第一三共は平成26年9月30日にクラビット(一般名:レボフロキサシン)とそのオーソライズドジェネリック(AG)であるレボフロキサシン「DSEP」の適応症に、「肺結核」と「その他の結核症」を追加する承認申請を行ったと発表しました。
12月に他社と同時発売予定のレボフロキサシン「DSEP」ですが、これで効能・効果の部分でも他社との差別化が計られますね。
今回は結核治療を復習しながら、レボフロキサシンの結核治療に対する位置付けを調べてみました。
結核治療薬
現在、ガイドラインで推奨されている治療薬を見てみると・・・。
第一選択薬(a)
- リファンピシン(RFP)
- イソニアジド(INH)
- ピラジナミド(PZA)
第一選択薬(b)
- ストレプトマイシン(SM)
- エタンブトール(EB)
となっています。
結核の治療法
標準治療としては、
- A法:RFP + INH + PZA +(EB)or(SM)の4剤併用 2ヶ月間 → RFP + INH の2剤併用 4ヶ月間
となっていますが、肝障害などの副作用でPZAの使用が困難な場合や、肝硬変、C型慢性肝炎等の肝障害合併患者、80歳以上の高齢者ではPZAによる肝障害のリスクが高いため、
- B法:RFP + INH + (EB)or(SM)の3 剤併用 2ヶ月間 → RFP + INH の2剤併用 7ヶ月間
による治療を行います。
妊娠中の場合もPZAの胎児への影響が明らかになっていないためB法による治療を行いますが、胎児への第八脳神経障害の可能性があるためSMを使用せず、RFP + INH + EBによる治療を行います。
結核治療におけるレボフロキサシンの位置付け
レボフロキサシンは第二選択薬として推奨されています。
第二選択薬
- カナマイシン(KM)
- エチオナミド(TH)
- エンビオマイシン(EVM)
- パラアミノサリチル酸(PS)
- サイクロセリン(CS)
- レボフロキサシン(LVFX)
いずれも、第一選択薬に比し抗菌力は劣るが、多剤併用で効果が期待される薬剤という位置づけです。
RFP、INH、EB、SMのいずれかに耐性をもつ結核菌や、副作用により継続が困難な場合、これらの薬剤の使用が推奨されます。
耐性結核菌
結核菌は耐性を獲得しやすい性質を持っています。
複数の薬剤を併用して治療を行うのは耐性菌の出現を抑えるためです。
3剤併用の場合、仮に一剤に耐性を持つ菌が出現しても残りの2剤が作用することで、耐性菌を増殖する前に倒すことが可能です。
ちなみに、RFPとINHの2剤に耐性を示す結核菌を多剤耐性菌(MDR-TB:multi-drug resistant tuberculosis)呼び、多剤耐性に加えてフルオロキノロンのいずれかと注射二次薬〔カプレオマイシン(CPM)、アミカシン(AMK)、KM〕の少なくとも1つに耐性をもつ結核菌を超多剤耐性結核(XDR-TB:extensively drug resistant tuberculosis)と呼んでいます。
結核治療薬による副作用
結核治療薬の第一選択薬により生じる副作用にはどんなものがあるかまとめてみます。
- INH:肝障害、末梢神経障害、アレルギー
- RFP:肝障害、食欲不振・悪心などの胃腸障害、アレルギー、インフルエンザ様症状、血小板減少、ショック
- SM・KM・CPM・EVM:第八神経障害(耳鳴り、難聴、平衡覚障害)、腎障害、アレルギー ※高齢者や腎機能障害を有する患者では特に注意
- EB:視神経障害
- TH:胃腸障害、肝障害
- PZA:肝障害、胃腸障害、高尿酸血症、関節痛
- PAS:胃腸障害、アレルギー
- CS:精神障害
結核治療薬の相互作用
特にリファンピシンは多くの薬物と相互作用を起こすことで知られています。
リファンピシン(RFP)
CYP3Aを強力に誘導するため、CYP3Aにより代謝される薬物の血中濃度が低下。
CYP3Aの誘導能が弱いリファブチン(RBT)を代わりに使用することもあります。
CYP3A4により代謝される薬物
- 副腎皮質ステロイド薬
- アゾール系抗真菌薬
- 抗HIV薬
- スルフォニル尿素薬
- ワーファリン
- テオフィリン
イソニアジド(INH)
フェニトイン、カルバマゼピンとの相互作用が知られていますし、マグロやチーズとの相互作用も知られています。(MAO阻害作用、DAO阻害作用による)
レボフロキサシンの有用性
多剤耐性結核が問題となる中、新たな結核治療の選択肢が求められています。
第二選択薬ではありますが、レボフロキサシンは他の薬剤と比べて大きな副作用はないですし、相互作用も少ないです。
そのことからもレボフロキサシンが使用しやすいことが想像できると思います。
現に、今回の承認申請は、日本結核病学会と日本呼吸器学会の要望を元に、厚生労働省「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」の議論を経て、第一三共に開発が要請されたことを受けてのものです。
レボフロキサシンの使用方法
日本結核病学会では、「体重1kgあたり8mg、1日最大投与量600mg」としていましたが、平成21年7月に1日1回投与を基本とするクラビット錠500mg、錠250 mgが承認発売され、使用方法が見直されました。
現在は、「結核症におけるLVFXの使用は1日1回500mgとする。ただし、体重40kg未満は1日1回375mgとする。なお、多剤耐性結核の治療に際して必要と判断される場合に限っては500mgを超えた用量とすることも検討する。」とされています。
おそらく、クラビット、レボフロキサシン「DSEP」の追加適応においても同じような用法・用量が定められると思います。
結核治療におけるレボフロキサシンの危険性
ただし、レボフロキサシンの使用については注意が必要です。
結核を疑うべき症状の際に、安易にレボフロキサシンが使用されると、結核の検査に対して陰性を示してしまうことがあります。
その結果、結核であることの発覚が遅れ、病気が進行してしまったり、感染が広がる恐れがあります。
また、結核菌がレボフロキサシンに対して耐性を獲得してしまうことがあります。
これらに起因して、レボフロキサシンの使用が死亡リスクを増やすというデータも存在するほどです。
呼吸器感染症を疑う場合、とりあえずの感覚でレボフロキサシンなどのレスピラトリーキノロンが処方されるケースがあるかもしれませんが、少しでも結核が疑われる場合は、使用するべきではないかもしれませんね。
今回の適応追加をきっかけに抗生物質と耐性菌について、今一度見直すきっかけになればと思います。