令和元年10月29日、厚生労働省医薬・生活衛生局は、新たな副作用が確認された医薬品等について、添付文書の使用上の注意を改訂するよう日本製薬団体連合会に通知しました。
今回は大きく分けて3つの改訂指示が出されています。
※副作用に関する記載を中心とした記事ですが、あくまでも医療従事者を対象とした記事です。副作用の追加=危険な薬剤というわけではないのがほとんどです。服用に際して自己判断を行わず医療従事者の指示にしたがってください。
使用上の注意の改訂指示(令和元年10月29日)
PMDAへのリンクを貼っておきます。
令和元年度指示分 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
添付文書の改訂が実施されたのは大きく分けて以下の4つです。
- ボノプラザン(タケキャブ錠・ボノサップパック・ボノピオンパック):血液障害(汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少)
- 泌尿器科用灌流液に用いるD-ソルビトール(ウロマチックS泌尿器科用灌流液):禁忌の追加(遺伝性果糖不耐症の患者)
- ベリムマブ(ベンリスタ点滴静注用):うつ病、自殺念慮、自殺企図
ちなみに、今年度からpmdaが発出する改定案の一部は旧記載要領と新記載要領の両方が掲載されるようになっています。
- 旧記載要領:「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(平成9年4月25日付け薬発第606号局長通知)
- 新記載要領:「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」(平成29年6月8日付け薬生発0608第1号局長通知)に基づく改訂
現時点で各医薬品が採用している記載方式に従ってまとめます。
ボノプラザンによる血液障害
「タケキャブ錠10mg・20mg」「ボノサップパック400・800」「ボノピオンパック」添付文書改訂のお知らせ
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
改訂指示の内容
【旧記載要領】に従ってまとめます。
各薬剤ともに、添付文書 > 「使用上の注意」 > 「4.副作用」 > 「(1)重大な副作用」 の1)に「汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少」に関する内容が追記(マーカー)され、それに伴い下線部の通り項目番号が修正されます。
4. 副作用
(1)重大な副作用
1) 汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少(いずれも頻度不明)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
2) 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑(いずれも頻度不明)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
3) ヘリコバクター・ピロリの除菌に用いるアモキシシリン水和物、クラリスロマイシンでは、偽膜性大腸炎等の血便を伴う重篤な大腸炎(頻度不明)があらわれることがあるので、腹痛、頻回の下痢があらわれた場合には直ちに投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
引用元:「タケキャブ錠10mg・20mg」「ボノサップパック400・800」「ボノピオンパック」添付文書改訂のお知らせ
※3) についてはタケキャブ錠のみの記載
報告内容
「血小板減少関連症例」、「無顆粒球症、白血球減少関連症例」、「汎血球減少」のいずれもボノプラザンフマル酸塩 単剤のみの報告です。
パック製剤(ボノサップ、ボノピオン)での報告はないので省略します。
過去3年度の国内での症例報告(いずれもボノプラザンフマル酸塩 単剤)は以下の通りでした。
- 血小板減少関連症例:19例(因果関係が否定できないものは2例)、死亡例2例(因果関係が否定できないものはなし)
- 無顆粒球症、白血球減少関連症例:15例(因果関係が否定できないものは4例)、死亡例はなし
- 汎血球減少:17例(因果関係が否定できないものは2例)、死亡例はなし
考察・雑感
今回追記された副作用についての対応をまとめておこうと思います。
血小板減少症
血液凝固に必要な血小板が減少してしまう副作用です。
重篤副作用疾患別対応マニュアル 血小板減少症
自覚症状のないレベルの血小板減少(血小板数10万/m㎥以下)も存在しますが、その場合は血液検査でしか判別できません。
血小板数が5万/m㎥以下となれば、初期症状は出血傾向として現れます。
そのため、「皮膚の紫斑や点状出血、鼻血、歯茎からの出血、結膜出血、血尿など」が見られる場合には血小板減少症の可能性を考慮する必要があります。
ですが、出血傾向=血小板減少症とは限らないのでその点も注意が必要です。
また、出血に伴う、貧血症状(動機、息切れ、めまい、倦怠感など)や消化管出血による黒色便や吐き気、痛みなどにも注意する必要があります。
無顆粒球症、白血球減少症
重篤副作用疾患別対応マニュアル 無顆粒球症(顆粒球減少症、好中球減少症)
顆粒球減少症、白血球減少症ともに、免疫機能の低下が問題となる副作用です。
発熱、悪寒、咽頭痛が特徴的な症状ですが、感染しやすくなるため、各感染症の症状全てに注意が必要となります。
汎血球減少症
赤血球・白血球・血小板の血液中の成分全てが減少する副作用です。
再生不良性貧血は汎血球減少を引き起こす代表的な疾患です。
重篤副作用疾患別対応マニュアル 再生不良性貧血(汎血球減少症)
すべての血球減少が同時に起こるわけではないので、先に赤血球が減少した結果、貧血症状が現れることもありますし、血小板が減少して出血傾向が現れたり、白血球が減少して免疫の低下が現れることもあります。
ですので、上記の「血小板減少関連症例」、「無顆粒球症、白血球減少関連症例」の初期症状と合わせて貧血症状にも注意を払う必要があります。
泌尿器科用灌流液に用いるD-ソルビトール:禁忌の追加(遺伝性果糖不耐症)
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
改訂指示の内容
【旧記載要領】に従ってまとめます。
添付文書 > 「禁忌」 に以下の内容(マーカー)が追記されます。
禁忌
遺伝性果糖不耐症の患者
引用元:ウロマチックS泌尿器科用灌流液3% 添付文書
報告内容
過去3年度の国内での症例報告はありませんでしたが、
- 欧州EMAにおいてソルビトール又は果糖を含有する静注製剤について、遺伝性果糖不耐症患者への使用を禁忌とする措置がとられたこと
- 「禁忌」の項に「遺伝性果糖不耐症の患者」が設定されている国内静注製剤と同程度のソルビトール吸収量が示唆されること
を踏まえて今回の改訂が適切と判断されたようです。
考察・雑感
特にコメントは必要ないですね。
当然の内容だと思います。
ベリムマブ(遺伝子組換え)によるうつ病、自殺念慮、自殺企図
ベンリスタ点滴静注用120mg・400mg、ベンリスタ皮下注200mgオートインジェクター・シリンジ 「使用上の注意」改訂のお知らせ
添付文書改訂の対象となる医薬品は以下のとおりです。
改訂指示の内容
【旧記載要領】に従ってまとめます。
添付文書 > 「使用上の注意」> 「2. 重要な基本的注意」 に以下の内容(マーカー)が追記されます。
使用上の注意
2. 重要な基本的注意
(7) うつ病、自殺念慮及び自殺企図があらわれることが あるので、これらの事象が発現する可能性について患者及びその家族等に十分説明し、不眠、不安等の精神状態の変化があらわれた場合には速やかに担当医に連絡するよう指導すること。
引用元:ベンリスタ点滴静注用120mg・400mg、ベンリスタ皮下注200mgオートインジェクター・シリンジ 「使用上の注意」改訂のお知らせ
また、「使用上の注意」> 「3. 副作用」 > 「(1) 重大な副作用」に以下の内容(マーカー)が追記されます。
使用上の注意
3. 副作用
(1) 重大な副作用
5) うつ病(0.1%)、自殺念慮(頻度不明)、自殺企図(頻度不明):うつ病、自殺念慮及び自殺企図があらわれることがあるので、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。
引用元:ベンリスタ点滴静注用120mg・400mg、ベンリスタ皮下注200mgオートインジェクター・シリンジ 「使用上の注意」改訂のお知らせ
これに伴い、「使用上の注意」> 「3. 副作用」 > 「(2) その他の副作用」から「うつ病(その他、1%未満)」の記載が削除され、以下の通り、「使用上の注意」> 「8. その他の注意」が削除されています。
使用上の注意
8. その他の注意
BEL112341試験において、自殺念慮が本剤200mg群で2/556例(0.4%)に報告されているが、プラセボ群(280例)では報告されていない。
また、点滴静注用製剤の第III相国際共同試験(BEL113750試験)では、自殺念慮が本剤10mg/kg群で1/470例(0.2%)、自殺企図がプラセボ群で1/235例(0.4%)に報告されている。第III相海外試験(BEL110752試験)では、自殺既遂が本剤10mg/kg群で1/290例(0.3%)に報告されているが、プラセボ群(287例)では報告されていない。 なお、第III相海外試験(BEL110751試験)では、自殺念慮、自殺企図又は自殺既遂は報告されていない。
引用元:ベンリスタ点滴静注用120mg・400mg、ベンリスタ皮下注200mgオートインジェクター・シリンジ 「使用上の注意」改訂のお知らせ
報告内容
過去3年度の国内でのうつ病、自殺念慮及び自殺企図関連症例の報告数は1例で因果関係が否定できないものはありませんでしたが、改訂に至った経緯が以下のように説明されています。
改訂の理由及び調査の結果
全身性エリテマトーデス患者を対象に実施された製造販売後臨床試験の結果、ステロイド療法等の標準治療にプラセボを投与した群と比較し標準治療に本剤を投与した群において、うつ病及び自殺・自傷行為の発現頻度が高かったことから、対応の必要性を検討した。
引用元:ベリムマブ(遺伝子組換え)の「使用上の注意」の改訂について
考察・雑感
重篤副作用疾患別対応マニュアルを参照します。
重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤惹起性うつ病
うつ病を引き起こす薬剤の代表的なものがインターフェロンやステロイドですから、同様に免疫系に作用するベリムマブ(完全ヒト抗BlyS*1抗体)で副作用が起きるのは不思議ではないのかもしれませんね。
初期症状として注意したいのは不眠、不安感、イライラ感、食欲不振、意欲の低下などです。
説明時に伝えるのが難しい副作用ではありますが、投与中の精神状態のチェックはしっかり行いたいですね。
*1:B-lymphocyte stimulator:Bリンパ球刺激因子