トレシーバ注フレックスタッチの勉強会

もう一ヶ月以上前になりますが、トレシーバ注フレックスタッチの勉強会を受けました。
勉強会をお願いした時には、勉強会の日にはすでに薬価が決まっている予定でしたが、フレックスタッチの評価の関係で薬価収載が延期になりましたね。
世界初の発売は逃しましたが、新薬ということで万が一の不安もありますから、少しでも海外での販売後の様子が見られるのは結果的に良かったのではないかなと思います。

さて、このインスリンデグルデク(遺伝子組換え)(商品名:トレシーバ)ですが、かなり期待していいんじゃなないかと思います。
薬効はもちろん、新型注入器のフレックスタッチも素晴らしかったです。

3種類目の持効型インスリン

トレシーバの登場で持効型のインスリンは3種類になりました。

  • インスリングラルギン(商品名:ランタス)
  • インスリンデテミル(商品名:レベミル)
  • インスリンデグルデク(商品名:トレシーバ)

です。

トレシーバの特徴

トレシーバは超持効型とも言われるように、その最大の特徴は作用持続時間です。
作用持続時間を比較してみると

  • ランタス:24時間
  • レベミル:14〜24時間
  • トレシーバ:26時間以上(実質42時間以上)

となっています。

トレシーバだけ()で42時間以上としていますが、26時間以上というのは国内での試験結果、42時間以上というのは海外での試験結果です。
海外と日本とで持続時間に差がある理由ですが、日本国内と海外で試験が可能な時間の差があるためです。
(日本では倫理的な問題で26時間までしか試験が行えませんが、海外ではそれ以上可能で42時間まで行うことができた)
つまり、トレシーバの作用持続時間は実質42時間以上と考えてもいいようです。
実際に、インスリン自己分泌が一定以上ある2型糖尿病患者に対して、トレシーバは隔日投与で充分な効果を得ることができるそうです。
2日に1回の注射で基礎インスリンを安定させることが可能ということになります。

この作用時間があれば、認知症などの理由で自己注射が困難な患者に対し、
訪問看護の時のみ使用するなど、より進んだ糖尿病治療が期待できます。

効果が持続する理由

トレシーバの作用効果の長さはその構造によるものです。

インスリンデテミル(商品名:レベミル)はB鎖30位のスレオニンの代わりに炭素数14の直鎖脂肪酸(ミリスチン酸)を結合させることで、皮下組織、血中でのアルブミン結合率を高め、ゆっくり効果を出し、持続できるようにしたものです。

インスリンデグルデク(商品名:トレシーバ)はインスリンデテミルよりもさらに多い炭素数16の脂肪酸を結合させたものです。
より長い側鎖を持つことで、インスリンデグルデク同士は結合しやすくなっています。
通常、インスリンは6個のインスリンが結合した六量体(ヘキサマー)を形成しますが、インスリンデグルデクはさらにそれが二つ繋がったダイヘキサマー(六量体と六量体)として製剤中に存在します。

さらに、皮下注射後、それらが1000個以上繋がったマルチヘキサマーが形成されます。
もちろんこの状態では血中に移行できず、マルチヘキサマーの端っこからモノマー(単量体)が解離し、少しずつ血中に移行して行きます。
これにより皮下投与されたトレシーバは少しずつ血中に入っていくことになり、ゆっくりゆっくり長い時間をかけて効果を発揮していきます。
血中でのアルブミン結合率の高さも作用の持続に寄与しています。

※ちなみに、インスリングラルギン(商品名:ランタス)は等電点が低pH側に偏っているため、皮下のpHで沈殿し、それが徐々に血中に移行することで効果を持続させます。

効果の変動とTreat to Target試験

ランタスやレベミルの効果には多少のピークがありますが、トレシーバはほぼフラットに効果を発現します。
そのおかげか、レベミルと比較して夜間低血糖が起こりにくいというデータもあります。
米国でのトレシーバの承認に関する臨床試験はFDAが要求するTreat to Targetという試験デザインで実施されています。
Treat to Targetでは新薬でも対照薬でも同じ血糖値を目指して治療を行い、その過程での低血糖の頻度や重症度を評価する試験です。
試験は以下の2群に分け、

  • トレシーバ1日1回+インスリンアスパルト(商品名:ノボラピッド)を用いる群
  • レベミル1日1回(1日2回に変更可能)+ノボラピッドを用いる群

朝食前血糖値90mg/dLを目標に行われました。
結果、どちらの群もHbA1cを効果的に改善し(両群に有意差なし)、低血糖の頻度には有意差はありませんでした。
ですが、夜間低血糖の発現件数は有意にトレシーバ群の方が少なかったということです。

余談ですが、気になったことを。
試験の条件についてもっと詳しく聞いておけばよかったんですが。
レベミルは効果持続時間が短いため、1日2回投与にすれば、夜間低血糖回避のために夜間の単位数を減らす方法があるはずです。
試験においてその辺りはどのようにしたのかは不明です。

個体内変動と期限

使用者の個体内変動(同じ人が同じ体調、用法、用量で使用したにも関わらず生じる効果の差)が少ないという報告もあるようです。
また、レベミルに構造が近いので、ランタスのような発ガン性の疑いや妊婦への使用の安全性の問題も起こりにくいのではないかと思います。
(この点に関しては、あくまでもランタスで安全性が確立できていないだけです)
※ランタスの発がん性については正式に否定するデータが報告されました。

あとは、開封後の使用期限が8週間と他のインスリン製剤より長いのも特徴です。
少ない単位数、特に隔日投与なども予想される薬ですからこれはありがたいですね。

新注入器フレックスタッチ

そして新規注入器フレックスタッチについて。
これ、すごい使いやすいです。
単位の目盛りを合わせる音がすごいハッキリしているし、単位を増やす時と戻す時で音が違うという拘りぶり。
単位数に関わらず注入ボタンが伸びることがないので、単位数が増えても押しにくいということがないです。
さらに、注入ボタンにバネがついているため非常に押しやすい。
押している間、一定の速度で製剤が注入されます。

目盛りの表示も見やすくなっています。
フレックスペンと比較するまでもなく、手技にほとんど力が不要で、表示や注入ダイヤルを回す音で単位数の確認もしやすくなっています。
使用感にこだわるあまり、高級腕時計メーカーのロレックスの部品を作る工場に依頼した部品もあるそうです。

薬価について

薬価については、ランタスソロスターとトレシーバフレックスタッチがほぼ同じになりそうとのことです。
メーカーとしては戦略的に同じ程度の薬価を目指しているようです。
メーカーパンフレットなどで「超」持効型ではなく、単なる持効型となっているのは、変に差をつけて薬価が高く設定されないためだそうです。
フレックスタッチのコストから、売れれば売れるほど赤字になる可能性もあるという話(嘘か本当かは不明ですが)もありましたが、そこまでしてでも持効型インスリンのシェアを拡大したいというノボノルディスクファーマの意気込みが感じられます。

まとめ

トレシーバの発売後、ランタスは厳しくなりそうな気がします。
効果持続時間はトレシーバより短い、溶液のpHが低いため注入時に痛みを感じることがあり、妊婦への安全性が確立していない。
注入器もソロスターよりフレックスタッチの方が新世代となり断然使いやすいです。
これで薬価はほぼ同じであればトレシーバがかなり有利な気がします。
レベミルについては上でも触れましたが、作用持続時間が短めなことを利用して住み分けができそうな気がします。

インスリンアスパルト(商品名:ノボラピッド)との配合剤(商品名:ライゾデグ)も登場もそう遠くはなさそうなので楽しみです。

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

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