令和元年12月3日、厚生労働省医薬・生活衛生局は、新たな副作用が確認された医薬品等について、添付文書の使用上の注意を改訂するよう日本製薬団体連合会に通知しました。
今回は4つの薬剤について改訂指示が出されています。
※副作用に関する記載を中心とした記事ですが、あくまでも医療従事者を対象とした記事です。副作用の追加=危険な薬剤というわけではないのがほとんどです。服用に際して自己判断を行わず医療従事者の指示にしたがってください。
使用上の注意の改訂指示(令和元年12月3日)
PMDAへのリンクを貼っておきます。
令和元年度指示分 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
添付文書の改訂が実施されたのは以下の4つです。
- メカセルミン(ソマゾン注射用):良性腫瘍及び悪性腫瘍
- アテゾリズマブ(テセントリク点滴静注):血球貪食症候群
- オシメルチニブメシル酸塩(タグリッソ錠):うっ血性心不全、左室駆出率低下
- ビラスチン(ビラノア錠):ショック、アナフィラキシー
ちなみに、今年度からpmdaが発出する改定案の一部は旧記載要領と新記載要領の両方が掲載されるようになっています。
- 旧記載要領:「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(平成9年4月25日付け薬発第606号局長通知)
- 新記載要領:「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」(平成29年6月8日付け薬生発0608第1号局長通知)に基づく改訂
現時点で各医薬品が採用している記載方式に従ってまとめます。
メカセルミン(ソマゾン)による良性腫瘍及び悪性腫瘍
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
メカセルミン(遺伝子組換え)
- ソマゾン注射用10mg
改訂指示の内容
「効能・効果に関連する使用上の注意」の項に「良性腫瘍及び悪性腫瘍」についての記載が追記され、「2.重要な基本的注意」の項にあった「腺癌を含む乳腺腫瘍」が「効能・効果に関連する使用上の注意」の項に移されます。
【旧記載要領】に従ってまとめます。
添付文書 > 「効能・効果に関連する使用上の注意」に以下の内容が追記されます。
<効能・効果に関連する使用上の注意>
本剤の適用にあたっては、以下の点を踏まえ、患者における本剤の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
- 関連性は明らかではないが、国内外において、メカセルミンによる治療中又は治療終了後に良性腫瘍及び悪性腫瘍が発生したとの報告がある
- SD系ラットに本剤を53週間投与した動物実験において腺癌を含む乳腺腫瘍が発生したとの報告がある
これに伴い添付文書 > 「使用上の注意」 > 「2.重要な基本的注意」の以下の内容が削除されています。
2.重要な基本的注意
(1)SD 系ラットに本剤を 53 週間投与した動物実験において腺癌を含む乳腺腫瘍が発生したとの報告があるので、本剤の適用にあたっては患者における本剤の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
引用元:ソマゾン注射用10mg 使用上の注意改訂のお知らせ
また、添付文書 > 「主要文献及び文献請求先」に論文が追加されています。
【主要文献及び文献請求先】
1. 主要文献
1) Jo, W. et al.:Clin. Pediatr. Endocrinol. 22(2) : 33-38, 2013引用元:ソマゾン注射用10mg 使用上の注意改訂のお知らせ
報告内容
直近3年度の国内での「良性腫瘍及び悪性腫瘍関連症例」の報告はありませんでした。
ですが、ヒトインスリン様成長因子-Iと腫瘍発生との関連性を踏まえ、今回の添付文書改訂に至りました。
【改訂理由】
本剤の成分であるメカセルミンと同一物質であるヒトインスリン様成長因子-Iと腫瘍発生との関連性を示唆する公表論文が複数報告されていること、並びに、関連性は明らかではないが良性腫瘍及び悪性腫瘍に関連する国内及び海外での症例が報告されていることから、注意喚起が必要と判断されたため。引用元:ソマゾン注射用10mg 使用上の注意改訂のお知らせ
監査で活かすべきこと
メカセルミン(遺伝子組換え)は遺伝子組換え法により製造されたヒト ソマトメジンC(ヒト インスリン様成長因子-1(IGF-1*1))です。
インスリン様効果と細胞成長促進作用を持つ性質上、腫瘍細胞を増殖させてしまう副作用が否定できません。
元々、腫瘍に関する記載があった様に、腫瘍の発生については考慮されるべき薬剤ですが、それを再度確認すべき改訂内容・・・といったところでしょうか。
アテゾリズマブ(テセントリク)による血球貪食症候群
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
アテゾリズマブ(遺伝子組換え)
- テセントリク点滴静注840mg
- テセントリク点滴静注1200mg
改訂指示の内容
「重大な副作用」の項に「血球貪食症候群」についての記載が追記されます。
【旧記載要領】に従ってまとめます。
添付文書 > 「使用上の注意」 > 「3. 副作用」 > 「(1)重大な副作用」に以下の内容が追記されます。
3. 副作用
(1)重大な副作用
16)血球貪食症候群:血球貪食症候群(頻度不明)があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には本剤の投与を中止し、適切な処置を行うこと。
引用元:テセントリク点滴静注840mg、1200mg 使用上の注意改訂のお知らせ
報告内容
直近3年度の国内での「血球貪食症候群関連症例」の報告は8例、そのうち因果関係が否定できないものは6例ありました。
死亡例は1例で因果関係が否定できないものでした。
このように市販後に因果関係が否定できない症例報告が集積されたため、添付文書の改訂に至りました。
監査で活かすべきこと
血球貪食症候群(HPS*2またはHLH*3)とは、何らかの理由でマクロファージやリンパ球の過剰反応が持続してしまい、自らの血球(血小板、赤血球、白血球)を食べてしまう疾患です。
症状は多岐に渡り、発熱、皮疹、肝臓・脾臓の肥大、リンパ節腫張、出血症状、播種性血管内凝固症候群(DIC*4)、けいれん、肺浸潤、腎障害、下痢、顔面浮腫、感染症など様々です。
薬剤の性質上、同様の症状に注意を払っているとは思いますが、感染症が疑われるような症状や出血傾向、特徴的な症状としてはお腹の張りに注意する必要があります。
オシメルチニブメシル酸塩(タグリッソ)によるうっ血性心不全、左室駆出率低下
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
オシメルチニブメシル酸塩
- タグリッソ錠40mg
- タグリッソ錠80mg
改訂指示の内容
「11.1重大な副作用」の項に「うっ血性心不全、左室駆出率低下」についての記載が追記されます。
【新記載要領】に従ってまとめます。
添付文書 > 「11.1重大な副作用」に以下の内容が追記されます。
11.1重大な副作用
11.1.6 うっ血性心不全(頻度不明)、左室駆出率低下(頻度不明)
引用元:タグリッソ錠40mg・80mg 添付文書改訂のお知らせ(2019年12月)
報告内容
直近3年度の国内での「心不全関連症例」の報告は34例、そのうち因果関係が否定できないものは5例ありました。
死亡例は7例で因果関係が否定できないものはありませんでした。
このように市販後に因果関係が否定できない症例報告が集積されたため、添付文書の改訂に至りました。
監査で活かすべきこと
左室駆出率(LVEF)の低下は心不全(HFrEF*5)の原因となるので、今回は重篤副作用疾患別対応マニュアル うっ血性心不全を参考にしてまとめます。
B.医療関係者の皆様へ
1.早期発見と早期対応のポイント
(1)早期に認められる症状
労作時の息切れ、易疲労感、発作性の夜間呼吸困難 、咳嗽(せき)、血痰(泡沫状・ピンク色の痰)といった息苦しさ(肺うっ血症状)、および下腿浮腫、腹部膨満、食欲不振、陰嚢水腫、急激な体重増加といった全身うっ血症状が特徴的症状である。重症例では、尿量が低下(夜間多尿)し、手足の冷感、倦怠感、意識混濁といった低心拍出性循環不全症状が出現する。 感冒症状に似た喘息様のせきには注意を要する。
引用元:重篤副作用疾患別対応マニュアル うっ血性心不全
「動くと息が苦しい」、「足がむくむ」、「急に体重が増えた」、「咳とピンク色の痰」、「疲れやすい」といった症状に注意する必要があります。
ビラスチン(ビラノア)によるショック、アナフィラキシー
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
ビラスチン
- ビラノア錠20mg
改訂指示の内容
「重大な副作用」の項に「ショック、アナフィラキシー」についての記載が追記されます。
【旧記載要領】に従ってまとめます。
添付文書 > 「使用上の注意」 > 「4.副作用」 > 「(1)重大な副作用」に以下の内容が追記されます。
重大な副作用
ショック、アナフィラキシー(頻度不明):ショック、アナフィラキシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
引用元:改訂:ビラノア錠20mg
報告内容
直近3年度の国内での「ショック、アナフィラキシー関連症例」の報告は6例、そのうち因果関係が否定できないものは3例ありました。
死亡例はありませんでした。
このように市販後に因果関係が否定できない症例報告が集積されたため、添付文書の改訂に至りました。
監査で活かすべきこと
を参考に初期症状に気付いてもらえるような説明を行う必要があります。
B.医療関係者の皆様へ
1. 早期発見と早期対応のポイント
(4)患者や家族等、並びに医療関係者が早期に認識しうる症状 初発症状は、じんま疹や掻痒感、皮膚の紅潮・発赤などのことが多いが、一部の症例では皮膚症状は先行せず、下記の症状から出現することがあるので注意が必要である。
- 胃痛、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状
- 視覚異常、視野狭窄などの眼症状
- 嗄声、鼻閉、くしゃみ、咽喉頭の掻痒感、胸部の絞やく感、犬吠様咳そう、呼吸困難、喘鳴、チアノーゼなどの呼吸器症状
- 頻脈、不整脈、血圧低下などの循環器症状
- 不安、恐怖感、意識の混濁などの神経症状
引用元:
基本的にはアレルギー症状なのですが、それに限らず様々な症状が現れます。
アレルギー症状の悪化や吐き気、視力の異常や動悸、他にも不安感を感じるようなことがあればすぐに相談してくださいと伝える必要がありますね。