平成29年8月3日、厚生労働省医薬・生活衛生局は、新たな副作用が確認された医薬品について、添付文書の使用上の注意を改訂するよう日本製薬団体連合会に通知しました。
今回指示が出されたのは以下の4成分です。
- リオシグアト(アデムパス)による重篤な有害事象・死亡の増加
- ワルファリンカリウム(ワーファリン)によるカルシフィラキシス
- アジスロマイシン水和物(ジスロマック)による急性汎発性発疹性膿疱症
- ラニナミビル(イナビル)による気管支攣縮、呼吸困難
今回は気になる内容が多いので少し詳しくまとめていこうと思います。
使用上の注意の改訂指示(平成29年8月3日)
PMDAへのリンクを貼っておきます。
リオシグアトによる重篤な有害事象・死亡の増加
添付文書改訂の対象となる薬は以下のとおりです。
- アデムパス錠0.5mg
- アデムパス錠1.0mg
- アデムパス錠2.5mg
アデムパス錠の添付文書改訂内容
添付文書の「重要な基本的注意」の項に以下の文章が追記されます。
特発性間質性肺炎に伴う症候性肺高血圧症を対象とした国際共同試験において、本剤投与群ではプラセボ投与群と比較して重篤な有害事象及び死亡が多く認められた。間質性肺病変を伴う肺動脈性肺高血圧症の患者に本剤を投与する場合は、間質性肺疾患の治療に精通した専門医に相談するなど、本剤投与によるリスクとベネフィットを考慮した上で、投与の可否を慎重に検討すること。
症例報告(リオシグアト錠による重篤な有害事象・死亡の増加)
直近3年度の国内副作用症例の集積状況で、発性間質性肺炎に伴う症候性肺高血圧症患者において、副作用が認められた症例は1例です。
因果関係についての評価はされておらず、死亡例についても報告されていません。
ですが、今回改訂の対象となった理由については以下のように記載されています。
特発性間質性肺炎に伴う症候性肺高血圧症患者を対象とした臨床試験(RISE-IIP試験)において、リオシグアト投与群ではプラセボ投与群と比較して重篤な有害事象及び死亡が多く認められ、試験が早期に中止されたことから、対応の必要性について検討した。専門委員の意見も踏まえた調査の結果、間質性肺病変を伴う肺動脈性肺高血圧症の患者に対しても同様にリスクが考えられること、リスクがベネフィットを上回る患者も想定されるため、専門の医師が個々の患者に対して投与の可否を判断することが重要であることから、改訂することが適切と判断した。
特発性間質性肺炎に伴う症候性肺高血圧症に対してはアデムパスの使用は控えるべき?
RISE-IIP試験は、特発性間質性肺炎に伴う肺高血圧症(PH-IIP:Pulmonary Hypertension – Idiopathic Interstitial Pneumonia)に対するアデムパスの効果を検討する試験でしたが、プラセボ群と比較して、死亡数、呼吸障害や肺感染を含む重篤な有害事象の症例数が多いことが示されたことにより早期中止となりました。
RISE-IIP試験の早期中止を受けて、EMA(欧州医薬品庁、European Medicines Agency)はアダムパスを特発性間質性肺炎に伴う肺高血圧症の患者には使用しないように勧告しています。
医薬品安全性情報 Vol.14 No.15(2016/07/28)
- 中止された臨床試験には145人のPH-IIP患者が組み入れられていた
- 主要評価項目は26週間の治療後における6分間歩行距離の改善
- 試験を中止するに至った中間評価の時点で21例の死亡が観察された(17人はアダムパ使用群、4人はプラセボ使用群)
- 予備的データからPH-IIP患者に対するアダムパスによる治療について臨床的に意味のあるベネフィットは得られなかった
ワルファリンカリウムによるカルシフィラキシス
添付文書改訂の対象となる商品名は以下のとおりです。
- ワーファリン錠0.5mg
- ワーファリン錠1mg
- ワーファリン錠5mg
- ワーファリン顆粒0.2%
- ワルファリンK錠0.5mg「各社」
- ワルファリンK錠1mg「各社」
- ワルファリンK細粒0.2%「各社」
- ワルファリンK錠2mg「NP」
ワルファリンカリウムの添付文書改訂内容
添付文書の「副作用」の「重大な副作用」の項に以下の文章が追記されます。
カルシフィラキシス:周囲に有痛性紫斑を伴う有痛性皮膚潰瘍、皮下脂肪組織又は真皮の小~中動脈の石灰化を特徴とするカルシフィラキシスがあらわれ、敗血症に至ることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
症例報告(ワルファリンカリウムによるカルシフィラキシス)
直近3年度の国内副作用症例の集積状況で、カルシフィラキシスが11例報告されています。
因果関係が否定できない症例はありませんでした。
死亡については1例報告されていますが、因果関係が否定できない症例はありません。
カルシフィラキシスとは?
聞きなれない副作用名なので調べてみると、
- 概要:慢性血液透析、腹膜透析中の症例を中心として四肢、躯幹、手指、足趾などに発症する、有痛性の紫斑に続く、難治性の皮膚潰瘍を主症状とする疾患である。
- 症状:極めて強い有痛性の紫斑に始まる、多発性・難治性潰瘍を主症状としている。周囲または、潰瘍を発症していない皮膚にも有痛性紫斑を認めることがある。発症部位は四肢、体幹、手指、足趾、陰茎に生じるが、上肢に生じることは比較的少ない。
- 原因:基礎病変として皮膚などの細動脈石灰化を認め、創傷などを契機として多発性の微小塞栓を生じ、その結果として潰瘍が形成されることにあると考えられている。さらにその発症過程に炎症機転が関与する事も考えられているが、詳細 は明らかではなく、糖尿病性の皮膚潰瘍などと混同される症例も少なくないと想定されている。また、透析患者において血管石灰化はほぼ必発であるのに対して、極めて限られた症例にのみ発症する原因は明らかとなっていない。
のように難病情報センター | その他分野 Calciphylaxis(カルシフィラキシス)(平成22年度)に記載されています。
下線部を読むとカルシフィラキシスの原因に石灰化が重要であることがわかります。
この石灰化にはビタミンKが重要な役割を担っていることが知られています。
血管平滑筋にはビタミンK依存性Matrix Gla-Protein(MGP)という抗石灰化物質が存在します。
透析患者のように傾向的に十分な栄養摂取を行うことが難しい場合はビタミンK不足を引き起こすことがあります。
また、ワルファリンカリウムを服用している場合、VitKの働きが阻害されてしまうのでMGPが十分に働けずに石灰化に繋がってしまうのではないかと考えられます。
ワルファリン関連カルシフィラキシスが疑われる場合は、ワーファリンの服用中止やビタミンKの補給等の対応を行うようです。
アジスロマイシン水和物による急性汎発性発疹性膿疱症
添付文書改訂の対象となる商品名は以下のとおりです。
- ジスロマック錠250mg
- ジスロマック錠600mg
- ジスロマック細粒小児用10%
- ジスロマックカプセル小児用100mg
- ジスロマック点滴静注用500mg
- ジスロマックSR成人用ドライシロップ2g
- アジスロマイシン錠250mg「各社」
- アジスロマイシンカプセル小児用100mg「YD」
- アジスロマイシン細粒小児用10%「各社」
- アジスロマイシン小児用細粒10%「タカタ」
- アジスロマイシン小児用錠100mg「タカタ」
アジスロマイシンの添付文書改訂内容
添付文書の「副作用」の「重大な副作用」の項の、中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群に関する記載に下線部が追記されます。
中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、急性汎発性発疹性膿疱症:中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群、急性汎発性発疹性膿疱症があらわれることがあるので、異常が認められた場合には投与を中止し、副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。これらの副作用は本剤の投与中または投与終了後1週間以内に発現しているので、投与終了後も注意すること。
症例報告(アジスロマイシン水和物による急性汎発性発疹性膿疱症)
直近3年度の国内副作用症例の集積状況で、急性汎発性発疹性膿疱症が1例報告されています。
この症例はアジスロマイシンの服用との因果関係が否定できない症例でした。
死亡例はありません。
国内症例は少ないですが、海外での報告が蓄積され、CCDS(Company Core Data Sheet:企業中核データシート)が改訂されたことにより、添付文書の改訂が行われることになったようです。
急性汎発性発疹性膿疱症とは?
急性汎発性発疹性膿疱症については重篤副作用疾患別対応マニュアルが発行されているのでそちらを参照するとわかりやすいかと思います。
重篤副作用疾患別対応マニュアル「急性汎発性発疹性膿疱症」
急性汎発性発疹性膿疱症とは、高熱(38°C以上)とともに、急速に全身が赤くなったり、赤い斑点がみられ、さらにこの赤い部分に多数の小さな白っぽい膿みのようなぶつぶつ(小膿疱)が出現する病態です。血液検査値の異常も認められ ます。大部分は医薬品を飲んだ数日後に発症することが多く、原因医薬品の服用を中止すると、約2週間で発疹は軽快します。しかし、原因医薬品に気づかずに投与が続けられると高熱や皮ふの症状がなおらず、重篤な状態になります。
急性汎発性発疹性膿疱症の欧米での発生頻度は人口100万人あたり年間1〜5人と推定されています。原因医薬品としてはペニシリン系・マクロライド系・セフェム系抗生物質、キノロン系抗菌薬、イトラコナゾール(抗真菌薬)、テルビナフィン(抗真菌薬)、アロプリノール(痛風治療薬)、カルバマゼピン(抗てんかん薬)、ジルチアゼム(降圧薬)、ア セトアミノフェン(鎮痛解熱薬)などが多くを占めています。
発症メカニズムは医薬品などにより生じた免疫・アレルギー反応によるものと考えられています。基礎疾患として感染症が存在する場合により発症しやすい傾向があります。
ラニナミビルオクタン酸エステル水和物による気管支攣縮、呼吸困難
添付文書改訂の対象となる商品名は以下のとおりです。
- イナビル吸入粉末剤20mg
ラニナミビルの添付文書改訂内容
添付文書の「重要な基本的注意」の項の類薬における気管支攣縮や呼吸機能の低下に関する記載に下線部が追加されます。
インフルエンザウイルス感染症により気道過敏性が亢進することがあり、本剤投与後に気管支攣縮や呼吸機能の低下がみられた例が報告されている。気管支喘息及び慢性閉塞性肺疾患等の慢性呼吸器疾患の患者では、患者の状態を十分に観察しながら投与すること。
また、「副作用」の「重大な副作用」の項に以下の内容が追記されます。
気管支攣縮、呼吸困難:気管支攣縮、呼吸困難があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。
症例報告(ラニナミビルによる気管支攣縮、呼吸困難)
直近3年度の国内副作用症例の集積状況で、気管支攣縮、呼吸困難関連症が8例報告されています。
そのうち、因果関係が否定できないものは3例でした。
死亡例はありません。
まとめ(平成29年8月3日の添付文書改訂について)
今回はカルシフィラキシスというあまり聞きなれない副作用名が出て来ました。
ただ、カルシフィラキシスの危険因子として、透析と並んでワルファリンの服用は知られています。
そもそも、透析患者に対するワーファリンの服用は原則として禁忌となっています。
ですが、DOAC(NOAC)が使用できないということで、ワーファリンを服用しているケースを見かけることはあります。
じゃあ、透析患者のAFに対してワルファリンを使用することで脳塞栓予防が可能となるかというとそこには明確なデータが存在しません。
そもそも、透析患者は元々の心血管リスクが非常に高いので、その中では心原性脳塞栓はそこまで大きなウエイトを占めていはいないのかもしれません。
イナビルの気管支攣縮、呼吸困難ですが、これまでも指導で注意を促していた人は少なくないのではないでしょうか?
処方医の考えや判断にもよるのですが、慢性呼吸器疾患を有する場合はインフルエンザ自体がハイリスクとなるため、適切な治療が必要となります。
ですが、その治療で呼吸困難を引き起こしてしまっては意味がないので、吸入等でどの程度コントロールできているかの判断が大事になる気がします。
メプチンやサルタノール等のリリーバーを持っている場合は、吸入してからイナビルの吸入を行うこともあります。
まあ、DPIである以上、乳糖による刺激は避けることはできませんよね・・・。
じゃあ、内服や点滴で治療を行えば・・・と思っても、タミフル・ラピアクタは耐性が見られるシーズンもあるし、微妙なところですね。
イナビルについてはシーズン到来までに指導等を整理しておきたいところですね。