ベタニス(ミラベグロン)と抗コリン剤が併用可能に〜平成30年9月3日添付文書改訂

平成30年9月3日にベタニスの添付文書が改訂されています。
今回の改訂でアドレナリンβ3受容体作動薬である過活動膀胱治療薬ベタニス(成分名:ミラベグロン)と抗コリン薬の併用が可能になりました。

添付文書改訂の背景

過活動膀胱の尿意切迫感に対してはトビエース(成分名:フェソテロジン)やベシケア(成分名:ソリフェナシン)、ステーブラ・ウリトス(成分名:イミダフェナシン)などの抗コリン剤が中心に使われています。
そんな中、2011年に登場したのが、新規作用機序(当時)であるアドレナリンβ3受容体作動作用を持つベタニス(成分名:ミラベグロン)です。
従来の抗コリン薬とは異なる作用機序のベタニスですが、抗コリン剤と併用した場合の安全性や有効性に関するデータが不十分だったため、抗コリン剤との併用は避けるように添付文書に記載されていました。

OAB治療薬についての復習

今回の添付文書改訂の内容についてまとめる前に、過活動膀胱とその治療薬について簡単に復習しておきます。

過活動膀胱とは

過活動膀胱(OAB*1)とは尿意切迫感を主な症状とし、時に頻尿を伴う排尿障害です。
正常な働きを維持している膀胱であれば、蓄尿期には尿を溜め込み、排尿期に尿を排出するように動きます。
過活動膀胱の膀胱は蓄尿期にしっかり尿を溜め込むことができません。
その結果、膀胱に少ない尿量が溜まっただけで刺激を感じ、強い排尿感に襲われてしまいます。
これを切迫頻尿と言います。
少量の尿で排尿を行う結果として何回も排尿を繰り返す頻尿状態になる場合もあります。

膀胱の働きに関与する受容体

膀胱の働きは蓄尿期と排尿期に分けることができます。
膀胱には膀胱平滑筋という筋肉があり、膀胱平滑筋が収縮すると膀胱も収縮し、逆に膀胱平滑筋が弛緩すると膀胱も緩みます。
つまり、蓄尿時には膀胱平滑筋が弛緩し、排尿時には膀胱平滑筋が収縮するのが正常な膀胱の働きです。
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蓄尿期の膀胱ではノルアドレナリンが放出されることで、アドレナリンβ3受容体が刺激され、膀胱平滑筋が弛緩しています。
また、ノルアドレナリンは尿道のα1受容体にも作用し、尿道平滑筋を収縮させています。
それに対し、収縮期の膀胱ではアセチルコリンが放出され、ムスカリン受容体が刺激されることで、膀胱平滑筋が収縮しています。
(図にはムスカリンM3についてのみ記載していますが、実際は複数のサブタイプが複雑に作用しています)

OABの病態

過活動膀胱においては、蓄尿期にもアセチルコリンが放出され、膀胱平滑筋の収縮が起こってしまいます。
その結果、膀胱を弛緩させて蓄尿を行うべきタイミングなのに、膀胱の収縮が同時に起こることで十分な蓄尿ができず、排尿感を引き起こしてしまいます。
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ベタニスの働き

ベタニスはアドレナリンβ3受容体作動薬です。
ノルアドレナリンと同様にアドレナリンβ3受容体を刺激することが可能です。
その結果、アデニル酸シクラーゼが活性化され、cAMP増加、細胞内Ca2+が減少する結果、膀胱平滑筋を弛緩させ、膀胱容積が拡大されます。
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(抗コリン薬の作用について、ムスカリンM3についてのみ記載していますが、実際は複数のサブタイプに対して複雑に作用します)

抗コリン薬とは異なる作用機序

トビエース(成分名:フェソテロジン)やベシケア(成分名:ソリフェナシン)、ステーブラ・ウリトス(成分名:イミダフェナシン)などの抗コリン剤はムスカリンM3を遮断することで、アセチルコリンによる膀胱平滑筋の収縮を抑制し、膀胱容積が縮小するのを抑制します。
ベタニスと抗コリン薬はどちらも膀胱平滑筋に対して作用し、過活動膀胱の症状を軽減させます。
ですが、アドレナリンβ3受容体刺激薬であるベタニス対し、抗コリン薬はムスカリンM3を遮断するということで、作用する受容体が異なります。
また、ベタニスが膀胱容積の拡大を直接促進するのに対し、抗コリン薬は膀胱容積の縮小を防ぐということから、作用の部分も微妙に異なります。

ベタニスの添付文書改訂内容

今回の添付文書改訂内容についてはpmdaのホームページに詳しくまとめられています。
今回の改訂された内容は以下の2つです。

  • 抗コリン剤との併用を避ける旨の記載削除
  • トルテロジンとの薬物相互作用について記載追加

ベタニスの添付文書ならびにインタビューフォームについてもリンクしておきます。
ベタニス錠25mg/ベタニス錠50mg 添付文書
ベタニス錠25mg/ベタニス錠50mg インタビューフォーム

ベタニスと抗コリン薬が併用可能に

今回の改訂の中心となるのはこの部分ですね。
改訂前まではベタニスと抗コリン薬の併用は避けるように記載されていました。

使用上の注意
重要な基本的注意
3.現時点では、過活動膀胱の適応を有する抗コリン剤と併用した際の安全性及び臨床効果が確認されていないため併用は避けることが望ましい。

今回の改訂でこの文章は削除され、新しく以下の文章が追記されています。

使用上の注意
重要な基本的注意
3.過活動膀胱の適応を有する抗コリン剤と併用する際は尿閉などの副作用の発現に十分注意すること。

尿閉に関してはベタニス単剤でも報告されているので、抗コリン薬を併用する場合、発現頻度は上がると考えるのが当然かと思います。

ちなみに、改訂理由については以下のように説明されています。

製造販売後に実施されたミラベグロンと抗コリン剤の併用による臨床試験(178-CL-112 試験等)の結果、及びCCDS*2の記載内容を踏まえ、改訂することが適切と判断した。

泌尿器ではバンバン併用されていましたが、ついに添付文書上の束縛が消えますね。
これまでも査定を受けたことはありませんでしたが、泌尿器の先生には毎回確認だけはさせてもらっていました。
ようやくそれをしなくても良くなるのは嬉しいです。(笑)

5α還元酵素阻害薬に関する記載は変更なし

ちなみに、ベタニスとの併用を避けるように記載されている薬剤には、前立腺肥大症治療薬の5α還元酵素阻害薬があります。
現在使用されている薬剤でいうとアボルブ(成分名:デュタステリド)ですね。
これに関しては記載は変更されていないので、これまで通り避けることが望ましいです。

使用上の注意
重要な基本的注意
6.現時点では、ステロイド合成・代謝系への作用を有する5α還元酵素阻害薬と併用した際の安全性及び臨床効果が確認されていないため併用は避けることが望ましい。

ベタニスとデトルシトールの相互作用

今回の改訂ではベタニスとデトルシトール(トルテロジン)の薬物相互作用についての臨床試験の結果が追記されています。

薬物動態
6.相互作用
(6)トルテロジン
本剤50mgとトルテロジン4mgと併用したとき、トルテロジン及びその活性代謝物5-HMTのAUC24hはそれぞれ1.86倍及び1.25倍に、Cmaxはそれぞれ2.06倍及び1.36倍に上昇した。

トルテロジンの未変化体のAUCとCmaxが上昇していることからベタニスによるCYP2D6阻害作用が原因かと考えましたがそれだと活性代謝物の血中濃度も上昇していることが説明できないし・・・。
単純なCYP2D6阻害だけでなくもう少し何か関与してそうですね。

ちなみに、改訂理由については以下のように説明されています。

製造販売後に実施されたトルテロジンとの臨床薬物相互作用試験(178-CL-111 試験)の結果を踏まえ、改訂することが適切と判断した。

デトルシトール(成分名:トルテロジン)を併用する際には注意が必要ですが、今は多くがトビエース(成分名:フェソテロジン)に切り替わっているのではないかと思います。

まとめ

今回の改訂でベタニスが抗コリン薬と併用することが可能になりました。
これにより、ベタニス単剤もしくは抗コリン薬のみでは効果を発揮できない難治例のOABに対して併用による治療を行うことが可能になります。
ですが、ベタニスが十分な効果を発揮するまで一ヶ月以上は継続する必要がある印象なので、ベタニス投与後すぐに抗コリン薬併用となってしまうのは少し違うのかなとも思います。

また、前立腺肥大症を合併しているOABに対してベタニスは抗コリン薬より尿閉リスクが少なく使いやすくなっていますが、ここに安易に抗コリン薬が併用されてしまう可能性もあるかなと思います。
残尿が50mLある方に対して抗コリン薬は使用できないのでそのあたりの確認をしっかり行う必要があるかと思います。

近々、ベオーバ(成分名:ビベグロン)が承認される予定になっていますが、そちらの方は抗コリン薬と併用可能なのかな?

*1:OverActive Bladder

*2:医薬品の承認取得者が作成する、安全性、効能・効果、用法・用量、薬理学的情報及び当該医薬品に関するその他の情報が含まれている文書

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

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