平成29年6月8日、厚生労働省はかねてより話題になっていた医療用医薬品の添付文書の記載要領についての通知を発出しました。
適用開始は平成31年4月1日からで、経過措置期間は5年間(平成36年3月31日まで)です。
なので、すでに販売されているものも平成36年4月1日には新形式に置き換わるということですね。
「原則禁忌」「慎重投与」が廃止され、「特定の背景を有する患者に関する注意」という項目が加わるなど、曖昧な部分が排除され、より明確にわかりやすいものに変更となります。
添付文書はどう変わる?
通知については以下のリンク先を確認してください。
薬生発0608第1号(平成29年6月8日)「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」
薬生安発0608第1号(平成29年6月8日)「医療用医薬品の添付文書等の記載要領の留意事項について」
新たな項目の追加やこれまで必須ではなかった項目が正式な項目とされたことに加え、項目番号が定められたことにより、情報の有無が正確にわかるようになるのではないかと思います。
具体的にどのように変わるのか簡単にまとめてみます。
新たに追加される内容
1、項目に通し番号が設定される
「1.警告」以降の全ての項目に通し番号がつけられます。
もし、該当する内容がない場合は欠番となります。
2、「特定の患者集団への投与」が新設
「9.特定の患者集団への投与」が新設され、以下のように細分化されています。
- 9.1 合併症・既往歴等のある患者
- 9.2 腎機能障害患者
- 9.3 肝機能障害患者
- 9.4 生殖能を有する者
- 9.5 妊婦
- 9.6 授乳婦
- 9.7 小児等
- 9.8 高齢者
ここについては詳しく留意事項が記載されているので別にまとめます。
3、「効能又は効果に関連する注意」、「用法及び用量に関連する注意」の新設
「5. 効能又は効果に関連する注意」、「7. 用法及び用量に関連する注意」が新設されています。
今まで「使用上の注意」に記載されていた内容の一部がこちらに移行されるのではないかと思います。
4、「組成・性状」、「その他の注意」、「薬物動態」、「臨床成績」、「薬効薬理」の細分化
それぞれ小項目が加えられ、より詳細になっています。
- 「3. 組成・性状」:「3.1 組成」、「3.2 製剤の性状」
- 「15. その他の注意」:「15.1 臨床使用に基づく情報」、「15.2 非臨床試験に基づく情報」
- 「16. 薬物動態」:「16.1 血中濃度」、「16.2 吸収」、「16.3 分布」、「16.4 代謝」、「16.5 排泄」、「16.6 特定の背景を有する患者 16.7 薬物相互作用」、「16.8 その他」
- 「17. 臨床成績」:「17.1 有効性及び安全性に関する試験」、「17.2 製造販売後調査等」、「17.3 その他」
- 「18. 薬効薬理」「18.1 作用機序」
5、「保険給付上の注意」の新設
新たに「25.保険給付上の注意」が新設され、以下のような内容が記載されるように定められています。
- (1)保険給付の対象とならない医薬品や効能又は効果の一部のみが保険給付の対象となる場合は、その旨を記載すること。
- (2)薬価基準収載の医薬品であって、投与期間制限の対象になる医薬品に関する情報のほか、保険給付上の注意がある場合に記載すること。
今まで一部の医薬品で「投薬期間制限医薬品に関する情報」として記載されていた内容を含んでいますね。
廃止される項目
1、「原則禁忌」の廃止
以前から言われていた通り、「原則禁忌」は廃止となります。
「2.禁忌」の項目に但し書き付きで記載されるか、新設される「9.特定の患者集団への投与」の「9.1 合併症・既往歴等のある患者」などに記載されます。
2、「慎重投与」の廃止
これも以前から言われていた通りですが、「慎重投与」は廃止となります。
新設される「9.特定の患者集団への投与」の「9.1 合併症・既往歴等のある患者」などに記載されます。
3、「高齢者への投与」、「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」、「小児等への投与」の廃止
「高齢者への投与」、「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」、「小児等への投与」は廃止になります。
新設される「9.特定の患者集団への投与」の項内に割り振られます。
(「9.4 生殖能を有する者」、「9.5 妊婦」、「9.6 授乳婦」、「9.7 小児」、「9.8 高齢者」)
4、「副作用」に記載する事項
副作用の前段に記載する概要については、他の項との重複等を考慮して廃止となります。
これについては、主に臨床試験成績の抜粋ということで、臨床成績に原則統合されます。
5、「使用上の注意」の廃止
「使用上の注意」という大項目は取り除かれています。
一部が「5. 効能又は効果に関連する注意」、「7. 用法及び用量に関連する注意」に移行されるようです。
新旧添付文書の項目
新旧の添付文書の記載要領に定められている項目を記載しておきます。
新しいものはかなり細分化され、わかりやすくなりそうですね。
旧(今までの)添付文書
- 作成又は改訂年月
- 日本標準商品分類番号等
- 薬効分類名
- 規制区分
- 名称
- 警告
- 禁忌(原則禁忌→廃止)
- 組成・性状
- 効能又は効果
- 用法及び用量
- 使用上の注意→廃止
- 慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)→廃止
- 重要な基本的注意
- 相互作用
- 併用禁忌(併用しないこと)
- 併用注意(併用に注意すること)
- 副作用
- 重大な副作用
- その他の副作用
- 高齢者への投与→廃止
- 妊婦、産婦、授乳婦等への投与→廃止
- 小児等への投与→廃止
- 臨床検査結果に及ぼす影響
- 過量投与
- 適用上の注意
- その他の注意
- 薬物動態
- 臨床成績
- 薬効薬理
- 有効成分に関する理化学的知見
- 取扱い上の注意
- 承認条件
- 包装
- 主要文献及び文献請求先
- 製造業者又は輸入販売業者の氏名又は名称及び住所
新(新しい)添付文書
- ア. 作成又は改訂年月
- イ. 日本標準商品分類番号
- ウ. 承認番号、販売開始年月(新設)
- エ. 貯法、有効期間(新設)
- オ. 薬効分類名
- カ. 規制区分
- キ. 名称
- 警告
- 禁忌(次の患者には投与しないこと)
- 組成・性状
- 3.1 組成(新設)
- 3.2 製剤の性状(新設)
- 効能又は効果
- 効能又は効果に関連する注意(新設)
- 用法及び用量
- 用法及び用量に関連する注意(新設)
- 重要な基本的注意
- 特定の背景を有する患者に関する注意(新設)
- 9.1 合併症・既往歴等のある患者(新設)
- 9.2 腎機能障害患者(新設)
- 9.3 肝機能障害患者(新設)
- 9.4 生殖能を有する者
- 9.5 妊婦(新設)
- 9.6 授乳婦(新設)
- 9.7 小児等(新設)
- 9.8 高齢者(新設)
- 相互作用
- 10.1 併用禁忌(併用しないこと)
- 10.2 併用注意(併用に注意すること)
- 副作用
- 11.1 重大な副作用
- 11.2 その他の副作用
- 臨床検査結果に及ぼす影響
- 過量投与
- 適用上の注意
- その他の注意
- 15.1 臨床使用に基づく情報(新設)
- 15.2 非臨床試験に基づく情報(新設)
- 薬物動態
- 16.1 血中濃度(新設)
- 16.2 吸収(新設)
- 16.3 分布(新設)
- 16.4 代謝(新設)
- 16.5 排泄(新設)
- 16.6 特定の背景を有する患者(新設)
- 16.7 薬物相互作用(新設)
- 16.8 その他(新設)
- 臨床成績
- 17.1 有効性及び安全性に関する試験(新設)
- 17.2 製造販売後調査等(新設)
- 17.3 その他(新設)
- 薬効薬理
- 18.1 作用機序(新設)
- 有効成分に関する理化学的知見
- 取扱い上の注意
- 承認条件
- 包装
- 主要文献
- 文献請求先及び問い合わせ先
- 保険給付上の注意(新設)
- 製造販売業者等
「特定の背景を有する患者に関する注意」各項の留意事項
新設される項目の中でも特に使用頻度が高くなりそうなのが、「特定の背景を有する患者に関する注意」です。
旧添付文書にあった
- 「原則禁忌」
- 「慎重投与」
- 「高齢者への投与」
- 「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」
- 「小児等への投与」
を引き継ぐ内容ですから当然といえば当然です。
なので、今回の記載要領の改訂にある「わかりやすさ」が最も反映される項目でもあります。
「9.2 腎機能障害患者」
- 1、薬物動態、副作用発現状況から用法及び用量の調節が必要である場合や、特に注意が必要な場合にその旨を、腎機能障害の程度を考慮して記載すること。
- 2、透析患者及び透析除去に関する情報がある場合には、その内容を簡潔に記載すること。
透析についての情報についても記載要領に含まれます。
「9.3 肝機能障害患者」
薬物動態、副作用発現状況から用法及び用量の調節が必要である場合や、特に注意が必要な場合にその旨を、肝機能障害の程度を考慮して記載すること。
腎機能障害の項と同様ですが、具体的に記載要領に指定されたことでより詳しい内容が期待できそうです。
「9.4 生殖能を有する者」
- 1、患者及びそのパートナーにおいて避妊が必要な場合に、その旨を避妊が必要な期間とともに記載すること。
- 2、投与前又は投与中定期的に妊娠検査が必要な場合に、その旨を記載すること。
- 3、性腺、受精能、受胎能等への影響について注意が必要な場合に、その旨を記載すること。
このあたりの情報についても具体的な記載があれば助かりますね。
「9.5妊婦」
- 1、胎盤通過性及び催奇形性のみならず、胎児曝露量、妊娠中の曝露期間、臨床使用経験、代替薬の有無等を考慮し、必要な事項を記載すること。
- 2、注意事項は、「投与しないこと」、「投与しないことが望ましい」又は「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」を基本として記載すること。
より具体的な内容になりますが、やはり「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」が最大限の許容であることには変わりないみたいですね。
「9.6授乳婦」
- 1、乳汁移行性のみならず、薬物動態及び薬理作用から推察される哺乳中の児への影響、臨床使用経験等を考慮し、必要な事項を記載すること。
- 2、母乳分泌への影響に関する事項は、哺乳中の児への影響と分けて記載すること。
- 3、注意事項は、「授乳を避けさせること」、「授乳しないことが望ましい」 又は「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」を基本として記載すること。
これもより具体的な内容になりますね。
「9.7小児等」
低出生体重児、新生児、乳児、幼児又は小児(以下「小児等」という。)に用いられる可能性のある医薬品であって、小児等に特殊な有害性を有すると考えられる場合や薬物動態から特に注意が必要と考えられる場合 にその旨を、年齢区分を考慮して記載すること。
ただし、具体的な年齢が明確な場合は「○歳未満」、「○歳以上、○歳未満」等と併記すること。なお、これ以外の年齢や体重による区分を用いても差し支えないこと。
具体的な年齢の区分についても留意事項の中で以下のように定められています。
- 新生児:出生後4週未満
- 乳児:生後4週以上1歳未満
- 幼児:1歳以上7歳未満
- 小児:7歳以上15歳未満
「9.8高齢者」
薬物動態、副作用発現状況から用法及び用量の調節が必要である場合や特に注意が必要な場合に、その内容を簡潔に記載すること。
留意事項では、高齢者は65歳以上を目安とすること、必要に応じて75歳以上の年齢区分に関する情報も記載すること(これ以外の年齢区分でも可能)が定められています。
添付文書の変更で業務はどう変わる?
メーカーから提供される情報として信頼度の高い添付文書により具体的な内容が記載されるのは非常に助かりますね。
一包化調剤時の安定性はインタビューフォーム等である程度わかるので、あとは粉砕に関するデータくらいでしょうか?
実際の添付文書が出てこないとわかりませんが、これまで医師や他の医療従事者から質問を受けていた内容が添付文書に具体的に記載されるように思えます。
実際に他の医療従事者が通常業務でどこまで添付文書に目を通すかはわかりませんが、多くの質問が添付文書を見ればわかるようになります。
これにより業務がどのように変化していくのか・・・というところを少し考えてしまいます。