2014年12月2日、新規作用機序を持つ緑内障・高眼圧治療薬、グラナテック点眼液0.4%(一般名:リパスジル塩酸塩水和物)の販売が開始となりました。
当初は2015年1月発売予定でしたが、早まっての発売になったようです。
グラナテック点眼液は三重大学医学部の産学官連携により生まれた株式会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所が開発し、興和が2014年9月26日に製造承認を取得していました。
これまでの緑内障治療薬とは異なり、Rhoキナーゼ阻害(ROCK阻害)という新しい作用機序を持つ薬剤で、世界初の発売となります。
緑内障治療薬
眼房水の流れが滞り、眼圧が上昇した結果、視神経が障害を受け、視野が狭くなっていくのが緑内障です。
失われた視野を回復させることは困難であるため、緑内障治療は患者の視機能を維持するを目的として行われます。
現在、エビデンスに基づいた確実な治療法は眼圧を低下させることです。
治療薬として、
- プロスタグランジン(PG)関連薬:レスキュラ・キサラタン・トラバタンズ・タプロス・ルネスタ
- β遮断薬:チモプトール・ミケラン・リズモン・ベントス・ベトプティック
- αβ遮断薬:ハイパジールコーワ・ニプラノール・ミロル
- α1遮断薬:デタントール
- 炭酸脱水酵素阻害薬:トルソプト・エイゾプト
- 交感神経刺激薬:ピバレフリン
- 副交感神経刺激薬:サンピロ・ピロリナ
- α2作動薬:アイファガン
- 各配合剤:ザラカム・デュオトラバ・タプコム・コソプト・アゾルガ
が使用されています。
緑内障治療薬の作用
緑内障治療に使用される薬剤の作用は大きく分けて二つ。
眼房水の排出促進と眼房水の産生抑制です。
ちなみに、今回発売されたグラナテックは眼房水の排泄促進作用を持ちます。
ほかの薬と合わせてまとめてみます。
眼房水の産生抑制
- β遮断薬
- 炭酸脱水酵素阻害薬
眼房水の排泄促進
- プロスタグランジン(PG)関連薬
- 交感神経刺激薬
- α1遮断薬
- 副交感神経刺激薬
- Rhoキナーゼ阻害薬
眼房水の産生抑制・排泄促進の両方の作用
- αβ遮断薬
- α2作動薬
眼房水排泄の二つの経路
眼房水が排泄される経路は主経路と副経路の二種類が存在します。
グラナテックは主経路に関与します。
他の薬についてもまとめてみます。
主経路
主経路は線維柱帯流出路と呼ばれ、
隅角→線維柱帯→シュレム管→強膜上静脈
といった流れで眼房水を排泄します。
排泄の9割が主経路による排泄と言われています。
- プロスタグランジン(PG)関連薬:レスキュラ以外
- 交感神経刺激薬
- 副交感神経刺激薬
- Rhoキナーゼ阻害薬
副経路
副経路はブドウ膜強膜流出路と呼ばれ、
虹彩根部→毛様体筋→上脈絡膜→強膜
といった流れで1割の眼房水を排泄します。
- α1遮断薬
- プロスタグランジン(PG)関連薬:レスキュラ
Rhoキナーゼ阻害~リパスジルの作用機序
細胞骨格を形成するアクチンや微小管の変化は、低分子量Gタンパク質であるRhoにより制御されています。
Rhoキナーゼは、Rhoをリン酸化させることにより、Rhoファミリーのシグナル伝達を進めるセリン・スレオニン蛋白リン酸化酵素です。
Rhoキナーゼの働きにより平滑筋の収縮が亢進します。
すでに発売されているRhoキナーゼ阻害剤として、エリル点滴静注液(一般名:ファスジル塩酸塩水和物)があり、「くも膜下出血後の脳血管攣縮及び之に伴う脳虚血症状の改善」に使用されますが、これはRhoキナーゼを阻害することにより、血管平滑筋が弛緩することによる作用です。
Rhoは、眼においては、毛様体筋、線維柱帯などで発現しています。
リパスジルは、毛様体筋、線維柱帯におけるRhoキナーゼを阻害し、平滑筋を弛緩させることで、線維柱帯・シュレム管を介した主経路からの房水流出を増加させ、眼圧を低下させます。
グラナテック点眼液の概要
グラナテック点眼液の添付文書を見てみましょう。
販売名:グラナテック点眼液0.4%
成分名:リパスジル塩酸塩水和物
効能・効果:「次の疾患で、他の緑内障治療薬が効果不十分又は使用できない場合:緑内障、高眼圧症」
用法・用量:「1回1滴、1日2回点眼する。」
副作用等発現状況の概要:承認時までに実施された臨床試験において、662例中500例(75.5%)に副作用が認められた。
主な副作用:結膜充血457例(69.0%)、結膜炎(アレルギー性結膜炎を含む)71例(10.7%)、眼瞼炎(アレルギー性眼瞼炎を含む)68例(10.3%)等であった。
その他の副作用の注意:「長期投与においてアレルギー性結膜炎・眼瞼炎の発現頻度が高くなる傾向が認められている。」
グラナテックの適応
「他の緑内障治療薬が効果不十分・使用できない場合」となっています。
第一選択・第二選択はPG関連薬・β遮断薬なので、それらの効果が不十分な場合か副作用等で使用できない場合ですね。
PG関連薬では色素沈着、β遮断薬では心不全・喘息等が考えられると思います。
グラナテックの副作用
やはり目を引くのは副作用の発現率、75.5%ということなので、ほとんどの患者さんで何らかの副作用が起こるということになります。
グラナテックによる結膜充血
主となるのが、69.0%の結膜充血ですね。
ですが、これはRhoキナーゼ阻害作用によるものです。
眼球血管にリパスジルが侵入し、Rhoキナーゼ阻害作用により、血管平滑筋が弛緩することで血管の拡張が起こり、充血してしまうというわけです。
結膜充血の原因は血管の弛緩なので、痛みなどは伴いませんが、炎症ではないので冷やしたりしても抑えることはできません。
充血は点眼後2時間(充血後1時間)程度で回復するようなので、朝の点眼を起床後すぐに行うことで、外出するまでに充血を回復させることが可能となるかもしれません。
将来、プロドラッグ化されたものが開発されて、この副作用を回避できたりするのでしょうか?
アレルギー性結膜炎・眼瞼炎の発現頻度が高くなる
これはなんなんでしょうね・・・?
長期投与によって、炎症系が敏感になる理由があるのでしょうか?
緑内障治療薬は基本、長期的に投与することが多いので、気になりますね。
期待される新しい作用
グラナテックは現在、糖尿病性網膜症の臨床試験中でもあります。
ROCK阻害点眼薬は血管新生を抑制したり、血管透過性の抑制、神経細胞の保護作用を持つという報告もあります。
こういった作用にも期待が高まっています。
まとめ
グラナテック点眼液、どの程度の効果を持つかは不明ですが、まったく新しい作用機序ということで、これまでの薬剤で眼圧がなかなか下がらない方にとっては期待できる選択肢になりますね。
海外ではまだ販売されておらず、日本が世界初の販売となります。
副作用の発現頻度が高く、使用に際しては注意が必要になるかと思います。