平成29年2月14日、厚生労働省医薬・生活衛生局は、新たな副作用が確認された医薬品について、添付文書の使用上の注意を改訂するよう日本製薬団体連合会に通知しました。
アタラックス・アタラックスPによる急性汎発性発疹性膿疱症、ゼルボラフによる急性腎障害が追記されます。
※副作用に関する記載を中心とした記事ですが、あくまでも医療従事者を対象とした記事です。副作用の追加=危険な薬剤というわけではないのがほとんどです。服用に際して自己判断を行わず医療従事者の指示にしたがってください。
使用上の注意の改訂指示(平成29年2月14日)
PMDAへのリンクを貼っておきます。
ヒドロキシジン塩酸塩/ヒドロキシジンパモ酸塩による急性汎発性発疹性膿疱症
添付文書改訂の対象となる商品名は以下のとおりです。
- ヒドロキシジン塩酸塩
- アタラックス-P注射液(25mg/ml)
- アタラックス-P注射液(50mg/ml)
- アタラックス錠10mg
- アタラックス錠25mg
- ヒドロキシジンパモ酸塩
- アタラックス-Pカプセル25mg
- アタラックス-Pカプセル50mg
- アタラックス-Pドライシロップ2.5%
- アタラックス-Pシロップ0.5%
- アタラックス-P散10%
- ヒドロキシジンパモ酸塩錠25mg「日新」
重大な副作用に急性汎発性発疹性膿疱症が追記されます。
添付文書改訂内容と根拠
添付文書の「副作用」の「重大な副作用」に以下の内容が追記されます。
急性汎発性発疹性膿疱症:急性汎発性発疹性膿疱症があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
症例報告
直近3年度の国内副作用症例はありませんが、海外症例が集積し、米国添付文書が改訂されたことにより改訂が適切と判断されたようです。
急性汎発性発疹性膿疱症
急性汎発性発疹性膿疱症については重篤副作用疾患別対応マニュアルが発行されているのでそちらを参照するとわかりやすいかと思います。
https://www.pmda.go.jp/files/000145283.pdf
急性汎発性発疹性膿疱症とは、高熱(38°C以上)とともに、急速に全身が赤くなったり、赤い斑点がみられ、さらにこの赤い部分に多数の小さな白っぽい膿みのようなぶつぶつ(小膿疱)が出現する病態です。血液検査値の異常も認められ ます。大部分は医薬品を飲んだ数日後に発症することが多く、原因医薬品の服用を中止すると、約2週間で発疹は軽快します。しかし、原因医薬品に気づかずに投与が続けられると高熱や皮ふの症状がなおらず、重篤な状態になります。
急性汎発性発疹性膿疱症の欧米での発生頻度は人口100万人あたり年間1〜5人と推定されています。原因医薬品としてはペニシリン系・マクロライド系・セフェム系抗生物質、キノロン系抗菌薬、イトラコナゾール(抗真菌薬)、テルビナフィン(抗真菌薬)、アロプリノール(痛風治療薬)、カルバマゼピン(抗てんかん薬)、ジルチアゼム(降圧薬)、ア セトアミノフェン(鎮痛解熱薬)などが多くを占めています。
発症メカニズムは医薬品などにより生じた免疫・アレルギー反応によるものと考えられています。基礎疾患として感染症が存在する場合により発症しやすい傾向があります。
ヒドロキシジン塩酸塩(アタラックス®︎)とヒドロキシジンパモ酸塩(アタラックス®︎-P)の違い
アタラックスとアタラックス-Pの違いですがたまに質問を受けるので書いておきます。
下記の通り、成分、正確には塩酸塩とパモ酸塩の違いですね。
- ヒドロキシジン塩酸塩
- ヒドロキシジンパモ酸塩
これは皆さんご存知ですね。
一番の違いは化合物の味になります。
パモ酸塩の方が塩酸塩に比べて苦味が少ないことが知られています。
塩酸塩を用いているアタラックス®︎は錠剤と注射剤のみになっていますが、パモ酸塩を用いているアタラックス®︎Pの方はカプセルに加えて、シロップ剤、散剤、ドライシロップ剤と成分が直接舌に触れるような製剤も作られています。
じゃあ、全部ヒドロキシジンパモ酸塩だけでいいじゃないかと思いますよね。
ここからの話は推測になりますが、おそらく、導入元がそれぞれ異なるというのが理由だと思います。
ヒドロキシジン塩酸塩は1956年4月に米国 ローリック社がATARAX®︎として製品化しました。
その後、1958年5月にファイザー社がヒドロキシジンパモ酸塩をVISTARIL®︎として製品化しました。
これらをそれぞれ導入した形になっているので両方が異なる剤形のまま存在しているということかと思います。
ベムラフェニブによる急性腎障害
添付文書改訂の対象となる商品名は以下のとおりです。
- ゼルボラフ錠240mg
重要な基本的注意と重大な副作用に急性腎障害に関する文章が追加になります。
添付文書改訂内容と根拠
添付文書の「重要な基本的注意」の項に以下の文章が追加されます。
急性腎障害があらわれることがあるので、投与開始前及び投与中に定期的に腎機能検査を行うこと。
また、添付文書の「副作用」の「重大な副作用」の項に以下の内容が追加されます。
急性腎障害:急性腎障害があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、減量、休薬又は投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。
症例報告
直近3年度の国内副作用症例の集積状況で、急性腎障害関連症例が2例報告されています。
そのうち、因果関係が否定できない症例は2例、死亡例はありません。
まとめ
アタラックス/アタラックスPについては、使用量は減っているかと思いますが、アレルギー治療薬が引き起こすアレルギー反応ということで、特に注意が必要な副作用になるかと思います。
ゼルボラフについては、「BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫」という限定された適応を持つ薬剤であり、添付文書には「警告」として、
本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の使用が適切と判断される症例についてのみ投与すること。また、治療開始に先立ち、患者又はその家族に有効性及び危険性を十分説明し、同意を得てから投与すること。
と記載されているため、服用している患者さんの体調変化には気付きやすいのではないかと思います。
非常に古い薬剤と限られた適応の薬剤ということで、使用量が多い薬剤ではありませんが、触れる機会が少ないからこそ、こういった機会にしっかりと把握しておきたいですね。