2019年6月6日(令和元年6月6日)、イノラス配合経腸用液が発売されました。
イノラス配合経腸用液は2019年3月26日に製造承認を取得、2019年5月22日に薬価収載されていました。
エンシュア・リキッドやエンシュア・H、ラコールNF配合経腸用液、エネーボ配合経腸用液と同じ半消化態栄養剤に分類されるものです。
大塚としてはラコールに続く商品となり、微量元素等を含む点ではアボットで言えばエネーボに近いポジションになるのかもしれませんが、より一層、改良が加えられたものになっています。
半消化態栄養剤とは?
この記事で紹介するイノラスは半消化態栄養剤に分類される経腸栄養剤です。
そこでイノラスの説明に入る前に半消化態栄養剤と経腸栄養剤の分類について説明したいと思います。
経腸栄養剤の分類
経腸栄養剤は主に窒素源として含まれる成分を基準として分類されており、以下のような特徴を持ちます。
(表は横にスクロールできます。
表を見てもらえればわかるように、
半消化態栄養剤 > 消化態栄養剤 > 成分栄養剤
の順に消化機能を必要とします。
また、半消化態栄養剤は浸透圧が低く、脂肪分も十分配合されています。
経腸栄養剤の中で最も通常の食事(流動食)に近いのが半消化態栄養剤です。
イノラスってどんな薬?
イノラスはイーエヌ大塚製薬が製造承認を取得した半消化態栄養剤です。
大塚製薬はラコールNF配合経腸用液を製造しているので、その改良型であることが期待されます。
イノラスの基本情報
最も高カロリーな半消化態栄養剤
イノラスの特徴として、現在薬価収載されている半消化態栄養剤の中でmLあたりのカロリーが最も高いことがあげられます。
比較してみると・・
半消化態栄養剤mL当たりのカロリー
- エンシュア・リキッド:1kcal/mL
- エンシュア・H:1.5kcal/mL
- ラコールNF配合経腸用液:1kcal/mL
- エネーボ配合経腸用液:1.2kcal/mL
- ラコールNF配合経腸用半固形剤:1kcal/g
- イノラス配合経腸用液:1.6kcal/mL
イノラスはこれまで最も高カロリーだったエンシュアHを上回る1.6kcal/mLです。
同じカロリーを摂取する際、エンシュアやラコールと比較して2/3以下(62.5%)の量で済みます。
高カロリーであるため、摂取量が少なくても多くのカロリーを摂取することができるというのがメリットですが、処方量を抑えることが可能になることで外来で受け取った患者さんが持って帰る際の負担を減らすことができるのもメリットです。
エンシュアやエネーボとは異なるアルミパウチ包装であることも運びやすさに寄与していますね。
フレーバーはヨーグルトとりんごにコーヒーといちごが加わり4種類に
発売当初、味は2種類用意されていました。
ヨーグルトとりんごと聞いたときは、そんな薄めのフレーバー?
と思いましたが、味見してみると、どちらも甘さ控えめでとても飲みやすかったです。
酸味のあるフレーバーで甘さ控えめ、濃厚な感じもしなかったので牛乳嫌いな自分には一番飲みやすい栄養剤だと思います。

どちらのフレーバーも見た目的には色等の差がないですね。
新フレーバ(コーヒー・いちご)の追加
2020年8月3日に新フレーバーとしてコーヒーといちごが新発売になっています。
これで、イノラスはヨーグルト、りんご、コーヒー、いちごの4種類のラインナップとなりました。
選択肢が増えることは素晴らしいのですが、薬局としては在庫がかなりかさばりますよね・・・。
うちなんて、エンシュア・リキッド、エンシュア・H、ラコールNF、エネーボ、イノラスを在庫しており、それぞれフレーバーも複数なのでそろそろ置き場が・・・。
優れた栄養バランス
イノラスに含まれる3大栄養素の比率は以下のようになっています。
- たん白質:16%(12g/袋)
- 脂質:29%(10g/袋)
- 糖質:55%(40g)
これは日本人の食事摂取基準(2015年版)の目標量を満たす構成です。
(日本人の食事摂取基準2015 目標量:たん白質13〜20%、脂質20〜30%、糖質50〜65%)
さらには以下のような特徴があります。
たん白質源には濃縮乳たん白とカゼインナトリウムを配合、1パウチ300kcalあたり、たん白質量を12.0gとしました。
脂肪源にはMCT*1(鎖脂肪酸トリグリセリド)の他、ω3系脂肪酸の供給源としてシソ油と魚油を配合、ω3:ω6を1:3に配合しました。
糖質源に精製白糖は使用せず、デキストリンのみを配合しました。
引用元:イノラス配合経腸用液 パンフレット
1日3袋で必要とされる栄養素を摂取可能
3袋(900kcal/562.5mL)で、日本人の食事摂取基準2015で求められている1日に必要なビタミン・微量元素を満たすことができるように作られています。
そのため、用量も562.5〜937.5mL(3〜5袋)に設定されています。
他の径腸栄養剤と用量を比較してみると、以下のようになります。
- エンシュア・リキッド:1,500〜2,250mL(6〜9缶)
- エンシュア・H:1,000〜1,500mL(4〜6缶)
- ラコールNF配合経腸用液:1,200〜2,000mL(200mLパウチ:6〜10袋、400mLパウチ:3〜5パウチ)
- エネーボ配合経腸用液:1,000〜1,667mL(4〜6.6缶)
- ラコールNF配合経腸用半固形剤:1,200〜2,000g(4〜6.6袋)
- イノラス配合経腸用液:562.5〜937.5mL(3〜5袋)
経腸栄養剤での食事摂取が長期になることを見越して微量元素もしっかりと含まれているようです。
最新の栄養学的知見に基づき、ヨウ素・セレン・クロム・モリブデンのほか、カルニチン、コリンを配合しました。
引用元:イノラス配合経腸用液 パンフレット
薬価の比較
他の半消化態栄養剤と薬価を比較してみます。
- エンシュア・リキッド:0.54円/mL→0.54円/kcal
- エンシュア・H:0.95円/mL→0.63円/kcal
- エネーボ配合経腸用液:0.73円/mL→0.61円/kcal
- ラコールNF配合経腸用液:0.73円/mL→0.73円/kcal
- ラコールNF配合経腸用半固形剤:1.04円/g→1.04円/kcal
- イノラス配合経腸用液:1.56円/mL→0.98円/kcal
薬価としてはラコール半固形に次いで高いんですね。
含まれる成分量を考えれば当然なのかもしれませんね。
各経腸栄養剤の比較表
ここまでの情報をもとに、簡単に表でまとめてみました。
DI
添付文書とインタビューフォームを参考にイノラスを調剤する上での注意点をまとめていきます。
効能・効果
イノラスの適応は「一般に、手術後患者の栄養保持に用いることができるが、特に長期にわたり、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給に使用する。」とされています。
長期的な状態を想定していますが、食事が可能になった場合は速やかに切り替える必要があります。
効能・効果に関連する使用上の注意
経口食により十分な栄養摂取が可能となった場合には、速やかに経口食にきりかえること。
引用元:イノラス配合経腸用液 添付文書
用法・用量
イノラスの用法・用量は「通常、成人標準量として1日562.5〜937.5mL(900〜1,500kcal)を 経管又は経口投与する。経管投与の投与速度は50〜400mL/時間とし、持続的又は1日数回に分けて投与する。経口投与は1日1回又は数回に分けて投与する。なお、年齢、体重、症状により投与量、投与速度を適宜増減する。」となっています。
用法・用量に関連する使用上の注意
- 本剤は、経腸栄養剤であるため、静脈内へは投与しないこと。
- 本剤の投与初期には低速度から投与を開始すること。
引用元:イノラス配合経腸用液 添付文書
牛乳アレルギーは禁忌
〔禁忌〕(次の患者には投与しないこと)
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
- 牛乳たん白アレルギーを有する患者[本剤は牛乳由来のたん白質が含まれているため、ショック、アナフィラキシーを引き起こすことがある。]
- イレウスのある患者[消化管の通過障害がある。]
- 腸管の機能が残存していない患者[水、電解質、栄養素などが吸収されない。]
- 高度の肝・腎障害のある患者[肝性昏睡、高窒素血症などを起こすおそれがある。]
- 重症糖尿病などの糖代謝異常のある患者[高血糖、高ケトン血症などを起こすおそれがある。]
- 先天性アミノ酸代謝異常の患者[アシドーシス、嘔吐、意識障害などのアミノ酸代謝異常の症状が発現するおそれがある。]
引用元:イノラス配合経腸用液 添付文書
イノラスは1袋 187.5mL(300kcal)中に牛乳由来のカゼインナトリウム3.576gを含んでいるため、牛乳アレルギーを持っている場合は禁忌になります。
浸透圧は最も高い
3. 性状
本剤は、微褐白色~褐白色の乳液で、わずかに特有の香り(ヨーグルト様、若しくはりんご様)があり、味はわずかに甘い。
- 比重(d20):約1.1
- pH:約6.1
- 浸透圧:約670mOsm/L
- 粘度:約17mPa・s
引用元:イノラス配合経腸用液 添付文書
mL当たりのカロリーを考えると当然ですが浸透圧は現在薬価収載されている半消化態栄養剤のなかでは最も高くなっています。
半消化態栄養剤の浸透圧
- エンシュア・リキッド:約330mOsm/L
- エンシュア・H:約540mOsm/L
- エネーボ配合経腸用液:約350mOsm/L
- ラコールNF配合経腸用液:330〜360mOsm/L
- ラコールNF配合経腸用半固形剤:-
- イノラス配合経腸用液:約670mOsm/L
カロリー高いのでしょうがないですが、浸透圧性の下痢が心配になりますね。
粘度についても同様でエンシュア・Hと同じ数値になっています。
半消化態栄養剤の粘度
- エンシュア・リキッド:約9mPa・s
- エンシュア・H:約17mPa・s
- エネーボ配合経腸用液:約16mPa・s
- ラコールNF配合経腸用液:5.51〜6.52mPa・s
- ラコールNF配合経腸用半固形剤:(6,500〜12,500mPa・s)
- イノラス配合経腸用液:約17mPa・s
試飲した感じでは意外とサラサラに感じましたけどね。
1袋 187.5mL! 1日562.5mL!は覚えにくくない?
〔効能・効果〕
一般に、手術後患者の栄養保持に用いることができるが、特に長期にわたり、経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給に使用する。
《効能・効果に関連する使用上の注意》
経口食により十分な栄養摂取が可能となった場合には、速やかに経口食にきりかえること。
〔用法・用量〕
通常、成人標準量として1日562.5〜937.5mL(900〜1,500kcal)を経管又は経口投与する。経管投与の投与速度は50〜400mL/時間とし、持続的又は1日数回に分けて投与する。経口投与は1日1回又は数回に分けて投与する。なお、年齢、体重、症状により 投与量、投与速度を適宜増減する。
《用法・用量に関連する使用上の注意》
- 本剤は、経腸栄養剤であるため、静脈内へは投与しないこと。
- 本剤の投与初期には低速度から投与を開始すること。
引用元:イノラス配合経腸用液 添付文書
1日3袋で必要とされる栄養素を摂取可能が売り文句なので、商品的には薬価収載単位が「袋」とか「包」になればよかったですね。
残念ながら(10)mL単位なので処方医から3袋って何mLなの?っていう質問が来そうですね。
- 1袋 187.5mL→いやなこ(嫌な子)
- 3袋 562.5mL→ごろにゃーご(ゴロニャーゴ)
これで覚えましょう(笑)
メナテトレノン(ビタミンK2)とワーファリンの相互作用に注意
3. 相互作用
併用注意(併用に注意すること)
薬剤名等:ワルファリン
臨床症状・措置方法:ワルファリンの作用が減弱することがある。
機序・危険因子:メナテトレノン(ビタミンK2)がワルファリンの作用に拮抗するため(本剤はメナテトレノンを24.99μg/187.5mL(300kcal)含有する)。
引用元:イノラス配合経腸用液 添付文書
メナテトレノン(ビタミンK2)を含むのでワーファリンとの相互作用には注意が必要になります。
副作用で気になる下痢は?
4.副作用
第III相比較試験(検証的試験)の安全性評価対象107例のうち副作用発現例数は11例(10.3%)、副作用発現件数は11件であった。その内訳は消化器系の副作用が下痢5件(4.7%)、軟便1件(0.9%)、便秘1件(0.9%)であり、その他は血中ナトリウム減少1件(0.9%)、血中ブドウ糖増加1件(0.9%)、血中トリグリセリド増加1件(0.9%)、白血球数増加1件(0.9%)であった。
(承認時)
- 重大な副作用(類薬)
ショック、アナフィラキシー(頻度不明):ショック、アナフィラキシーを起こすことがあるので、観察を十分に行い、血圧低下、意識障害、呼吸困難、チアノーゼ、悪心、胸内苦悶、顔面潮紅、そう痒感、発汗等があらわれた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行うこと。 - その他の副作用
- 消化器:下痢、軟便、便秘(0.1~5%未満)、腹部膨満感、腹痛、悪心、嘔吐、 肝機能検査値の異常(頻度不明)
- その他:皮疹、蕁麻疹、発熱、頭痛(頻度不明)
引用元:イノラス配合経腸用液 添付文書
やはり下痢の頻度が高いようですね。
類薬との直接比較はないので詳細は不明ですが、MRさん曰く、ラコールによる下痢と頻度的には差がなかったそうです。
ビタミンAを含むため妊娠中は注意
6. 妊婦、産婦、授乳婦等への投与
外国において、妊娠前3ヶ月から妊娠初期3ヶ月までにビタミンAを10,000IU/日以上摂取した女性から出生した児に、頭蓋神経堤などを中心とする奇形発現の増加が推定されたとする疫学調査結果があるので、妊娠3ヶ月以内又は妊娠を希望する婦人に投与する場合は用法・用量に留意し、本剤によるビタミンAの投与は5,000IU/日未満に留めるなど必要な注意を行うこと。(本剤937.5mL/1,500kcal中にビタミンA 4,718IU(1,415.5μgRE)を含有する。)
引用元:イノラス配合経腸用液 添付文書
イノラスのみ(最大4,718IU)で妊娠中のビタミンAの制限(5,000IU/日未満)を越すことはありませんが、他の栄養剤や食事と組み合わせる場合などは注意が必要です。
その他の注意
8. 適用上の注意
- 投与に際して
- 投与初期には、低速度から投与を開始し、特に観察を十分に行うこと。下痢などの副作用が認められた場合には、速度を下げて症状の改善を待つ、若しくは減量又は投与を中止するなど適切な処置を行うこと。
- 万一容器等の破損により、製剤に異常が認められた場合には使用しないこと。
- 投与方法
- 分割投与の開始時又は持続的投与の数時間ごとに、胃内容物の残存を確認すること。
- 経管投与においては、分割投与の終了ごと、あるいは持続的投与の数時間ごとに少量の水でチューブをフラッシングすること。
- 使用時に配合成分由来の沈殿物又は浮遊物(結晶性のリン酸水素カルシウムや脂肪など)がみられることがあるため、開封直前によく振って分散させてから使用すること。
- 本剤を加温する場合は高温(70°C以上)を避け、未開封のまま湯煎にて行うこと。
- 保存等
- 凍結保存や室温を上回る温度下での保存は避けること。
- 開封後は、微生物汚染及び直射日光を避け、できるだけ早めに使い切ること。やむを得ず保管する場合は、冷蔵庫に保管し、24時間以内に使い切ること。
- その他
可塑剤としてDEHP〔di(-2-ethylhexyl)phthalate;フタル 酸ジ(-2-エチルヘキシル)〕を含むポリ塩化ビニル製の栄養セット及びフィーディングチューブ等を使用した場合、DEHPが製剤中に溶出するので、DEHPを含まない栄養セット及びフィーディングチューブ等を使用することが望ましい。
引用元:イノラス配合経腸用液 添付文書
加温は70℃未満までで湯せんにて行う。
開封後は冷蔵庫保管で24時間以内。
医療用 半消化態 経腸栄養剤の成分比較
最後に、イノラスの成分をまとめると同時に、既存の経腸栄養剤の成分もまとめてみました。
100kcal摂取時の成分量比較
表が画面に入りきらない場合は横にスクロールできます。
300kcal(イノラス1袋=187.5mL)摂取時の成分量比較
まとめ・雑感
1日3袋で900kcalに加え、必要なビタミン・微量元素を摂取できるのは魅力的ですね!
ただ、1袋が187.5mLってのは電子カルテ等で設定されていればいいですが、なかなか覚えにくい数字ですね・・・。
味は甘さ控えめなので飲みやすく感じましたが、甘いのが好きな人には物足りないかな?
気になるのは高浸透圧故の下痢ですね。
臨床データ的には特別多くはないのですが、使用してみてどうなるか注意したいところです。
参考資料