2019年10月25日に厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会で審議され、承認が了承された新医薬品についてまとめます。
この記事を作成している時点では承認が了承された段階で、正式には承認されていません。
2019年11月22日付でソリリス点滴静注300mgとルセンティス硝子体内注射液10mg/mLの一変承認は正式に承認されました。
コレクチム軟膏0.5%とディナゲスト錠0.5mgについては未承認のままです。
年10月25日の薬食審・医薬品第一部会
今回は1つの新有効成分含有医薬品、2つの新効能医薬品、合計3製品について審議され、全ての承認が了承されています。
審議品目(承認了承)
- 製造承認
- コレクチム軟膏0.5%
- 一変承認
- ソリリス点滴静注300mg:「視神経脊髄炎スペクトラム障害」の効能追加
- ルセンティス硝子体内注射液10mg/mL:「未熟児網膜症」の効能追加
また、1製品の効能追加が報告品目として挙げらています。
報告品目
ディナゲスト錠0.5mg:「月経困難症」の効能追加
前回、2019年8月29日の第一部会で否認され、継続審議となった小野薬品のがん悪液質用薬エドルミズ(アナモレリン錠)については今回は審議されなかったようです。
審議品目
まずは審議が行われた3製品について。
コレクチム軟膏
医薬品名 | コレクチム軟膏0.5% |
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成分名 | デルゴシチニブ |
申請者 | 日本たばこ産業 |
効能・効果 | アトピー性皮膚炎 |
指定等 | なし |
初の外用ヤーヌスキナーゼ(JAK*1)阻害薬であり、アトピー性皮膚炎に対する適応を有する初のJAK阻害薬です。
細胞内の免疫活性化シグナル伝達を担うJAKの働きを阻害することで、過剰な免疫反応を抑制、自己免疫性疾患やアレルギー性疾患を改善すると言われています。
ヤーヌスキナーゼ
JAKを含む非受容体型チロシンキナーゼの多くは細胞外領域を持っていません。
細胞質側から細胞膜に結合しており、細胞内側の末端にチロシンキナーゼ部位をもつ構造です。
細胞膜表面に存在する受容体に免疫グロブリンやサイトカイン等が結合した結果、細胞質内で受容体タンパク質に結合しているJAKが活性化します。
活性化したJAKはまず受容体をリン酸化し、次に受容体に結合している下流分子であるシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT*2)をリン酸化させます。
その後、リン酸化されたSTATが種々の反応を引き起こしていくというわけです。
JAKは受容体とSTATの両方をリン酸化することから、二面神Janus(ヤーヌス)にちなんで「Janus kinase」(ヤーヌスキナーゼ)と呼ばれています。
未承認なので用法・用量は確定していませんが、「通常、成人には1日2回、適量を患部に塗布する。1回あたりの塗布量は5gまでとして使用する。」という形になるようです。
ソリリス点滴静注:視神経脊髄炎スペクトラム障害の再発予防(適応追加)
2019年11月22日付で承認されました!
(関連記事)
医薬品名 | ソリリス点滴静注300mg |
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成分名 | エクリズマブ(遺伝子組換え) |
申請者 | アレクシオンファーマ |
効能・効果 (追加) | 視神経脊髄炎スペクトラム障害(視神経脊髄炎を含む) の再発予防 |
指定等 | なし |
エクリズマブは遺伝子組み換えヒト化IgG2/4抗体で、補体活性化カスケードの末端であるC5に結合し、C5がC5転換酵素によりC5aとC5bに開裂するのを阻害します。
補体カスケード
補体とは血中に存在し、生体が持つ自然免疫システムの一つ(補体系)を構成するタンパク質群です。
補体タンパク質はC*31〜C9のタンパク質複合体で構成されています。
この補体群は活性化されることで免疫反応(生体防御)を起こしますが、一つの複合体が活性化されることを引き金にタンパク質群が次々と連鎖的に活性化を引き起こしていくため、補体カスケードと呼ばれています。
補体カスケードには古典的経路、副経路、レクチン経路の3種類が存在するが、いずれの経路でもC3の分解・活性化を介してカスケードが進み、終末ではにC5の分解・活性化を引き起こします。
最終的には活性化された補体構成成分が結合し、細胞膜障害性複合体 C5b6789(MAC*4)を形成します。
MACは細菌の表面に結合し、穴を開けることで細胞膜を破壊(免疫溶菌反応または免疫溶菌現象)します。
補体カスケードを止めることで、自己免疫を抑制し、神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体の消失と、それに伴う神経筋伝達障害を改善すると考えられています。
ルセンティス硝子体内注射液:未熟児網膜症(適応追加)
2019年11月22日付で承認されました!
(関連記事)
医薬品名 | ルセンティス硝子体内注射液10mg/mL |
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成分名 | ラニビズマブ(遺伝子組換え) |
申請者 | ノバルティスファーマ |
効能・効果 | 未熟児網膜症 |
指定等 | なし |
ラニビズマブは抗血管内皮増殖因子(抗VEGF*5)治療薬です。
抗VEGF治療薬
血管内皮増殖因子(VEGF)は血管内皮細胞に特異的に作用することで血管内皮細胞の増殖を促し、血管新生を促進すると同時に血管透過性の亢進作用を発揮します。
組織が低酸素状態になるとVGEFが増加し、血管新生を引き起こし、細胞に酸素が供給されます。
癌や加齢黄斑変性、関節リウマチなどの疾患ではVEGFの働きにより血管新生が促進されているため、そこを標的とする抗VEGF阻害剤が開発されました。
抗VEGF阻害剤はVGEFが血管内皮受容体(VEGFR*6)に結合することを阻害し、血管内皮細胞の増殖・血管新生を阻害します。
代表的なVEGF阻害剤を以下に列挙します。
(適応の詳細は省略しています)
- アバスチン(ベバシズマブ):結腸・直腸癌、非小細胞肺癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、悪性神経膠腫
- ルセンティス(ラニビズマブ):加齢黄斑変性症、黄斑浮腫、脈絡膜新生血管、糖尿病黄斑浮腫
- アイリーア(アフリベルセプト):加齢黄斑変性症、黄斑浮腫、脈絡膜新生血管、糖尿病黄斑浮腫
未熟児網膜症に対する現在の標準治療はレーザー治療です。
ですが、レーザー治療ではVEGの増加を防ぐことはできず、白内障など将来の合併症の可能性がありました。
現在、未熟児網膜症に対する治療薬はこれまで存在しておらず、ルセンティスが初の治療薬になります。
報告品目
PMDA*7(医薬品医療機器総合機構)の審査段階で部会での審議を行わず報告のみでよいと判断されたものです。
ディナゲスト錠:規格追加と適応追加
医薬品名 | ディナゲスト錠0.5mg |
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成分名 | ジエノゲスト |
申請者 | 持田製薬 |
効能・効果 | 月経困難症 |
指定等 | なし |
ジエノゲストは第4世代の黄体ホルモンに分類されます。
第4世代黄体ホルモンの特徴は強いプロゲステロン活性を維持しつつ、アンドロゲン作用がないことです。
その結果、不正出血の副作用には注意が必要なものの、アンドロゲン作用による副作用(ニキビ、肌荒れ、多毛)が軽減され長期服用が可能となっています。
月経困難症とは?
月経期間中に月経に伴って身体に生じる病的な症状の総称を月経困難症と言います。
その代表的な症状が日常生活に使用が出たり、痛み止めを服用しないといけないような強い月経痛(生理痛)で、これが他の症状の原因となっていることも多いです。
月経困難症はその原因により2つに分けられます。
- 器質性月経困難症:骨盤内の異常が原因で起こる月経困難症。子宮内膜症、子宮腺筋症などが起きる。
- 機能性月経困難症:上記のような婦人科疾患を原因としない月経困難症。子宮内膜で産生されるプロスタグランジン等の影響により症状を引き起こす。
ジエノゲストは子宮内膜の増殖を抑えることにより、月経自体をなくします。
そのため1mgが「子宮内膜症」(と「子宮腺筋症に伴う疼痛の改善」)に対して使用されていますが、それを拡大し、0.5mgを月経困難症に対して使用します。
(従来の1mg錠と追加される0.5mg錠で適応が異なることに注意)