ヨウ化カリウムとスポロトリコーシス

  • 2014年8月3日
  • 2021年1月7日
  • 感染症
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ある日、皮膚科から処方せんのFAXが送られて来ました。

ヨウ化カリウム「ホエイ」 1.0g
1日3回 毎食後 7日分
※7日分が500mLとなるように水で薄めて調剤すること

ヨウ化カリウムなんて在庫していない!
と言うより、なんだこれ???

何だと思いますか?

ヨウ化カリウムの効能・効果と用法・用量

ヨウ化カリウムの効能・効果を調べてみると・・・。

効能または効果

1.甲状腺腫(ヨード欠乏によるもの及び甲状腺機能亢進症を伴うもの)
2.下記疾患に伴う喀痰喀出困難慢性気管支炎
喘息
3.第三期梅毒
4.放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝の予防・低減

どれも皮膚科とは違うような・・・。
第三期まで進行した梅毒(結節性梅毒)のゴム腫で受診・・・?

用法及び用量

1.の効能・効果に対し
ヨード欠乏による甲状腺腫には、ヨウ化カリウムとして1日0.3~1.0mgを1~3回に分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺腫には、ヨウ化カリウムとして1日5~50mgを1~3回に分割経口投与する。
この場合は適応を慎重に考慮すること。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
2.3.の効能・効果に対し
慢性気管支炎及び喘息に伴う喀痰喀出困難並びに第三期梅毒には、ヨウ化カリウムとして通常成人1回0.1~0.5gを1日3~4回経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。
4.の効能・効果に対し
放射性ヨウ素による甲状腺の内部被曝の予防・低減には、ヨウ化カリウムとして通常13歳以上には1回100mg、3歳以上13歳未満には1回50mg、生後1ヵ月以上3歳未満には1回32.5mg、新生児には1回16.3mgを経口投与する。

たしかに3(もしくは2)の適応が用量的にも近いけど、多すぎるので違う気がする・・・。
ということで、薬を取り寄せている間に調べていると・・・。

あった。これだね。
その後、薬も届き、患者さんと話すとやはり予想通り、スポトロリコーシスでした。

スポロトリコーシス

スポロトリコーシスとは土壌や植物に腐生するSporothrix schenckii(スポロトリックス・シェンキー)による感染症です。
日本では深在性皮膚真菌症の中でもっとも発生率の高い疾患です。
皮膚に感染することで慢性の結節(しこり)や潰瘍性の病変を生じます。

深在性皮膚真菌症と表在性皮膚真菌症

深在性皮膚真菌症

真皮以降の皮下組織(深部表在性真菌症)や、脳、肺、心臓などの内部臓器に真菌が寄生する真菌感染症
スポロトリコーシス、アスペルギルス症、カンジダ症、クリプトコックス症など

表在性皮膚真菌症

皮膚の外層(角質層・爪・毛など)に真菌が寄生する真菌感染症
白癬、皮膚カンジダ、癜風、皮膚アスペルギルス症(表在性)、爪真菌症、黒癬など

スポロトリコーシスの種類

リンパ管型

土壌や植物に存在する真菌による感染症であるため、指や手などの外傷部位から感染します。
外相部位が腫瘍あるいは肉芽腫状に盛り上がり、潰瘍を伴う結節ができます。
そこを原発巣として、リンパ管沿いに結節状の転移巣を作っていくのがリンパ型です。

固定型

子供などは汚れた手で目を触るため顔面にも多くなります。
固形型の場合はリンパ管を介しての転移は認められずに肉芽腫性の結節を形成します。

スポロトリコーシスの治療

スポロトリコーシスは数年をかけて悪化していき、自然治癒することはほとんどありませんので、治療を行う必要があります。

温熱療法

病変が小さい場合は切除することと合わせて、使い捨てカイロなどによる温熱療法が行われる場合があります。
Sporothrix schenckiiは39℃以上で生育しないことを利用した治療法で、1日2~3時間、患部に使い捨てカイロを当てて行います。
低音やけどには注意が必要です。

内服療法

ヨウ化カリウムを用いた治療が第一選択となりますが、抗真菌薬を用いることもあります。

ヨウ化カリウムによるスポロトリコーシスの治療

皮膚真菌症診断・治療ガイドラインには以下のように記載されています。

ヨウ化カリウムは,成人に対して通常1日量0.3gより開始し、徐々に増量して、1.0gを維持量として、総投与量100g前後で終了とする。しかし最初から1.0g日を2カ月内服するだけでもよい。

最初に示した、通常のヨウ化カリウムの服用量と比べてかなり多めなので胃腸障害に注意が必要です。
小児の場合は0.6g/dayまでの服用となります。

食直後では吸収が落ちてしまうので、食事の後30分くらいあけて服用することで、吸収と胃腸障害のバランスが取れると考えられます。
また、ヨード過敏症の場合は禁忌となるのでこれも注意が必要です。
テルビナフィンと併用して服用するケースも存在します。

なお、ヨウ化カリウム溶液は光と酸素でヨウ素を分離して黄色くなってしまいます。
遮光保存が必要ですし、長期の処方は向いていません。

抗真菌薬による治療

スポロトリコーシスに対する抗真菌薬の効果はヨウ化カリウムに比べて落ちます。
そのため、通常の使用量よりも多めに服用する必要があり、副作用には注意が必要です。
その効果の強さは、
イトラコナゾール>フルコナゾール≧テルビナフィン
となっています。

それぞれの用量は、
イトラコナゾール:100~200mg/day
※リンパ型には効果があまりありません。
テルビナフィン:125~250mg/day
となっています。

まとめ

と言うことで、スポロトリコーシスの治療のため、ヨウ化カリウムが処方されたと言うのが正解でした。

ちなみに、ヨウ化カリウムは白い粉で、その水溶液も透明です。
これにヨウ素を溶かしたものがヨウ素液(ヨウ素ヨウ化カリウム溶液)で、ジャガイモ(でんぷん)にかけると紫色(ヨウ素デンプン反応)になるやつです。
ヨウ化カリウムを見て、赤褐色じゃないと違和感を感じていましたが、ヨウ素液のイメージでしたね。

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

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