平成28年5月27日、厚生労働省の薬食審医薬品第一部会が開催され、新薬など6製品の承認の可否について審議が行われました。
そのうち、4製品についての承認は了承されましたが、2製品は継続審議となってしましました。
継続審議となったのは、アストラゼネカが承認申請した抗血小板薬ブリリンタ錠(成分名:チカグレロル)。
そして、前回も継続審議となっていた日本ベーリンガーインゲルハイムが承認申請した3成分配合降圧薬ミカトリオ配合錠(テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジド配合)は再び継続審議となってしまいました。
ミカトリオは再び継続審議に
前回の第一部会(平成28年4月20日)で委員から「3成分を配合する意義をもっと調べた方がよい」等の意見が出て承認見送りとなっていたミカトリオ配合錠(成分名:テルミサルタン/アムロジピン/ヒドロクロロチアジド)について再び審議が行われたようです。
ミカトリオの成分は
- テルミサルタン:80mg
- アムロジピン:5mg
- ヒドロクロロチアジド:12.5mg
のようですね。
ミコンビ配合錠BP(テルミサルタン80mg/ヒドロクロロチアジド12.5mg)とミカムロ配合錠BP(テルミサルタン80mg/アムロジピン5mg)の合いの子といったところです。
今回の審議の中では、配合成分の実臨床での使用実績の説明があったようですが、実際の臨床ニーズがあるかどうかについて委員から疑問が上がったようです。
また、服用錠数が減るメリットと用量が固定されてしまうデメリットを比較した時に、本当にメリットがあるのかどうかということについても指摘があったようです。
初の3成分配合剤ということで、慎重に審議が進められているようですね。
ミカトリオが承認されれば、CCBとARBとサイアザイドを服用している患者さんの処方をミカトリオに変更するだけで薬剤総合評価調整管理料が算定できちゃうんですね。
薬剤総合評価調整管理料については、上記リンクの中段くらいに記載しています。
新抗血栓薬ブリリンタも継続審議に
「新」と言っても海外ではすでに承認されている薬剤です。
チカグレロル
ブリリンタの成分名はチカグレロル。
クロピドグレル(プラビックス)やプラスグレル(エフィエント)と同じように、ADP(アデノシン2リン酸)のP2Y12受容体を選択的に阻害することで抗血栓作用を発揮する薬剤です。
クロピドグレルはCYP2C19による代謝を受けることで活性化されるプロドラッグですが、CYP2C19は日本人における遺伝子多型が問題です。
プラスグレルもプロドラッグではありますが、CYP2C19による影響を受けないので、個人差が少なく、活性化されるスピードが速いため効果発現も速いという特徴があります。
ということでしたが、最近はクロピドグレルの活性化に大事なのはCYP2C19ではなく、パラオキソナーゼ-1(ParaOxoNase-1:PON1)ということが明らかになっているので、プラスグレルの優位性はどうなるんだろ・・・って疑問があります。(どうなんでしょ?)
で、今回審議されているチカグレロル。
チカグレロルはそもそもプロドラッグではないため、そのままの状態で抗血小板活性を持地ます。
そのため、遺伝子多型などの問題が回避でき、効果発現が速いというのが特長です。
また、P2Y12受容体への結合が可逆的なので、投与中止後の血小板機能の回復が早いという特徴も持っています。
ブリリンタの審議内容
ブリリンタ(成分名:チカグレロル)は以下の二つの適応で申請されました。
効能又は効果
- 以下のリスク因子を1つ以上有する陳旧性心筋梗塞のうち、アテローム血栓症の発現リスクが特に高い場合
- 65歳以上
- 薬物療法を必要とする糖尿病
- 2回以上の心筋梗塞の既往
- 血管造影で確認された多枝病変を有する冠動脈疾患
- 又は末期でない慢性の腎機能障害
- 経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞、ST上昇心筋梗塞)(ただし、アスピリンを含む抗血小板剤2剤併用療法が適切である場合で、かつ、アスピリンと併用する他の抗血小板剤の投与が困難な場合に限る)
このうち、「経皮的冠動脈形成術が適用される急性冠症候群」について、臨床試験の結果にばらつきがあり、「非劣性が認められていない結果もある」との意見が出たようです。
また、クロピドグレル硫酸塩(先発品名:プラビックス錠)など他の抗血小板薬の投与が困難な場合に限り投与できる薬剤と位置付けられるが、「クロピドグレルが使えない症例は、どれほどあるのか」との指摘もあり、継続審議となったようです。
どうなんでしょ?
結構いい薬だと思うんですけどねえ。
承認が了承された品目
以下は承認了承されたものです。
ヘマンジオルシロップの承認
有効成分:プロプラノール塩酸塩
- ヘマンジオルシロップ小児用0.375%
効能・効果:「乳児血管腫」
希少疾病用医薬品です。
マルホの資料によると
乳児血管腫は鮮明な紅いあざが苺状に膨らむことが多いため、一般には苺状血管腫として知られている疾患です。
乳幼児に最も高い頻度で発症する良性腫瘍で、日本人の発症率は1%前後と考えられています。
生後1〜4週に血管腫が出現し、1歳くらいをピークに最大化して5〜7歳くらいまでに90%以上が自然退縮します。
患者さんの多くは経過観察となりますが、目や気道付近など、発症部位により生命および機能に影響を及ぼす場合や、腫瘍の増大や残存によって整容的な問題が生じると判断された場合には治療が必要となります。
しかし、現在の治療法はいずれも効果や安全性の点で十分とは言えず、新たな治療法が望まれています。
ということです。
プロプラノロールはβ遮断薬ですが、抗血管新生作用を持つことが明らかになっています。
ビムパット錠の承認
有効成分:ラコサミド
- ビムパット錠50mg
- ビムパット錠100mg
効能・効果:「他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する抗てんかん薬との併用療法」
ラコサミドは、GABA感受性イオンチャンネル機能調節とCRMP-2(Collapsin Response Mediator Protein 2:コラプシン反応媒介タンパク質2)調節作用という新規作用機序を持つ抗てんかん薬です。
併用療法での承認ですが、他の抗てんかん薬で多く問題になる薬物相互作用が、少ないのが特徴のようです。
プラルエント皮下注の承認
有効成分:アリロクマブ(遺伝子組換え)
- プラルエント皮下注75mgペン
- プラルエント皮下注150mgペン
- プラルエント皮下注75mgシリンジ
- プラルエント皮下注150mgシリンジ
効能・効果:「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症(ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る)」
レパーサ皮下注(成分名:エボロクマブ(遺伝子組換え))に続く国内2剤目のPCSK9阻害薬。
LDL受容体を分解する酵素であるPCSK9に結合することで、LDL受容体の分解を阻害し、LDL-Cを取り込みを促進、血中のLDL-C値を減少させます。
デュオドーパ配合経腸用液の承認
有効成分:レボドパ/カルビドパ水和物
- デュオドーパ配合経腸用液
効能・効果:「レボドパ含有製剤を含む既存薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病の症状の日内変動の改善」
コンピュータ制御式携行輸液ポンプを用い、胃ろうから空腸内に直接持続注入することで、血漿中のレボドパ濃度を至適治療濃度域に安定させることを可能にする薬剤です。
運動症状を伴う日内変動を抑えることが期待されます。
報告品目:ヒュミラ皮下注の新用法用量、エルネオパNF輸液の承認
報告品目は、PMDAの審査の段階で承認が了承され、部会での審議が必要ないと判断された製品です。
ヒュミラ皮下注の用法用量の追加
有効成分:アダリムマブ
- ヒュミラ皮下注40mgシリンジ0.8mL
添付文書の改訂部分は以下の下線部です。
通常、成人にはアダリムマブ (遺伝子組換え) として初回に160mgを、初回投与2週間後に80mgを皮下注射する。初回投与4週間後以降は、40mgを2週に1回、皮下注射する。なお、効果が減弱した場合には1回80mgに増量できる。
クローン病に対して効果減弱した際に1回80mgに増量できるようになります。
今回追加する用法・用量は日本のみで承認されるものです。
エルネオパNF輸液の承認
- エルネオパNF1号輸液
- エルネオパNF2号輸液
改訂された欧米ガイドラインに準拠するように、現在使用されているエルネオパ1号輸液、エルネオパ2号輸液の成分のうち、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンC、葉酸を増量し、ビタミンK1、鉄を減量したものです。
要はエルネオパ輸液の改良型です。
ちなみに、NFはNew Formula(新規格)の略ですね。
ラコールNFが思い浮かびますが、これも同様にビタミンK1が減量されていますね。
ラコールも同様でしたが、エルネオパ輸液は承認整理される予定のようです。
承認・薬価収載・発売日等
ヘマンジオルシロップ小児用0.375%
- 2016年7月4日:製造販売承認
ビムパット錠
- 2016年7月4日:製造販売承認
プラルエント皮下注
- 2016年7月4日:製造販売承認
デュオドーパ配合経腸用液
- 2016年7月4日:製造販売承認