今さらながらニフェジピンの舌下投与がなくなった経緯についてまとめてみます

  • 2019年2月10日
  • 2021年1月10日
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元々は2017年4月12日に作成された記事です。

アダラートカプセル5mg 1カプセル
高血圧時に舌下投与 5回分

昔はたまに見かけたこの処方ですが、最近は全く見ることがありません。
そもそもアダラートカプセル自体がほとんど使われなくなっていますよね。
急激な降圧は返ってリスクとなることがわかり、今では舌下投与は禁止となっています。
このような処方を見かけなくなって随分経つので、アダラートの舌下投与が行われていたことを知らないという薬剤師の方も増えているのではないでしょうか?
でも、最近立て続けにアダラートの舌下投与について驚くような話を聞きました。
「そもそもニフェジピンは舌下から吸収されない」
「今でも一部の施設等でアダラートの舌下投与が行われていることがある」
えー!!
ということで、高血圧に対するニフェジピンの舌下投与がなくなった経緯について一度まとめてみようと思います。
追記:食道アカラシアに対して(適応外)今でも舌下投与の指示で処方されることはあるようです。

ニフェジピンの舌下投与

2000年以前は、緊急降圧を必要とする高血圧(高血圧緊急症)に対して、ニフェジピンカプセルの舌下投与が行われることがありました。
実際に、アダラートカプセルの添付文書にも以下のような記載がありました。(現在はすでに削除されています)

用法・用量:ニフェジピンとして、通常成人1回10mgを1日3回経口投与する。症状に応じ適宜増減する。なお、速効性を期待する場合には、カプセルをかみ砕いた後、口中に含むか又はのみこませることもできる。

一般的に、舌下投与では経口投与(腸管からの吸収)とは異なり、初回通過効果を受けずに直接血中に入ることができるため、速やかな血中濃度上昇を得ることが可能です。
ですが、ニフェジピンの場合はそうとも言えません。(これについては後に詳しくまとめます)

現在はニフェジピンの舌下投与は禁止

以前は、高血圧緊急症に対して、ニフェジピンの舌下投与が一般的に使用されていました。
速やかな降圧作用が期待できることに加えて、使用法が簡便であること、厳密な血圧モニタリングが不要と考えられていたためです。
ですが、急激かつ過度な降圧作用を引き起こしてしまうことも知られていました。
その結果、低血圧、急性心筋梗塞、狭心症様発作、脳梗塞、意識消失、死亡等の副作用が報告され、問題となりました。

心筋梗塞・不安定狭心症に対するニフェジピン投与制限

そもそも、海外ではニフェジピンカプセルには高血圧症の適応はなく、医師の判断で使用されていました。
ですが、米国食品医薬品局(FDA)は、ニフェジピンは急性心筋梗塞や不安定狭心症の患者に対して禁忌とし、高血圧症に対しても使用しないよう呼びかけました。
こうした海外での状況を踏まえて、1996年8月の医薬品副作用情報No.138において、

ニフェジピン(徐放剤を除く)による降圧は、冠潅流圧を低下させ冠血流量が減少する可能性が考えられること、また、降圧によって反射性に心拍数の増加が起こり、心拍出量の増加ひいては心筋酸素消費の増大が起こる可能性があることなどから、心筋虚血の改善効果が期待できない可能性がある。
とりわけ、急性心筋梗塞や不安定狭心症患者の病態は、急激な血行動態の変化によって大きく影響を受けやすいことから「使用上の注意」の改訂を行い注意を喚起することとする。
引用元:医薬品副作用情報No.138(概要)

と記載され、「急性心筋梗塞の患者」が禁忌に、「不安定狭心症の患者」が慎重投与に追加され、注意喚起が出されました。

JSH2000でニフェジピン舌下投与の禁止

2000年6月に日本高血圧学会から発表された高血圧治療ガイドライン2000年版(JSH2000)では、高血圧緊急症および切迫症に対する治療指針の中で、

Ca拮抗薬が頻用されているが、加速型高血圧-悪性高血圧および他の高血圧緊急症の治療にはニフェジピン舌下投与は過度の降圧や反射性頻脈をきたすことがあり、原則として用いない。

と記載されました。
しかし、これでもニフェジピンの舌下投与による過度な降圧の報告は無くなりませんでした。

添付文書でもニフェジピン舌下投与が禁止に

2002年10月、ついに添付文書の改訂が行われ、アダラートカプセルの舌下投与に関する記載は削除、注意喚起が記載されました。
用法・用量からは舌下投与が削除されました。

用法・用量:ニフェジピンとして、通常成人1回10mgを1日3回経口投与する。症状に応じ適宜増減する。なお、速効性を期待する場合には、カプセルをかみ砕いた後、口中に含むか又はのみこませることもできる。

使用上の注意に舌下投与の禁止に関する文章が追加されました。

使用上の注意
重要な基本的注意
2.まれに過度の血圧低下を起こし,ショック症状や一過性の意識障害,脳梗塞があらわれることがあるので,そのような場合には投与を中止し,適切な処置を行うこと.なお,速効性を期待した本剤の舌下投与(カプセルをかみ砕いた後,口中に含むか又はのみこませること)は,過度の降圧や反射性頻脈をきたすことがあるので,用いないこと.
引用元:アダラートカプセル 添付文書

さらに、薬物動態から舌下投与における吸収に関する文章が削除されました。

薬物動態
血中濃度:高血圧症患者に経口投与した場合、血中濃度は図のとおりである。なお、吸収は迅速で健康成人がかみ砕いて服用した場合、12分後には有効血中濃度に達する。(参考:外国人)

このような経緯でニフェジピンカプセルの舌下投与は姿を消していったというわけです。
でも、添付文書が改訂されてもしばらくは使われていた気がしますね。
10年くらい前まではたまに見かけた気がします。

そもそもニフェジピンは舌下から吸収されない?

ここまで説明した通り、急激な降圧を避けるため、ニフェジピンの舌下投与が禁止されました。
このこと自体は多くの方が知っているかと思います。
ですが、ここからは知らない人も多いかも?
実は、ニフェジピンは舌下からはほとんど吸収されないことが明らかになっています。*1
なので、舌下投与の効果というより、単純に、粉砕(脱カプセル)したもの(液状)を飲み込むことにより、胃粘膜等から吸収され、吸収速度が上がるというのが実際のところのようです。
苦味もあるようなので、舌下投与は不快な思いをさせるだけの行為ということになってしまいます。
苦いし、フラフラするし・・・。いいことないですね。。。

一過性の血圧上昇への対応は?

アダラートの舌下投与がダメなら急に血圧が高くなった時はどうするの?
と言われるので簡単にまとめておきます。
結論から言うと、一過性の血圧上昇に対しての緊急降圧は必要ないと言われています。
以下に、高血圧治療ガイドライン2014から引用します。

進行性あるいは慢性の臓器障害がなく、一過性の著明な血圧上昇例は、褐色細胞腫を除き緊急降圧の対象ではない。
高齢者や自律神経障害を有する者など圧受容体反射機構に障害のある者では、血圧変動が大きく、III度以上の高血圧を呈することがある。
このような例で、ニフェジピンカプセル内容物など短時間作用型の降圧薬が投与されることがあるが、急速 かつ過剰な降圧によって脳や心臓など主要臓器の虚血を引き起こす可能性があるため、避けるべきである。
引用元:高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)

ニフェジピンの舌下投与は行わないことはもちろんですが、今では速放型ニフェジピン(アダラートカプセル)自体、添付文書の使用上の注意を見ればわかるように、急激な降圧を引き起こす可能性があるため、あまり推奨されていません。
それでも、急激な降圧が必要なケースは極めて限られていると思いますが、どうしても早めの降圧を行いたい場合は、ニフェジピン徐放錠(アダラートL錠など)やカプトプリルなどが使用されることがあります。

著しい血圧上昇に加えて、脳・腎・心臓などの臓器に急性障害が生じるような高血圧緊急症の場合は、降圧治療が必要となります。
その場合、血圧モニタリングを行いながらニトログリセリン、ニカルジピンなどの静注が行われます。

まとめ

ニフェジピンの舌下投与についてまとめてみました。
こうして改めて見てみるとアダラートカプセルが未だに存在する意義ってのは何なんでしょう?
今でも、一部施設等でアダラートの屯用を使用している環境があるという話を聞ききました。
極一部での話かとは思いますが、こういった現状があるのであれば、速放型ニフェジピンは販売高血圧の適応を中止とした方が望ましいのかなと思います。
(適応外ですが食道アカラシアへ舌下投与で処方されるケースがありますね。効果だけを考えれば、舌下投与ではなく、脱カプセルを服用で問題ないかと思いますが、安全性としてはどうでしょう?また詳しくまとめたいと思います。)

*1:Grossman E, Messerli FH, Grodzicki T, Kowey P: Should a moratorium be placed on sublingual nifedipine capsules given for hypertensive emergencies and pseudoemergencies? JAMA. 1996 Oct 23-30;276(16):1328-31.

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