クレナフィン爪外用液(エフィコナゾール)発売!~日本初の外用爪白癬治療薬

  • 2014年9月7日
  • 2021年1月7日
  • 感染症
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平成26年9月2日、日本初の外用爪白癬治療薬、クレナフィン爪外用液(一般名:エフィコナゾール)が科研製薬より発売されました。
7月4日に製造承認取得、9月2日薬価収載と同時に販売開始です。
クレナフィンは日本国内で初めて、爪白癬の適応を持つ外用剤となります。
これまで、爪白癬の適応を持つ薬剤は内服のものしか存在しませんでした。
実際、外用薬を効果は殆ど期待できず、内服治療の補助的な役割だったり、周囲の皮膚白癬に使用する形でした。
ですが、今回、発売されたクレナフィンは単剤で爪白癬に対して効果を発揮します。

爪白癬とは?

まずは爪白癬について少しおさらいしてみます。
真菌の一種(カビの仲間)である白癬菌はケラチンを栄養として繁殖します。
そのため、ケラチンの豊富な表皮の角質層や爪、毛包内角質や毛に感染しやすいです。
足や手の指などの皮膚に感染した白癬(いわゆる水虫)が爪の中に感染することで爪白癬となります。
長期間、皮膚白癬を放っておくことで爪の中に白癬菌が入りやすくなりますが、伸びた爪を放ったままにしておくと、湿気を好む白癬菌がその隙間に入り込み、そこから直接感染することもあります。
最初は爪が白くなりますが、次第に黄色くなり、爪が厚くなってきて、最後はもろく、ボロボロとはがれていきます。
進行が進むと、爪が機能しなくなり、歩きにくくなってしまう場合もあります。

爪白癬の治療方法

皮膚白癬に使用する様々な外用抗真菌薬が販売されていますが、進行してしまった爪白癬にはどれも有効ではありません。
厚みのある爪に薬剤が染み込みにくいことがひとつの原因です。
それと、抗真菌薬自体がケラチンと高い親和性を持つため、上層の方にとどまってしまい、奥の方まで薬剤の効果が出にくいということがあります。
初期の爪白癬であれば、爪の進行した部分を切除し、爪および周りの皮膚に抗真菌薬を塗布することで治療が可能ですが、ある程度以上進行した爪白癬に対しては内服の抗真菌薬による治療が一般的です。
以前はグリセオフルビンが使用されていましたが、2008年12月に販売中止となったため、現在はイトラコナゾール(イトリゾール等)とテルビナフィン(ラミシール等)のみが、爪白癬に対する適応を持っています。

上にも書いたように、外用による効果はほとんど期待できず、爪白癬に対する適応をもつ薬剤はありません。
ですが、内服療法の補助、または内服による治療が困難な場合、ラミシール外用液などを使用するケースがありました。
その場合、入浴後に柔らかくなった爪を、爪切りのヤスリ部分などで削った後に、液剤やクリームを染み込ませるという形で使用したりします。

イトラコナゾール

イトラコナゾール(イトリゾール等)は皮膚や爪に蓄積される性質を持っています。
そのため、内服終了後も皮膚には一ヶ月、爪には半年~1年弱もの間は残っているといわれています。
この性質を利用して、爪白癬に対してはパルス療法が行われます。
1日400mgを一週間服用した後、3週間の休薬。
これを3サイクル繰り返します。
胃酸や食事に含まれる脂肪分により吸収が増すため、食直後の服用となっています。
(爪白癬に対しての適応はないが、イトリゾール内用液は吸収を改善しており、食前投与となっている)

CYP3A4ならびにP糖たんぱくの阻害作用を有するため薬物相互作用が非常に多く、併用禁忌となる薬剤が多いため、併用薬には十分な注意が必要です。
また、お薬手帳を携帯していない場合などは、休薬期間中に服用していないため、口頭での確認で服用中であることを伝えられない場合が考えられます。
休薬期間中でも体内にはイトリゾールが残存しており、相互作用が起こる危険性があるので、投薬時に十分な説明が必要です。

また、肝機能障害も多くみられるため、その点でも注意が必要です。

テルビナフィン

テルビナフィン(ラミシール等)も皮膚や爪に蓄積する性質を持っていますが、イトラコナゾールほどではありません。
服用中止後の残存期間は、皮膚には一ヶ月弱、爪には二ヶ月程度とされています。
ですので、日本では1日1回125mg(1錠)を半年間、連日服用するようになっています。
(海外では1日500mgのパルス療法も存在するようです)

イトラコナゾールに比べて、重篤な相互作用がないことがメリットではありますが、肝機能障害は同様に注意が必要ですし、皮膚障害も報告されています。

世界初のトリアゾール系外用剤

エフィコナゾールはイトラコナゾールやフルコナゾールと同様のトリアゾール系(トリコナゾール系)化合物です。
これまで、トリアゾール系の外用剤は存在しておらず、クレナフィン爪外用液は世界初のトリアゾール系外用剤となります。

外用抗真菌薬の分類

これまで発売されている外用抗真菌薬をまとめてみます。

ポリエン系抗生物質

真菌の細胞膜を構成するエルゴステロールに結合し、細胞膜を破壊することで抗真菌作用を発揮。
内服・注射薬

  • アムホテリシンB(ファンギゾンシロップ、ハリゾン錠等)
  • リポソームアムホテリシンB(アムビゾーム点滴静注用)
  • ナイスタチン(ナイスタチン錠)
フロロピリミジン系

真菌内に多く含まれる酵素シトシンデアミナーゼにより5-FUに変換され、核酸合成を阻害することで抗真菌作用を発揮。
内服薬

  • フルシトシン(アンコチル錠)
イミダゾール系

チトクロムP450と結合することでエルゴステロールの合成を阻害し、抗真菌作用を発揮。
内服・注射薬

  • ミコナゾール(フロリードゲル経口用、フロリードF注)

外用薬

  • クロトリマゾール(エンペシドクリーム、エンペシド外用液、エンペシドトローチ、エンペシド膣錠等)
  • スルコナゾール(エクセルダームクリーム、エクセルダーム外用液)
  • エコナゾール(パラベールクリーム、パラベールローション)
  • オキシコナゾール(オキナゾールクリーム、オキナゾール外用液、オキナゾール膣錠等)
  • ミコナゾール(フロリードDクリーム、フロリード膣坐剤等)
  • ビホナゾール(マイコスポールクリーム、マイコスポール外用液等)
  • ネチコナゾール(アトラント軟膏、アトラントクリーム、アトラント外用液)
  • ラノコナゾール(アスタット軟膏、アスタットクリーム、アスタット外用液等)
  • ケトコナゾール(ニゾラールクリーム、ニゾラールローション、ケトパミンスプエー等)
  • ルリコナゾール(ルリコン軟膏、ルリコンクリーム、ルリコン液)
トリアゾール系

イミダゾール系と同様にチトクロムP450と結合することでエルゴステロールの合成を阻害し、抗真菌作用を発揮。イミダゾール系との違いは構造。イミダゾール系とトリアゾール系をあわせてアゾール系と呼びます。
内服・注射薬

  • フルコナゾール(ジフルカンカプセル、ジフルカンドライシロップ、ジフルカン静注用等)
  • イトラコナゾール(イトリゾールカプセル、イトリゾール内用液、イトリゾール静注、イトラコナゾール錠等)
  • ボリコナゾール(ブイフェンド錠、ブイフェンド点静注、ブイフェンドドライシロップ)

外用薬

  • エフィコナゾール(クレナフィン爪外用液)←New!
アリルアミン系

真菌内のスクアレンエポキシダーゼを阻害し、スクアレンの蓄積とエルゴステロールの合成を阻害することで抗真菌作用を発揮。
内服薬

  • テルビナフィン(ラミシール錠等)

外用薬

  • テルビナフィン(ラミシールクリーム、ラミシール外用液、ラミシールスプレー等)
キャンディン系

細胞壁のβ-Dグルカン合成を阻害することで抗真菌作用を発揮。
注射薬

  • ミカファンギン(ファンガード点滴用)、カスポファンギン(カンサイダス点滴静注用)
ベンジルアミン系

真菌の細胞膜エルゴステロールの合成阻害により抗真菌作用を発揮。
外用薬

  • ブテナフィン(ボレークリーム、ボレー外用液、ボレースプレー、メンタックスクリーム、メンタックス外用液、メンタックススプレー等)
モルホリン系

2経路でエルゴステロールの合成を阻害し、抗真菌作用を発揮。
外用薬

  • アモロルフィン(ペキロンクリーム)
チオカルバミン酸系

真菌内のスクアレンエポキシダーゼを阻害し、スクアレンの蓄積とエルゴステロールの合成を阻害することで抗真菌作用を発揮。
外用薬

  • リラナフタート(ゼフナートクリーム、ゼフナート外用液)

 

エフィコナゾールの特徴

エフィコナゾールの一番の特徴は、外用剤でありながら、爪白癬に効果を発揮できることです。
その効果は、他の外用抗真菌剤と比べてケラチンとの親和性が弱いことに由来します。
これまでの薬剤は、ケラチンとの親和性が高く、爪表面のケラチンに結合してしまい、表面の白癬菌には効果を発揮できても、奥まで浸透することができず、爪白癬のターゲットとなる爪床では効果を発揮できませんでした。
エフィコナゾールはケラチンとの適度な親和性を持つことで、ケラチンと結合したり離れたりしながら、爪の中を浸透していき、白癬菌が多く存在する爪床まで到達して効果を発揮することが可能です。
これにより、外用剤でありながら爪白癬に有効であるという、これまでにない効果を発揮することが可能となっています。

クレナフィンの効果

クレナフィンの臨床試験の結果は科研製薬のホームページに掲載されています。
クレナフィン・臨床成績 1.国際共同第Ⅲ相試験 – clenafin.jp | 科研製薬株式会社
臨床試験の結果をみると、クレナフィン爪外用液を利用開始後52週目の完全治癒率は17.8%でした。
完全とまではいかないまでも、ほぼ完全と言える人を含めると26.4%となっています。
このことから、1年間使用することで、およそ2割の人が完治を期待できることがわかります。
ちなみに、真菌学的治癒率を見ると55.2%と非常に高いですが、真菌においては顕微鏡下で見えなくなっても、そこから再度悪化することもあり、真菌学的な治癒が見られたからと言って治療完了とは言えません。

2割と言っても、副作用やそのリスクのため、治療をあきらめてきた人にとっては大きな選択肢となりますね。
特に初期の場合は完治もしやすいので、内服治療が無理でも、すぐにクレナフィンで治療を行うことで完治が期待できるかもしれません。

クレナフィン爪外用液10%の概要

クレナフィンの添付文書を見ていきましょう。

効能・効果

適応菌種:皮膚糸状菌(トリコフィトン属)
適応症:爪白癬
となっています。
クレナフィンは爪外用液とあるように、爪白癬のみへの適応で、皮膚白癬には使用できません。
また、爪白癬の原因のほとんどは白癬菌ですが、1割程度カンジダが原因となる場合もあります。
カンジダに対する効果は不明のようです。

使用上の注意

「直接鏡検又は培養等に基づき爪白癬であると確定診断された患者に使用すること。」
と記載されています。
これまでは、内科などでも視診で爪白癬と診断されて治療を開始するケースがありましたが、クレナフィンに関してはそれが不可能ということになります。
皮膚科など直接鏡検を行える施設であれば、受診した日に確定、クレナフィンの使用開始が可能ですが、そうでない場合は、皮膚科に紹介されるか、検査業者等に直接鏡検を依頼することになるので、次回以降に診断確定、クレナフィン使用開始という流れになりますね。

用法及び用量

「1日1回罹患爪全体に塗布する。」
となっています。
クレナフィン爪外用液は、先端が刷毛になっている製剤です。
科研製薬のページに画像があります。
クレナフィン・使用方法 – clenafin.jp | 科研製薬株式会社
これであれば、効率的に塗ることができそうですね。

使用期間ですが、用法及び用量に関連する使用上の注意として、
「本剤を長期間使用しても改善が認められない場合は使用中止を考慮するなど、漫然と長期にわたって使用しないこと(48週を超えて使用した場合の有効性・安全性は確立していない)。」
と記載されています。
臨床試験とあわせて、約1年間が治療の目安となりそうですね。

また、これまで水虫の薬と言えば入浴後のイメージが強かったですが、クレナフィンに関しては就寝前の使用が推奨されているようです。
これは爪がしっかり乾燥してからの使用が望ましいためのようです。
水分を多く含むところに、ほかの水分は染み込みにくく、乾燥した部分であれば水分が染み込みやすいのはイメージできるので当然のことですね。
今までは、角質や爪が柔らかい方が浸透しやすくなるということを優先していましたが、エフィコナゾールは浸透しやすいため、乾燥していることが優先されるというわけです。

副作用

皮膚炎26例(2.1%)、水疱18例(1.5%)、紅斑9例(0.7%)、そう痒、異常感覚、腫脹、疼痛、皮膚剥脱各7例(0.6%)、爪甲脱落4例(0.3%)等
となっています。
クレナフィンは薬剤の浸透をよくするためにエタノールを多く含んでいるのでエタノールに敏感な人は注意が必要かもしれません。

同様の理由で、使用後はすぐに、しっかりと蓋を締めておかないと揮発してしまうようです。

まとめ

これまで、内服薬しか選択肢がなかった爪白癬ですが、新たに外用薬が加わりました。
内服薬では相互作用や肝機能障害が問題となり、治療を回避していた人も少なくないと思います。
内服薬ほどの完治率ではありませんが、治療ができなかった人にとっては、クレナフィンが登場したことで、やっと爪白癬の本格的な治療が可能となります。

世界初の外用トリアゾール系坑真菌薬、日本初の外用爪白癬治療薬ですが、先端が筆のようになった、刷毛付きの外用薬と言うのも初めてなんじゃないでしょうか?

また、小児や妊婦、授乳中などの理由で治療が困難だった場合でも、初期段階でクレナフィンによる治療を開始することが可能になるかもしれません。
ただし、これらの使い方に関してはまだデータが少ないので、すぐではないかもしれません。
(妊婦:有益性投与、授乳:ラット皮下投与で乳汁中に移行、小児:安全性が確立されていない)

内服薬と併用することで、内服薬の服用期間を短くすることが可能ではないかと思ったのですが、併用に関しての保険適応はまだはっきりしないようです。

そして一番の問題かもしれないのが薬価。
1,657.50円/gとなっており、1本(3.56g)では5,900.70円!
しかも包装が10本/箱なので、1箱在庫するだけで50,000円以上ということに!
とりあえず在庫、と言うには難しい場合もあるかもしれませんね。

1本で可能な使用回数は50~70回くらいと言うことなので、片方の足、5本の指に使用した場合、ちょうど2週間と言うことになるようです。
新薬のため、2週間の投与制限がありますから、両足であれば2本まで処方可能なのでしょうか?
基本的には1回の処方につき1本までとなりそうですね。

ちなみに、
ラミシール錠125mgが202.9円/錠なので、半年(180日)の治療で36,522円。
イトリゾールカプセル50が394.8円/カプセルなので、3クール(1週間×3回)の治療で66,326.4円。
クレナフィン爪外用液が5,900.70円/本なので、2週間1本とすると1年間(48週)の治療で141,616.8円!
4週間に1本としても70,808.4円!
クレナフィンが一番高いという結果です。

外用薬はたしかに画期的ですが、第一選択はあくまでも内服薬なので、内服による治療が困難で、かつコスト的に問題がないケースに対しての使用となりそうです。

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

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