テリルジーエリプタの特徴・作用機序・副作用〜添付文書を読み解く【COPDと気管支喘息】【日本初のICS/LAMA/LABA 3剤配合吸入薬】

2019年5月22日(令和元年5月22日)、テリルジー100エリプタ14吸入用/30吸入用が発売されました。
テリルジー100エリプタは2019年3月26日に製造承認を取得していた3成分配合吸入薬で、COPD*1(慢性閉塞性肺疾患)治療薬です。これまで、ICS*2/LABA*3、LABA/LAMA*4の吸入配合薬は存在していましたが、ICS/LAMA/LABAの3剤配合吸入薬はテリルジーが国内初となります。

2020年11月27日には気管支喘息の適応を取得。
テリルジーはCOPDと気管支喘息両方の適応を有する初のICS/LAMA/LABAの3剤配合吸入薬になりました。気管支喘息の適応専用となるテリルジー200エリプタ14吸入用/30吸入用は2021年2月18日に薬価収載、同日に発売です。

この記事ではテリルジーの適応疾患であるCOPDや気管支喘息の病態からテリルジーの作用機序や他の吸入薬と比較した特徴についてまとめています。添付文書を読み込んで、実際に調剤・服薬指導を行う上での注意点について詳しくまとめています。

目次

テリルジーについて

まずはテリルジーについて簡単に紹介します。

テリルジーってどんな薬?

テリルジーは国内初のICS/LAMA/LABA 3剤配合吸入薬でCOPDに対する適応で製造承認を取得しています。
吸入デバイスはDPI*5のエリプタで、テリルジーは吸入デバイスにエリプタを用いた5つ目の製剤になります。
ICSとしてフルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF*6)、LAMAとしてウメクリジニウム(UMEC*7)、LABAとしてビランテロール(VI*8)を含む、ICS/LAMA/LABA配合剤です。

エリプタをデバイスに採用している薬剤を発売順に並べてみます。

  1. レルベア100エリプタ14吸入用/30吸入用・レルベア200エリプタ14吸入用/30吸入用(ICS+LABA:FF 100μg/200μg+VI 25μg)
  2. アノーロエリプタ7吸入用/30吸入用(LAMA+LABA:UMEC 62.5μg+VI 25μg)
  3. エンクラッセ62.5μgエリプタ7吸入用/30吸入用(LAMA:UMEC 62.5μg)
  4. アニュイティ100/200エリプタ30吸入用(ICS:FF 100μg/200μg)
  5. テリルジー100/200エリプタ14吸入用/30吸入用(ICS+LAMA+LABA:FF 100μg/200μg+UMEC 62.5μg+VI 25μg)

テリルジー100エリプタ30吸入用、テリルジー200エリプタ30吸入用と同じ成分・含量になる他のエリプタ製剤の組み合わせは以下のようになります。

  • テリルジー100エリプタ30吸入用
    =レルベア100エリプタ30吸入用+エンクラッセ62.5μgエリプタ30吸入用
    =アノーロエリプタ30吸入用+アニュイティ100エリプタ30吸入用
  • テリルジー200エリプタ30吸入用
    =レルベア200エリプタ30吸入用+エンクラッセ62.5μgエリプタ30吸入用
    =アノーロエリプタ30吸入用+アニュイティ200エリプタ30吸入用

テリルジーの基本情報

基本情報をまとめます。

医薬品名テリルジー100エリプタ14吸入用
テリルジー100エリプタ30吸入用
テリルジー200エリプタ14吸入用
テリルジー200エリプタ30吸入用
成分名フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム臭化物/ビランテロールトリフェニル酢酸塩
英語名TRELEGY100 Ellipta 14 doses
TRELEGY100 Ellipta 30 doses
TRELEGY200 Ellipta 14 doses
TRELEGY200 Ellipta 30 doses
(Fluticasone Furoate/Umeclidinium Bromide/Vilanterol Trifenatate)
製造販売元グラクソ・スミスクライン株式会社
命名の由来テリルジー:該当資料なし
エリプタ:楕円形(ellipse)
効能・効果気管支喘息(吸入ステロイド剤、長時間作用性吸入β2刺激剤及び長時間作用性吸入抗コリン剤の併用が必要な場合)
慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド剤、長時間作用性吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
用法・用量〈気管支喘息〉
通常、成人にはテリルジー100エリプタ1吸入(フルチカゾンフランカルボン酸エステルとして100μg、ウメクリジニウムとして62.5μg及びビランテロールとして25μg)を1日1回吸入投与する。なお、症状に応じてテリルジー200エリプタ1吸入(フルチカゾンフランカルボン酸エステルとして200μg、ウメクリジニウムとして62.5μg及びビランテロールとして25μg)を1日1回吸入投与する。
〈慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解〉
通常、成人にはテリルジー100エリプタ1吸入(フルチカゾンフランカルボン酸エステルとして100μg、ウメクリジニウムとして62.5μg及びビランテロールとして25μg)を1日1回吸入投与する。
指定等新薬創出・適応外薬 解消等促進加算
審議COPD:2019年2月22日 薬食審第二部会
気管支喘息:2020年10月30日 薬食審第二部会
承認日COPD:2019年3月26日
気管支喘息:2020年11月27日
薬価収載日
収載時薬価
2019年5月22日
テリルジー100エリプタ14吸入用:4,107.40円/キット
テリルジー100エリプタ30吸入用:8,692.80円/キット
2021年2月18日
(テリルジー100エリプタ14吸入用:4,183.50円/キット)
(テリルジー100エリプタ30吸入用:8,853.80円/キット)
テリルジー200エリプタ14吸入用:4,764.50円/キット
テリルジー200エリプタ30吸入用:10,098.90円/キット
薬価算定方式類似薬効比較方式(Ⅰ)、有用性加算(II) (A=10%)
アノーロエリプタ30吸入用(薬価:7,924.70円/キット)の1日薬価264.20円を元に有用性加算(II) (A=10%)、キット特徴部分の原材料費を加えてテリルジー100エリプタ30吸入用の薬価8,692.80円/キット(1日薬価291.90円)を算出
アノーロエリプタ7吸入用とアノーロエリプタ30吸入用の規格間比1.01245(1を超えるため1)を元にテリルジー100エリプタ14吸入用の薬価を算出
販売開始テリルジー100エリプタ:2019年5月22日(薬価収載即日発売)
テリルジー200エリプタ:2021年2月18日(薬価収載即日発売)
新医薬品の
投与日数制限
なし(新医薬品の投薬期間制限の例外)

薬価はアノーロエリプタより少し高い程度

薬価に関しては薬価収載時の情報を元に記載しているので改定後の薬価とは異なりますのでご注意ください

テリルジー100エリプタ30吸入用の薬価(8,692.80円)はアノーロエリプタ30吸入用の薬価(7,924.70円)より1割程度高くなっただけです。3つの薬剤を1つにするこで吸入操作が簡便になるだけではなく薬価の面でも大きなメリットを得ることができます。

エリプタ製剤の薬価を比較してみる

※テリルジー100エリプタ薬価収載時(2019年5月22日)

  • テリルジー100エリプタ14吸入用:4,107.40円/キット
  • テリルジー100エリプタ30吸入用:8,692.80円/キット

他のエリプタ製剤の薬価は以下の通りです。

※テリルジー100エリプタ薬価収載時(2019年5月22日)

  • アニュイティ100μgエリプタ30吸入用:1,899.10円/キット
  • アニュイティ200μgエリプタ30吸入用:2,455.90円/キット
  • アノーロエリプタ7吸入用:1,899.60円/キット
  • アノーロエリプタ30吸入用:7,924.70円/キット
  • エンクラッセ62.5μgエリプタ7吸入用:1,409.20円/キット
  • エンクラッセ62.5μgエリプタ30吸入用:5,877.70円/キット
  • レルベア100エリプタ14吸入用:2,703.60円/キット
  • レルベア100エリプタ30吸入用:5,689.40円/キット
  • レルベア200エリプタ14吸入用:2,987.10円/キット
  • レルベア200エリプタ30吸入用:6,353.20円/キット

テリルジー100エリプタ30吸入用(8,692.80円/キット)と同じ配合になるようにして薬価を計算すると、

  • アノーロエリプタ30吸入用+アニュイティ100エリプタ30吸入用=7,924.70+1,899.10=9,823.8円
  • レルベア100エリプタ30吸入用+エンクラッセ62.5μgエリプタ30吸入用=5,689.40+5,877.70=11,567.1円

となり、薬価の面からもテリルジーを利用することで大きなメリットがあることがわかります。

新薬14日分の投与制限の対象外

既存の成分・適応を持つテリルジーは新医薬品の投薬期間制限の例外ですでした。

2 掲示事項等告示の一部改正について
新医薬品(医薬品医療機器等法第14条の4第1項第1号に規定する新医薬品をいう。)については、掲示事項等告示第10第2号(1)に規定する新医薬品に係る投薬期間制限(14日分を限度とする。)が適用されるが、掲示事項等告示の改正によって、新たにロスーゼット配合錠LD、同配合錠HD、テリルジー100エリプタ14吸入用、同30吸入用が当該制限の例外とされた。
引用元:使用薬剤の薬価(薬価基準)の一部改正等について(保医発0521第4号 令和元年5月21日)

まあ、1日1回1吸入の薬剤なのに30吸入用が薬価収載されているわけですから当然ですよね。
ということで最初から長期処方が可能ですでした。

COPD/気管支喘息とテリルジーの作用機序

COPDと気管支喘息についての基礎知識とテリルジーの作用機序についてまとめていきます。

COPDとは?

テリルジーエリプタは慢性閉塞性肺疾患に対する適応で承認されました。

まずは慢性閉塞性肺疾患について簡単に説明したいと思います。

慢性閉塞性肺疾患(COPD*9)とはタバコや大気中の有害物質などで肺が長期間持続して炎症を起こすことで、呼吸機能の低下を起こしてしまう疾患です。日本のCOPD患者の原因の90%は喫煙と言われています。

呼吸により有害物質を肺に取り込むと気管支が刺激され炎症を起こしてしまいます。それが何年も続くと、気管支表面の炎症は慢性的にひどくなっていき、気管支はどんどん細くなります。
症状が進行すると炎症は気管支の奥にある肺胞まで到達します。肺胞は酸素と二酸化炭素を交換する役割を持っている肺の重要な組織ですが、本来は弾力性を持っています。私たちは肺胞の弾力性により吸った息を吐くことができるのですが、COPDが進行すると肺胞の弾力性が失われてしまうために、吸った息を吐くことができなくなってしまうわけです。

このように気管支や肺胞の慢性的な炎症により呼吸機能の低下を引き起こすのが慢性閉塞性肺疾患(COPD)です。COPDの治療は薬物療法が中心となりますが、COPD症状は基本的には一度進行すると元に戻りません。早い段階で治療を開始し、進行を遅らせることが大事になります。

COPDの薬物療法

COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版 ポイント解説(Boehringer Ingelheim)には以下のように記載されています。

  • 治療は、薬物療法と非薬物療法を行う。薬物療法では、単剤で不十分な場合は、LAMA、LABA 併用(LAMA/LABA配合薬の使用も可)とする。
  • 喘息病態の合併が考えられる場合はICSを併用するが、LABA/ICS配合薬も可。
    引用元:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版 ポイント解説(Boehringer Ingelheim)

COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第5版」によると、COPDに対してICSを使用するのは「喘息病態の合併が考えられる場合(エイコー:ACO*10)」とされています。「COPD患者の15~20%にACOが見込まれる」ため、LAMA/LABAに加えてICSが必要となるケース(つまりはCOPDに対してテリルジーを使用するケース)もその程度ということになります。

気管支喘息とは?

2014年(平成26年)の厚生労働省による病院及び診療所における患者調査によると喘息患者数は約118万人と報告されています。1990年代には喘息によって年間6,000人が死亡していましたが、ICSやLABAの普及により死亡率は減少しており、2016年(平成28年)には年間1,500人まで減少しています。気管支喘息による死亡を減らすため、新規薬剤の開発や適切な治療が推進されています。

気管支喘息は喘息予防・管理ガイドライン2018で「気道の慢性炎症を本態として、変動性を持った気道狭窄(喘鳴、呼吸困難)や咳などの臨床症状で特徴付けられる疾患」と定義されています。気管支喘息では、アレルギーなどの刺激により「気道平滑筋の収縮」、「粘膜の浮腫」、「痰などの分泌物の増加」が起こり、気道狭窄が起こります。その結果、息苦しさや喘鳴、激しい咳と言った症状が起きます。

気道リモデリングによる症状の悪化

気管支喘息では発作時以外にも慢性的に気道炎症が起きています。無治療の状態では慢性炎症や発作による気道組織の破壊と修復が繰り返され、組織の繊維化が進んでいきます。これを気道リモデリングと言います。

気道平滑筋が肥厚することで気道は狭くなり、組織が柔軟性を失うことで過敏性が亢進します。このように気道リモデリングが進むことで気管支喘息は重症化し、発作を起こしやすく、その症状も重篤なもの(呼吸困難等)になっていきます。

そのため、気管支喘息では発作を予防し、気道リモデリングを進行させないための治療が重要になります。気管支喘息では「気道の炎症」「気道リモデリング」「気道過敏性の亢進」の3つの特徴が相互に影響しあって「気道の狭窄」を引き起こすという考えが重要になります。

気管支喘息の薬物療法

気管支喘息の治療では喘息発作を起こさないこと(症状のコントロール)を目標に長期管理薬(コントローラー)による治療が行われます。喘息発作時には短期的に発作治療薬(リリーバー)が使用されます。

喘息の症状により治療ステップが分けられており、治療ステップごとにコントローラーとして使用される薬剤が定められています。(ICSによる治療がどのステップでも基本となっています)以下に示すように「喘息予防・管理ガイドライン2018」では新たにLAMAがステップ2に加わっています。

分類ステップ1ステップ2ステップ3ステップ4
長期管理薬基本治療ICS
低用量
ICS
低〜中用量
ICS
中〜高用量
ICS
高用量
ICSが使用できない場合、
以下のいずれかを用いる
LTRA
テオフィリン徐放製剤
※症状が稀なら不要
ICSで不十分な場合、
以下のいずれか1剤を併用
LABA(配合剤使用可)
LAMA
LTRA
テオフィリン徐放製剤
以下のいずれか1剤、
もしくは複数を併用
LABA(配合剤使用可)
LAMA
LTRA
テオフィリン徐放製剤
下記の複数を併用
LABA(配合剤使用可)
LAMA
LTRA
テオフィリン徐放製剤
抗IgE抗体
抗IL-5抗体
抗IL-5α抗体
抗ステロイド薬
気管支熱形成術
追加治療LTRA以外の抗アレルギー薬
発作治療SABA

ICSの作用機序

テリルジーエリプタの成分の一つであるフルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)は副腎皮質ステロイド(吸入薬なのでICS)です。副腎皮質ステロイド(corticosteroids)とは糖質ステロイド(Glucocorticoids、グルココルチコイド)のことを指します。糖質コルチコイドは吸入されることで気道の炎症細胞に到達し抗炎症作用を発揮します。

糖質コルチコイドは細胞内で糖質コルチコイド受容体(グルココルチコイドレセプター)と結合します。糖質コルチコイドは受容体と結合することで核内に進入し、DNAと結合しその転写を調節し、以下のような作用により抗炎症作用を発揮します。

  • ホスホリパーゼA2(PLA2*11)の阻害→アラキドン酸の生成抑制
  • サイトカインの産生抑制
  • 肥満細胞(マスト細胞)の脱顆粒抑制

フルチカゾンフランカルボン酸エステルの特徴

フルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)はフルタイドやアドエア、フルナーゼに使用されているフルチカゾンプロピオン酸エステル(FP*12)のエステル部分を変更し、効果の持続時間を延長し、1日1回の使用で効果を発揮できるようにしたものです。
吸入薬・点鼻薬として以下の薬剤で使用されています。

  • アニュイティエリプタ
  • レルベアエリプタ
  • アラミスト点鼻液

気管支拡張薬(LAMA/LABA)の作用機序

テリルジーエリプタには長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬(LAMA)としてウメクリジニウム臭化物、長時間作用性β2受容体刺激薬(LABA)としてビランテロールトリフェニル酢酸塩が含まれています。LABAもLAMAも気道平滑筋を弛緩することで、気管支拡張作用を発揮します。

それぞれの作用についてまとめます。

LAMAの作用機序

気道平滑筋は副交感神経(迷走神経)の刺激により収縮し、交感神経の刺激により弛緩します。副交感神経節後線維終末から放出されるアセチルコリン(Ach)が気道平滑筋細胞のムスカリンM3受容体に結合すると気道平滑筋が収縮します。
気道に関連するムスカリン受容体には他にもM1、M2のサブタイプが存在しています。(ムスカリン受容体としてはM1〜M5まで存在)M1受容体は神経節に存在し、神経伝達に関与しています。M2受容体は副交感神経終末に存在し、アセチルコリンが結合することで副交感神経終末からのアセチルコリンの放出を抑制するネガティブフィードバックの機能を持つ受容体です。気管支拡張作用(気道平滑筋の弛緩)にはM1受容体とM3受容体を選択的に阻害し、M2受容体を阻害しないことが理想的です。短時間作用性抗コリン薬(SAMA*13)と比較して、LAMAではM3受容体に対する選択性を持つものが多くなっています。

ウメクリジニウム臭化物の特徴

ウメクリジニウムは長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬(LAMA)、いわゆる長時間作用型の抗コリン薬です。アセチルコリンM3受容体を遮断することで気管支平滑筋の収縮を抑制して気管支を拡張させます。一般的にヒト肺組織におけるM3受容体密度は中枢気道に近いほど高いとされています1)。ウメクリジニウムはM1〜M3受容体のいずれに対しても親和性を有していますが、M1〜M3受容体に対しては長時間結合し、M2受容体からは短時間で乖離することでM1・M3受容体に対する選択性を持っています。

1)Mak JC & Barnes PJ. Am Rev Respir Dis. 1990; 141: 1559-1568. PMID: 2350099

  • スピリーバ吸入用カプセル18μg(チオトロピウム臭化物水和物)
  • スピリーバ1.25μgレスピマット60吸入※1(チオトロピウム臭化物水和物)
  • スピリーバ2.5μgレスピマット60吸入※2(チオトロピウム臭化物水和物)
  • シーブリ吸入用カプセル50μg(グリコピロニウム臭化物)
  • エクリラ400μgジェヌエア(アクリジニウム臭化物)
  • エンクラッセ62.5μgエリプタ(ウメクリジニウム臭化物)

※1:COPDに対する適応なし(喘息適応のみ)
※2:COPDと喘息の適応
上記以外は全てCOPDに対する適応のみ

LABAの作用機序

気道平滑筋細胞にはβ2受容体が存在しており、刺激を受けると以下のような流れで気道平滑筋が弛緩されます。

  1. 気道平滑筋細胞にのβ2受容体刺激
  2. アデニル酸シクラーゼの活性化
  3. 細胞内cAMP濃度の上昇
  4. プロテインキナーゼAの活性化
  5. 気道平滑筋の弛緩

LABAが登場する前のβ2刺激薬はサルブタモール硫酸塩(サルタノール/ベネトリン)、プロカテロール塩酸塩水和物(メプチン)に代表されるSABA*14(短時間作用型β2刺激薬)のみでした。SABAという呼び名からも分かるように効果が短いためリリーバー(発作治療薬)として使用されていました。
その後、LABAが開発され、今では気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD((Chronic Obstructive Pulmonary Disease)の治療薬(コントローラー)として広く使用されています。LABAの持つ疎水性の側鎖はβ2受容体の非活性部位に強力に結合します。その状態で親水性部分が受容体の活性部位に結合することで、長時間にわたってβ2受容体を刺激します。LABAは気道平滑筋のβ2受容体を刺激する直接的な作用に加えて、コリン作動性神経終末のβ2受容体を刺激することによりアセチルコリンの遊離を抑制(ムスカリンM3受容体の刺激を抑制)して間接的な作用で気道を拡張します。

ビランテロールトリフェニル酢酸塩の特徴

ビランテロールは長時間作用性β2刺激薬(LABA)の中でも24時間以上効果を発揮するultra-LABA(超長時間作用性β2刺激薬)に位置付けられており、アドレナリンβ2受容体を刺激することで気管支平滑筋を弛緩させ、気管支を拡張させます。サルメテロールより作用発現は迅速で、かつサルメテロールやホルモテロールに比較して作用時間が長く、β2受容体選択性が高いといわれています。一般的にヒト肺組織におけるβ2受容体密度は末梢気道に近いほど高いとされています2)

2)Ikeda T et al. Br J Pharmacol. 2012; 166: 1804-1814. PMID: 22300233

  • セレベント25ロタディスク(サルメテロールキシナホ酸塩)
  • セレベント50ロタディスク(サルメテロールキシナホ酸塩)
  • セレベント50ディスカス(サルメテロールキシナホ酸塩)
  • オーキシス9μgタービュヘイラー(ホルモテロールフマル酸塩水和物)

※:セレベントはCOPDと喘息の適応、オーキシスはCOPDのみの適応

子ぺんぎん(ジェンツー)
吸入LABA単剤って意外と少ないですね。
吸入以外では貼付剤としてホクナリンテープ(ツロブテロール)もあります。

参考までにβ2刺激薬の作用発現時間を記載しておきます。

β2刺激薬の作用発現時間

  • インダカテロール:7.8±0.7分
  • ホルモテロール:5.8±0.7分
  • サルメテロール:19.4±4.3分
  • サルブタモール:11.0±4.0分

単離ヒト気管支に対してβ2刺激薬を投与した際の作用発現時間(Naline E, et al. Eur Respir J. 2007;29:575-581.)

配合吸入薬を用いるメリットは?

配合剤にすることで1回でまとめて使用できるため、使用が容易になり使用忘れも防ぐことができます。内服に比べて手技が煩雑な吸入薬ではこのメリットがより大きくなります。また、LAMA、LABA、ICSはそれぞれ単独で使用した場合と比較して併用することで効果が強くなることが知られてます。

ICS/LABA

ICS単剤とLABA単剤を併用した場合と比較して、ICS/LABA配合剤を使用した方が効果が強くなることが知られています。ICSはβ2受容体とGsタンパク質の発現を誘導することが知られています。この効果により細胞表面上のβ2受容体が増加するため、LABAの効果が増強されると同時に、LABAの長期使用に伴うβ2受容体のダウンレギュレーションを抑制することができます。LABAはPKA*15、MAPK*16を活性化させることで、ステロイド-GR*17複合体の核内移行を促進させます。これにより、ステロイド(ICS)によるmRNAの転写活性が促進され、作用が増強されると言われています。配合吸入薬として使用することでICSとLABAが同一細胞に到達し、この相互作用が効率よく発揮できるのはないかと考えられています。

LAMA/LABA

ヒト気管支において、β2受容体は末梢気道に多く分布しており、M3受容体は肺中枢に多く分布しています。そのため、肺全体に気管支拡張効果を得るためにはLABAとLAMAの併用が有用であると考えられています。さらに、LAMA/LABA配合吸入薬では2剤を同時吸入するため肺の同じ部分で作用し、単独使用の組み合わせ以上の効果を期待できると考えられています。そのポイントとなるのがLABAのアセチルコリンに対する作用です。LABAは副交感神経終末からのアセチルコリンの遊離を抑制するため、LAMAのM3受容体に対する抗コリン作用を増強します。


3)Cazzola M & Molimard M. Pulm Pharmacol Ther. 2010; 23: 257-267. PMID: 20381630

吸入器の特徴

吸入薬にとって成分と同じくらい重要なのが吸入器(吸入デバイス)です。それぞれの特徴を紹介した上でテリルジーの吸入デバイスであるエリプタについて説明します。

DPI製剤とpMDI製剤

吸入デバイスは以下の2つに大きく分類されます。

  • ドライパウダー式吸入器(DPI*18
  • 加圧式定量噴霧式吸入器(pMDI*19

それぞれの基本的な特徴を簡単にまとめます。(現在は欠点を改良した製剤も存在します)

  • 長所
    • 残量が分かり易い
    • 噴霧との同期が不要(スペーサーが不要)
    • 刺激性添加物を含まない
  • 欠点
    • 吸入前に操作が必要なものが多い
    • 嗄声が比較的多い
    • 吸入流速が低いと薬剤が肺内に到達しない
  • 長所
    • 準備操作なくすぐ吸入可能
    • 吸入流速が低くても使用可能
    • 嗄声を起こしにくい
  • 欠点
    • 残量が分かりにくいものがある
    • 噴霧と吸気を同調させる必要がある
    • 口腔内に沈着しやすい

pMDIの同調が困難な場合はスペーサーを用いることがあります。

吸入デバイスと吸入流速

各デバイスが必要とする吸入流速をまとめます。

各吸入デバイスが必要とする最低吸入流速
吸入デバイス製品名吸入流速(L/min)
ディスクヘラー
(ロタディスク)
フルタイド
セレベント
30〜60
ディスカスフルタイド
セレベント
アドエア
30
タービュヘイラーパルミコート
シムビコート
オーキシス
30
ハンディヘラースピリーバ20
ツイストヘラーアズマネックス20〜30
ブリーズヘラーオンブレス
シーブリ
ウルティブロ
エナジア
アテキュラ
20
エリプタレルベア
アノーロ
エンクラッセ
アニュイティ
テリルジー
30〜36
ジェヌエアエリクラ45
スイングヘラーメプチン20

※pMDI(エアゾール)製剤やレスピマット製剤は10L/min以上あれば吸入可能

図にすると以下のようになります。

エリプタの特徴

テリルジーは吸入デバイスにエリプタを用いた薬剤です。その特徴は蓋を開けるだけで薬剤をセット可能という操作の簡便さです。吸入可能回数も1回刻みで表示されるため、残りの使用回数もわかりやすいです。

テリルジーエリプタのDI

ここからはテリルジーエリプタの添付文書、インタビューフォーム、RMP、審査結果報告書から得ることのできる情報についてまとめていきたいと思います。

禁忌

まずは禁忌についてです。

2. 禁忌(次の患者には投与しないこと)
2.1 有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症の患者[ステロイドの作用により症状を悪化させるおそれがある。]
2.2 閉塞隅角緑内障の患者[抗コリン作用により、眼圧が上昇し症状を悪化させるおそれがある。]
2.3 前立腺肥大等による排尿障害がある患者[抗コリン作用により、尿閉を誘発するおそれがある。]
2.4本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

「閉塞隅角緑内障」、「前立腺肥大等による排尿障害」はウメクリジニウム臭化物、「有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症」はフルチカゾンフランカルボン酸エステル由来の禁忌ですね。

効能・効果と用法・用量

基本的な部分ですが少し詳しく見ておきます。

COPDに加えて気管支喘息の適応も取得

4. 効能又は効果
テリルジー100エリプタ
気管支喘息(吸入ステロイド剤、長時間作用性吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解(吸入ステロイド剤、長時間作用性吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)

テリルジー200エリプタ
気管支喘息(吸入ステロイド剤、長時間作用性吸入抗コリン剤及び長時間作用性吸入β2刺激剤の併用が必要な場合)
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

2020年11月27日付で気管支喘息の適応が追加されています。テリルジー100エリプタはCOPDと気管支喘息両方の適応を有していますが、テリルジー200エリプタは気管支喘息の適応のみです。COPDと気管支喘息両方の適応を有するICS/LAMA/LABA3剤配合吸入薬はテリルジー100エリプタのみです。この点はレルベア100とレルベア200でも同じですね。(レルベア200は気管支喘息のみ)

あくまでもコントローラーとして使用される薬剤

テリルジーはあくまでも長期管理を目的として使用される薬剤です。これはテリルジーに限らず、ICSやLABA、LAMA全般に言えることです。なので以下の内容はテリルジー特有のものではなく、コントローラーとして使用される吸入薬全てに当てはまるものです。

5. 効能又は効果に関連する注意
〈気管支喘息〉
5.1 患者に対し、次の注意を与えること。
本剤は発現した発作を速やかに軽減する薬剤ではないので、急性症状に対しては使用しないこと。
〈慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解〉
5.2 本剤は慢性閉塞性肺疾患の増悪時の急性期治療を目的として使用する薬剤ではない。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

テリルジーはあくまでコントローラー*20として使用される薬剤でリリーバー*21ではないということですね。

このことを含めてコントローラーとしての注意点が「重要な基本的注意」にも記載されています。

8. 重要な基本的注意
8.1 本剤は喘息の急性症状又は慢性閉塞性肺疾患の増悪を速やかに軽減する薬剤ではないので、毎日規則正しく使用するよう患者を指導すること。
8.2 本剤の投与期間中に発現する喘息の急性症状又は慢性閉塞性肺疾患の急性増悪に対しては、短時間作用性吸入β2刺激剤(例えば吸入用サルブタモール硫酸塩)等の他の適切な薬剤を使用するよう患者に注意を与えること。
また、その薬剤の使用量が増加したり、あるいは効果が十分でなくなってきた場合には、疾患の管理が十分でないことが考えられるので、可及的速やかに医療機関を受診し医師の治療を求めるよう患者に注意を与えること。
8.3 用法及び用量どおり正しく使用しても効果が認められない場合には、本剤が適当でないと考えられるので、漫然と投与を継続せず中止すること。
8.4 本剤の投与終了後に症状の悪化があらわれることがあるので、患者自身の判断で本剤の使用を中止することがないよう指導すること。また、投与を中止する場合には観察を十分に行うこと。
8.9 本剤の投与期間中に喘息に関連した事象及び喘息の悪化があらわれることがある。本剤の投与開始後に喘息症状がコントロール不良であったり、悪化した場合には、患者自身の判断で本剤の吸入を中止せずに、医師に相談するよう指導すること。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

急性憎悪に対してはSABA*22などの使用が考慮されるべきです。調子がいいからといって自己判断で中止してしまわないような指導を行う必要があります。

用法・用量と注意点

6. 用法及び用量
〈気管支喘息〉
通常、成人にはテリルジー100エリプタ1吸入(フルチカゾンフランカルボン酸エステルとして100μg、ウメクリジニウムとして62.5μg及びビランテロールとして25μg)を1日1回吸入投与する。なお、症状に応じてテリルジー200エリプタ1吸入(フルチカゾンフランカルボン酸エステルとして200μg、ウメクリジニウムとして62.5μg及びビランテロールとして25μg)を1日1回吸入投与する。
〈慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)の諸症状の緩解〉
通常、成人にはテリルジー100エリプタ1吸入(フルチカゾンフランカルボン酸エステルとして100μg、ウメクリジニウムとして62.5μg及びビランテロールとして25μg)を1日1回吸入投与する。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

気管支喘息の適応に関してはFFを200μgに増量可能です。

各成分に由来する注意点

添付文書の「重要な基本的注意」と「特定の背景を有する患者に関する注意」に記載されている注意点をまとめてみます。これについても吸入薬全般に言えることですが、製剤によって記載は様々です。

8. 重要な基本的注意
8.5 本剤の吸入後に喘鳴の増加を伴う気管支痙攣があらわれることがある。そのような状態では、患者の生命が脅かされる可能性があるので、気管支痙攣が認められた場合には、直ちに本剤の投与を中止し、短時間作用性気管支拡張剤による治療を行うこと。また、患者を評価し、必要に応じて他の治療法を考慮すること。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

気管支痙攣は吸入薬である以上、避けることのできない注意点です。

RMPに記載されている注意点

  • 重要な特定されたリスク
    • 肺炎
    • アナフィラキシー
    • 心血管系事象
  • 重要な潜在的リスク
    • 副腎皮質ステロイド剤の全身作用(副腎皮質機能抑制、骨障害、眼障害等)
    • 喘息に関連した死亡、入院及び挿管
  • 重要な不足情報:該当なし

当然と言えば当然ですが、いずれもレルベアもしくはエンクラッセで報告されているものばかりです。また、3剤併用によるリスクの増大はなさそうです。

肺炎

肺炎は、慢性閉塞性肺疾患(以下COPDとする)患者における吸入ステロイド(以下ICSとする)含有製剤使用時のリスクとして知られている。
(略)
なおCTT116855試験において、UMEC/VI群における日本人コホートの肺炎の発現頻度は、日本人以外のコホート及び全集団と同様(いずれも5%)であったが、日本人コホートのICS含有製剤群における肺炎の発現頻度(FF/UMEC/VI群:18%、FF/VI群:21%)は、日本人以外のコホート(FF/UMEC/VI群:7%、FF/VI群:7%)及び全集団(FF/UMEC/VI群:8%、FF/VI群:7%)と比較して顕著に高かった。FF/VIの海外臨床試験において、高齢、低肺機能、低BMI、喫煙者及び肺炎の既往歴を有する患者等においては肺炎を発現するリスクがより高いことが示唆されている。CTT116855試験における日本人コホートでは、肺炎のリスク因子となる高齢、低BMI及び肺炎の既往歴を有する患者の割合が日本人以外のコホート及び全集団と比較して高かった。COPD患者におけるICS(FF)の使用により、肺炎の発現リスクが増加することが示唆されているため、重要な特定されたリスクとした。
引用元:テリルジーエリプタ 医薬品リスク管理計画書(RMP)

ICS含有製剤を使用することで肺炎リスクが高まるのを想像するのは難しくないかと思います。日本人において肺炎の発現頻度が高くなっていることが気にはなりますが、高齢・低BMI・肺炎既往歴という肺炎発現リスクが高かったという患者背景に由来するものと考えて問題ないのではないかと思います。

添付文書では以下の部分が該当します。

8. 重要な基本的注意
8.7 本剤の臨床試験において肺炎が報告された。一般に肺炎の発現リスクが高いと考えられる患者へ本剤を投与する場合には注意すること。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

11. 副作用
11.1 重大な副作用
11.1.2 肺炎(0.9%)
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

アナフィラキシー反応

アナフィラキシーの可能性が否定できないのは当然ですね。

本剤のCOPD患者を対象とした国際共同第III相試験(CTT116855試験)において、重篤な過敏症に関連する有害事象と本剤との関連性について十分な根拠は得られていないが、本剤の有効成分を含む他の配合剤(FF/VI)に係る国内外の市販後の自発報告において、FF/VIとの関連が否定できない過敏症反応及びアナフィラキシー反応関連の事象が認められているため、アナフィラキシー反応を重要な特定されたリスクとした。
引用元:テリルジーエリプタ 医薬品リスク管理計画書(RMP)

添付文書では以下の部分が該当します。

11. 副作用
11.1 重大な副作用
11.1.1 アナフィラキシー反応(0.1%未満)
アナフィラキシー反応(咽頭浮腫、気管支痙攣等)があらわれることがある。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

心血管系事象

本剤のCOPD患者を対象とした国際共同第III相試験(CTT116855試験)において、心血管系事象と本剤との関連性について十分な根拠は得られていないが、本剤の有効成分であるUMECを含む他の配合剤(UMEC/VI)及びUMEC単剤に係る以下の安全性情報に基づき、心血管系事象を重要な特定されたリスクとした。
COPD患者を対象としたUMEC並びにUMEC/VIの国内外の第III相臨床試験において、プラセボ群と比べて、UMEC群で不整脈に関連する事象(心房細動、期外収縮、洞性頻脈、上室性期外収縮、上室性頻脈、心室性期外収縮等)の発現頻度が高かった。
外国人健康成人にUMEC/VI 500/100μgを1日1回10日間吸入投与したときQT間隔の延長が認められた。
引用元:テリルジーエリプタ 医薬品リスク管理計画書(RMP)

UMECとVIの作用機序からして心血管系イベントが上昇する可能性は否定できないと思います。

添付文書では以下の部分が該当します。

8. 重要な基本的注意
8.8 過度に本剤の使用を続けた場合、不整脈、場合により心停止を起こすおそれがあるので、用法及び用量を超えて投与しないよう注意すること。患者に対し、本剤の過度の使用による危険性を理解させ、本剤を1日1回なるべく同じ時間帯に吸入するよう(1日1回を超えて投与しないよう)注意を与えること。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

1日1回、同じ時間帯に使用するのはCOPDのコントロールのためだけでなく、心血管系への負担をかけないためにも大切になります。

9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.2 心疾患を有する患者
抗コリン作用により心不全、心房細動、期外収縮が発現又は悪化するおそれがある。β2刺激作用により上室性頻脈、期外収縮等の不整脈が発現又は悪化するおそれがある。また、QT延長が発現するおそれがある。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

10. 相互作用
10.2 併用注意(併用に注意すること)
QT間隔延長を起 こすことが知られている薬剤(抗不整脈剤、三環系抗うつ剤等)
臨床症状・措置方法:QT間隔が延長され心室性不整脈等のリスクが増大するおそれがある。
機序・危険因子:いずれもQT間隔を延長させる可能性がある。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

13. 過量投与
13.1 症状
本剤の過量投与により、抗コリン剤の薬理学的作用による症状(口内乾燥、視調節障害及び頻脈等)、β2刺激剤の薬理学的作用による症状(頻脈、不整脈、振戦、頭痛及び筋痙攣等)や副腎皮質機能抑制等の全身性の作用が発現するおそれがある。また、外国人健康成人にフルチカゾンフランカルボン酸エステル・ビランテロール 800・100μgを1日1回7日間吸入投与したとき、又はウメクリジニウム臭化物・ビランテロールトリフェニル酢酸塩 500・100μgを1日1回10日間吸入投与したときQT間隔延長が認められた。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

11. 副作用
11.1 重大な副作用
11.1.3 心房細動(0.1%)
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

副腎皮質ステロイド剤の全身作用(副腎皮質機能抑制、骨障害、眼障害等)

本剤の臨床試験において特段の懸念は示されていないが、経口副腎皮質ステロイド剤は、コルチゾール産生の減少をもたらす視床下部-下垂体-副腎系に影響を及ぼすことが知られている。副腎皮質ステロイド薬の吸入剤は経口剤に比べて全身への吸収は低いが、副腎皮質機能、骨、眼等へ影響を与える可能性があるため、潜在的リスクとする。
引用元:テリルジーエリプタ 医薬品リスク管理計画書(RMP)

内服ステロイドに関する内容にはなりますが、吸入でもそのリスクはゼロではない・・・ということでしょうね。

添付文書では以下の部分が該当します。

8. 重要な基本的注意
8.6 全身性ステロイド剤と比較し可能性は低いが、吸入ステロイド剤の投与により全身性の作用(クッシング症候群、クッシング様症状、副腎皮質機能抑制、小児の成長遅延、骨密度の低下、白内障、緑内障、中心性漿液性網脈絡膜症を含む)が発現する可能性がある。特に長期間、大量投与の場合には定期的に検査を行い、全身性の作用が認められた場合には患者の症状を観察しながら適切な処置を行うこと。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

10. 相互作用
10.2 併用注意(併用に注意すること)
CYP3A4阻害作用 を有する薬剤(リトナビル、ケトコナゾール(経口剤:国内未発売)、エリスロマイシン等)
臨床症状・措置方法:副腎皮質ステロイド剤を全身投与した場合と同様の症状があらわれる可能性がある。なお、フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ビランテロールトリフェニル酢酸塩とケトコナゾール(経口剤)を併用した臨床薬理試験において、血中のフルチカゾンフランカルボン酸エステル及びビランテロールの曝露量の増加が認められたとの報告がある。
機序・危険因子:CYP3A4による代謝が阻害されることにより、フルチカゾンフランカルボン酸エステル及びビランテロールの血中濃度が上昇する可能性がある。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

13. 過量投与
13.1 症状
本剤の過量投与により、抗コリン剤の薬理学的作用による症状(口内乾燥、視調節障害及び頻脈等)、β2刺激剤の薬理学的作用による症状(頻脈、不整脈、振戦、頭痛及び筋痙攣等)や副腎皮質機能抑制等の全身性の作用が発現するおそれがある。また、外国人健康成人にフルチカゾンフランカルボン酸エステル・ビランテロール 800・100μgを1日1回7日間吸入投与したとき、又はウメクリジニウム臭化物・ビランテロールトリフェニル酢酸塩 500・100μgを1日1回10日間吸入投与したときQT間隔延長が認められた。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

喘息に関連した死亡、入院及び挿管

LABAであるサルメテロールについて米国で実施された喘息患者を対象とした臨床試験において、プラセボと比べサルメテロール投与患者で喘息に関連する入院や合併症の増加が認められた
本剤では本リスクは認められていないものの、COPD患者では喘息を併発している患者も多く、本剤が喘息を併発するCOPD患者に使用される可能性もあることから重要な潜在的リスクとし、気管支喘息を合併しているCOPD患者において気管支喘息の管理が十分行われるように注意喚起する。
引用元:テリルジーエリプタ 医薬品リスク管理計画書(RMP)

あくまでも喘息患者に対するサルメテロールの影響ですが、日本国内のCOPDガイドラインではICSを使用を推奨するのは喘息合併症例(ACO)なので、結果としてテリルジーが使用される症例は喘息を合併しているケースが多くなるのではないかと思います。

添付文書では以下の部分が該当します。

8. 重要な基本的注意
8.1 本剤は喘息の急性症状又は慢性閉塞性肺疾患の増悪を速やかに軽減する薬剤ではないので、毎日規則正しく使用するよう患者を指導すること。
引用元:テリルジーエリプタ 添付文書 グラクソ・スミスクライン株式会社

まとめ

日本初のICS/LAMA/LABA3剤配合吸入薬 テリルジーエリプタについてまとめました。
一番のメリットは1日1回吸入するだけで3成分による治療が可能になることです。エリプタはかなり簡単に吸入を行うことができるデバイスですが、それでも3回(3種類)しようと考えるとかなり煩雑です。それが1回で済むというのはコンプライアンスの向上に大きく寄与できると思います。また、コスト的なメリットも期待できます。

承認当初はCOPDのみの適応で、ガイドライン上適応となるのは喘息合併例(ACO:エイコ)に対してのみでしたが、2020年11月には気管支喘息の適応を取得し、幅広い患者さんに使用することが可能となりました。
気管支喘息の適応追加にともないFF200μg配合の製剤が登場するのも心強いですね。

ライバルはビレーズトリとエナジア

2019年9月4日、アストラゼネカのビレーズトリエアロスフィア(成分名:ブデソニド/グリコピロニウム臭化物/ホルモテロールフマル酸塩水和物)が発売されています。ビレーズトリはテリルジーと同様にCOPDに対する適応を有するICS/LAMA/LABA3剤配合吸入薬で、テリルジーとは異なりpMDI*23なのが特徴です。また、エアロスフィアという新規の吸入デバイスが採用されています。

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2019年9月4日、ビレーズトリエアロスフィア56吸入が発売されました。 テリルジーエリプタに続く2番目の3剤配合吸入薬で、pMDIでの3剤配合薬は初めてです。 テリルジーと同様にCOPDに対する適応のみを取得しています。 […]

ビレーズトリがテリルジーのライバルとなるのは間違いなかったのですが、テリルジーが気管支喘息の適応を取得したことで大きくリードした形になっています。同様に気管支喘息の適応を取得しているICS/LAMA/LABA3成分配合吸入薬エナジアが今のところ一番のライバルになりますね。

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2020年6月29日に承認された気管支喘息治療薬 エナジア吸入用カプセルについてまとめた記事です。 エナジア吸入用カプセルはLABA*1/LAMA*2/ICS*3 3剤配合吸入薬としてはテリルジー、ビレーズトリに続いて3番手になりますが、[…]

(エナジアにはCOPDの適応はありませんが、COPDの場合、ACOにしか使用しないと考えれば気管支喘息の適応だけで問題なさそうです)ただし、デバイスの操作の簡便さではテリルジーの方が上かなと個人的には考えています。

ICS/LAMA/LABA3剤配合吸入薬について表にまとめておきます。繰り返しになりますが、気管支喘息の適応を取得しているのはエナジアとテリルジーです。

3剤配合吸入薬の比較
項目テリルジービレーズトリエナジア
デバイスエリプタエアロスフィアブリーズヘラー
適応COPD
気管支喘息
COPD気管支喘息
用法・用量1日1回 1吸入1日2回 1回2吸入1日1回 1吸入
LAMAウメクリジニウム62.5μgグリコピロニウム7.2µgグリコピロニウム50µg
LABAビランテロール25μgホルモテロールフマル酸塩4.8µgインダカテロール150µg
ICSフルチカゾンフランカルボン酸エステル100〜200μgブデソニド160µgモメタゾンフランカルボン酸エステル80〜160μg
薬価
(2021.2.18)
100エリプタ(295.13円/日)
14吸入用:4183.50円/キット
30吸入用:8853.80円/キット200エリプタ(336.63円/日)
14吸入用:4,764.50円/キット
30吸入用:10,098.90円/キット
56吸入用:4150.30円/キット(296.45円/日)中用量:291.90円/カプセル
高用量:333.40円/カプセル

※:1吸入中に含まれる量

エリプタとブリーズヘラー

テリルジーの吸入デバイスはエリプタ、エナジアの吸入デバイスはブリーズヘラーが採用されています。
エリプタの特徴は操作の簡便さです。ご自身で吸入操作を行う方であればエリプタは圧倒的に使用しやすい吸入デバイスになります。

それに対してブリーズヘラーは音と目で吸入できたかどうかを確認できることが特徴となる吸入デバイスです。一人では吸入を行うことができない、介護が必要な方であればブリーズヘラーの方が適しているのではないかと考えます。この辺りがテリルジーとエナジアを選択する際の別れ目になるんじゃないかなと個人的には考えています。

テリルジーエリプタ(フルチカゾンフランカルボン酸エステル/ウメクリジニウム臭化物/ビランテロールトリフェニル酢酸塩)の最新情報

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*1:Chronic Obstructive Pulmonary Disease

*2:Inhaled CorticoSteroids:吸入スロイド

*3:Long-Acting Beta2-Agonists:長時間作用性β2刺激薬

*4:Long-Acting Muscarinic Antagonist:長時間作用性抗コリン薬

*5:Dry Powder Inhaler:ドライパウダー吸入器

*6:Fluticasone Furoate

*7:UMEClidinium bromide

*8:VIlanterol

*9:Chronic Obstructive Pulmonary Disease

*10:Asthma and COPD Overlap:喘息とCOPDのオーバーラップ

*11:PhosphoLipase A2

*12:Fluticasone Propionate

*13:Short-Acting Muscarinic Antagonists

*14:Short-Acting β-Agonists

*15:Protein kinase A:プロテインキナーゼA

*16:Mitogen-Activated Protein Kinase

*17:Glucocorticoid Receptor:グルココルチコイド受容体

*18:Dry Powder Inhaler

*19:pressurized Metered-Dose Inhaler

*20:controller:長期管理薬

*21:reliever:発作治療薬

*22:Short Acting Beta2-Agonist:短時間作用性β2刺激薬

*23:pressurized MeterDose Inhaker

 

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