【オグサワ処方】オーグメンチンとサワシリンを併用する理由【AMPC/CVA】

オグサワ処方って聞いたことありますか?
オーグメンチンとサワシリンを併用する処方で、オーグメンチン&サワシリンを略して「オグサワ」処方と呼ばれています。
処方例としては、以下のようなものです。

オグサワの処方例

  • オーグメンチン配合錠250RS 3錠 1日3回毎食後
  • サワシリンカプセル250 3カプセル 1日3回毎食後

この記事では以下の内容を中心にまとめます。

  • オーグメンチンとサワシリンを併用する2つの理由
  • オグサワ処方が使われる症例
  • レセプト上は問題ないのか?

オーグメンチンとサワシリン

オーグメンチンとサワシリンが記載されている処方箋。
オグサワ処方(オーグメンチンとサワシリンの併用)を知らない場合、オーグメンチン服用後にアモキシシリン服用と考えてしまうかもしれません。
理由はそれぞれの成分にあります。

  • オーグメンチン配合錠250RS:クラブラン酸カリウム 125mg/アモキシシリン水和物 250mg
  • サワシリンカプセル250:アモキシシリン水和物 250mg

ご覧のとおりアモキシシリン(AMPC)が重複しています。
オーグメンチンとサワシリンは通常、それぞれ単独の抗生物質として使用する薬です。
ですので、クラブラン酸カリウム(CVA*1)を含むオーグメンチンを飲みきってから、アモキシシリン単独のサワシリンに切り替えるのではないかと考えてしまうかもしれません。(それでもおかしいですけどね)

オーグメンチンとサワシリンの用法・用量

それぞれの薬剤の用法・用量は添付文書に以下のように記載されています。

用法及び用量
通常成人は、1回1錠、1日3~4回を6~8時間毎に経口投与する。

オーグメンチン配合錠 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

用法及び用量
通常1回250mg(力価)を1日3~4回経口投与する。

サワシリンカプセル/細粒/錠 添付文書 LTLファーマ株式会社

当然ですが、どこにも両剤を併用するような指示は記載されていません。
それどころかサワシリン(アモキシシリン)の添付文書記載用量を超えてしまいます。

オーグメンチンとサワシリンの作用機序

本題に入る前にオーグメンチンとサワシリンの作用機序についておさらいをしておきましょう。

サワシリン(アモキシシリン)の作用機序

まず、サワシリン(アモキシシリン)の作用機序です。
アモキシシリンはβ-ラクタム系抗生物質の一つでペニシリン系抗生物質に分類されます。

細菌の中には細胞壁を持つものが存在し、その細菌にとって細胞壁はその構造を保つために必須のものです。
細胞壁はペプチドグリカンというペプチドと糖からなる高分子化合物から構成されています。
ペプチドグリカンはペニシリン結合タンパク質(PBP*2)と呼ばれるペプチドグリカン合成酵素によって作られます。
ペニシリン系抗生物質はその名前の通りPBPに結合するのですが、これはペニシリン系抗生物質の構造がD-Ala-D-Ala(D-アラニル-D-アラニン)に類似しているためです。
ペプチドグリカンの原料であるD-Ala-D-Alaと間違えてペニシリン系抗生物質と結合したPBPはそれ以上ペプチドグリカンを合成することができなくなります。
その結果、細菌は細胞壁を合成できなくなり、その形を保てなくなり死滅してしまいます。
人は細胞壁を持たないため人の細胞に対する毒性が低いのが特徴ですが、ペニシリンショックと呼ばれるアナフィラキシーショックを引き起こすことが知られているため注意が必要です。

β-ラクタマーゼによる耐性機構

ペニシリン系抗生物質により細菌を倒すことができますが、細菌も黙っているわけではありません。
ペニシリン系抗生物質などのβ-ラクタム系抗生物質に対して耐性を獲得した細菌が存在します。
細菌は様々な形の耐性機構を持ちますが、β-ラクタム系抗生物質に対する代表的な耐性機構の一つにβ-ラクタマーゼがあります。

β-ラクタマーゼはペニシリン系抗生物質を含むβ-ラクタム系抗生物質に特徴的なβ-ラクタム環を切断し、その活性を阻害します。
その結果、アモキシシリンは効果を発揮できなくなってしまいます。
(β-ラクタマーゼはペニシリナーゼ、セファロスポリナーゼなど様々な種類が存在します)

オーグメンチン(アモキシシリン/クラブラン酸カリウム)の作用機序

そこで登場したのがオーグメンチン(アモキシシリン/クラブラン酸カリウム)です。
クラブラン酸カリウムはβ-ラクタマーゼの働きを抑えることのできるβ-ラクタマーゼ阻害薬です。
β-ラクタマーゼを不可逆的に阻害することができるため、アモキシシリと合わせて使用することで、β-ラクタマーゼを有する細菌に対してもアモキシシリンが効果を発揮することを可能とします。

(クラブラン酸カリウムは特にペニシリナーゼに対して効果を発揮すると言われています)

オーグメンチンとサワシリンの併用療法

「オーグメンチンとサワシリンを併用」するのがオグサワ処方です。
ここからはオーグメンチンとサワシリンを併用する理由について説明していこうと思います。

理由1:アモキシシリンの用量を増やしたい

日本国内でのアモキシシリンの使用量は添付文書上1日750mg~1,000mg(1回250mgを1日3~4回経口投与)となっていますが、国際的に見るとこれはとても少ないです。

海外でのアモキシシリン使用量

各国で承認されているアモキシシリンの成人量は以下のようになっています。(適応により用量が異なりますが全て合わせて記載しています)

  • 米国:750〜1,750mg/日
  • 英国:750〜1,500mg/日(重度6,000mg/日)
  • 独国:1,500〜3,000mg/日(重度4,000〜6,000mg/日)
  • 仏国:1,000〜1,500mg、2,000mg/日

このように海外では約1,500mg/日までの使用が可能で最大では6,000mg/日まで使用可能になっています。

日本国内においてもJAID/JSC感染症治療ガイド2019でインフルエンザ菌や肺炎球菌に対して、同様の用量が推奨されています。

Ⅶ 呼吸器感染症
A-1 市中肺炎
1 Empiric Therapy
細菌性肺炎(外来治療)の第一選択薬

CVA/AMPC 経口1回(AMPCとして)500mg・1日3〜4回

SBTPC 経口1回 750mg・1日3〜4回

CVA/AMPCおよびSBTPCについては、添付文書通りの投与法ではAMPCとして最大1000mg、ABPCとして最大750mgまでしか投与できないので、さらにAMPCの併用も考慮する。

[例]CVA/AMPC 経口1回(AMPCとして)250mg・1日3回 + AMPC 経口1回250mg・1日3回

JAID/JSC感染症治療ガイド2019

※Empiric Therapy(エンピリックセラピー):経験的治療の意味で、治療を行う者が菌同定前に可能性のある菌を想定して抗菌薬治療を開始することを指します。

小児用量は改訂済み

ちなみに小児に対するアモキシシリンの用量についてはすでに改定されています。
以前は、アモキシシリンの細粒の用量は1日20~40mg/kgの記載のみだったんですが、
2011年8月に添付文書が改訂され、「年齢、症状により適宜増減するが、1日量として最大90mg(力価)/kgを超えないこと」が加えられました。

用法及び用量
〈ヘリコバクター・ピロリ感染を除く感染症〉
小児:アモキシシリン水和物として、通常1日20~40mg(力価)/kgを3~4回に分割経口投与する。
なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量として最大90mg(力価)/kgを超えないこと。

サワシリンカプセル/細粒/錠 添付文書 LTLファーマ株式会社

ちなみに、90mg/kgで使うと11kgの時点で成人最大用量(990mg≒1,000mg)に達します。
このことからも成人の用量がどれだけ少なく設定されているかがわかると思います。

理由2:クラブラン酸カリウムの割合

もう一つの理由がクラブラン酸カリウムの比率の問題です。

クラブラン酸カリウムの役割

ここでクラブラン酸カリウムの作用機序についてもう一度復習です。
オーグメンチンに含まれている「クラブラン酸カリウム」はβラクタマーゼ阻害剤です。
βラクタマーゼというのはアモキシシリンを含むβラクタム系抗生物質を分解してしまう酵素です。
βラクタム系抗生物質にはペニシリン系やセフェム系が含まれますから、βラクタマーゼを産生する細菌はペニシリン系抗生物質やセフェム系抗生物質に耐性を持つということになります。

そこで、アモキシシリンとクラブラン酸カリウムを配合することで、βラクタマーゼ産生菌に対してアモキシシリンが効果を発揮できるようにしたのがオーグメンチンです。

クラブラン酸カリウムとアモキシシリンの配合比率

理由1としてアモキシシリンの少なさを挙げました。
ならば、βラクタマーゼ産生菌に対しては、
「オーグメンチン錠250RS 6T 3×N」
で服用すればいいんじゃないかと思うかもしれませんが、それではだめです。
クラブラン酸カリウムの量が増えてしまうと副作用である下痢や吐き気が出やすくなってしまうので、アモキシシリンだけを増やしたいのです。

オーグメンチンの欠点?

ちなみに、オーグメンチンではクラブラン酸カリウム(CVA)とアモキシシリン(AMPC)の比は、AMPC:CVA = 2:1となっています。
ですが、実はこの比率では副作用である消化器症状が起こりやすくなってしまいます。
最も強い効果をあげるための比率としてこの割合で開発が行われたようですが、菌種によってはCVAが少なくても効果は変わりません。
海外ではAMPC:CVA = 4:1が主流です。
つまり、オーグメンチンが採用している配合比率では、アモキシリンが少なくクラブラン酸カリウムが多いという状態になっています。

AMPCとCVAの比を改善したクラバモックス

ちなみに小児用にはこのバランスを改善した薬が発売されています。
それが「クラバモックス小児用配合ドライシロップ」です。
クラバモックス1.01gあたり、クラブラン酸カリウム 42.9mg(力価) + アモキシシリン水和物 600mg(力価)
つまり、AMPC:CVA = 14:1となっています。
クラバモックスの存在からもCAVは少なくても十分に効果を発揮できることがわかります。

効能又は効果
〈適応菌種〉
本剤に感性の肺炎球菌(ペニシリンGに対するMIC≦2μg/mL)、モラクセラ(ブランハメラ)・カタラーリス、インフルエンザ菌、ブドウ球菌属、大腸菌、クレブシエラ属、プロテウス属、バクテロイデス属、プレボテラ属(プレボテラ・ビビアを除く)
〈適応症〉
表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、リンパ管・リンパ節炎、慢性膿皮症、咽頭・喉頭炎、扁桃炎、急性気管支炎、膀胱炎、腎盂腎炎、中耳炎、副鼻腔

クラバモックス小児用配合ドライシロップ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

クラバモックスの配合比率は他の感染症に対しても有効?

AMPCの効果をサポートするのに適しているCVAの割合は菌種によって異なるようです。
実際に異なるのか単純にそこでまでのデータが存在しないのかは不明ですが明確な資料は見つけられませんでした。
ただし、クラバモックスの適応菌種に含まれているように、市中肺炎の原因となる「肺炎球菌」や「インフルエンザ菌」に対してはAMPC:CVA = 14:1で十分効果を発揮することがわかっています。

まとめと感想

  • オーグメンチン配合錠250RS 3T 3×N
  • サワシリンカプセル250 3C 3×N

を併用するオグサワ処方の狙いがわかってもらえたと思います。
アモキシシリンの用量を十分に効果が出るよう増やし、かつ、クラブラン酸カリウムの量は増やさず副作用(下痢)を抑える処方というわけです。
あえてアモキシシリンを重複させることで、クラブラン酸カリウムを増やさずにアモキシシリンの用量を倍増させたのがオグサワ処方です。

当然ですが、サワシリンじゃなくてパセトシンでもアモリンでも、アモキシシリンでも同じです。
でも、オグパセともオグアモとも言いません。
オグサワ処方もしくはオグサワ療法です(笑)

参考までにオグサワを含めたサワシリンとオーグメンチンによる処方の組み合わせとそれぞれの成分量(1回量)をまとめました。

オグサワの使用例

ちなみに、この処方、肺炎や虫垂炎でよく見かける気がします。
抗生物質の処方一つにしても医師の考えが伝わってきて面白いですね。

CVA/AMPC(AMPC 500mg/回)の処方はガイドラインの中でも広く推奨されています。

オグサワが第一選択となっている感染症

肺炎

  • 市中肺炎(非定型肺炎を除く)のEmpiric Therapy
  • 市中肺炎のDefinitive Therapy
    • βラクタマーゼ産生H.influenzae(インフルエンザ菌)
    • ESBL*3非産生
      • Klebsiella属
      • Escherichia coli
      • Proteus属
    • メチシリン感受性 Staphylococcus aureus(MSSA*4
    • Moraxcella catarrhalis
    • 嫌気性菌
  • 医療・介護関連肺炎のEmpiric Therapy(重症度が高くなく耐性菌のリスクが低い場合)
  • 誤嚥性肺炎のEmpiric Therapy(重症度が高くなく耐性菌のリスクが低い場合)

※Definitive Therapy:決定的治療の意味で、原因を特定して第一選択薬を使用して行う治療を指します。

その他

  • 潰瘍・創面などの二次感染(中等症 外来治療)
  • 咬傷後の予防内服

主に肺炎、外傷がオグサワの対象となっています。
肺炎と言ってもマイコプラズマ肺炎は対象となりません。
ペニシリン系が無効なので当然ですね。
小児に対するクラバモックスの適応からもわかるように中耳炎や副鼻腔炎にも有効です。

肺炎球菌にはオグサワは推奨されていない?

意外なことに肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を原因菌とする市中肺炎のDefinitive Therapyにオグサワは推奨されておらず、高用量アモキシシリン(もしくはニューキノロン)が推奨されています。
その理由は肺炎球菌の耐性機構にあります。
ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP*5)、ペニシリン中等度耐性肺炎球菌(PISP*6)やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR*7)はペニシリン耐性を獲得していますが、その耐性機構はβ-ラクタマーゼによるものではありません。
(PRSPはペニシリン結合蛋白(PBP)の変化により耐性を獲得)

そのため、クラブラン酸カリウムを服用しても効果はなく、オグサワ処方を用いる意味がありません。
JAID/JSC感染症治療ガイド2019で推奨されているのはそれぞれ以下のようになっています。

  • S. pneumoniae(ペニシリン感受性):AMPC 500mg・1日3〜4回
  • S. pneumoniae(ペニシリン耐性):ニューキノロン系抗菌薬

市中肺炎のEmpiric Therapyとしてオグサワ処方を用いた場合で原因菌が肺炎球菌(ペニシリン感受性)の場合、クラブラン酸カリウムの効果は関係なく、高用量アモキシシリンによる効果が発揮されているということですね。

レセプト上は問題ないのか?

いくらガイドラインに記載されているからと言っても、承認されている用量を超しての使用ですからレセプトで切られる可能性はあります。
実際、切られたという情報をネット上で目にしたことはありますが、個人的には切られたケースにお目にかかったことはありません。
切られることをどうしても回避したい場合はアモキシシリンの倍量投与が必要な理由をコメントにしっかり記載することで審査されるのをある程度回避できるのかもしれません。
それほど高い薬剤ではないことも関係しているかもしれませんが、こればっかりは審査の先生次第ですよね。

個別指導では確認しましたか?って聞かれそうな気がします。
疑義照会したかどうかが問われると思うので、職場ごとにしっかりと指針を作って対応したいところですね。

記事作成のきっかけ

別の薬局でこの処方の調剤を受けた患者さんに、投薬を担当した薬剤師がとても自信なさそうな上に具体的な説明をしてもらえなかったので不安になってしまったと言って相談してきたことがありました。
(一緒に飲むって聞いてますか?→説明はなかったです→そうですか・・・→そのまま用法には触れず)
そういうことはあって欲しくないので、この記事を書いたという経緯があります。
わからないことはそのままにしない。
知識のなさを患者さんに不安として伝えてはいけない。
それを忘れないようにしたいです。

サワシリンやオーグメンチン(アモキシシリン/クラブラン酸カリウム)の最新情報

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感染症に対する専門医の処方のポイントなど興味深い記事が並んでいますね。
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参考資料

  • オーグメンチン配合錠 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社
  • サワシリンカプセル/細粒/錠 添付文書 LTLファーマ株式会社
  • クラバモックス小児用配合ドライシロップ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社
  • 医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議 公知申請への該当性に係る報告書 アモキシシリン水和物 小児感染症に対する最大投与量の変更
  • JAID/JSC感染症治療ガイド2019

*1:ClaVulanic Acid

*2:Penicillin-Binding Protein

*3:Extended-spectrum β-lactamase

*4:Methicillin-Sensitive S.aureus

*5:Penicillin-Resistant Streptococcus Pneumoniae

*6:Penicillin-Intermediate S.Pneumoniae

*7:Beta-Lactamase-Negative, Ampicillin-Resistant Haemophilus influenzae

 

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