平成26年8月18日、新たな医療用麻薬 タペンタ錠(一般名:タペンタドール)が販売開始になりました。
3月24日に承認、5月23日に薬価収載されていたものです。
タペンタドールは日本では少なかった「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」を適応とするということで、がん疼痛治療の新たな選択肢として期待されています。
トラマドールに関する記事も合わせて読んでください。
タペンタ錠の概要
タペンタ錠は、タペンタドール塩酸塩を成分とする徐放錠です。
ですので、レスキュードーズには適していません。
効能・効果は、「中等度から高度の疼痛を伴う各種癌における鎮痛」、用法・用量は「通常、成人にはタペンタドールとして1日50~400mgを2回に分けて経口投与する。なお、症状により適宜増減する。」となっています。
タペンタ錠の用量調節
他のオピオイドを使用していない場合
1日50mg(1回25mg)から開始し、効果不十分な場合は3日間の使用後を目安に増量を行います。
50mg/日から100mg/日への増量の場合を除き、1日使用量の25~50%を目安に追加を行います。
500mg/日以上での使用成績は存在しないため、有益投与となっています。
他のオピオイドからの切り替え
添付文書によると、オキシコドンからの切り替えの場合、タペンタドールの1日量はオキシコドンの1日量の5倍を目安とするようです。
これを踏まえて換算表をまとめてみると、以下のようになります。
強さ | オピオイド製剤 | 1日量 | ||||
① | コデイン | 180 | – | |||
トラマドール(トラマール) | 300 | – | ||||
② | 経口モルヒネ | 30 | 60 | 120 | 240 | 360 |
オキシコドン徐放錠(オキシコンチン) | 20 | 40 | 80 | 160 | 240 | |
フェンタニル3日貼付型製剤(デュロテップパッチ) | 2.1 | 4.2 | 8.4 | 16.8 | – | |
フェンタニル1日貼付型製剤(フェントステープ) | 1 | 2 | 4 | 8 | 12 | |
フェンタニル1日貼付型製剤(ワンデュロパッチ) | 0.84 | 1.7 | 3.4 | 5 | – | |
タペンタドール(タペンタ) | 100 | 200 | 400 | – | ||
モルヒネ坐剤 | 20 | 40 | 80 | 160 | 240 | |
ブプレノルフィン坐剤(レペタン) | 0.6 | 1.2 | – |
①:軽度から中等度の痛み用オピオイド鎮痛薬
②:中等度から高度の痛み用オピオイド鎮痛薬
癌疼痛治療の新たな選択肢
上の表を見てもわかるように、日本で現在使用できる「中等度から高度の痛み用オピオイド鎮痛薬」のうち、経口投与可能なものは経口モルヒネにオキシコドン、それにタペンタドールということになります。
もう一つ、メサドン(メサペイン錠)もありますが、これに関しては他のオピオイドで効果不十分な際の切り札としての薬剤になるので少し位置付けが異なります。
海外ではこのほかにヒドロモルフォン製剤やレボルファノール製剤が使用されていますが、日本での選択肢は非常に限られています。
ですので、タペンタドールは限られた選択肢の中の貴重な一剤ということがわかると思います。
タペンタドールとトラマドールの違い
タペンタドールはトラマドールを改良して作られた薬剤です。
トラマドールの持つμ-オピオイド受容体活性作用とノルアドレナリン再取り込み阻害作用を強くしながら、セロトニン再取り込み阻害作用は弱くすることで鎮痛効果を高めています。
μ-オピオイド受容体に対する作用
トラマドールのμ-オピオイド受容体刺激作用はトラマドール自身ではなく、その活性代謝物M1によるものでしたが、タペンタドールは代謝を受けることなく、より強いμ-オピオイド受容体刺激作用を発揮することが可能です。
また、中枢系への移行もM1より優れています。
これらの特徴により、CYP2D6の活性により効果が上下することなく、より強い鎮痛作用を発揮することができます。
遺伝的要因による効果の差がなくなったことにより安定した効果を発揮しやすくなりましたが、オピオイドに対する作用が強いため麻薬として管理を行わなければなりません。
SNRI作用
トラマドールはμ-オピオイド受容体の刺激とSNRI作用の相乗効果により鎮痛効果を発揮しましたが、5-HT再取り込み阻害に関しては、セロトニン症候群の原因となったり、神経障害性疼痛を反対に痛める可能性もあるため、なるべく低いほうが好ましいと言われています。
また、5-HTの鎮痛効果に対する寄与はNAほどではないこともわかっています。
トラマドールはそれぞれ異なる活性をもつラセミ対混合物でしたが、タペンタドールはSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害)作用を調節するために一方の鏡像異性体のみを採用しています。
その結果、タペンタドールはトラマドールに比較して数倍のノルアドレナリン取り込み阻害作用を持つようになっていますを
セロトニン取り込み阻害作用についてはトラマドールと同等以下になっているため、タペンタドールのモノアミン取り込み阻害作用はノルアドレナリンに対して、セロトニンの5倍以上の選択性を持つようになっています。
このように、セロトニンによる影響を減らし、ノルアドレナリンに対する作用を強めることで、タペンタドールは、より安全•効率的に効果を発揮します。
SNRI作用を持つため、トラマドールと同様に塩酸セレギリン(エフピー)との併用は禁忌となっています。
改変防止技術(乱用防止徐放錠)
タペンタ錠のもうひとつの特徴として、効果とは別に、改変防止技術(tamper-resistant formulation:TRF)を用いて作られた製剤ということがあります。
薬物乱用防止のために、廃棄薬剤を再使用しにくいような工夫が施されています。
ミキサー等を用いて粉砕しようとしても刃がこぼれてしまい粉砕できず、水やエタノールに溶かすと粘度を持つゲルになるので注射器で吸うのは困難です。
こうすることで廃棄品の乱用を防いでいるのですが、では、薬局はどのようにして期限切れや回収済みのタペンタ錠を廃棄すればいいのでしょうか?
タペンタ錠の廃棄方法
通常、麻薬を廃棄する場合は粉砕後、水に溶かしたりして廃棄しますが、タペンタ錠にはその方法が使えません。
そこで、以下のように廃棄方法が提案されています。
「タペンタ錠は焼却またはガムテープなどで包み、錠剤が見えない状態で通常の医薬品と同様に廃棄する。」
ということです。