厚生労働省の薬食審医薬品第二部会が平成30年8月29日に開催されました。
今回の部会では新薬4製品の承認について審議が行われ、すべて了承されています。
新規有効成分を含有する医薬品
今回審議されたのは全て新規成分を含有する医薬品です。
ゾスパタ錠
- 医薬品名:ゾスパタ錠40mg
- 成分名:ギルテリチニブフマル酸塩
- 申請者:アステラス製薬
- 効能・効果:再発または難治性のFLT3遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病
- 用法・用量:1日1回120mgを経口投与する
- 指定等:
- 希少疾病用医薬品
- 先駆け審査指定医薬品
ギルテリチニブは世界初のFLT3/AXL阻害剤です。
FLT3*1遺伝子変異陽性の急性骨髄性白血病(AML*2)に対する治療薬は初めてです。
今回の承認が了承された内容では「再発または難治性」AMLに限られていますが、現在、その制限を外すべく治験が行われているようです。
FLT3/AXL阻害剤ギルテリチニブの作用機序
FLT3受容体は細胞増殖に関するシグナル伝達に関わっていますが、FLT3遺伝子に変異が起こることで、未成熟の白血球細胞が増殖し、ガン化が引き起こされてしまいます。
また、AXL受容体はがん細胞の増殖と薬剤耐性に関与しています。
ギルテリチニブはFLT3とAXLの2つを同時に阻害することで急性骨髄性白血病における腫瘍細胞の増殖と、薬剤耐性の獲得を抑制することができる薬剤です。
FLT3とAXLの2つのシグナル伝達を同時に阻害する薬剤は世界で初めてになります。
先駆け審査指定医薬品
ギルテリチニブは先駆け審査指定医薬品です。
先駆け審査指定についてPMDAのサイトから引用します。
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/topics/tp150514-01.html
患者に世界で最先端の治療薬を最も早く提供することを目指し、一定の要件を満たす画期的な新薬等について、開発の比較的早期の段階から先駆け審査指定制度の対象品目(以下「対象品目」という。)に指定し、薬事承認に係る相談・審査における優先的な取扱いの対象とするとともに、承認審査のスケジュールに沿って申請者における製造体制の整備や承認後円滑に医療現場に提供するための対応が十分になされることで、更なる迅速な実用化を図るものです。
ローブレナ錠
- 医薬品名:
- ローブレナ錠25mg
- ローブレナ錠100mg
- 成分名:ロルラチニブ
- 申請者:ファイザー
- 効能・効果:ALKチロシンキナーゼ阻害剤に抵抗性または不耐性のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
- 用法・用量:1日1回100mgを経口投与する。
- 指定等:条件付き早期承認制度適用医薬品
ロルラチニブは第3世代の未分化リンパ腫キナーゼ(ALK*3)阻害剤です。
他のALK阻害剤に対する耐性変異を有する非小細胞肺がんに対しても効果を発揮します。
現在承認されている、非小細胞肺がんに対するALK阻害薬は以下の通りです。
- 第1世代 ALK阻害薬:クリゾチニブ(ザーコリカプセル)
- 第2世代 ALK阻害薬:
- アレクチニブ(アレセンサカプセル)
- セリチニブ(ジカディアカプセル)
ロルラチニブは第3世代のALK阻害薬に位置付けられます。
条件付き早期承認制度
ロルラチニブは条件付き早期承認制度が適用される初めての薬になります。
条件付き早期承認制度についてPMDAのサイトから引用します。
医薬品条件付早期承認制度への対応 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
重篤な疾患であって有効な治療法が乏しく患者数が少ない疾患等を対象とする医薬品について、我が国での治験実施が困難、あるいは実施可能であっても治験の実施にかなりの長時間を要すると認められる場合に、承認申請時に検証的臨床試験以外の臨床試験等で一定程度の有効性及び安全性を確認した上で、製販後に有効性・安全性の再確認等のために必要な調査等を実施すること等を承認条件により付与する取扱い等を整理し、明確化することにより、企業における開発予見性を高め、早期の実用化を促進する
フィラジル皮下注
- 医薬品名:フィラジル皮下注30mgシリンジ
- 成分名:イカチバント酢酸塩
- 申請者:シャイアー・ジャパン
- 効能・効果:遺伝性血管性浮腫の急性発作
- 指定等:希少疾病用医薬品
遺伝性血管性浮腫(HAE*4)とは、遺伝子の異常により、補体第1成分阻害因子(C1インヒビター)の機能が損なわれるために起きる疾患です。
体のあらゆるところに浮腫が現れるのが症状ですが、激しい腹痛や窒息を起こすことがあります。
そのため、急性発作への対応が重要になります。
これまで急性発作へ使用できる薬剤はベリナートP静注用(人C1‐インアクチベーター)しか存在しませんでした。
今回審議されたフィラジル皮下注は、皮下注製剤なので自己注射が可能になります。
作用機序も異なり、C1インヒビターを補充するのではなく、急性発作に関与するブラジキニンの働きを抑制するものです。
ジビイ静注用
- 医薬品名:
- ジビイ静注用250
- ジビイ静注用500
- ジビイ静注用100
- ジビイ静注用2000
- ジビイ静注用3000
- 成分名:ダモクトコグ アルファ ペゴル(遺伝子組換え)
- 申請者:バイエル薬品
- 効能・効果:血液凝固第8因子欠乏患者における出血傾向の抑制
PEG化することで半減期を延長した遺伝子組換え第8因子製剤です。
血友病Aに対する治療薬で2歳以上の患者に対して週2回使用します。
状態に応じて、5日ごと、または週1回の用法・用量が定められているようです。
報告品目
報告品目とは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査段階で薬食審の部会では審議は不要、報告のみで問題ないと判断されたものです。
既に承認されている医薬品と同じ薬理作用に基づく効能効果の追加や剤形追加、規格追加などが対象となることが多いです。
パージェタ点滴静注の適応拡大
- 医薬品名:パージェタ点滴静注420mg/14mL
- 成分名:ペルツマブ(遺伝子組換え)
- 申請者:中外製薬
- 追加される効能・効果:「HER2陽性の手術不能又は再発乳癌」に術後補助療法が追加
現在の適応は「HER2陽性の手術不能または再発乳がん」で、添付文書には以下のような記載もあります。
効能又は効果に関連する使用上の注意
2.本剤の手術の補助化学療法としての有効性及び安全性は確立していない。
承認されれば、適応拡大に伴いこの文章もなくなるはずですね。
アドセトリス点滴静注の適応拡大
- 医薬品名:アドセトリス点滴静注用50mg
- 成分名:ブレンツキシマブベドチン(遺伝子組換え)
- 申請者:武田薬品
- 効能・効果:再発又は難治性のCD30陽性の下記疾患(ホジキンリンパ腫、未分化大細胞リンパ腫)→CD30陽性ホジキンリンパ腫から「再発又は難治性」削除
「再発又は難治性」の制限がなくなることで、「CD30陽性ホジキンリンパ腫」に対しては第一選択で使用可能になります。
小腸ガンに対するFOLFOX療法が正式な効能・効果として追加
適応追加となる医薬品名
- オキサリプラチン
- エルプラット点滴静注液50mg
- エルプラット点滴静注液100mg
- エルプラット点滴静注液200mg(ヤクルト本社)
- オキサリプラチン点滴静注液50mg「サワイ」
- オキサリプラチン点滴静注液100mg「サワイ」
- オキサリプラチン点滴静注液200mg「サワイ」(沢井製薬)
- オキサリプラチン点滴静注液50mg「NK」
- オキサリプラチン点滴静注液100mg「NK」
- オキサリプラチン点滴静注液200mg「NK」(日本化薬)
- オキサリプラチン点滴静注液50mg「ニプロ」
- オキサリプラチン点滴静注液100mg「ニプロ」
- オキサリプラチン点滴静注液200mg「ニプロ」
- オキサリプラチン点滴静注液50mg「DESP」
- オキサリプラチン点滴静注液100mg「DESP」
- オキサリプラチン点滴静注液200mg「DESP」(第一三共エスファ)
- フルオロウラシル
- 5-FU注250mg
- 5-FU注1000mg(協和発酵キリン)
- レボホリナートカルシウム
- アイソボリン点滴静注用25mg
- アイソボリン点滴静注用100mg(ファイザー)
- レボホリナートカルシウム点滴静注用25mg「オーハラ」
- レボホリナートカルシウム点滴静注用100mg「オーハラ」(大原薬品)
- レボホリナートカルシウム点滴静注用25mg「ヤクルト」
- レボホリナートカルシウム点滴静注用100mg「ヤクルト」
- レボホリナートカルシウム点滴静注用25mg「NK」
- レボホリナートカルシウム点滴静注用100mg「NK」(高田製薬)
- レボホリナートカルシウム点滴静注用25mg「NP」
- レボホリナートカルシウム点滴静注用100mg「NP」(ニプロ)
小腸がんに対するFOLFOX*5療法が正式な適応となります。
すでに公知申請が認められているので保険適用にはなっています。
ブスルフェクス点滴静注用に新用量追加
- 医薬品名:ブスルフェクス点滴静注用60mg
- 成分名:ブスルファン
- 申請者:大塚製薬
- 効能・効果:
- 同種造血幹細胞移植の前治療
- ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、神経芽細胞腫における自家造血幹細胞移植の前治療
- 追加される用法・用量:1日1回の用法が追加
1日1回の用法・用量を追加になります。
(現在は「6時間毎に1日4回」)
ミコナゾールの新剤型 オラビ錠口腔用
- 医薬品名:オラビ錠口腔用50mg
- 成分名:ミコナゾール
- 申請者:そーせい
- 効能・効果:カンジダ属による口腔咽頭カンジダ症
- 用法・用量:1日1回
口腔用ミコナゾールの新剤型です。
現在はフロリードゲル経口用2%が存在しますが、錠剤タイプは初めてです。
錠剤といっても、1日1回、上顎歯肉に付着させて使用する形のようです。
ハーセプチンのバイオシミラー トラスツズマブBS点滴静注用
- 医薬品名:
- トラスツズマブBS点滴静注用60mg「ファイザー」
- トラスツズマブBS点滴静注用150mg「ファイザー」
- 成分名:トラスツズマブ(遺伝子組換え)[トラスツズマブ後続3]
- 申請者:
- 効能・効果:
- HER2過剰発現が確認された乳がん
- HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃がん
- 用法・用量:HER2過剰発現が確認された乳癌にはA法を使用する。
HER2過剰発現が確認された治癒切除不能な進行・再発の胃癌には他の抗悪性腫瘍剤との併用でB法を使用する。- A法:通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)[トラスツズマブ後続2]として初回投与時には4mg/kg(体重)を、2回目以降は2mg/kgを90分以上かけて1週間間隔で点滴静注する。
- B法:通常、成人に対して1日1回、トラスツズマブ(遺伝子組換え)[トラスツズマブ後続2]として初回投与時には8mg/kg(体重)を、2回目以降は6mg/kgを90分以上かけて3週間間隔で点滴静注する。
なお、初回投与の忍容性が良好であれば、2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。
バイオ後続品。再審査期間なし。
ハーセプチンのバイオ後続品(バイオシミラー)。
トラスツズマブ後続2(第一三共)が8月2日の医薬品第二部会で報告品目としてあがっていましたが、それに続くものです。
やはり、先行品とは適応・用法に違いがありますが、トラスツズマブ後続3はトラスツズマブ後続2と同様です。
ハーセプチンとトラスツズマブBSの適応等の違い
先行品とトラスツズマブ後続それぞれの効能効果、用法用量の違いについてまとめます。
製品名 | 効能・効果(用法・用量) | ||
---|---|---|---|
乳がん | 胃がん | ||
A法 | B法 | B法(他の抗悪性腫瘍剤との併用) | |
ハーセプチン (先行品) | ○ | ○ | ○ |
トラスツズマブBS点滴静注用「NK」 トラスツズマブBS点滴静注用「CTH」 (トラスツズマブ後続1) | – | – | ○ |
トラスツズマブBS点滴静注用「第一三共」 (トラスツズマブ後続2) トラスツズマブBS点滴静注用60mg「ファイザー」 (トラスツズマブ後続3) | ○ | – | ○ |