ついに世界初の機能性ディスペプシア(機能性胃腸症、FD)治療薬であるアコファイド(一般名:アコチアミド)が発売されました。
作用機序はコリンエステラーゼの阻害なので特に新しいものではありませんが、最大の特徴は適応疾患。
効能又は効果「機能性ディスペプシアにおける食後膨満感,上腹部膨満感,早期満腹感」
機能性ディスペプシアの病名で使える薬であるということが重要です。
機能性ディスペプシアとは胃腸障害のような不快症状の訴えがあるにも関わらず、胃カメラなどでは異常が見られない状態を言います。
その診断基準は、機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders:FGIDs)に関する概念を整備したROME Ⅲ基準の中で示されています。
1、機能性ディスペプシア(FD)の診断基準
以下の症状が一つ以上ある。
a.辛いと感じる食後のもたれ感
b.早期飽満感
c.心窩部痛
d.心窩部灼熱感
加えて、上部消化管内視鏡検査などにて症状を説明可能な器質的疾患がない。
以上が、半年以上前からあり、少なくとも最近3ヶ月は上記の診断基準を満たしていること。
FDは自覚症状により、食後愁訴症候群、心窩部痛症候群に分類されます。
1-1、食後愁訴症候群(PDS)の診断基準
以下の症状のいずれかがある。
少なくとも週に数回、
a.通常量の食後に、辛いと感じる食後のもたれ感がある
b.通常量の食事でも早期飽満感のために食べきれない
※補足基準
1,上腹部膨満や食後のむかつき、あるいは過剰な曖気(げっぷ)がおこる
2,心窩部痛症候群が合併してもよい
1-2、心窩部痛症候群(EPS)の診断基準
以下の全てを満たさねばならない。
a.少なくとも週に1回、心窩部に限局した中等度の痛み或いは、灼熱感
b.間欠的な痛みであること
c.腹部全体にわたる、あるいは上腹部以外の胸腹部に局在する痛みではない
d.排便や放屁により軽快しない
e.機能性胆嚢・Oddi括約筋障害の診断基準を満たさない
※補足基準
1,痛みというより焼けるような感じのこともあるが胸部に発生するものではない
2,痛みは通常、摂食により誘発或いは軽快するが、空腹でも起こってもよい
3,食後上腹部愁訴症候群が合併してもよい
FDの発症要因は、消化管運動異常(胃内容物の排出異常、胃の運動リズム障害、胃前庭部運動の低下、小腸の運動障害など)、消化管知覚過敏(胃及び十二指腸の知覚過敏、酸感受性過敏など)、 ストレス及び脳腸相関(迷走神経障害、心理的苦痛、中枢神経障害など)、食後の胃底部弛緩不全、H.pylori 感染などが考えられている。
FD患者においては、胃運動の低下や胃排出の遅延などの消化管運動異常が認められることから、消化管運動を亢進させ、消化管機能を改善することを目的に治療が行われます。
代表的なものを挙げると…。
1.消化管運動賦活剤
a.ドパミンD2受容体拮抗+アセチルコリンエステラーゼ阻害剤
イトプリド(商品名:ガナトン)、メトクロプロミド(商品名:プリンペラン)
b.セロトニン5-HT4作動薬
モサプリド(商品名:ガスモチン)
2.胃酸分泌抑制剤
a.PPI(プロトンポンプ阻害剤)
オメプラール(商品名:オメプラール)、ランソプラゾール(商品名:タケプロン)、ラベプラゾール(商品名:パリエット)、エソメプラゾール(商品名:ネキシウム)
b.H2 blocker
ファモチジン(商品名:ガスター)、ラニチジン(商品名:ザンタック)、ラフチジン(商品名:ストガー、プロテカジン)など
3.漢方薬
六君子湯、安中散
4.抗不安薬(セロトニン5-HT1A部分作動薬)
タンドスピロン(セディール)
今までは以上のような薬を使用していたのですが、これからはアコチアミドをFD専用の薬として使用することが可能になります。
作用としてはイトプリドとほとんど同じになりますが、FDのために研究、開発されたという部分が大きく異なります。
また、FDの診断を促進することにもつながるのではないでしょうか?
FDに対する薬剤が販売されることで、FD自体が一般的な病名として浸透し、専門医以外でも診断しやすくなるんじゃないかと思います。
今まで、はっきりしない胃腸障害で苦しんでいた人にとってうれしい流れになればいいですね!
消化器の臨床 Vol.16 No.6 2013: 特集:機能性ディスペプシア(FD)診療の新潮流
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