2021年7月12日(月)、イグザレルトドライシロップ小児用が発売されました。
イグザレルトは小児VTEに対する適応を有する唯一のNOACで、ドライシロップは新生児や乳幼児を含む30kg未満の小児の服用に適した製剤になります。
今回の記事では主に2つの点に注目してまとめてみました。
一つ目は、イグザレルトドライシロップ小児用の実際の服用方法について。
この薬剤は水に溶解し、懸濁シロップ剤としてから服用する必要があります。
そのため、調製方法、軽量方法を理解した上で服用してもらう必要があるので、より丁寧な服薬指導が必要です。
二つ目は、用法・用量の設定について。
なぜ、体重ごとに用法が異なるのか、食後服用とされた理由は?などの疑問を解消するために、添付文書・インタビューフォーム・審議結果報告書を読み込んでみました。
こちらは少々マニアックな内容です。
イグザレルトドライシロップ小児用の特徴
まずはイグザレルトドライシロップ小児用の基本情報をまとめてみました。
4剤形目のイグザレルト
イグザレルトとして4つめの剤形になります。
イグザレルト®ドライシロップ小児用 51.7㎎/103.4㎎ 新発売のお知らせ(2021.7.12)
- イグザレルト錠10mg/15mg(2012年1月18日 承認)
- イグザレルト細粒分包10mg/15mg(2015年9月28日 承認)
- イグザレルトOD錠10mg/15mg(2020年8月6日 承認)
- イグザレルトドライシロップ小児用51.7mg/103.4mg(2021年1月22日 承認)
小児VTEに使用可能なイグザレルト
イグザレルトドライシロップ小児用の製造承認と合わせて、すでに発売中のイグザレルト錠/細粒分包/OD錠も小児VTE(Venous ThromboEmbolism:静脈血栓塞栓症)の適応を取得しています。
イグザレルト錠/細粒分包/OD錠の小児VTE適応
イグザレルト®錠、細粒分包、OD錠 使用上の注意改訂のお知らせ(2021.1.25)
4.効能又は効果
成人
○非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
○静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制
小児
○静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制引用元:イグザレルト錠・OD錠・細粒分包 10mg 15mg 添付文書
ですが、下記の通り、いずれも30kg以上の小児に対する用量しか設定されていませんでした。
6.用法及び用量
〈静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制〉
成人
通常、成人には深部静脈血栓症又は肺血栓塞栓症発症後の初期3週間はリバーロキサバンとして15mgを1日2回食後に経口投与し、その後は15mgを1日1回食後に経口投与する。
小児
通常、体重30kg以上の小児にはリバーロキサバンとして15mgを1日1回食後に経口投与する。引用元:イグザレルト錠・OD錠・細粒分包 10mg 15mg 添付文書
そこで30kg未満の小児にも使用できる剤形として開発されたのがイグザレルトドライシロップ小児用です。
イグザレルトドライシロップ小児用の用法・用量
イグザレルトドライシロップ小児用の用法・用量は添付文書に下記のように記載されています。
6. 用法及び用量
通常、体重2.6kg以上12kg未満の小児には下記の用量を1回量とし、1日3回経口投与する。体重12kg以上30kg未満の小児にはリバーロキサバンとして5㎎を1日2回、体重30kg以上の小児には15mgを1日1回経口投与する。いずれも空腹時を避けて投与し、1日1回、2回及び3回投与においては、それぞれ約24時間、約12時間及び約8時間おきに投与する。
引用元:イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書
このように体重ごとに用法・用量を調節可能になっており、大きく分けて3つの特徴があります。
- 体重30kg未満については体重ごとに用量設定
- 体重によって1日服用回数が異なる
- 12kg未満:1日3回(8時間おき)
- 12kg以上30kg未満:1日2回(12時間おき)
- 30kg以上:1日1回(24時間おき)
- 食後に服用する(空腹時を避ける)
押さえておきたいポイント!
イグザレルトドライシロップ小児用の特徴はtwitter上で紹介しました。
イグザレルト®ドライシロップ小児用 51.7㎎/103.4㎎ 新発売のお知らせ
2021年7月12日(月)発売
小児適応を持つ唯一のNOACです。https://t.co/ADK5V0pIj9 pic.twitter.com/MauQeKUiOf— ぺんぎん薬剤師 (@penguin_pharm) July 12, 2021
用法用量が少し複雑です。
体重2.6kg以上12kg未満は細かく1回用量が決まっており1日3回(8時間おき)、体重12kg以上30kg未満は1回5mgを1日2回(12時間おき)、体重30kg以上は1回15mgを1日1回(24時間おき)、それぞれ空腹時を避けて経口投与する。 pic.twitter.com/nUXJR6HtyU
— ぺんぎん薬剤師 (@penguin_pharm) July 12, 2021
また、ドライシロップのまま服用するのではなく、水で薄めたものを懸濁して服用します。 pic.twitter.com/vCqJx0R6jk
— ぺんぎん薬剤師 (@penguin_pharm) July 12, 2021
それぞれ付属の飲料水計量器具で1mg/mLになるよう希釈調製し、それを懸濁した上で付属のピペットで計って服用します。 pic.twitter.com/Tf1La1k9gX
— ぺんぎん薬剤師 (@penguin_pharm) July 12, 2021
水で薄めるのは調剤時に行うのか、患者さんが行うのか。ミスが起きないのか気になっていましたが、51.7mg製剤と103.4mg製剤に付属する飲料水計量器具とピペットの容量が異なるので納得しました。 pic.twitter.com/umRISvhkol
— ぺんぎん薬剤師 (@penguin_pharm) July 12, 2021
ということで、気になる部分は一連のtweetにまとめたのですが、もう少し掘り下げてみようかなと思って記事にしてみました。
ポイントはここまでで書き尽くしたので、ここからは少し詳しい内容に入っていきます。
イグザレルトドライシロップ小児用の具体的な服用方法
イグザレルトドライシロップ小児用(以下イグザレルトDS)の服用方法にはいくつかの注意点があります。
14. 適用上の注意
14.1 薬剤交付時の注意
14.1.1 分包して交付しないこと。
14.1.2 懸濁せずに顆粒のまま服用しないよう指導すること。引用元:イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書
通常のドライシロップ製剤とは異なり、分包したり、粉薬として服用することはできません。
以下のような方法で調製を行い、水を加えて溶かした懸濁シロップ剤として服用する必要があります。
懸濁シロップ剤の調整方法
イグザレルトDSの調整方法については以下のように記載されています。
14. 適用上の注意
14.2 薬剤投与時の注意
14.2.1 調製方法
本剤の容器に水を加え、均一に懸濁されるまで60秒以上振り混ぜて調製する。51.7mg入り瓶については1瓶に水50mL、103.4mg入り瓶については1瓶に水100mLを加えて懸濁すると、リバーロキサバンとして1mg/mLの懸濁液となる。なお、調製後のシロップ剤を水若しくは他の液でさらに希釈しないこと。引用元:イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書
患者さんからするとかなりややこしいと思うのですすが、「イグザレルトを服用されるお子さまとそのご家族へ」という冊子が用意されているのでそれに従えばわかりやすくなっています。
以下のように、懸濁剤の調製方法が詳しく掲載されています。
飲料水計量器具を用いて飲料水を正確に計り取るには気泡を除く工程があるので、初回投与時は薬局で説明しながら行ってもらうのが無難ではないかな・・・と思います。
イグザレルトドライシロップ小児用はチャイルドプルーフ機能付きのキャップになっていますが、その開け閉めについてもきちんと説明されていますね。
飲料水(50mL or 100mL)を加えた後は服用の際に使用するピペットを挿入するためのアダプターを装着してからキャップを閉め、60秒以上やさしく振り混ぜるようになっています。
調整後の保存方法は以下のように決められていますが、それについても説明されていますね。
14. 適用上の注意
14.2.3 保存時
調製後のシロップ剤は、30℃以下で遮光して保存し、凍結させたり、本剤以外の容器に移し替えたりしないこと。調製後のシロップ剤は調製日から14日以内に使用し、残液及び容器は廃棄すること。引用元:イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書
ちなみに、冊子に記載されているのは103.4mg(水100mLで調製)製剤についての内容なので飲料水計量器具が100mLになっていますが、51.7mg(水50mLで調製)製剤に付属する飲料水計量器具は50mLになっています。
IV.製剤に関する項目
10.容器・包装
(2)包装
イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg:1瓶
飲料水計量器具(50mL)1本、アダプター1個、ピペット(1mL)2本、取扱説明書を同梱
イグザレルトドライシロップ小児用 103.4mg:1瓶
飲料水計量器具(100mL)1本、アダプター1個、ピペット(5mLおよび10mL)各2本、取扱説明書を同梱引用元:イグザレルト錠・OD錠・細粒分包 10mg 15mg ドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg インタビューフォーム
懸濁剤の服用方法
懸濁剤としたイグザレルトDSを服用するには付属のピペットを用いて量りとる必要があります。
14. 適用上の注意
14.2.2 投与時
調製後のシロップ剤は、毎回10秒以上振とう後、計量用ピペットを用いて1回量を量りとること。なお、投与量に応じて、適切な計量用ピペットを使用すること。引用元:イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書
これについても冊子にわかりやすくまとめてあります。
ピペットですが、51.7mg製剤には1mLピペット(0.2mLから0.1mL刻み)、103.4mg製剤には5mLピペット(1mLから0.2mL刻み)と10mLピペット(2mLから0.5mL刻み)が付属しています。
服用量の目盛ごとにカチッと音がして、その位置を設定、服用量を固定できるのはすごいですね!
ただし、これについては失敗するとやり直しできず、予備のピペットを使うしかなくなるので慎重に行う必要があります。
各規格で付属するピペットの容量が異なり、ピペットは1回服用量を固定して使用することを考慮すると、体重(1回服用量)で処方される規格が固定されるような・・・と考えていると「イグザレルト適正使用ガイド[小児VTE]」にその記載がありました。
- 2.6kg以上4kg未満(1回0.8〜0.9mg):ドラシロップ51.7mg
- 4kg以上30kg未満(1回1.4〜5mg):ドライシロップ103.4mg
- 30kg以上(1回15mg):錠剤15mg、細粒分包15mg、OD錠15mg(ドラシロップ103.4mg)
30kg以上でどうしてもドライシロップ103.4mgを使用したい場合は10mLピペットで10mL、5mLピペットで5mLをそれぞれ量り取って2回服用する必要がありますね。
計量前に懸濁剤を10秒以上振ってから希釈時に装着したアダプターにピペットを取り付けボトルを逆さまにして測り取ります。が、ここでも気泡を除く工程があります。
コミナティ筋注の希釈調製・分注もこうやってしてるんですよ〜って説明したくなりますね。
これも一緒に練習できればいいんでしょうけど、食後服用の薬剤なのでその場で服用するのは難しいかな?
単純に練習すると1回分無駄にすることになってしまいますし・・・。
計量後は直接口の中に投与する形になるので、使用後の洗浄方法についても詳しく記載されていますね。
このあたりも大事なポイントです。
動画も公開されています
バイエルはイグザレルトを服用る患者さん用のホームページを公開しています。
その中でドライシロップ調整・服用方法の説明動画を公開しています。
動画で見るとよりわかりやすくなっているのでおすすめです。
イグザレルトを服用されるお子さまとそのご家族へ(冊子)にも二次元バーコードでURLリンクが掲載されているのでスマホからも閲覧しやすくなっています。
飲み忘れた場合の対応
飲み忘れた場合の対応についても添付文書に記載されています。
8. 重要な基本的注意
8.8 1日1回投与時に服用を忘れた場合は、同日中であれば直ちに本剤を服用し、同日の服用ができない場合は、一度に2回分を服用せず、次の服用時刻に1回分を服用するよう指導すること。1日2回投与時に1回目の服用を忘れた場合は、直ちに本剤を服用するか、2回目に2回分を服用させてもよい。2回目の服用を忘れた場合は、同日であれば直ちに服用するよう指導すること。1日3回投与時に服用を忘れた場合は、忘れた分は服用せず、次の服用時刻に再開するよう指導すること。翌日からは決められた1日1回又は2回、3回の服用を行うよう指導すること。引用元:イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書
これ、かなりややこしいんですが、冊子に記載されているので、該当する用法に印をつけて具体的に説明するべきですね。
- 1日1回:飲み忘れに気づいたのが同日中ならすぐ服用
- 1日2回:1回目を飲み忘れた場合→すぐ服用or2回目に合わせて服用、2回目を飲み忘れた場合→同日中ならすぐ服用
- 1日3回:飲み忘れに気づいたのが1時間以内ならすぐ服用
他の多くの薬剤と同様に、「2回分をまとめて服用しない」が基本なんですが、1日2回服用のうち1回目を忘れた場合は2回目にまとめて服用するのも可能となっているので、ここをしっかりと理解してもらわないと他のケースでも2回分をまとめて服用してしまいそうで怖いですね・・・。
ここは説明を行う上で大事なポイントだと思います。
嘔吐時の説明もあるので安心です。
一般的な薬剤と同様に服用後30 分を基準に判断するみたいですね。
ちなみに、忘れてしまって直ちに服用する場合ですが、冊子の記載からもわかるように「食後」服用は気にする必要はないようです。
このあとにまとめていますが、食後服用の理由はバイオアベイラビリティを維持するためなので、服用忘れによる効果の減弱を考えれば直ちに服用することの方が大切なんだと思います。
添付文書・IF・審議結果報告書を読み解く
ここからは、イグザレルトDSの用法・用量につい、添付文書、インタビューフォーム、審議結果報告書を読み解きながら掘り下げてみます。
イグザレルトDS小児用の用法・用量
6. 用法及び用量
通常、体重2.6kg以上12kg未満の小児には下記の用量を1回量とし、1日3回経口投与する。体重12kg以上30kg未満の小児にはリバーロキサバンとして5㎎を1日2回、体重30kg以上の小児には15mgを1日1回経口投与する。いずれも空腹時を避けて投与し、1日1回、2回及び3回投与においては、それぞれ約24時間、約12時間及び約8時間おきに投与する。引用元:イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書
マーカーをつけましたが、イグザレルトDSの用法・用量には大きく分けて3つの特徴があります。
- 体重30kg未満については体重ごとに用量設定
- 体重によって1日服用回数が異なる
- 12kg未満:1日3回(8時間おき)
- 12kg以上30kg未満:1日2回(12時間おき)
- 30kg以上:1日1回(24時間おき)
- 食後に服用する(空腹時を避ける)
体重ごとの投与量・服用回数(用法・用量)
用法・用量がどのように設定されたかは審議結果報告書に記載されています。
全部詳しくまとめるとかなり長くなるので簡単に紹介します。
7. 臨床的有効性及び臨床的安全性に関する資料並びに機構における審査の概略
7.R 機構における審査の概略
7.R.7 用法・用量
7.R.7.1 用法・用量の妥当性について
機構は、以下のように考える。「6.R.2 国際共同第Ⅲ相試験(試験14372)における用法・用量について」の項で議論したとおり、試験14372における検討用法・用量は、小児において成人と同程度の曝露量を達成するという観点からは妥当である。当該用法・用量で実施された試験14372の結果、全体集団で標準治療に劣らない本薬の有効性及び許容可能な安全性が示され、成人のVTE患者での試験成績とも齟齬のない結果であったことから、設定用法・用量の臨床的な妥当性も示されたと判断する。また、少人数での検討ではあるが、日本人集団においても外国人小児と同様のPKと有効性が得られることが推定でき(「6.R.1 小児におけるPK及びPDの国内外差について」、「7.R.3.2 試験14372における有効性の評価について」の項参照)、安全性についても特段の問題は認められなかったことから(「7.R.4 安全性について」の項参照)、日本人小児のVTE患者においても、試験14372における設定用法・用量を用いることが妥当であると判断する。引用元:イグザレルト錠10mg、同錠15mg、同細粒分包10mg、同細粒分包15mg、同OD錠10mg及び同OD錠15mgの一部変更承認申請並びにイグザレルトドライシロップ小児用51.7mg及び同ドライシロップ小児用103.4mgの承認申請に関する審議結果報告書
上記の通り、試験14372(国際共同第Ⅲ相試験)において設定された用法・用量がそのままイグザレルトDSの用法・用量として採用されています。
その試験14372における用法・用量ですが、下の記載を見るとどのように設定されたかがわかります。
6. 生物薬剤学試験及び関連する分析法、臨床薬理試験に関する資料並びに機構における審査の概略
6.R 機構における審査の概略
6.R.2 国際共同第Ⅲ相試験(試験14372)における用法・用量について
試験14372においては、小児のVTE患者での本薬の曝露量が、成人のVTE患者で有効性及び安全性が示されている本薬の曝露量の範囲内となるような用法・用量に設定することとした。
(省略)
15歳未満では日本人と白人で体重に大きな差異は認められない一方、15歳以上では日本人の体重は白人と比較して約15〜20%小さいこと(CDC Centers for Disease Control and Prevention, Clinical Grows Charts 2000、Health Phys 1997; 72: 368-83等)、及び成人のDVT/PE患者に対する維持治療期の本薬の用法・用量は非日本人(本薬20mgを1日1回投与)と日本人(本薬15mgを1日1回答よ)で異なることを考慮し、試験14372では、体重50kg以上の日本人小児における本薬の用法・用量は、非日本人小児(の用法・用量(20mgの1日1回投与)とは異なり、本薬15mgの1日1回投与とした。なお、非日本人小児のPBPKモデル及び日本人小児のPBPKモデルを用いたシミュレーションの結果から、体重50kg未満の小児では体重で調整した同じ用法・用量により、体重50kg以上の小児では非日本人小児に対して20mgの1日1回投与、日本人小児に対して15mgの1日1回投与により、本薬のPKは日本人小児と非日本人小児で類似すること、及び成人と同程度の曝露量が得られることが示唆された。引用元:イグザレルト錠10mg、同錠15mg、同細粒分包10mg、同細粒分包15mg、同OD錠10mg及び同OD錠15mgの一部変更承認申請並びにイグザレルトドライシロップ小児用51.7mg及び同ドライシロップ小児用103.4mgの承認申請に関する審議結果報告書
- 体重50kg以上:15mg 1日1回投与(日本人成人の投与量と同じ)
- 体重50kg未満:20mg 1日1回投与と同程度の曝露量になるよう体重で調整(非日本人の投与量と同じ)
ということで、イグザレルトDSの小児用量は成人量に換算するとイグザレルト20mg相当になるように設計されています。
体重ごとの服用回数については下の記載。
6. 生物薬剤学試験及び関連する分析法、臨床薬理試験に関する資料並びに機構における審査の概略
6.R 機構における審査の概略
6.R.2 国際共同第Ⅲ相試験(試験14372)における用法・用量について
・体重30kg以上40kg未満の小児では、成人の曝露量とより一致させるために、本薬10mg 1日1回投与から15mg 1日1回投与へ増量した。
・体重12kg以上30kg未満の小児では、第Ⅱ相試験の結果、及び日本人小児のPBPKモデルを用いた予測(CTD5.3.3.5.5)に基づき、本薬の用法を1日2回投与とすることで成人の曝露量とより一致することが示唆されたことから、試験14372で設定する本薬の用法は1日2回とした。
・体重12kg未満の小児では、生後0カ月以上6カ月未満の小児を対象とした海外第Ⅰ/Ⅱ相試験(試験17618)の結果から、当該集団の曝露量を成人の曝露量の範囲に近づけるためには本薬の用法を1日3回とした。引用元:イグザレルト錠10mg、同錠15mg、同細粒分包10mg、同細粒分包15mg、同OD錠10mg及び同OD錠15mgの一部変更承認申請並びにイグザレルトドライシロップ小児用51.7mg及び同ドライシロップ小児用103.4mgの承認申請に関する審議結果報告書
試験14373、試験14374の結果を元に検討を重ね、試験14372における用法・用量、つまりはイグザレルトDSの用法・用量は設定されたことがわかります。
食事の影響
食事の影響について、まずは添付文書の記載を確認します。
16.2 吸収
16.2.1 バイオアベイラビリティ
リバーロキサバン5mg及び20mgを空腹時に経口投与した際、絶対的バイオアベイラビリティはそれぞれ112%及び66%であった(外国人データ)。引用元:イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書
リバーロキサバン5mgと20mg(国内未承認規格)を空腹経口投与した際の絶対的バイオアベイラビリティから、リバーロキサバンを空腹時投与した際のバイオアベイラビリティは用量依存的に低下することが予想されます。
16.2 吸収
16.2.2 食事の影響
(1) リバーロキサバン20mgを食後に投与した際、AUCは空腹時投与した際と比較し39%増加した(外国人データ)。
(2) 日本人若年健康成人男子11例に、リバーロキサバン15mgを空腹時及び食後に単回経口投与した際、食後投与時にはtmaxの遅延が認められたが、AUC、Cmaxに影響は認められなかった。引用元:イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書
リバーロキサバン20mgについては食後投与に変更することでAUCが増加していますが、15mgについてはAUC、Cmaxともに影響なし。
これだけだと少しわかりにくいのでインタビューフォームの記載を確認します。
15mgに加えて10mgについての空腹時投与と食後投与の血漿中濃度推移の比較が記載されていますが、「tmaxに約0.5時間の遅延が認められたが、AUC、Cmaxに影響は認められなかった」ということで15mgと同様の結果になっています。
気になるのは最後に記載されている20mgについての記述です。
VII.薬物動態に関する項目
1.血中濃度の推移
(4)食事・併用薬の影響
■食事の影響
一方、健康成人男子24例に、本剤20mgを空腹時又は食後(900kcal以上、脂肪のエネルギーが占める割合35%以上)を投与した際、食後投与時には吸収が遅延するとともに、AUC及びCmaxがそれぞれ39%及び76%増加した。
この理由として、本剤は水に溶けにくいため、空腹時に投与した際には吸収率が低下したが、高脂肪食摂取により吸収が増加し、バイオアベイラビリティが改善したことによると考えられた。引用元:イグザレルト錠・OD錠・細粒分包 10mg 15mg ドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg インタビューフォーム
以下の部分にはもう少し詳しく書かれています。
VII.薬物動態に関する項目
4.吸収
■吸収部位:消化管 54)
■バイオアベイラビリティ
(参考:外国人データ)
健康成人において、本剤1mgの静脈内投与に対する本剤5mg錠の空腹時単回経口投与時の絶対的バイオアベイラビリティは112%、20mg錠では66%であった。これは、リバーロキサバンの水への溶解性の低さにより、高用量を空腹時に投与した際は、吸収率が低下するためと考えられ、20mg錠を食後に投与した際は空腹時に比べ曝露量が1.39倍であった。そのため10〜15mg食後投与時には100%と推定される。小児に静脈内投与したときの薬物動態成績は得られていないため、小児におけるリバーロキサバンの絶対的バイオアベイラビリティは不明である。成人での成績と同様に、小児においても体重あたりの投与量(mg/kg)の増加に伴う相対的バイオアベイラビリティの低下が認められた。引用元:イグザレルト錠・OD錠・細粒分包 10mg 15mg ドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg インタビューフォーム
リバーロキサバンが脂溶性であるため、服用量が増えると溶けない部分が増えてバイオアベイラビリティが低下します。
つまり、高用量になればなるほど、食事の有無による影響を受けるということになります。
これは小児についても同様で、体重当たりの投与量が増加することで、相対的バイオアベイタビリティが低下すると記載されています。
さらに詳しい内容は審議結果報告書に記載されています。
6. 生物薬剤学試験及び関連する分析法、臨床薬理試験に関する資料並びに機構における審査の概略
6.R 機構における審査の概略
6.R.4 用法・用量における食事の規定及び投与間隔について
成人において、本薬を空腹時投与したときのバイオアベイラビリティは本薬5mg投与時と比較して本薬20mg投与時で低いこと、及び本薬20mgを投与した時のAUCは空腹時投与と比較して食後投与で増加することが示されており、本薬を高用量で空腹時投与したときに認められた吸収の飽和は食後投与により改善されることが示されている(「イグザレルト錠10mg、同錠15mg」の初回承認時資料参照)。小児のVTE患者に対しては、外国人成人に本薬20mgを1日1回投与したときの曝露量と同程度の曝露量が得られるような用法・用量で翻訳が投与されることを踏まえ、小児を対象とした臨床試験における本薬の用法は、成人と同様に食後投与とした。引用元:イグザレルト錠10mg、同錠15mg、同細粒分包10mg、同細粒分包15mg、同OD錠10mg及び同OD錠15mgの一部変更承認申請並びにイグザレルトドライシロップ小児用51.7mg及び同ドライシロップ小児用103.4mgの承認申請に関する審議結果報告書
用法・用量の部分で説明しましが、イグザレルトDSの小児用量は成人20mg相当の曝露量になるように設計されているため、食事なしでは吸収の飽和が生じる可能性があります。
そのため、成人の用法と同じく食後服用に設定されたというわけです。
審査の中では、小児に対する食後投与が現実的に可能なのかどうか、食後投与と約8時間おきの投与が両立可能であるかについても以下のように説明されています。
6. 生物薬剤学試験及び関連する分析法、臨床薬理試験に関する資料並びに機構における審査の概略
6.R 機構における審査の概略
6.R.4 用法・用量における食事の規定及び投与間隔について
また、乳幼児では本薬の投与を確実とするために経管投与や食物と同時の投与も可能な規定とした。投与間隔については、試験14372では1日の投与回数に応じて下記のタイミングを設定し、食後の本薬の投薬時間には一定の幅を設けた。
・1日1回:朝食中又は朝食後2時間以内に服用
・1日2回:朝食中俣は朝食後1時間以内に1回、夕食中又は夕食後1時間以内に1回内服
・1日3回:朝、昼、夜の食事中または食後30分以内
その上で、食事中に本薬を投与した患者も一定数含まれていると考えられる試験14372において、小児のVTE患者での本薬の曝露量は成人のVTE患者の範囲内となることが示されたことから、体重で調整した用法・用量で本薬を投与した場合、食後(食直後も含む)投与又は食事中投与のいずれにおいても必要とする曝露量が達成されると考え、小児における本薬の申請用法・用量として、成人と同様に食後投与を設定した。また、試験14372での規定と同様に、小児において確実な投与を可能とするため、食事中に服用させることもできる旨、及び本薬投与時に食事の際の飲み物又は乳を直ちに飲ませる必要がある旨をあわせて情報提供する。
(省略)
体重12kg未満の小児の年齢は概ね2歳未満であり、12kg未満の小児の中でも特に低年齢の小児では、頻回の授乳や間食の機会も多いことから、約8時間おきの食後投与を行うことは可能と考えており、試験14372においても実施中に設定された用法・用量に関する不具合は報告されなかった。なお、試験14372で本薬の1日3回投与が行われた多くの患者では、朝6〜8時、昼14〜16時、夜20〜23時の時間帯に本薬が投与されていたことが報告されている。引用元:イグザレルト錠10mg、同錠15mg、同細粒分包10mg、同細粒分包15mg、同OD錠10mg及び同OD錠15mgの一部変更承認申請並びにイグザレルトドライシロップ小児用51.7mg及び同ドライシロップ小児用103.4mgの承認申請に関する審議結果報告書
これを読むと食後投与に含まれる範囲は広く、食事中でも可能、食直後でなくても問題ないようですね。
また、体重12kg未満の1日3回食後投与についての考え方も、年齢的に食事(授乳)の機会が多いため対応可能というのも納得できるものだと思います。
まとめ
今回の記事ではイグザレルトドライシロップ小児用についてまとめました。
小児VTEの治療では注射の抗凝固剤を用いることが多く、出血を防止するために臨床検査値をモニタリングしながら用量調節を行う必要がありました。
ですが、経口第Xa因子阻害剤であるイグザレルトが小児適応を取得し、体重ごとに用量調節可能なドライシロップ製剤が登場したことで、安全性を保った治療を行うことが可能になるんじゃないかと思います。
小児VTEは成人VTEに比較すれば稀な疾患になりますが、NOACが適応となることで治療が大きく変化するのではないかと思います。
服用の難しさ
ですが、服用に際して患児の保護者の方には希釈・調整と計量方法等を身につけてもらう必要があります。
特に希釈の段階でミスをしてしまうと薬が使用できなくなってしまったり、正確な投与量を保てなくなってしまう可能性があります。
濃度が薄くなった結果、投与量が少なくなれば効果はなくなりますし。濃度が濃くなってしまった結果、投与量が多くなれば出血リスクが高まります。
服用時の計量に関しても同様ですね。
調剤するケースは限られるかもしれませんが、急な場合でも対応できるよう準備をしておきたい薬剤の一つだと思います。
説明用の冊子や動画もあるので、それらを利用して、正確な手技を身につけてもらえるように。
何よりも安心してお子さんに飲ませてもらえるような服薬指導を行いたいですね。
添付文書・IF・審議結果報告書から情報を得る楽しさ
この記事の後半では、用法・用量の設定ついて詳しく掘り下げてみました。
添付文書、インタビューフォーム、審議結果報告書を用いて掘り下げましたが、改めて、これらの文書だけでほとんどのことは理解できるなと実感しました。
たまにこうやって読み込んで見ると面白くないですか?
これまで、あまり添付文書やインタビューフォーム、審議結果報告書を読み込むことがなかった方のきっかけになれば嬉しいです。
参考
- イグザレルトドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg 添付文書 バイエル薬品
- イグザレルト錠・OD錠・細粒分包 10mg 15mg 添付文書 バイエル薬品
- イグザレルト錠・OD錠・細粒分包 10mg 15mg ドライシロップ小児用 51.7mg 103.4mg インタビューフォーム バイエル薬品
- イグザレルト錠10mg、同錠15mg、同細粒分包10mg、同細粒分包15mg、同OD錠10mg及び同OD錠15mgの一部変更承認申請並びにイグザレルトドライシロップ小児用51.7mg及び同ドライシロップ小児用103.4mgの承認申請に関する審議結果報告書
- イグザレルト適正使用ガイド[小児VTE]
- イグザレルトを服用されるお子さまとそのご家族へ(配布用冊子)
- イグザレルトを服用する患者さんへ