載要領】に従ってまとめます。
添付文書 > 慎重投与 に下線部の文章が追記されます。

慎重投与
下垂体腫瘍がトルコ鞍外に進展し、視力障害などの著明な高プロラクチン血性下垂体腺腫の患者
引用元:カバサール錠 添付文書

また、添付文書 > 重要な基本的注意 に以下の内容が追記されます。

重要な基本的注意

  • トルコ鞍外に進展する高プロラクチン血性下垂体腺腫の患者において、本剤の投与による腺腫の縮小により髄液鼻漏がみられ、髄膜炎に至ることがあるので、異常が認められた場合には、減量又は中止するなど適切な処置を行うこと。
  • 視野障害のみられる高プロラクチン血性下垂体腺腫の患者において、本剤投与により腺腫の縮小がみられ、一旦、視野障害が改善した後、トルコ鞍の空洞化により視交叉部が鞍内に陥入することによって、再び視野障害があらわれたとの報告がある。異常が認められた場合には、減量又は中止するなど適切な処置を行うこと。

引用元:カバサール錠 添付文書カバサール錠 添付文書

報告内容

過去3年度の国内での症例報告は以下の通りでした。

  • 髄液鼻漏関連症例:3例(全て因果関係が否定できない症例)、死亡例はなし
  • 視野障害の再発関連症例:2例(因果関係が否定できない症例は1例)、死亡例はなし

考察・雑感

髄液鼻漏、視野障害の再発共に、薬剤による治療効果(腫瘍の縮小)が発揮された結果生じてしまう副作用ということです。
考え方としては抗がん剤による腫瘍崩壊症候群に近いイメージですね。
高プロラクチン血性下垂体腺腫の適応で使用される頻度はそこまで多くないかもしれませんが、腺腫の縮小に伴う変化として患者さんに理解してもらった上で、意識しておく必要があります。

トファシチニブクエン酸塩(ゼルヤンツ錠)による静脈血栓塞栓症

添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
トファシチニブクエン酸塩:ゼルヤンツ錠5mg(添付文書IF

改訂指示の内容

【新記載要領】に従ってまとめます。
添付文書 > 5.効能又は効果に関連する注意 に以下の内容が追記されます。

5.効能又は効果に関連する注意
〈効能共通〉
心血管系事象のリスク因子を有する患者に本剤を投与する際には、静脈血栓塞栓症があらわれるおそれがあるので、他の治療法を考慮すること。
引用元:ゼルヤンツ錠5mg 添付文書

また、添付文書 > 9.特定の背景を有する患者に関する注意 > 9.1 合併症・既往歴等のある患者 には以下の内容が追記されます。

9.特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
心血管系事象のリスク因子を有する患者
他の治療法を考慮すること。特に10mg1日2回投与の必要性については慎重に判断すること。
本剤を投与する場合は、静脈血栓塞栓症の徴候及び症状の発現について十分に観察すること。
静脈血栓塞栓症があらわれるおそれがある。心血管系事象のリスク因子(喫煙、高血圧、糖尿病、冠動脈疾患の既往等)を1つ以上有する50歳以上の関節リウマチ患者を対象に実施中の海外臨床試験において、肺塞栓症及び深部静脈血栓症の発現頻度はTNF阻害剤群と比較し、本剤5mg1日2回群及び本剤10mg1日2回群で用量依存的に高くなる傾向が認められており、心突然死等を含む死亡の発現頻度はTNF阻害剤群と本剤5mg1日2回群で同程度、本剤10mg1日2回群で高い傾向であったことが報告されている。
引用元:ゼルヤンツ錠5mg 添付文書

さらに、添付文書 > 11. 副作用 > 11.1 重大な副作用 には以下の内容が追記されます。

11. 副作用
11.1 重大な副作用
静脈血栓塞栓症
肺塞栓症及び深部静脈血栓症があらわれることがある。
引用元:ゼルヤンツ錠5mg 添付文書

報告内容

過去3年度の国内での静脈血栓塞栓症関連症例の報告数6例のうち、因果関係が否定できないものはありませんでしたが、死亡例が1例報告されています。

心血管系事象のリスク因子を有する50歳以上の関節リウマチ患者を対象に実施中の海外臨床試験A3921133試験において、ゼルヤンツ10 mgを1日2回投与する群の方がTNF阻害剤群よりも肺塞栓症及び死亡リスクが高い傾向が指摘されました。
この結果と専門委員の意見を踏まえ以下の改訂が行われました。

  • 肺塞栓症に限らず深部静脈血栓症の発現率についてもTNF阻害剤群に比べて本剤投与群で高い傾向が認められていることから、静脈血栓塞栓症を「重大な副作用」として注意喚起すること
  • 心血管系事象のリスク因子を有する患者に対しては、他の治療法を考慮し、特に本剤 10 mg 1 日 2 回投与の必要性を慎重に検討する旨、並びに静脈血栓塞栓症の徴候及び症状の発現に注意する旨を注意喚起するとともに死亡リスクを含めた当該試験成績を情報提供すること

引用元:トファシチニブクエン酸塩の「使用上の注意」の改訂について

考察・雑感

静脈血栓塞栓症(VTE*1)は深部静脈血栓症(DVT*2)と肺動脈塞栓症(PE*3)を合わせた疾患名です。
(主に)下肢静脈に生じた血栓(DVT)が遊離し、血流に流され肺動脈を塞いでしまう(PE)というものです。
エコノミークラス症候群の原因として知られるものです。
今回の改訂では詳しく述べられていませんが、下肢の静脈での血栓が原因となるのであれば、下肢の血流を促す運動などで予防する必要があるのではないかと思います。
服用中の下肢疼痛、下肢浮腫には注意が必要ですね。

乾燥BCGワクチンによる髄膜炎

添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
乾燥BCGワクチン:乾燥BCGワクチン(経皮用・1人用)(添付文書IF

改訂指示の内容

【旧記載要領】に従ってまとめます。
添付文書 > 副反応 > 重大な副反応に下線部の内容が追記されます。

副反応
重大な副反応
BCG感染症:
髄膜炎、骨炎、骨髄炎、骨膜炎があらわれることがある。免疫不全症候群の者などに接種した場合、BCGが全身に血行散布して粟粒結核様の病変をつくり、全身播種性BCG感染症に至ることがある。BCG感染症が疑われる場合には、速やかに抗結核剤の投与等適切な措置を行うこと。
引用元:乾燥BCGワクチン(経皮用・1人用) 添付文書

ちなみに、改定前の添付文書は以下の内容です。(下線部が削除された部分)

副反応
重大な副反応
全身播種性BCG感染症:
免疫不全症候群の者などに接種した場合、BCGが全身に血行散布して粟粒結核様の病変をつくることがある。
(全身播種性
BCG感染症が疑われる場合には、すみやかに抗結核剤の投与等適切な措置を行うこと。)
骨炎、骨髄炎、骨膜炎:
骨炎、骨髄炎、骨膜炎を起こすことがある。
(骨炎、骨髄炎、骨膜炎が疑われる場合には、抗結核剤の投与等適切な措置を行うこと。)
引用元:乾燥BCGワクチン(経皮用・1人用) 添付文書

報告内容

過去3年度の国内での結核性髄膜炎の報告数は1例あり、因果関係が否定できないものでした。死亡例はありません。

考察・雑感

BCGワクチンは弱毒生ワクチンです。
弱毒生ワクチンは完全に毒性がないわけではないので仕方がない副効果ではあります。
免疫不全時には使用を考慮する必要があるということを頭に入れておきましょう。

*1:Venous ThromboEmbolism

*2:Deep Venous Thrombosis

*3:Pulmonary Eembolism

 

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