直接作用型坑HCV薬ソブリアードカプセル(一般名:シメプレビルナトリウム:SMV)をまとめる前に、テラビック錠(テラプレビル:TVR)の復習をしておきたいと思います。
HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬
テラプレビルは第一世代HCVプロテアーゼ阻害剤です。
国内初のDAAs(Ddirect-ActingAntiviralagents)です。
作用機序
NS3A/4A阻害剤と言う名前そのままですが、NS3A/4Aセリンプロテアーゼを阻害することでC型肝炎ウイルスの増殖を抑制します。
NS3A/4AセリンプロテアーゼはHCVの増殖に必須となるkey enzymeの一つであるため、HCVの増殖抑制には適した標的部位と言うわけです。
HCVウイルスDNAを元に合成されたタンパク質複合体は、自身が生成したNS3A/4Aセリンプロテアーゼにより切断された後、HCVウイルスに構成されますが、遊離したNS3A/4Aセリンプロテアーゼに結合・阻害を行うことで、ウイルスの増殖を妨げます。
第一世代と第二世代
第一世代と第二世代の違いは阻害剤自体の構造にあります。
第一世代(テラビック)の構造は直鎖型、第二世代(ソブリアード)の構造は環状型です。
この骨格の違いにより、第二世代は優れた阻害活性を有し、より少ない用量でHCV増殖抑制作用を発揮することができます。
3剤併用療法によるC型肝炎治療
難治性C型肝炎
PEG-IFN+RBVの2剤併用療法により、C型肝炎の治療は大きく進歩しました。
ですが、日本人に多く見られるGenotype1型、その中でも高ウイルス量を示す症例に対しては、2剤併用療法でも十分な治療成績を上げることができておらず、初回治療群でもSVR率は5割に満たない程度でした。
※SVR(Sustained Virological Response):ウイルス学的著効(治療終了後半年を経過した時点でHCV-RNA検査結果が陰性を維持していることを示すSVR24を指すことが一般的)
IFN治療に対して抵抗性を示すこの症例に、ウイルス増殖を直接阻害するNS3A/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤を組み合わせたのが三剤併用療法です。
3剤併用療法
HCVプロテアーゼ阻害剤は単独で使用するのではなく、PEG-IFN(ペグ化インターフェロン)とRBV(リバビリン)と組み合わせる三剤併用療法で使用します。
テラプレビルの単独投与では、2週間で検出限界まで低下させることができますが、その後、ウイルスが耐性を獲得し、再び増殖してしまうようです。
感染力の強いC型肝炎ウイルスに対して中途半端な治療を行うと耐性化を進めてしまうリスクが増えます。
シメプレビルにおいても耐性ウイルスの存在が知られています。
テラビックに関しては、PEG-IFN2b(ペグイントロン)とリバビリン(レベトール)との併用のみが認められています。
ですので、必然的に、ペグイントロン+レベトール+テラビックと言う形で治療が行われることになります。
TVR3剤併用療法のスケジュールはTVR(12week)+PEG-IFN/RBV(24week)となっています。
最初の12週間はテラビックとPEG-IFN、RBVの3剤を投与し、後半12週間はPEG-IFN、RBVのみを投与するという流れになっています。
テラビックを用いた三剤併用療法により、難治性のC型肝炎の治療効果を高めるだけでなく、治療期間を短くすることを可能としました。
※PEG-IFN/RBVの2剤併用療法は48~72週間
テラビック
2011年9月に承認され、2011年11月に田辺三菱から販売開始された、国内初のHCVプロテアーゼ阻害剤です。
テラプレビルを用いた3剤併用療法による治療成績
田辺三菱のホームページから国内臨床試験の結果を閲覧することが可能です。
試験はGenotype1型かつ高ウイルス量(5.0Log IU/mL以上)のC型慢性肝炎患者を対象としています。
初回治療患者
下記の内容で3剤併用療法と2剤併用療法を比較したデータがあります。
3剤併用療法の内容は、テラプレビル(12週間投与)+PEG-IFNα-2b+RBV(24週間投与)です。
(※テラビック+ペグイントロン+レベトール)
2剤併用療法の内容は、PEG-IFNα-2b+RBV(48週間投与)となっています。
結果を見ると、2剤併用療法では49.2%しかなかったSVR24率が、3剤併用療法では73.0%となり、有意に向上しています。
※SVR24:投与開始24週時点でのSVR
再燃率も2剤併用療法の22.2%に対して、3剤併用療法では16.7%と低下しています。
- 前治療後再燃例:TVR3剤併用療法のみのデータとなりますが、SVR率は88.1%でした。
- 前治療無効例:TVR3剤併用療法のみのデータとなりますが、SVR率は34.4%でした。
テラビック服用上の注意点
上記のように素晴らしい治療効果をあげているテラビックを用いた3剤併用療法ですが、注意点があります。
用法上の注意点
添付文書の用法・用量の項目には以下のように記載されています。
通常,成人には,テラプレビルとして1回750mgを1日3回食後経口投与し,投与期間は12週間とする。
本剤は,ペグインターフェロン アルファ-2b(遺伝子組換え)及びリバビリンと併用すること。
上にも書きましたが、併用できるIFNはPEG-IFN-α2b(ペグイントロン)と決まっているので、リバビリンもレベトールに固定されます。
さらに、その使用上の注意の中には下記の項目が。
4.本剤を空腹時に服用した場合は,十分な血中濃度が得られないため,必ず食後に服用するように患者に指導すること。また,投与間隔等を調節するよう,以下の内容も踏まえて患者に指導すること。
- 低脂肪食の食後に本剤を投与した場合,高脂肪食の食後に投与した場合に比べて血漿中濃度が低下するとの報告がある。
- 臨床試験において本剤の有効性及び安全性は食後にて8時間間隔投与で検討されている。
ということで、8時間間隔で服用しなければならない上に、高脂肪食後に服用することが推奨されています。
8時間ごとの服用間隔をスケジュールを考えてみると・・・。
朝7時→昼15時→夜23時
と言ったところでしょうか・・・。
朝を6時にしても、朝6時→昼14時→夜22時・・・。
これでは8時間ごとを徹底しようと思えば食後というわけにはいきませんね。
高脂肪食は脂肪10g以上、食後の間隔は2時間以内となっています。
ですので、昼食は12時、夕食は19時と考えると、服用前に軽食が必要となりますね。
カロリーメイトのブロックタイプ2本がだいたい脂質10gとなっていますので、服用前にカロリーメイト2本を食べるように指示されている病院が多いようです。
(臨床試験でもカロリーメイトが使用されたということもあります)
ちなみに、カロリーメイトゼリーやドリンクだと2本半必要なので現実的ではないですよね・・・。
朝から高脂肪食は辛いので、治療中の朝ごはんはカロリーメイトにして、7時に服用って方も多いと思います。
ただし、毎食後で使用する病院もあるようです。
臨床試験では8時間ごとで検討していますが、それが実際にどの程度影響を及ぼすかは検討されておらず、入院ならともかく、実生活の中で患者が服用するわけですから、毎食後というのが現実的な話なのかもしれません。
現在、投与方法を簡便にするために、1日2回(12時間ごと)、1回1125mgの投与方法の治験も行われているようです。
テラビックの副作用
皮膚障害
PEG-INF/RBVにおいても皮膚症状は多く見られますが、TVR3剤併用療法においてはグレード2とグレード3の発生が増加しています。
(グレード1:体表面50%以下で限局的、グレード2:体表面50%以下で多発性・びまん性、グレード3:体表面50%以上)
中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群:SJS)、多形紅斑(Erythema Multiforme:EM)、薬剤性過敏症症候群(Drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)のようなグレード3に含まれる重篤薬疹が報告されているので、細心の注意が必要となります。
皮膚症状の8割は投与開始4週間目までに発現しているので投与初期は特に注意が必要です。
ですが、初期から継続していた発疹が重篤化していくケースもありますし、初期に経度発疹の治療を行った症例で、後半に重篤薬疹が発生したケースもあるので油断はできません。
こういったことから警告の項で皮膚科医との連携が求められています。
2.本剤は,ペグインターフェロン アルファ-2b(遺伝子組換え)及びリバビリンとの併用投与により,中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN),皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群),薬剤性過敏症症候群(Drug-induced hypersensitivity syndrome: DIHS)等の全身症状を伴う重篤な皮膚障害が発現するおそれがあることから次の事項に注意すること。なお,本剤は皮膚科医と連携して使用すること。
- 重篤な皮膚障害は本剤投与期間中に発現する場合が多いので,当該期間中は特に観察を十分に行うこと。
- 重篤な皮膚障害,又は以下の症状を伴う発疹が発現した場合には,投与を中止するなど適切な処置を行うこと。(発熱,水疱,表皮剥離,粘膜のびらん・潰瘍,結膜炎等の眼病変,顔面や四肢等の腫脹,リンパ節腫脹,又は全身倦怠感 )
- 投与中止後も症状が増悪又は遷延するおそれがあるので患者の状態を十分観察すること。
発疹など経度の皮膚症状に対しては早めのステロイド外用剤の開始、改善しない場合は内服ステロイドとなります。
可能な限り投与計画通り継続することがSVRにつながりますので、皮膚科専門医の診察を受けながら継続していくこととなります。
腎機能障害
投与初期に腎機能障害が発現する例が見られており、その多くは投与開始1週間以内に発生しています。
腎機能障害の発現リスク因子は、「テラプレビルの初回投与量」、「糖尿病」、「高血圧」、「投与前のクレアチニン値」、「年齢」ということがわかっています。
また、腎機能障害により貧血が悪化するケースもあるので注意が必要です。
副作用を軽減するため、2250mg/dayの使用量を1500mg/day(500mg/回)とする方法も検討されており、副作用発現を低下させ、治療効果には変化なしというデータもあるようです。
貧血・消化器症状
TRV3剤併用療法においては、貧血症状が2剤併用療法に比べて有意に増加しています。
前述のとおり、腎機能に対する影響も関係しているかもしれません。
同様に、食欲減退・悪心・嘔吐などの消化器症状も有意に増加しています。
薬物相互作用
薬剤師として特に注目したいのが相互作用です。
テラプレビルはCYP3A4により代謝されます。
それに加え、CYP3A4・CYP3A5の阻害作用、P-糖蛋白質(P-glycoprotein:P-gp),有機アニオン輸送ポリペプチドOATP1B1の阻害作用を有しています。
ということで併用禁忌が非常に多いです。
理由ごとに併用禁忌薬剤をまとめてみます。
併用薬がCYP3A4基質→TVR(↑)・併用薬↑、併用薬がP-gp基質→併用薬↑、併用薬がOATP1B1基質→併用薬↑
- シンバスタチン(リポバス等)
- アトルバスタチンカルシウム水和物(リピトール等,カデュエット)
併用薬がCYP3A4基質→TVR(↑)・併用薬↑、併用薬がP-gp基質→併用薬↑
- キニジン硫酸塩水和物(硫酸キニジン)
- プロパフェノン塩酸塩(プロノン等)
- アミオダロン塩酸塩(アンカロン)
- ピモジド(オーラップ)
- コルヒチン
併用薬がCYP3A4基質→TVR(↑)・併用薬↑
- ベプリジル塩酸塩水和物(ベプリコール)
- フレカイニド酢酸塩(タンボコール)
- エルゴタミン酒石酸塩(クリアミン)
- ジヒドロエルゴタミンメシル酸塩(ジヒデルゴット等)
- エルゴメトリンマレイン酸塩(エルゴメトリンマレイン酸塩)
- メチルエルゴメトリンマレイン酸塩(メテルギン等)
- トリアゾラム(ハルシオン等)
- バルデナフィル塩酸塩水和物(レビトラ)
- シルデナフィルクエン酸塩(レバチオ※)
- タダラフィル(アドシルカ※)
- ブロナンセリン(ロナセン)
※バイアグラ・シアリスは併用注意
CYP3A4を誘導する薬剤→TVR↓
- リファンピシン(アプテシン,リファジン,リマクタン等):TRVのAUCが92%低下
日常的に使用する薬剤が多く併用禁忌となっています。
特にリピトール・カデュエットの併用禁忌は見落としがちなので使用頻度の高さとあわせて注意が必要だと思います。
テラビックは発売当初から院内処方を行っている病院が多い印象がありますが、慢性期の基礎疾患については診療所を受診、C型肝炎については専門病院というケースも多いかと思います。
患者さん自身がテラビックの相互作用のリスクを知り、それを回避するために診療所の医師や薬局薬剤師に何を伝えればいいのか、お薬手帳を活用すればいいと言うことをしっかり理解してもらう必要があります。
まとめ~テラプレビルの今後
テラプレビルを用いた3剤併用療法はHCVに対して非常に高い効果をもつ反面、用法の煩雑さ、副作用の多さ・重篤さ、相互作用の多さなどの問題が山積みです。
それに対し、第二世代プロテアーゼ阻害剤であるシメプレビルでは、同様の効果を持ちながら、テラビックがもつ問題の多くを改善しています。
じゃあ、テラプレビルはもう不要じゃないのか?って話になるかもしれませんが、そうとも言い切れません。
少し述べましたが、テラビックの用法に関しては1日2回12時間ごとの用法が検討されています。
さらに副作用の発生率を減らす低用量の検討も行われています。
さらには2014年1月にジェノタイプ2型に対する適応の申請が行われました。
おそらく、ジェノタイプ2型の再燃例や前無効例に対して使用されるようになると思います。
適応の拡大と使用方法の見直しで、今よりも使いやすいものにはなるのではないでしょうか?