令和3年6月21日、厚生労働省医薬・生活衛生局は、新たな副作用が確認された医薬品等について、添付文書の使用上の注意を改訂するよう日本製薬団体連合会に通知しました。
オプジーボに対して使用上の注意の改訂指示が出されていますが、これは既承認の「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」において、オプジーボ、ベバシズマブと化学療法(カルボプラチン、パクリタキセル)の併用療法が可能となったことに伴うものです。
※副作用に関する記載を中心とした記事ですが、あくまでも医療従事者を対象とした記事です。副作用の追加=危険な薬剤というわけではないのがほとんどです。服用に際して自己判断を行わず医療従事者の指示にしたがってください。
使用上の注意の改訂指示(令和3年6月21日)
PMDAへのリンクを貼っておきます。
令和3年度指示分 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
- ニボルマブ(遺伝子組換え)(オプジーボ):発熱性好中球減少症
ちなみに、令和元年度からpmdaが発出する改定案の一部は旧記載要領と新記載要領の両方が掲載されるようになっています。
- 旧記載要領:「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(平成9年4月25日付け薬発第606号局長通知)
- 新記載要領:「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」(平成29年6月8日付け薬生発0608第1号局長通知)に基づく改訂
現時点で各医薬品が採用している記載方式に従ってまとめます。
ニボルマブ(オプジーボ)による発熱性好中球減少症
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
- ニボルマブ(遺伝子組換え)
- オプジーボ点滴静注20mg
- オプジーボ点滴静注100mg
- オプジーボ点滴静注120mg
- オプジーボ点滴静注240mg
改訂指示の内容
添付文書の重要な基本的注意と重大な副作用に赤色マーカーの内容が追加されます。
8.重要な基本的注意
〈切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌〉
8.9 本剤とカルボプラチン、パクリタキセル及びベバシズマブ(遺伝子組換え)を併用投与する際には、発熱性好中球減少症があらわれることがあるので、必要に応じて血液検査を行う等、患者の状態を十分に観察すること。
引用元:オプジーボ点滴静注 添付文書改訂のお知らせ
11.副作用
11.1 重大な副作用
11.1.5 重篤な血液障害
免疫性血小板減少性紫斑病(頻度不明、0.1%未満)、溶血性貧血(頻度不明、0.1%未満)、無顆粒球症(頻度不明、頻度不明)、発熱性好中球減少症(頻度不明、2.3%)等の重篤な血液障害があらわれることがある。また、本剤とカルボプラチン、パクリタキセル及びベバシズマブ(遺伝子組換え)との併用において、発熱性好中球減少症(15.8%注1)があらわれることがある。
注1)発現頻度はONO-4538-52試験から集計した。
引用元:オプジーボ点滴静注 添付文書改訂のお知らせ
その他、重大な副作用に記載されている各副作用の発現頻度(併用投与時)が修正されています。
改訂理由
切除不能な進行・再発の非扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象に、本剤、カルボプラチン、パクリタキセル及びベバシズマブ(遺伝子組換え)を併用投与した臨床試験成績より、上記の併用投与の臨床的有用性が示されたこと、上記の併用投与における発熱性好中球減少症の発現状況等から、専門委員の意見も踏まえた検討の結果、改訂することが適切と判断した。
引用元:ニボルマブ(遺伝子組換え)の「使用上の注意」等の改訂について
解説的なもの
少し気になったことを書き足します。
発熱性好中球減少症とは?
そもそも発熱性好中球減少症とはどんな状態を指すのでしょうか?
1.発熱性好中球減少症について
薬を用いたがんの治療に伴って好中球が減少している際に、体温が37.5度以上に発熱した状態のことを「発熱性好中球減少症」と呼びます。
2.原因
がんの治療に用いる薬の副作用によって、感染の原因となる病原体を排除する役割を担っている好中球が少なくなり、感染症にかかることによります。
3.発熱性好中球減少症が起きたときには
感染症の原因を抑えるための薬(抗菌薬など)や、熱を下げるための薬(解熱薬)を使うことがあります。
引用元:発熱性好中球減少症:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
併用薬での報告
カルボプラチン、パクリタキセル及びベバシズマブの併用療法が加わったことで「発熱性好中球減少症」の副作用が追記されたのですが、カルボプラチン、パクリタキセル、ベバシズマブにはこの副作用の報告があるのでしょうか?
気になったので調べてみました。
パクリタキセル(アブラキサン点滴静注用100mg)には下記の通り発熱性好中球減少症の記載があります。
重大な副作用
1.白血球減少などの骨髄抑制:
好中球減少(52.9%)、白血球減少(30.6%)、リンパ球減少(6.0%)、貧血[ヘモグロビン減少(31.3%)、ヘマトクリット値減少(1.1%)、赤血球減少(1.0%)等]、血小板減少(18.9%)、汎血球減少(0.4%)等があらわれることがあるので、末梢血液の観察を十分に行い、異常が認められた場合には、減量、休薬等適切な処置を行うこと。また、骨髄抑制の持続により、発熱性好中球減少症(3.0%)等の感染症の併発が報告されている。
引用元:アブラキサン点滴静注用100mg 添付文書
ベバシズマブ(アバスチン点滴静注用)にも下記の通り発熱性好中球減少症が記載されています。
11.副作用
11.1 重大な副作用
11.1.10 骨髄抑制
他の抗悪性腫瘍剤との併用において汎血球減少症(0.1%未満)、好中球減少(24.5%)、白血球減少(24.3%)、貧血(8.7%)、血小板減少(10.4%)があらわれることがある。なお、臨床試験で他の抗悪性腫瘍剤に本剤を併用した群において、併用していない群と比較して、高度の好中球減少症、発熱性好中球減少症の発現頻度が高まることが報告されている。
引用元:アバスチン点滴静注用 添付文書
カルボプラチン(パラプラチン注射液)には発熱性好中球減少症の記載はありませんが、その原因となる骨髄抑制の記載があります。
重大な副作用
1. 汎血球減少(0.1%未満)等の骨髄抑制:
汎血球減少,貧血(ヘモグロビン減少,赤血球減少,ヘマトクリット値減少),白血球減少,好中球減少,血小板減少,出血等があらわれることがあるので,末梢血液の観察を十分に行い,異常が認められた場合には,減量,休薬,中止等適切な処置を行うこと。
引用元:パラプラチン注射液 添付文書
こうしてみると、併用薬による影響で発熱性好中球減少症が起こりやすくなることがわかりますね。
参考
小野薬品工業からは以下のような形で添付文書改訂のお知らせが出されています。
抗PD-1抗体/抗悪性腫瘍剤「オプジーボ®点滴静注」 切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんを対象としたベバシズマブと化学療法による新たな併用療法の追加に関する添付文書の改訂
ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体「オプジーボ®(一般名:ニボルマブ)点滴静注」(以下、オプジーボ)について、既に承認されている「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」の効能又は効果において、オプジーボ、ベバシズマブ*と化学療法の新たな併用療法が可能となり、オプジーボの添付文書を改訂しましたので、お知らせします。
*ベバシズマブ(製品名:アバスチン® )は、抗悪性腫瘍剤/抗VEGF(Vascular Endothelial Growth Factor:血管内皮増殖因子)ヒト化モノクローナル抗体です。
引用元:抗PD-1抗体/抗悪性腫瘍剤「オプジーボ®点滴静注」 切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんを対象としたベバシズマブと化学療法による新たな併用療法の追加に関する添付文書の改訂
単純な副作用報告に基づく添付文書改訂とは意味が異なりますよね。
併用療法の追加に伴い副作用が増えるのは当然のことと言ってもいいのではないかと思います。
ちなみに、今回追加となった併用療法については以下のように紹介されています。
抗PD-1抗体/抗悪性腫瘍剤「オプジーボ®点滴静注」 切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんを対象としたベバシズマブと化学療法による新たな併用療法の追加に関する添付文書の改訂
今回の添付文書の改訂は、化学療法未治療の根治照射不能なIIIB/IV期又は再発の非扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)を対象に、オプジーボ、ベバシズマブと化学療法の併用療法群(オプジーボ併用療法群:275例)をプラセボ、ベバシズマブと化学療法の併用療法群(対照併用療法群:275 例)と比較評価した第III相TASUKI-52試験(ONO-4538-52)の結果に基づいています。本試験の中間解析において、オプジーボ併用療法群は対照併用療法群と比較して、主要評価項目である独立画像判定委員会の判定に基づく無増悪全生存期間(PFS)で統計学的に有意な延長を示しました。
引用元:抗PD-1抗体/抗悪性腫瘍剤「オプジーボ®点滴静注」 切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんを対象としたベバシズマブと化学療法による新たな併用療法の追加に関する添付文書の改訂