前回に引き続き、今回も、平成27年10月30日、財務省の財政制度等審議会財政制度分科会が示した、2016年度診療報酬改定に向けた改革案についてまとめます。
今回は後半、調剤報酬についての部分です。
保険薬局の果たすべき役割を踏まえた、「ゼロベースでの構造的見直し」として、
- 調剤基本料の「特例」の対象拡大・さらなる点数の引き下げ
- 後発医薬品の数量シェアが低い場合は減点
- 調剤料の大幅な引き下げ・日数によらない定額化
- 一包化加算の大幅な引き下げ・日数によらない定額化
などが提示されています。
正直、これがこのまま採用されてしまうと、経営が成り立たなくなる薬局も多く出てくるのではないかと思います。
財務省が医療費削減のために薬局に本格的にテコ入れをしようとしていることがよくわかります。
H28調剤報酬改定についての過去記事です。
なお、疑義解釈等が公開されて初めて考え方がわかるものもあるので、あくまで現時点での一人の薬剤師の解釈として捉えてもらえれば幸いです。
解釈に変更等があれば随時更新する予定です。
https://yakuzaishi.love/archive/category/%E8%A8%BA%E7%99%82%E5%A0%B1%E9%85%AC%E6%94%B9%E5%AE%9A-%E5%B9%B3%E6%88%9028%E5%B9%B4%E5%BA%A6%EF%BC%882016%E5%B9%B4%E5%BA%A6%EF%BC%89%E8%AA%BF%E5%89%A4%E5%A0%B1%E9%85%AC%E6%94%B9%E5%AE%9Ahttps://yakuzaishi.love
財政制度等審議会 財政制度分科会
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/
今回の提出資料
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia271030/01.pdf
前回の記事はこちら
https://yakuzaishi.love
調剤医療費の現状
まず、資料では様々な角度で、ここ数年の調剤医療費の伸びについてまとめられています。
- 調剤医療費:2004年度 4.2兆円→2014年度 7.2兆円
- 技術料(全体):2004年度 1.2兆円→2014年度 1.8兆円
- 調剤基本料:2004年度 0.30兆円→2014年度 0.49兆円
- 調剤料:2004年度 0.68兆円→2014年度 1.00兆円
- 薬学管理料:2004年度 0.24兆円→2014年度 0.33兆円
- 薬剤料:2004年度 3.0兆円→2014年度 5.4兆円
調剤技術料と調剤料の伸びが大きいことがわかります。
次に他の医療技術料との比較も行われています。
2009年度と2014年度を比較した場合の技術料は、
- 調剤:121.6%
- 医科・入院:116.3%
- 医科・入院外:109.8%
- 歯科:109.1%
あくまでも比率ですが、調剤の伸びが大きいことがわかります。
そして、2014年度の医薬分業率は68.7%。
2012年の薬剤師数は280,052人、うち薬局153,012人、病院52,704人。
1990年と比較して、病院薬剤師はほとんど増えていませんが、薬局薬剤師は3倍以上と大きく増えています。
それに合わせて薬局の数も増え、2013年度は57,701件。
これはコンビニエンスストア(50,820件)、郵便局(24,511件)よりも多いです。
また、院内処方の場合と、院外処方の場合の診療報酬の比較も行われています。
ここ最近の報道でも何度も目にした数字ではありますが。
実際には薬剤数が減ったり、重複・相互が防がれるはずですが・・・、単純な診療報酬を比較すると、院外処方の場合の方が大きくコストがかかってしまいます。
調剤報酬に係る改革の論点
以上を元に、財務省では以下のように論点をまとめています。
調剤報酬引き下げの必要性
調剤報酬(技術料)は他の医療費を大きく超えて伸びており、医薬分業の進展による伸びに加え、単価も大幅に上昇している。また、我が国の人口当たり薬剤数は、諸外国に比べて著しく多い。
保険薬局の果たすべき役割を踏まえた、ゼロベースでの構造的見直しの必要性
- 医薬分業とは、薬局における薬学的観点からの処方内容のチェックや服薬指導等を通じて、薬物療法の有効性・安全性の向上等を目指すもの
- 医薬分業に伴い、本来、服薬指導等を評価する「薬学管理料」へのメリハリある重点化が必要であるが、実際には、「薬学管理料」だけでなく、処方箋の受付と薬のピッキング等による「調剤技術料(調剤基本料・調剤料)」の伸びも大きくなっている
- 10月23日に厚生労働省が公表した「患者のための薬局ビジョン」においては、「立地から機能へ」、「対物業務から対人業務へ」、「バラバラから1つへ」との基本的な考え方が掲げられている
現行の調剤報酬体系については以下のような問題がある。
- 調剤技術料(調剤基本料・調剤料):処方箋の受付回数や投与日数・剤数に応じて増加する仕組みとなっているため、処方箋の受付と薬のピッキング業務等のみで相当程度の収益を稼ぐことも可能となっており、門前薬局の林立や調剤医療費の増加を生んでいるのではないか。また、今日の業務の実態や技術進歩を踏まえれば、投与日数・剤数に応じて業務コストが比例増することを前提にした調剤料は不合理であり、大幅な見直しが必要ではないか。
- 薬学管理料:大半を占める薬剤服用歴管理指導料の要件(例えばお薬手帳への記載)については、十分適切な薬学管理を行っていない薬局も算定可能となっており、さらに薬歴を適切に記録せずに算定した事例が判明するなど、努力している薬局との差別化が図られていないのではないか。
そのまま引用しましたが、どうでしょうか?
たしかに、本来、日本の薬局において主たる評価であるべきなのは薬学管理料です。
海外の薬局では調剤技術料に相当するものは微々たる点数となっていますよね。。。
調剤基本料の見直し
調剤基本料の特例
調剤基本料(狭義)については、処方箋の受付やピッキング業務に集中して収益をあげる現状を是正し、面的分業などの質的充実を図る観点から、いわゆる「大型門前薬局」を念頭に低い点数が設定されている「特例」の対象拡充や点数の引下げを図るべき。
要は、現行で、
- 受付回数4000回超かつ集中率70%超の薬局
- 受付回数2500回超かつ集中率90%超の薬局
が該当する調剤基本料の特例の範囲をもっと拡大すべきということです。
さらに、現特例に該当する場合、調剤基本料は25点(未妥結19点)ですが、これを18点まで引き下げるべきとしています。
特例の範囲拡大については、具体的に、「処方箋受付回数1200回以上、集中率70%」、「処方箋受付回数2500回以上、集中率50%」といった例が示されています。
後発医薬品調剤体制加算
後発医薬品調剤体制加算については、足元の数量シェアの上昇を踏まえつつ、後発医薬品の使用を一層強力に推進していく観点から、数量シェア目標の引上げに対応した閾値の見直しに加え、全体として加算水準を引き下げるとともに、取組が不十分な薬局に対しては減算措置を設けるべき。
現行では、
- 数量シェア55%未満:加算なし(0点)
- 数量シェア55%以上:18点
- 数量シェア65%以上:22点
となっている後発医薬品調剤体制加算ですが、これを見直し、さらに減点まで設けることで、
- 数量シェア60%未満:-10点(減点)
- 数量シェア60%以上:8点
- 数量シェア70%以上:12点
とするべきと提示しています。
近隣医院の処方箋が変更不可とされている場合はどうするんでしょうね?
基準調剤加算について
基準となる①集中率要件の大幅な引下げ、②備蓄数の引上げなどの算定要件の厳格化、③24時間体制について、連絡先電話番号等の交付といった形式的要件ではなく、夜間・休日対応の実績を要件とする等の見直しを行うべき。
対応の実績というのはどのように報告するのでしょうか・・・?
自らの努力だけでは実績を上げることは不可能ですよね。
調剤料の見直し
調剤料について
調剤料(内服薬)(約7,800億円)については、院内処方では投与日数や剤数にかかわらず1回の処方につき定額(9点)とされている一方で、院外では投与日数や剤数に応じて点数が高くなるように設定されている。
今日の業務の実態や技術進歩(PTP包装の一般化、全自動錠剤分包機の普及など調剤業務の機械化等)を踏まえれば、調剤料の水準を全体として引き下げるとともに、投与日数や剤数に応じて業務コストが比例増することを前提にした調剤料の仕組みを見直し、院内処方と同様に投与日数や剤数にかかわらず定額とすべき。28年度改定においては、激変緩和の観点から、まずは、全体の水準を1/2程度に引き下げつつ、投与日数に応じて点数の伸びが逓減していく配分とし、段階的に定額化を進めるべき。
まずは全体の水準を1/2・・・。
平成28年度調剤報酬改定で、調剤料を1/2まで削減するということですか。。。
また、平成30年度調剤報酬改定では、院内調剤と同じ定額9点(内服)とするべきと提示されています。
一包化加算について
一包化加算(約600億円)については、作業の機械化が進んでいること等を踏まえ、点数を大幅に引き下げつつ、投与日数に連動した点数配分を廃止すべき。
院内処方では一包化加算自体が存在しないこともあり、大幅に減点すべきとされています。
作業の機械化と書いてありますが、その機械を導入するためのコストは、一包化加算なしでどうやって回収するのでしょうか・・・。
薬学管理料の見直し
薬剤服用歴管理指導料(約3,200億円)については、医薬分業に期待される利点の一つとされる専門的見地からの処方内容の確認や服薬指導等に対する報酬であるにもかかわらず、算定要件(例えばお薬手帳の記載)については、適切な管理を行っていない薬局も事実上算定可能となっている(形骸化している)など、「意義を見出しにくい」との批判がある。
このため、服薬指導の意義、患者にとっての利点やこれまでの管理指導による具体的な成果等について分析を行った上で、真に効果的に、継続的かつ一元的な管理指導を行っている薬局に限り、高い点数が算定されるよう、適用要件の厳格化を図るべき。
薬学管理料の評価の厳格化は個人的に歓迎です。
今回、唯一、点数が維持もしくは上昇する可能性が示されているのは、この部分だけです。
ただし、その対象となるのは、真に効果的に、継続的かつ一元的な管理指導を行っている薬局となっています。
本来、そうあるべきもので、現行の薬歴管理料は、外部から評価するのが難しい故に、薬局ごと、薬剤師ごとの差が大きくなってしまっているのだと思います。
薬剤服用歴管理指導料本体部分の点数を減らし、算定要件も必要最低限とし、現行の個々の算定要件を加算として分解するべきなのではないかと思うのですが。
もちろん、毎回すべて算定することのないように、それを算定した理由を明確に記載するなどの条件が必要かと思いますが。
ただ、一番難しいのは、調剤報酬上の評価と患者さんからの評価を結びつけることだとは思いますが。
まとめ
以上、みなさん、どのような感想を抱いたでしょうか?
正直、衝撃を受けました。
次回の改定が厳しいものになることは多くの薬剤師が覚悟していたことですが、まさかここまで提示してくるとは・・・というのが率直な感想です。
これはあくまでも財務省が提示したもので、これから専門家による議論が進んでいくわけで、これがこのまま通ることはないと思います。た
ただ、国の財務上はここまでしないと国民皆保険が維持できないというところまで来ているのが現実です。
仮に、より薬剤師の職能に期待する形で、点数がそれほど減点されなかったとしても、それは最後のチャンスになるかもしれません。
また、調剤基本料の部分に「必要に応じ、「1日平均取扱処方箋枚数制限(40枚/薬剤師1人)」の緩和・撤廃とあわせて要検討」なんて文章が記載されています。
財務省としては増えすぎた薬剤を減らしていきたいという考えもあるのだと思います。
なんとなくですが、アメリカの薬局のようなものを財務省はイメージしているのかなと思います。
あちらは、ほとんどの薬局が薬剤師一人です。
ですが、それはテクニシャン制度があり、なおかつ、処方が日本に比べて大幅に軽いから可能なんですけどね。
薬局の「ゼロベースでの構造的見直し」という言葉もありました。
現状の薬局のままではダメだ、というのは多くの薬剤師が考えていたことだと思います。
なので、抜本的な構造の見直しというのは大歓迎という人も少なくないのではないかと思います。
ただ、それにはやはり、痛み(減額)が伴うんですね。
多少、甘い自分がいましたが、これは大きな痛みを伴うことになりそうです。
今後、どのような報告に議論が進んでいくか。
ここからの動向に注目していきたいと思います。