平成27年3月12日、緑内障・高眼圧症治療薬のコソプトミニ配合点眼液(一般名:ドルゾラミド塩酸塩/チモロールマレイン酸塩)が承認されました。
既存のコソプト点眼液との違いは、ベンザルコニウム塩化物等の防腐剤が含まれていないこと、1回使い切りタイプの製剤であることです。
参点製薬が出している防腐剤フリーの緑内障・高眼圧症治療薬は、タプロスミニ点眼液0.0015%(一般名:タフルプロスト)に続いて2剤目になります。
緑内障・高眼圧治療配合点眼液で防腐剤フリーは国内初になります。
防腐剤フリーのメリット
防腐剤を含まないことがどのようなメリットにつながるのでしょうか?
防腐剤による角膜障害
開封後の点眼液の中で雑菌が繁殖しないようにするには、基本的には防腐剤を添加するしかありません。
ですが、防腐剤として使用される消毒剤は殺菌作用を持つ代わりに細胞毒性も持っています。
そのため、長期間使用することで、点眼時に防腐剤に暴露される角膜上皮が障害を受けることがあります。
防腐剤フリーの製剤
角膜上皮に対する毒性を減らすために防腐剤を含まない製剤が発売されています。
大きく分けて二種類存在し、ひとつは今回のコソプトミニのように防腐剤を一切含まない製剤、もうひとつは防腐剤の代表格である塩化ベンザルコニウム(Benzlkonium Chloride/BAC)を他の防腐剤に置き換えた製剤(BACフリー)です。
防腐剤フリーのものはほとんどが使い切りとなるので、利便性の点で少し劣ります。
それに対してBACフリーのものは通常の点眼液と同じように使用できるので、使いやすいかもしれません。
塩化ベンザルコニウム
点眼液の防腐剤の代表格が塩化ベンザルコニウムです。
塩化ベンザルコニウムは陽イオン界面活性剤の一種です。
いわゆる逆性石鹸として、殺菌・消毒用に用いられます。
特にグラム陽性・陰性細菌には有効ですが、結核菌やウイルスには無効とされています。
ただし、BACに対して過敏な方は角膜上皮障害を引き起こしやすくなります。
特に緑内障のように長期間点眼液による治療を行う場合は、BAC過敏症を持つ方、ドライアイの方など、BACによる影響を考慮しなければならない場合があります。
BACフリー点眼液のメリット
では、必ずしもBACフリーでなければいけないかと言うと、必ずしもそうではありません。
たしかに、緑内障治療は10年以上の長期にわたる治療となるのがほとんどなので、点眼液を使用していれば、その期間、必ず塩化ベンザルコニウムの暴露を受けます。
ですが、PG誘導体のように1日1回の点眼ですむケースもありますし、BACの濃度も各製剤で異なり、それほど濃くないものもあります。
また、BACは側鎖により毒性が異なり、C12の側鎖を持つものは毒性が低いとされており、C12を使用することで毒性を軽減しているものもあります。
ですので、長期にわたってBACを含む製剤を使用しても何も問題ない人も存在するわけです。
また、塩化ベンザルコニウムの代わりに含まれる防腐剤(ホウ酸等)により角膜障害を受ける場合も否定できません。
緑内障に限った話ではありませんが、眼科の先生は、疾患の状態だけでなく、角膜の状態も診ており、そこからBAC等による影響を判断されているというわけです。
そこで問題があればBACフリーや防腐剤フリー、より濃度の低い製剤に変更すればいいわけであって、BACフリー・防腐剤フリーを積極的に使うケースはそう多くないのかもしれません。
BACフリーの緑内障関連薬
BACフリーの緑内障治療薬についてまとめてみます。
すべてをまとめるとかなりの量になるので、ひとまず主要な医薬品についてまとめます。
プロスタグランジン関連薬(PG関連薬)
まずは第一選択薬であるPG関連薬です。
一日一回の使用となっているので、BACの暴露量はそこまででもないですが、角膜の状態や過敏性によってはBACフリーへの変更を考える場合もあります。
イソプロピルウノプロストン
先発品はレスキュラ点眼液0.12%、BACを含みます。
後発品ででは多くがBACフリーです。
- イソプロピルウノプロストンPF点眼液0.12%「日点」
- イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「TS」
- イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「サワイ」
- イソプロピルウノプロストン点眼液0.12%「ニッテン」
いずれもホウ酸を含みます。
ラタノプロスト
先発品としてキサラタン点眼液0.005%とザラカム配合点眼液がありますが、いずれもBACを含みます。
後発品としてBACフリーのものが発売されています。
- ラタノプロストPF点眼液0.005%「日点」
- ラタノプロスト点眼液0.005%「NP」
- ラタノプロスト点眼液0.005%「ニッテン」
いずれもベンザルコニウム塩化物の代わりにホウ酸を含みます。
キサラタンは比較的BAC濃度が高いことが知られているので、1日1回の使用でもBACフリーの製剤へ変更するメリットがあるように見えますが、BACに可溶化剤として働きをさせることで移行性を高めているという側面があります。
BACフリーの製剤に関しては他の可溶化剤を加えるなどの工夫がされていますが、生物学的同等性試験だけでそこを判断していいかというと難しいところになるので、そこを踏まえて判断しなければいけません。
トラボプロスト
まだ後発品は登場していませんが、先発品のトラバタンズ点眼液0.004%はBACフリーが特徴です。
配合点眼薬のデュオトラバ配合点眼液も同様です。
ビマトプロスト
まだ後発品は発売されておらず、ルミガン点眼液0.03%はBACを含みます。
タフルプロスト
まだ後発品は発売されておらず、先発品としてタプロス点眼液0.0015%、タプロスミニ点眼液0.0015%、タプコム配合点眼液が発売されています。
タプロス点眼液0.0015%はBACを含みますが、BAC濃度が非常に低いという製剤的特性を持っています。
また、含まれているBACは側鎖がC12(毒性低い)です。
防腐剤フリーのタプロスミニ点眼液0.0015%が発売されています。
炭酸脱水素酵素阻害薬(CAI)
まだジェネリックが発売されておらず、BACフリーを売りにする製剤も特には存在しません。
ドルゾラミド
先発品としてトルソプト、今回ミニが追加になるコソプト配合点眼液が発売されていますが、いずれもBACを含みます。
後発医薬品はまだ発売されていませんので、コソプトミニ配合点眼液が唯一BACを含まない製剤となります。
ブリンゾラミド
先発品としてエイゾプト懸濁性点眼液1%、アゾルガ配合懸濁性点眼液が発売されていますが、いずれもBACを含みます。
β遮断薬(βブロッカー)
β阻害薬に関しては多くのジェネリックが存在します。
代表的な二成分についてまとめます。
チモロール
先発品としてチモプトール点眼液、チモプトールXE点眼液、リズモンTG点眼液が発売されています。
チモプトールXEはBACフリーです。
後発品として発売されているチモレートPF点眼液は防腐剤フリーとなります。
日本点眼は発売しているPF(Preservative Free)シリーズは点眼薬容器にメンブランフィルターをつけることで、防腐剤フリー(Preservative Free)を実現しています。
従来の製剤に比べて点眼しにくいというのが欠点です。
カルテオロール
先発品としてミケラン点眼液、ミケランLA点眼液が発売されていますが、いずれもBACを含みます。
ジェネリックのうち、BACを含まないのが
- カルテオロール塩酸塩点眼液「わかもと」
- ブロキレートPF点眼液
ですが、どちらもホウ酸を含みます
まとめ
緑内障治療薬に限った話ではないですが、点眼薬は眼、角膜といった粘膜部に直接使用する薬剤です。
ですので、点眼薬に含まれる添加物の種類やその濃度を考慮する必要があります。
また、添加物が変化することによる主成分の移行性が変化する可能性があることも知っておかねばなりませんね。
機会があれば点眼液と防腐剤の一覧をまとめたいと思います。