平成26年12月26日に承認されたタケキャブ(一般名:ボノプラザン)。
プロトンポンプインヒビターの進化形とでも言うべき、カリウムイオン競合型アシッドブロッカーとなるこの薬について詳しくまとめてみます。
タケキャブについてはこちらの記事でもまとめています。
タケキャブを用いたピロリ除菌パック製剤についてもまとめています。
武田薬品が開発・申請を行っていたTAK-438ことタケキャブ(一般名:ボノプラザン)の承認が、平成26年11月21日に開催された厚生労働省 薬食審医薬品第一部会で了承されました。
P-CABとはpotassium competitive acid blocker(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)の略で既存のPPI(proton pump inhibitor:プロトンポンプインヒビター)を上回る酸分泌抑制剤になると期待されています。
武田薬品もタケプロン(一般名:ランソプラゾール)の後継品として位置づけているようです。
酸分泌抑制剤の復習
胃酸分泌抑制剤と言えば、H2blockerとPPIです。
P-CABの話に入る前にこれらの薬剤について簡単に復習しておきたいと思います。
胃酸の役割
胃の粘膜からは胃液が分泌されていますが、その中には消化酵素とともに塩酸が含まれています。
強酸を含むことにより、口から入ってきた病原菌を倒すことができますし、消化酵素の一つであるペプシノーゲンをペプシンに変える役割も担っています。
胃酸と胃粘膜
胃液には塩酸やタンパク質を分解するペプシンなどの酵素が含まれるため、そのままだと胃自体も分解されてしまいます。
それを防ぐために、胃からは胃粘膜が分泌され、酸や酵素から胃を守っています。
ですが、強いストレスにさらされたり、NSAIDsなどの薬剤の影響により胃粘膜が減少するとその防御が弱まり、胃液による胃の自己消化が起こってしまいます。
これが胃炎や胃潰瘍の原因です。
胃酸分泌を起こすメカニズム
胃液から胃を守るための治療には胃粘膜粘保護剤(ムコスタ、セルベックスなど)を飲んで防御因子を増やす方法と、攻撃因子である胃酸の分泌を抑制する方法があります。
胃酸分泌を引き起こす物質として、
- 血液中に含まれるガストリン
- 胃粘膜神経末端より遊離されるアセチルコリン
- 胃粘膜の分泌細胞から遊離されるヒスタミン
の3つが知られています。
アセチルコリンとガストリンがそれぞれの受容体に結合するとCa2+、ヒスタミンがH2受容体に結合するとcAMPが放出され、胃酸分泌細胞膜に存在するH+/K+ATPase(プロトンポンプ)を活性化させます。
活性化したプロトンポンプは壁細胞の分泌管表面に発現し、H+が放出、HCl(塩酸)となり胃液とともに分泌されるというわけです。
H2ブロッカー(H2RA*1)
胃酸分泌を引き起こす3つの物質の内、最も中心となるのがヒスタミンです。
そのため、ヒスタミンがH2受容体と結合するのを妨げるH2RAは胃酸分泌抑制剤の代表的なものとして知られています。
ですが、H2blockerだけではヒスタミンによる胃酸分泌を抑制するだけで、ガストリンやアセチルコリンによるものを抑制することはできません。
プロトンポンプインヒビター(PPI*2)
H2RAよりも強くさんを抑制する薬剤として開発されたのが PPIです。
PPIはH+/K+ATPase(プロトンポンプ)の働きを直接阻害するので、ヒスタミン、アセチルコリン、ガストリンなどの原因に関わらず、胃酸分泌を直接抑制することができます。
PPIはそのままでは効果を発揮することができず、酸により活性体になる必要があります。
分泌管内でPPIは酸による活性化を受け、それが分泌管表面に発現したプロトンポンプに不可逆的に結合し、胃酸分泌を抑制します。
また、上記に反する形で、PPIは酸性条件下では不安定という性質も持っています。
そのため、PPIは長時間分泌管に留まることができません。
血中濃度が維持されている場合は、分泌管周辺に次々とPPIがやってくる状態なので、次々とプロトンポンプに結合・阻害できますが、血中濃度が低下すると、プロトンポンプに結合できるPPIがないという状態になってしまいます。
これが、PPIで問題になる夜間の効果減弱などにつながっているのではないかと思われます。
- 酸による活性化を受けて効果を発揮するため、効果発現まで数日必要
- CYP2C19による代謝を受けるため、遺伝子型により効果に差が生じる。(RMでは効果弱く、PMでは効果強い)
- 酸性条件下で不安定という性質のため、血中濃度が維持できない時間帯になると効果が減弱
カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)とその作用機序
P-CABは従来のPPIとは異なるイミダゾピリジン骨格を持ち(既存のPPIはベンツイミダゾール骨格、H2RAはイミダゾール骨格)を持ちます。
胃粘膜壁細胞のプロトンポンプの管腔側から作用し、カリウムイオンと競合する形でプロトンポンプの働きを阻害します。
弱塩基性で脂溶性が高いという性質を持つため、壁細胞の酸分泌領域に集まりやすい性質を持っています。
また、従来のPPIと異なり、酸性条件下で安定で、その作用は可逆的です。
そのため、服用後2~3時間程度で効果は最大になり、持続的に酸分泌を抑制します。
初回投与時でも最大効果が9時間持続するとも言われています。
食事の影響は受けず、CYP2C19の遺伝子多型による影響もありません。
PPIで問題となる効果発現の遅さを解消し、CYP2C19の遺伝子多型による効果の差を回避することができるため、従来のPPIよりも優れた酸分泌抑制剤となる可能性が高いです。
また、従来のPPIは最大で90%の胃酸分泌を抑制すると言われていますが、P-CABは97%抑制することができるとも言われています。
P-CABと従来PPIの比較
P-CAB | 従来PPI | |
---|---|---|
活性化の必要 →効果発現遅い | 不要 | 酸による活性化が必要 |
CYP2C19の影響 →効果の個人差 | なし | あり |
酸性下の安定性 →効果の維持 | 安定 | 不安定 |
タケキャブ
命名ですが、武田薬品のP-CABなのでタケキャブ・・・なんでしょうね。
規格はタケキャブ錠10mg、タケキャブ錠20mgとなっています。
一般名はボノプラザン フマル酸塩。
効能・効果は以下の通りです。
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 逆流性食道炎
- 低用量アスピリン投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制
- 非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制
- 下記におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助
- 胃潰瘍
- 十二指腸潰瘍
- 胃MALTリンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病
- 早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃
- ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎
「吻合部潰瘍」、「Zollinger-Elison症候群」、「非びらん性胃食道逆流症」の適応ありませんが、それ以外はタケプロンと同じ効能・効果を持っての発売となります。
まさに、タケプロンの後継品。
タケキャブは大塚製薬と共同販促する予定のようです。
タケプロンの武田とムコスタの大塚というわけですね。
薬価収載・発売日等
平成27年2月24日薬価収載です。
- タケキャブ錠10mg:160.10円
- タケキャブ錠20mg:240.20円
タケキャブ錠10mgがネキシウムカプセル20mgと同薬価という形です。
タケキャブ錠20mgに関してはパリエット錠20mg(249.50円)よりわずかに安いですね。
こうなってくると、20mgの長期使用は保険上厳しく査定されそうな気もします。
(薬価は薬価収載当時のもの)
発売日は薬価収載の二日後、2月26日の予定となっています。
まとめ
海外に先駆けての発売なので、未知の部分が多い薬剤ですが、従来のPPIが不得意とする夜間の胃酸分泌などにどの程度効果を発揮するかなど気になる部分、期待する部分も多いですね。
武田薬品の販売戦略
タケプロンは「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」、「非ステロイド性抗炎症薬投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」の適応を取って後発医薬品と効能・効果で差をつけ、ネキシウムが追い上げて来たら、低用量アスピリンとの配合剤タケルダ配合錠を発売。
パリエットに「低用量アスピリン投与時における胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制」の適応が付き、ランソプラゾール後発医薬品もそろそろタケプロンと適応が統一になるかなと思っていたら、タケキャブの承認。
アジルバのときも思いましたが、武田薬品の開発力、タイミングはすごいですよね。
タケキャブへの期待
20mg錠は、効果が強く、発現も早いため、逆流性食道炎の重症例など症状に苦しむ人に対して、初日から症状の緩和が期待できそうです。
ですが、薬価等を考えると、長期の使用は難しそうなので、ある程度のタイミングで10mg錠や従来PPIに切り替えることになるのではないでしょうか?
ピロリ除菌においては、一次除菌(クラリスロマイシン耐性例を含む)、二次除菌ともにかなりの好成績をあげています。
ボノプラザン/アモキシシリン/クラリスロマイシン 3剤併用による1次除菌→投与4週後の除菌率92.6%(ランソプラゾールを含む3剤併用→除菌率75.9%)
将来的にはランサップ・ランピオンのようなパック製剤が出るのは間違いないと個人的に予想しています。(出ましたね)