レグナイト〜レストレスレッグスの適応を持つガバペンチンのプロドラッグ

(2012.7.10の記事でしたが、加筆修正を行いました。)

ガバペンチンエナカルビル(商品名:レグナイト)がついに発売されました。
平成24年1月に承認は取得していたのですが、本日、平成24年7月10日、ついに発売です。

この薬の適応は「レストレスレッグス症候群(Restless Legs Syndrome:RLS)」、いわゆる「むずむず脚症候群」です。
「足むずむず病」とかいうこともありますし、「下肢静止不能症候群」という呼び名もあるようです。

レストレスレッグス症候群とは

レストレスレッグス症候群とは、安静時に主に下肢に不快な症状を感じる病気です。
症状の1つに「足がむずむずする」というものがあるため、むずむず足症候群とも呼ばれます。
足をじっとしていられない不快感、むずむず感、痒み、針で刺されるようなチクチク感、火照り、虫が這うような・・・など感じ方は様々です。
ひどい場合は、振動しているような感覚や、激しい痛みとして感じることもあります。
夜間に起こるイメージが強いですが、日中の椅子に座っているときのような下肢を動かさない状態で起こることもあります。
下肢だけでなく、腰にまで範囲が及ぶこともあります。

夜間のこうした症状が不眠につながり、日中の眠気として症状が現れることが多いです。
ストレスにより、心身症、うつ病の原因となることもあります。

レストレスレッグス症候群の原因は?

レストレスレッグス症候群の原因はまだはっきりとはわかっていませんが、以下の3つが考えられています。
簡単にまとめておきます。

ドパミン神経系の機能異常

この後に書いていますが、むずむず脚症候群に対しては、ドパミン作動薬が効果を示します。
そのことからわかるように、ドパミンの機能異常やドパミン欠乏が原因となっている可能性が高いと考えられています。

脳内貯蔵鉄の低下

むずむず脚症候群では、脳内の貯蔵鉄(フェリチン)が少なくなっている可能性があるという報告があります。
鉄はドパミン産生や放出機構、ドパミンD2受容体に関与しているため、ドパミン神経系の働きに大きく関与していることも知られています。
また、血清鉄濃度の日内変動(昼間に増えて夜少なくなる)を見ても、夜に症状が現れやすいRLSとの関係が考えられます。
血清鉄(トランスフェリン)についてはむしろ高くなっているという報告もあるので、日常の診察の中では見逃されやすいかもしれません。

遺伝的要因

RLS患者は家族内に同様の症状をもつ人が多いという報告があります。
特に、早期発症(45歳未満)のRLSではBTBD9などの複数の遺伝子が原因とされています。

レストレスレッグス症候群に対する適応を持つ薬剤

レストレスレッグス症候群に対しては非麦角系ドパミン作動薬が第一選択とされていました。
ビ・シフロール(成分名:プラミペキソール)が保険適応を取得しています。
※現在はニュープロパッチ(成分名:ロチゴチン)も適応を取得しています。

ドパミンアゴニストの問題点

ただし、プラミペキソールのようなドパミンアゴニストで問題になるのが長期連用時の反跳現象と症状促進です。

反跳現象

反跳現象というのは、薬の効果が切れた時にリバウンドのように症状が強く出てしまうものです。
ちょうど薬の効果が切れ始める深夜や早朝に症状が再発してしまいます。

症状促進現象

症状促進現象(強化現象、argumentation)も長期服用時に見られる症状で、服用開始前に比べて症状が悪化してしまう現象です。
夜間の症状発現が2時間以上早まる、症状の増悪、他の四肢への症状拡大などが知られています。
服用開始後、3〜4か月で見られ、5%以上の割合で発生するという報告もあります。

ガバペンチンの作用機序

ドパミンを介さない作用機序の薬を・・・ということで用いられていたのがガバペンチン(商品名:ガバペン)です。
抗てんかん薬であるガバペンチンですが、神経障害性疼痛やレストレスレッグス症候群にも効果を発揮するんですね。
他の抗てんかん薬とは異なる作用機序を持っているため・・・ということですね。
そのガバペンチンの作用機序ですが、まだ、はっきりとはわかっていませんが、大きく分けて2つあると言われています。
興奮系神経の抑制と、抑制系神経の増強です。

1、興奮系(グルタミン酸受容体)の抑制

ガバペンチンは脊髄後角の感覚神経終末に存在する電位依存性Ca2+チャネルのうち、α2δサブユニットヘ結合します。
これにより、興奮性神経の前シナプスへのカルシウム流入を抑制します。
その結果、主にグルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の遊離を抑制し、シグナル伝達の亢進や異常が正常化されます。
この機序により、ガバペンチンは抗けいれん作用を発揮するといわれています。

2、抑制系(GABA受容体)の増強

まず、ガバペンチンは脳内GABA量を増加させる効果があることがわかっています。
また、GABAトランスポーター(GAT1)の細胞内プールから細胞膜への移動を活性化することでGABAの取り込みが促進されることがわかっています。
これらの機序により、抑制性神経系であるGABA神経系機能を維持・増強し、抗けいれん作用を発揮すると言われています。

ガバペンチンの欠点

ただし、ガバペンチンには大きな欠点があります。
それは吸収の悪さ。
ガバペンチンは小腸上部に局在しているトランスポーターのシステムL(L-アミノ酸輸送体 L-type Amino acid Transporter 1:LAT1)を介した能動輸送で吸収されます。
そのため、

  • 血中濃度の個人差が大きい(血中濃度が予測しにくい)
  • 高用量で吸収量が飽和しまう→用量依存的な血中濃度の上昇を得ることが難しい
  • 血中濃度の立ち上がりが悪い

という問題があります。

レグナイト(ガバペンチンエナカルビル)

ガバペンチンの吸収における問題を改善するためにプロドラッグ化を行ったのがガバペンチンエナカルビルです。

ガバペンチンエナカルビルの吸収

プロドラッグ化により吸収が大きく変わっています。
ガバペンチンエナカルビルは、小腸から大腸の広い範囲に存在する

  • モノカルボン酸トランスポーターのタイプ1(MonoCarboxylate Transporter 1:MCT1)
  • ナトリウム依存性マルチビタミントランスポーター(Sodium-dependet MultiVitamin Transporter:SMVT)

の2つを介して吸収されるようになっています。
能動輸送に加え、pHに依存した受動拡散による吸収となったため、投与量に比例した血中濃度を得ることが可能になっています。

徐放錠とすることで効果を維持

さらに、レグナイトは速効型と遅効型の二重構造となっています。
ガバペンチンの半減期は5〜6時間程度なので、徐放錠とすることで血中濃度を維持できるようにしています。
ですので、粉砕や半割は不可ということになりますね。
やや大きめの錠剤なんですが、飲めない場合は別の薬剤(ビ・シフロールやニュープロパッチ)を検討しないといけません。
また、アルコールと同時接種することで、レグナイトの徐放性が失われ、成分が急速に溶出してしまいます。
薬剤の性質としてもアルコールは避けたいところですが、レグナイトについては製剤的な理由もあるというわけです。

保管上の注意

レグナイトを開封するとわかりますが、乾燥剤が封入された保管用のアルミ袋が2つ付いています。
(この画像の奥のやつです)
f:id:pkoudai:20160713215631j:plain
さらに、レグナイトのPTPシートはかなりペラペラです。
これは、裏側がグラシン紙で作られているからなんです。
どうやら、レグナイトは錠剤からガスが発生するらしいく、そのために裏側を通気性のあるグラシン素材にしているようです。
ところがレグナイト自体は吸湿性もあるため、内包装を開封した後は必ず専用の保管袋に入れて、高音・多湿を避けて保存する必要があるということです。
ということで、一包化等の分包も不可ですね。
ちょっと色々面倒くさい気もします。

レグナイトの服用タイミング

レグナイトは食事の影響によりTmaxが遅延(5時間→6時間)し、Cmaxが増加(1.3倍)します。
難水溶性であるガバペンチンエナカルビルの溶解の問題と胃内排出速度が関係していると思われます。

レグナイトが目的とする夜間睡眠時に効果を発揮するためには、服用時間が非常に重要となります。
「1日1回夕食後」という用法にすることで、レストレスレッグス症候群の症状が出やすい夕方〜最も効果が期待される就寝中に効果を発揮できるようにしています。
もし、夜間に効果が切れてしまうような場合は、夕食の時間を遅らせるか、時間をずらしてカロリーメイト等の高脂肪食を摂取してから服様子することで対応するしかないでしょうね。
徐放製剤と言っても、半減期は5時間ほどなので、そういったケースはあると思います。

レグナイトは不眠にも効果あり

ガバペンチンエナカルビルはプラミペキソールと比較して、不眠改善の効果があるということです。
活性本体であるガバペンチン副作用の裏返しですが、レストレスレッグス症候群は不眠の症状があるので、その改善効果が期待されます。
さらに最初に少し述べたプラミペキソールの欠点、リバウンドによる症状の悪化がガバペンチンエナカルビルには存在しません。
また、レストレスレッグス症候群の1つである「痛み」を改善する効果もあります。
ガバペンチンは神経疼痛にも用いられる薬(適応外)ですから当然ですね。

腎障害時には注意が必要

ガバペンチン同様、ガバペンチンエナカルビルも腎排泄です。
当たり前ですね、ガバペンチンエナカルビルはガバペンチンのプロドラッグなんですから・・・。
レグナイトはガバペンと同じように、クレアチニンクリアランスに応じて、用量の制限が定められています。

禁忌
(次の患者には投与しないこと)
2.高度の腎機能障害患者(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)[活性代謝物であるガバペンチンの排泄が遅延し、血漿中濃度が上昇するおそれがある。

用法及び用量に関連する使用上の注意
中等度の腎機能障害患者(クレアチニンクリアランス30mL/min以上60mL/min未満)には1日1回300mgを投与する。軽度の腎機能障害患者(クレアチニンクリアランス60mL/min以上90mL/min未満)への投与は1日1回300mgとし、最大用量は1日1回 600mgとするが、増量に際しては副作用発現に留意し、患者の状態を十分に観察しながら慎重に行うこと。

Ccr90以上でないと通常の用量では使用できないということですから、腎障害に対する制限としてはかなり厳し目ですね。
1錠で様子を見ながら・・・ってパターンが一番多いような気がします。

欧米での第一選択薬はドパミンアゴニスト

じゃあ、レグナイトの登場で、ドパミンアゴニストはいらないかと言うと、そんなことはなく・・・。
欧米ではドパミンアゴニストが第一選択薬とされてます。
プラミペキソールの方が、レストレスレッグス症候群の特徴である下肢の周期運動を抑制する効果が強く、その発現も早いという特徴もあります。
ただ、周期運動を改善しても不眠を改善できないケースが存在する・・・。

レグナイトはあくまでもセカンドラインの位置づけとなりますが、レグナイトとドパミンアゴニストの併用ってのも、お互いの欠点を補い合い効果的だと思います。
ただ、ガバペンチンエナカルビルもプラミペキソールも腎排泄。
特に、ガバペンチンエナカルビルに至っては、「高度の腎機能障害患者(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)」は禁忌となっています。
高齢者に対しては少々使いにくいかも。

腎障害がある場合は、胆汁排泄のニュープロパッチ(成分名:ロチゴチン)一択になりますね。

プラセボと有意差つかず

2020年6月にレグナイト錠の添付文書が改訂され、以下の内容が追記されました。

〈効能・効果に関連する使用上の注意〉
(2)本剤は、原則、ドパミンアゴニストによる治療で十分な効果が得られない場合、又はオーグメンテーション(症状発現が2時間以上早まる、症状の増悪、他の部位への症状拡大)等によりドパミンアゴニストが使用できない場合に限り投与すること。[国内臨床試験において主要評価項目である治療期最終時点におけるIRLS(International Restless Legs Syndrome Rating Scale)合計スコアの変化量ではプラセボ群との差 は認められていない。

レグナイト錠 添付文書 アステラス製薬

なるほど・・・。
となるとレグナイトを使用する機械ってほとんどないような?
どおりで最近ほとんど処方見ることがないはずだ・・・。

まとめ

レストレスレッグスはQOLに大きな影響を与える病気です。
プラミペキソールでなかなか効果がでない方には朗報かもしれませんね。
あとは、非麦角系とはいえ、ドパミンアゴニストを使用するのに抵抗がある場合、レグナイトは使いやすいですよね。
ただ、適応外にはなりますが、使いやすさだけで言えば、クロナゼパム(製品名:ランドセン/リボトリール)が一番かもしれません。

プレガバリン(製品名:リリカ)も含めて、ガバペンチン関連の薬剤は非常に興味深いですね。

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

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