国内初のSGLT2阻害剤 スーグラ発売~服薬指導や特徴を考えてみる

昨日(平成26年4月17日)、ついに国内初のSGLT2阻害剤 スーグラ錠(一般名:イプラグリフロジン L-プロリン/アステラス製薬)が薬価収載され、販売開始となりました。
大型新薬と言うことで、朝一番に卸さんから納品された薬局も多いと思います。
薬価基準収載後即発売(薬価収載日=販売開始日)と言うことで、レセコンへの登録のために、電算コードや薬価を調べて入力したりと少し慌ただしい風景が多くの薬局で見られたことと思います。
もう、処方を受けて調剤したよと言う薬局も多いかとは思いますが、投薬上の注意点や特徴について、再度まとめておこうと思います。

スーグラの基本情報

製品名:スーグラ錠25mg、スーグラ錠50mg
一般名:イプラグリフロジンL-プロリン
効能•効果:2型糖尿病

名前の由来ですが、英名がSUGLATですからSGLTをもじってスーグラってことでしょうね。

薬価ですが、25mgが136.50円、50mgが205.5円です。
DPP4阻害剤のテネリア錠20mg(一般名:)を比較薬とした類似薬効比較方式で算定され、有用性加算2が付きました。
※186.80円(テネリア)+18.68円(10%:有用性加算2)の四捨五入により205.5円
通常用量で薬剤料は一日21点。
14日分で294点となり、3割負担で調剤料などを除外して880円くらいの負担ということですね。

スーグラの作用機序

SGLT2阻害薬その1〜スーグラ承認 – 薬剤師の脳みそ
近位尿細管において糖の再吸収を司る輸送体であるSGLT2(Sodium-Glucose Transporter 2)を阻害することで、尿中への糖の排出を促進し血糖を低下させます。
糖の再吸収の90%はこの近位尿細管に存在するSGLT2によって行われていると言われています。
つまり、糖の再吸収を抑えることで血糖を低下させる薬ということになります。

服薬指導で作用機序をどう伝えるか?

薬の作用機序を理解してもらうことは服薬指導の第一歩です。
糖尿病薬のように作用(血糖降下)の延長上に副作用(低血糖:動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、空腹感、あくび、悪心、倦怠感、寒気、頭痛、発汗、意識消失)が存在する場合は副作用の理解にも繋がります。
スーグラの場合、みなさんはどのように説明しますか?

「糖尿病のように体内に糖が大量に蓄積した状態では、過剰な糖分が尿中に溢れ出てきてしまいます。この薬は糖を尿中に出しやすくすることにより、体内の糖分を尿を介して排泄し、血糖値を下げる薬です。」
と言った具合でしょうか?

副作用の理解のためにも「尿中への糖分排泄」は理解してもらう必要があります。

スーグラの副作用

まずは添付文書を見てみましょう。
この薬剤、副作用に特徴的なものが多いので、それらを列挙します。

重大な副作用
1)低血糖症状:スルホニルウレア剤併用(3.6%)、速効型インスリン分泌促進剤併用(2.5%)単独使用(1.0%)
2)腎盂腎炎(0.1%)

その他の副作用
胃腸障害:便秘(1~5%未満)、下痢・胃炎・胃食道逆流性疾患・上腹部痛・腹部膨満(1%未満)
全身障害及び投与局所様態:口渇・体重減少(1~5%未満)、空腹・倦怠感(1%未満)
感染症:膀胱炎・外陰部膣カンジダ症(1~5%未満)
腎及び尿路障害:頻尿(5%以上)多尿(1~5%未満)、尿管結石・腎結石症(1%未満)
生殖系及び乳房障害:陰部そう痒症(1%未満)
臨床検査:尿中β2ミクログロブリン増加(5%以上)、尿中β‒NアセチルDグルコサミニダーゼ増加・尿潜血陽性・尿中ケトン体陽性・血中ケトン体増加・尿中α1ミクログロブリン増加(1%未満)

これらの副作用を理解してもらうことが、副作用の重篤化を防ぐために必要です。
ですが、納得できない副作用というのは怖いですし、それは服薬コンプライアンスの低下に繋がります。
そのためにも、副作用のわかりやすい説明が重要ですね。

スーグラの副作用を原因別に整理してみる。

副作用を原因別に分類してみましょう。

低血糖症状

まずは低血糖症状。
これは薬効=原因ですからわかりやすいですね。
単独使用でも1%発生しますので注意が必要です。
※参考 アマリール:4.08%、メトグルコ:1~5%、シュアポスト:16.4%

空腹・倦怠感も低血糖症状と思われます。

頻尿関連

頻尿、多尿は尿糖の上昇が原因ですね。
おしっこを介して糖分を排出する作用の薬ですから、理解しやすい副作用だと思います。

口渇・体重減少についても頻尿に起因するものですね。

副作用に記載はありませんが、これからの季節柄、脱水症状には注意が必要だと思います。
熱中症などの症状も説明していく必要がありますね。

消化管関連

便秘、腹部膨満については頻尿等による体内の水分低下に起因するものと思われます。
下痢、胃炎、胃食道逆流性疾患、上腹部痛については消化管のSGLT1が阻害されることによるものだと考えられます。
SGLT2阻害薬その2〜SGLT1/2阻害薬 – 薬剤師の脳みそ

感染症

腎盂腎炎、感染症(膀胱炎・外陰部膣カンジダ症)も尿中の糖分上昇によるものです。
これも薬効=原因と言ってもいいと思います。
陰部そう痒症も感染症に起因するものかな?

結石

尿管結石・腎結石症についてですが、尿中のグルコース濃度が高くなった結果、カルシウムやリンの再吸収が阻害され、尿中のカルシウム•リンの濃度が高くなることが原因です。

検査値関連

尿中β2ミクログロブリン増加、尿中β‒NアセチルDグルコサミニダーゼ増加、尿中α1ミクログロブリン増加
健常人ではごくわずかしか尿中に排泄されませんが、尿細管に障害があると高濃度になります。
ですので、本来は腎尿細管障害のマーカーとして用いられます。
ただし、SGLT2阻害薬を服用している場合は腎尿細管とは限りません。
尿細管上皮細胞が高濃度グルコース尿に曝露されることで尿中NAG及び尿中β2マイクログロブリン排泄量が増加されると考えられています。
臨床試験の段階で、腎臓に病理組織学的変化が認められないことも確認済みです。

尿潜血陽性
これは腎盂腎炎、感染症、尿路結石等に起因するものではないでしょうか?

尿中ケトン体陽性、血中ケトン体増加
スーグラ錠では1日およそ400kcalの糖分を尿中排泄します。
ですので、体内の糖分が不足し、脂肪が分解を受けエネルギーとされていきます。
その結果、最終産物であるケトン体が上昇してしまいます。
これは糖質制限食などでも見られる症状です。

スーグラ錠(SGLT阻害剤)の場合、主に上昇するのは尿中のケトン体です。
体内でインスリンがある程度作用している場合は、血中のケトン体の大きな上昇につながりませんが、分泌不足などインスリンの働きが低下している場合はケトアシドーシスにつながるので注意が必要です。
本来、ほとんどが1型糖尿病でしか見られないケトアシドーシスですが、SGLT2阻害剤服用中の場合は2型糖尿病であっても注意が必要な気がします。
糖尿病性ケトアシドーシスの初期症状である多尿、嘔吐、腹痛の説明は必要です。

スーグラの副作用は説明しやすい!

さて、どうでしょうか?
検査値関連はさておき総じて副作用の原因が作用から派生するものなので、個人的には非常に説明しやすい気がします。

スーグラで期待される効果

安心できる血糖降下作用

糖の再吸収阻害という作用メカニズムなので、むやみやたらに血糖値を低下させるのではなく、あくまでも血中の過剰な糖分の尿中排泄となります。
血糖値は70以下にはならなかったというデータがあります。

また、インスリン分泌に直接的に関与しないことから単剤服用による低血糖が発生しにくくなっています。
治験ではHbA1cは平均0.76低下しています。

スーグラで痩せる?

インスリンを介さない上に、一日400kcalもの糖分排出、さらには、一日200〜300mLの水分排出が行われることにより、体重減少作用・血圧改善作用も期待されます。
データでは投与52週で体重がおよそ3kg低下しています。
これって、オブリーンより…
利尿効果と体重減少効果があるわけですから、血圧が下がるのも当然ですし、脂質のβ参加が促進されることによる脂質低下作用も期待されます。

インスリン抵抗性の改善

インスリンを介さずに血糖を下降させるわけですから、SU剤で懸念されるような膵臓β細胞の疲弊(二次無効)は生じにくいです。
むしろ、インスリンの分泌を下げる方向に進めることでインスリン抵抗性の改善や膵臓保護作用が期待されます。
また、脂肪の分解が進むことからアディポネクチンのわずかな増加も見られるようなのでその効果も期待できます。

スーグラ錠の注意点

脱水症状

浸透圧性利尿による頻尿•多尿はそこまで目に見えたものではないようですが、水分排出が増加することは間違いありません。
そのため、脱水、口渇、便秘には注意が必要です。
特に脱水については、梅雨時期〜夏場の熱中症対策も合わせて指導する必要があると思います。
下痢の副作用が合わせて発生した場合も怖いですね。
高齢者や痩せている人もリスクが高いと思います。
水分摂取を呼びかける必要がありますね。

口渇、便秘に関しても服薬コンプライアンスの低下に繋がりやすい症状なので注意が必要ですね。

尿路、性器感染症

日本国内の臨床試験では膀胱炎など尿路感染症の発生は見られなかったようですが、海外では報告されています。(入浴習慣による差ではないか?)
日本では性器感染症が報告されています。

血中ケトン体の上昇

何気に一番怖いのがこれですが、臨床試験ではケトアシドーシスは発生していないようです。
ただ、血中ケトン体の上昇=ケトアシドーシスが発生しやすいわけですから、これまで以上の注意は必要です。
特にインスリンよ作用が拮抗されるシックデイには注意が必要となるので、頭においておきたいですね。

膀胱癌•乳癌の発生リスクは?

FDAにおいてダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)は膀胱がん•乳がんの発生リスクが懸念されたため、一度承認を拒否されています。(その後、市販後調査を条件に承認)
メカニズム的には発がん性は否定されているとのことですが、アクトス(一般名:ピオグリタゾン)問題のように、はっきりするまでは頭においておいた方がいいかもしれません。

すでに膀胱癌の方は避けたいですね。

その他の特徴

その他の内容をまとめておきます。
HbA1cの低下作用はDPP4阻害薬と同程度と考えていいようです。

腎機能が低下していればその分効果が下がるようなので、脱水リスクと合わせて高齢者にはあまり向いていない薬と言えます。

尿中の糖分を上昇させるので尿検査の際には注意が必要です。
検診などの際は申告してもらいましょう。
同様に、血液検査では1,5-AGが低値を示します。

効果に関しては、体重の影響が大きく、太っている人の方が効果が良かったようです。

若くて肥満傾向にある人に適した薬剤ってことかなあ?

まとめ

まあ、低血糖はないし、インスリン抵抗性改善やダイエット効果まであるとなると、DPP4阻害剤のときのように、第一選択薬のような使われ方をしそうで怖いです。
非常に優れた効果を持つ薬剤なのは間違いないですが、まだ、心血管イベントへの影響は明らかになっていません。
エビデンスまで揃ってこその第一選択薬だと思いますので、有望な第一選択薬候補ということで、育っていって欲しい薬剤だなーと思います。

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

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