【深在性真菌症治療剤】クレセンバカプセル(イサブコナゾニウム硫酸塩)【イサブコナゾール】

2022年12月23日、深在性真菌症治療剤クレセンバカプセル/クレセンバ点滴静注用(イサブコナゾニウム硫酸塩)が承認されました。
スイスのBasilea Pharmaceutica International Ltd, Allschwil(バジリア社)が創製した新規アゾール系抗真菌薬で、効能・効果は「真菌症(アスペルギルス症、ムーコル症、クリプトコックス症)の治療」です。

旭化成ファーマ プレスリリース – 「クレセンバ®カプセル100mg」、「クレセンバ®点滴静注用200mg」の国内製造販売承認取得について

クレセンバカプセル/クレセンバ点滴静注用は現時点では薬価収載されていませんが、2023年3月に収載される予定です。

今回はクレセンバカプセルについてまとめてみたいと思います。

  • 製品名(洋名):クレセンバカプセル100mg(CRESEMBA Capsules)/クレセンバ点滴静注用200mg(CRESEMBA for i.v. infusion)
  • 成分名:イサブコナゾニウム硫酸塩
  • 製造販売元:旭化成ファーマ
  • 作用分類:深在性真菌症治療剤(アゾール系抗真菌薬)
  • 命名の由来:海外における販売名を使用した。
  • 効能・効果:下記の抗真菌症の治療
    • アスペルギルス症(侵襲性アスペルギルス症、慢性進行性肺アスペルギルス症、単純性肺アスペルギローマ)
    • ムーコル症
    • クリプトコックス症(肺クリプトコックス症、播種性クリプトコックス症(クリプトコックス脳髄膜炎を含む))
  • 用法・用量:
    • 【クレセンバカプセル100mg】
      通常、成人にはイサブコナゾールとして1回200mgを約8時間おきに6回経口投与する。6回目投与の12〜24時間経過後、イサブコナゾールとして1回200mgを1日1回経口投与する。
    • 【クレセンバ点滴静注用200mg】
      通常、成人にはイサブコナゾールとして1回200mgを約8時間おきに6回、1時間以上かけて点滴静注する。6回目投与の12〜24時間経過後、イサブコナゾールとして1回200mgを1日1回、1時間以上かけて点滴静注する。
  • 製造販売承認年月日:2022年12月23日
  • 薬価基準収載年月日:未収載

ポイントだけ押さえたいかたは「3、まとめ」だけ読んでください。

クレセンバの特性と承認背景

まず、医薬品としてのクレセンバの背景や特徴についてまとめてみます。

深在性真菌症と表在性真菌症

子ぺんぎん(ジェンツー)
真菌症って表在性と深在性があるよね?クレセンバは水虫(白癬)に使う薬ではないの?
ぺんぎん薬剤師
クレセンバは深在性真菌症に対する薬剤で水虫(白癬)には使うものではないね。糸状菌に対しても有効なので効果はあるとは思うけど・・・。
  • 表在性皮膚真菌症:菌の寄生が角層、毛、爪など皮膚の表面や口腔や外陰部の粘膜など体表に限られるもの
    • 皮膚糸状菌症(白癬、黄癬、渦状癬等)
    • 皮膚・粘膜カンジダ症
    • マラセチア症(癜風)
    • 爪真菌症(爪白癬等)
  • 深在性皮膚真菌症:真皮以下で真菌の発育が認められる状態
    • スポロトリコーシス
    • クロモミコーシス(黒色真菌症(黒色分芽菌症、黒色菌糸症))
  • 深在性真菌症:肺や腸菅など全身の臓器に真菌が感染(主に日和見感染)
    • カンジダ血症
    • 播種性カンジダ症(肝臓、脾臓、心臓など)
    • 侵襲性肺アスペルギルス症
    • クリプトコックス脳髄膜炎
    • 輸入真菌症(ヒストプラズマ症、コクシジオイデス症)
ぺんぎん薬剤師
適応をもつ医薬品と合わせてイメージしやすいよう整理してみるよ。

(表は左右にスクロール可能です)

分類表在性皮膚真菌症深在性皮膚真菌症深在性真菌症
体外体内
感染部位①皮膚(外部)
②口腔
③食道(消化管)
④外陰
皮膚(内部)臓器
血液
内服薬①・②・③イトラコナゾール(イトリゾール※1
①テルビナフィン(ラミシール)
②ミコナゾール(オラビ)
②・③ミコナゾール(フロリードゲル経口用)
②・③アムホテリシンB(ハリゾン、ファンギゾン)
③カスポファンギン(カンサイダス)
③ボリコナゾール(ブイフェンド※3
④フルコナゾール(ジフルカン※4
イトラコナゾール(イトリゾール※2
テルビナフィン(ラミシール)
ホスラブコナゾール(ネイリン)
イトラコナゾール(イトリゾール※2
テルビナフィン(ラミシール)
アムホテリシンB(ファンギゾン注射用、アムビゾーム)
イトラコナゾール(イトリゾール)
カスポファンギン(カンサイダス)
フルコナゾール(ジフルカン)
ミコナゾール(フロリードF注)
ポサコナゾール(ノクサフィル)
ボリコナゾール(ブイフェンド)
ミカファンギン(ファンガード)
イサブコナゾール(クレセンバ)
外用薬①抗真菌薬外用薬全般
②クロトリマゾール(エンペシドトローチ※5
④イソコナゾール(アデスタン膣錠)
④オキシコナゾール(オキナゾール腟錠)
④クロトリマゾール(エンペシド腟錠)
④ミコナゾール(フロリード腟坐剤)
エフィナコナゾール(クレナフィン爪外用液)
ルリコナゾール(ルコナック爪外用液)

※1:①はイトラコナゾールカプセル(後発品の錠剤含む)のみ、②・③はイトラコナゾール内用液のみ
※2:イトラコナゾールカプセル(後発品の錠剤含む)のみ
※3:ブイフェンド錠・ドライシロップのみ
※4:ジフルカンカプセルのみ
※5:HIV感染症患者における口腔カンジダ症

深在性真菌症治療薬が求められる背景

血液疾患や悪性腫瘍に対する化学療法、臓器移植に伴う免疫抑制剤の使用などが広く行われるようになった結果、免疫が低下し、深在性真菌症を引き起こしてしまうケースが増えています。
特に造血幹細胞移植後の侵襲性真菌感染症の発症率は10%前後と言われています。

原因真菌として頻度が高いのはカンジダ属とアスペルギルス属ですが、ムーコル症も増加傾向にあります。
カンジダ属は移植前処置などで損傷した消化管粘膜、アスペルギルス属とムーコル目は肺や副鼻腔から侵入すると考えられています。

深在性真菌症を早期診断することは困難なことに加え、発症後に治療を開始しても予後が不良であることから、真菌感染症の既往歴がある方や、移植の条件・時期、好中球現象の期間等によりハイリスクと判断される場合には抗真菌薬の予防投与を行うことが国内外のガイドラインで推奨されています。

深在性真菌症治療薬と予防適応

各薬剤の予防適応の有無を整理してみます。

①:造血幹細胞移植患者における深在性真菌症の予防
②:好中球減少が予測される血液悪性腫瘍患者における深在性真菌症の予防

  • ①・②:ポサコナゾール(ノクサフィル)、イトラコナゾール(イトリゾール)
  • ①:フルコナゾール(ジフルカン)、ボリコナゾール(ブイフェンド)、ミカファンギン(ファンガード)
  • 予防適応なし:ミコナゾール(フロリードF注)、アムホテリシンB(ファンギゾン注射用、アムビゾーム)、カスポファンギン(カンサイダス)、イサブコナゾール(クレセンバ)

今回紹介するクレセンバ(イサブコナゾール)は承認時点では予防適応なしです。

クレセンバ(イサブコナゾニウム硫酸塩):アゾール系抗真菌薬の作用機序

クレセンバの作用機序について詳しく解説します。

イサブコナゾニウム硫酸塩はプロドラッグ

イサブコナゾニウム硫酸塩はプロドラッグ

です。
体内に吸収された後、血液中のエステラーゼ(主にブチリルコリンエステラーゼ)による加水分解を受け、イサブコナゾールになります。
イサブコナゾールはアゾール系抗真菌薬のうち、トリアゾール系抗真菌薬に分類されます。

プロドラッグ化している理由は水溶性の向上です。

エルゴステロールの合成を阻害する

アゾール系抗真菌はエルゴステロール合成阻害剤として作用します。

アゾール系抗真菌薬であるイサブコナゾール(クレセンバの活性成分)は「チトクロームP450依存性ラノステロール-14α-脱メチル化酵素(14α-デメチラーゼ)」(P-45014DM)のヘム鉄とアポ蛋白質に結合することで、その活性を阻害します。

クレセンバのエルゴステロール合成阻害作用

その結果、細胞膜構成成分であるエルゴステロールが合成されなくなることに加え、細胞内に毒性メチル化中間体が蓄積することにより、真菌は構造・機能を保つことができなくなり増殖が抑制されます。

ちなみに、トリアゾール系抗真菌薬は同じアゾール系抗真菌薬であるイミダゾール系抗真菌薬と比較して、真菌に対する特異性が高いと言われています。

深在性真菌症治療剤としての特徴

まず、各種臨床試験の結果をまとめます。

  • 海外第III相試験(SECURE試験):侵襲性アスペルギルス症を対象に主要評価項目を投与42日目までの総死亡率に設定した試験
    ボリコナゾール(ブイフェンド)に対する非劣性を証明
  • 国内第III相試験(AK1820-301試験):日本人深在性真菌症患を対象とした試験
    →慢性肺アスペルギルス症に対する総合効果の有効率82.7%、クリプトコックス症に対する総合効果の有効率90.0%
  • 海外第III相試験(VITAL試験):腎機能障害を有する侵襲性真菌症患者を対象とした試験
    →ムーコル症患者における投与終了時の総合効果の有効率は31.4%

ボリコナゾールは「一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会 – 造血細胞移植ガイドライン 真菌感染症の予防と治療(第2版) 2021年9月」の中で侵襲性アスペルギルス症の第一選択薬に位置付けられています。

上記の治療効果に加えて、内服(カプセル)と注射(点滴静注)の2種類の剤形を持つことで患者の状態に応じた投与経路の選択が可能であることがクレセンバの特徴と思います。

クレセンバの添付文書を読み解く!

それではクレセンバの添付文書を読み解いていきます。

効能・効果(予防適応はなし)

4. 効能又は効果
下記の真菌症の治療

  • アスペルギルス症(侵襲性アスペルギルス症、慢性進行性肺アスペルギルス症、単純性肺アスペルギローマ)
  • ムーコル症
  • クリプトコックス症(肺クリプトコックス症、播種性クリプトコックス症(クリプトコックス脳髄膜炎を含む))

ノクサフィル(ポサコナゾール)、ブイフェンド(ボリコナゾール)、ファンガード(ミカファンギン)とは異なり、「造血幹細胞移植患者における深在性真菌症の予防」または「好中球減少が予測される血液悪性腫瘍患者における深在性真菌症の予防」に関する適応がないことに注意です。

5. 効能・効果に関連する注意
本剤を投与する前に、原因真菌を分離及び同定するための真菌培養、病理組織学的検査等の他の検査のための試料を採取すること。培養等の検査の結果が得られる前に薬物療法を開始する場合でも、検査の結果が明らかになった時点でそれに応じた抗真菌剤による治療を再検討すること。

この記載は「深在性真菌症の治療における適切な治療選択のための一般的な注意事項」ということです。

用法・用量(導入時 負荷投与の設定あり)

通常、成人にはイサブコナゾールとして1回200mgを約8時間おきに6回経口投与する。6回目投与の12~24時間経過後、イサブコナゾールとして1回200mgを1日1回経口投与する。

  • 負荷投与:1回200mgを約8時間おきに6回(48時間)
  • 維持投与:6回目投与の12〜24時間後から1回200mgを1日1回

用法・用量はカプセル・点滴静注用ともに共通です。
(点滴静注用は1時間以上かけて点滴静注)

7. 用法・用量に関連する注意
7.1 カプセル剤と注射剤は医師の判断で切り替えて使用することができる
7.2 投与期間は基礎疾患の状態、免疫抑制からの回復及び臨床効果に基づき設定すること。

子ぺんぎん(ジェンツー)
カプセルと注射剤を切り替えて使用できるのは便利!

食事の影響は受けない

16.2 吸収
16.2.1 バイオアベイラビリティ
健康成人に本剤(イサブコナゾールとして400mg注))を空腹時単回経口投与したときのイサブコナゾールの絶対的バイオアベイラビリティは約98%であった(外国人データ)。
16.2.2 食事の影響
健康成人に本剤(イサブコナゾールとして400mg)を高脂肪食摂取後に単回経口投与した際、空腹時投与に比べ、Cmaxは8%低下、AUCは10%増加した。本剤は、食事とは関係なく投与可能である(外国人データ)。

高脂肪食摂取 vs 空腹時 でCmax、AUCともにほとんど差がないので食事に関係なく投与することが可能となっています。
負荷投与時は6時間ごとなので食事を考慮した服用だと大変なのでありがたいですね。
バイアアベイラビリティの高さも含めてイサブコナゾールを水溶性プロドラッグ(イサブコナゾニウム硫酸塩)とした効果なんだと思います。

小児適応はなし

9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.7 小児等
小児等を対象とした臨床試験は実施していない。

ブイフェンド(ボリコナゾール、2歳以上の適応)とは異なり小児適応はありません。

交付時は吸湿性に注意

14. 適用上の注意
14.1 薬剤交付時の注意
14.1.2 本剤は吸湿性を有するため、服用直前にブリスターシートから取り出すよう指導すること。
14.1.3 カプセルは噛んだり、粉砕したり、溶解したり、開けたりせず、そのまま服用するよう指導すること。
14.1.4 乾燥剤が入ったブリスターシートに穴を開けないように、また、乾燥剤を取り出して飲み込まないように指導すること。

乾燥剤と薬が横並びになった特殊なPTPシートになっています。
吸湿性が高いのは水溶性プロドラッグとしたことが影響しているんでしょうか?

相互作用(疾患別の相互作用チェック!)

アゾール系抗真菌薬って聞いた瞬間、考えるのは相互作用ですよね。

10. 相互作用
イサブコナゾールは、CYP3Aで代謝される。また、CYP3Aを中程度に阻害CYP2B6を誘導P糖蛋白(P-gp)、有機カチオントランスポーター(OCT)2、多剤・毒性化合物排出蛋白(MATE) 1、UDP-グルクロン酸転移酵素(UDP−glucuronosyltransferase, UGT)を阻害する。

アゾール系抗真菌薬といえばCYP3A阻害作用ですが、イサブコナゾールの阻害作用は中程度となっており、他のアゾール系抗真菌薬と比較して併用禁忌が少し少なくなっています。

今回は疾患ごとに分類してみます。

HIV感染症治療薬
  • リトナビル(ノービア):併用禁忌(本剤↑)
  • コビシスタット含有製剤(スタリビルド、ゲンボイヤ、シムツーザ、プレジコビックス):併用禁忌(本剤↑)
  • ロピナビル・リトナビル(カレトラ):併用注意(本剤↑)(併用薬↓)
  • ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッドパック):併用注意(本剤↑)

併用薬のCYP3A阻害作用によりイサブコナゾール(本剤)の血中濃度が上昇します。

  • エファビレンツ(ストックリン):併用注意(本剤・併用薬↓)

イサブコナゾール(本剤)はエファビレンツ(併用薬)の代謝酵素(CYP2B6)を誘導し、エファビレンツ(併用薬)はイサブコナゾール(本剤)の代謝酵素(CYP3A)を誘導するため、相互に血中濃度の低下を引き起こします。

抗真菌薬
  • イトラコナゾール(イトリゾール):併用禁忌(本剤↑)
  • ボリコナゾール(ブイフェンド):併用禁忌(本剤↑)

併用薬のCYP3A阻害作用により、CYP3Aにより代謝されるイサブコナゾール(本剤)の血中濃度が上昇します。
基本的に併用することはないとは思いますが・・・。

抗生物質(抗結核薬含む)
  • クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド):併用禁忌(本剤↑)

併用薬のCYP3A阻害作用により、CYP3Aにより代謝されるイサブコナゾール(本剤)の血中濃度が上昇します。
記載はありませんがエリスロマイシン等も注意が必要と思います。

  • リファンピシン(リファジン):併用禁忌(本剤↓)
  • リファブチン(ミコブティン):併用禁忌(本剤↓)

併用薬がCYP3Aを強く誘導するため、CYP3Aにより代謝されるイサブコナゾール(本剤)の血中濃度が低下します。

抗てんかん薬
  • カルバマゼピン(テグレトール):併用禁忌(本剤↓)
  • フェノバルビタール(フェノバール):併用禁忌(本剤↓)
  • フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール):併用禁忌(本剤↓)
  • ホスフェニトインナトリウム水和物(ホストイン):併用禁忌(本剤↓)

併用薬がCYP3Aを強く誘導するため、CYP3Aにより代謝されるイサブコナゾール(本剤)の血中濃度が低下します。

ホモ接合体家族性高コレステロール血症(ホモ接合体性FH)
  • ロミタピドメシル酸塩(ジャクスタピッド):併用禁忌(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がCYP3Aを阻害するため、CYP3Aにより代謝されるロミタピドメシル酸塩(併用薬)の血中濃度が上昇します。

健康食品・サプリメント
  • セイヨウオトギリソウ(St.John’s Wort、セント・ジョーンズ・ワート)含有食品:併用禁忌(本剤↓)

セイヨウオトギリソウ含有食品(併用薬?)がCYP3Aを強く誘導するため、CYP3Aにより代謝されるイサブコナゾール(本剤)の血中濃度が低下します。

免疫抑制剤・ステロイド
  • タクロリムス(グラセプター、プログラフ):併用注意(併用薬↑)
  • シロリムス(ラパリムス):併用注意(併用薬↑)
  • シクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル):併用注意(併用薬↑)
  • メチルプレドニゾロン(メドロール):併用注意(併用薬↑)
  • デキサメタゾン(デカドロン):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がCYP3Aを阻害するため、CYP3Aにより代謝される併用薬の血中濃度が上昇します。

  • コルヒチン:併用注意(併用薬↑)
  • エベロリムス(サーティカン、アフィニトール):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がCYP3AおよびP-gpを阻害するため、CYP3AおよびP-gpの基質である併用薬の血中濃度が上昇します。

  • ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がUGTを阻害するため、UGTにより代謝されるミコフェノール酸モフェチル(併用薬)の血中濃度が上昇します。

抗悪性腫瘍剤
  • シクロホスファミド(エンドキサン):併用注意(併用薬↓)

イサブコナゾール(本剤)がCYP2B6を誘導するため、CYP2B6により代謝されるシクロホスファミド(併用薬)の血中濃度が低下します。

  • ビンクリスチン(オンコビン):併用注意(併用薬↑)
  • ビンブラスチン(エクザール):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がCYP3AおよびP-gpを阻害するため、CYP3AおよびP-gpの基質である併用薬の血中濃度が上昇します。

  • ニロチニブ(タシグナ):併用注意(併用薬↑)
  • ラパチニブ(タイケルブ):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がP-gpを阻害するため、P-gpの基質である併用薬の血中濃度が上昇します。

  • ベネトクラクス(ベネクレクスタ):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がCYP3Aを阻害するため、CYP3Aにより代謝されるベネトクラクス(併用薬)の血中濃度が上昇します。

抗凝固薬(DOAC)
  • ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(プラザキサ):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がP-gpを阻害するため、P-gpの基質であるダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(併用薬)の血中濃度が上昇します。

高脂血症治療剤(スタチン、HMG-CoA還元酵素阻害剤)
  • シンバスタチン(リポバス):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がCYP3Aを阻害するため、CYP3Aにより代謝されるシンバスタチン(併用薬)の血中濃度が上昇します。

降圧剤(Ca拮抗薬)
  • アムロジピン(アムロジン、ノルバスク、アイミクス、アマルエット、アムバロ、イルアミクス、エックスフォージ、カデュエット、カムシア、ザクラス、ジルムロ、テラムロ、ミカトリオ、ミカムロ、ユニシア):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がCYP3Aを阻害するため、CYP3Aにより代謝されるアムロジピン(併用薬)の血中濃度が上昇します。

糖尿病治療薬(ビグアナイド系)
  • メトホルミン(メトグルコ、グリコラン、イニシンク、エクメット、メタクト、メトアナ):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がOCT2及びMATE1を阻害するため、OCT2及びMATE1の基質であるメトホルミン(併用薬)の血中濃度が上昇します。

抗アレルギー薬(第二世代抗ヒスタミン薬)
  • フェキソフェナジン(アレグラ):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がP-gpを阻害するため、P-gpの基質であるフェキソフェナジン(併用薬)の血中濃度が上昇します。

水利尿薬(バソプレシンV2-受容体拮抗薬)
  • トルバプタン(サムスカ、サムタス):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がP-gpを阻害するため、P-gpの基質であるトルバプタン(併用薬)の血中濃度が上昇します。

強心薬(ジギタリス製剤)
  • ジゴキシン(ジゴシン):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がP-gpを阻害するため、P-gpの基質であるジゴキシン(併用薬)の血中濃度が上昇します。

オピオイド系鎮痛薬
  • フェンタニル(アブストラル、アルチバ、イーフェンバッカル、デュロテップ、ラフェンタ、ワンデュロ):併用注意(併用薬↑)

イサブコナゾール(本剤)がCYP3Aを阻害するため、CYP3Aにより代謝されるアムロジピン(併用薬)の血中濃度が上昇します。

処方監査時の注意点

ここからは監査時にチェックしておきたい注意事項を整理していきます。

他のアゾール系に対する過敏症既往歴と先天性QT短縮症候群に対する注意

9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 他のアゾール系抗真菌剤に対し薬物過敏症の既往歴のある患者
類似の化学構造を有しており、交差過敏反応を起こすおそれがある。
9.1.2 先天性QT短縮症候群の患者
治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与し、本剤投与前及び投与中は定期的に心電図検査を実施するなど、患者の状態を慎重に観察すること。QT間隔が短縮するおそれがある。

他のアゾール系に対する過敏症既往歴に関しては頭に置いておく必要がありますが、先天性QT短縮症候群についても注意が必要です。

RMPの【重要な潜在的リスク】に「QT 短縮」の記載があります。

肝機能障害に関する注意事項

9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.3.1 重度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類C)
治療上の有益性が危険性を上回る場合にのみ投与すること。やむを得ず投与する場合には、患者の状態をより慎重に観察し、副作用の発現に十分注意すること。本剤の血中濃度が上昇し、副作用が強くあらわれるおそれがある。重度の肝機能障害患者を対象とした臨床試験は実施していない
9.3.2 軽度及び中等度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類A及びB)
本剤の血中濃度が上昇するおそれがあるため、副作用の発現に十分注意すること。

アゾール系抗真菌薬なので肝臓への負担を考慮する必要があります。

8. 重要な基本的注意
8.1 肝機能障害があらわれることがあるので、定期的に肝機能検査を行うなど、患者の状態を十分に観察すること。

肝機能障害についてはRMPの【重要な特定されたリスク】にも記載されています。

重要な特定されたリスクとした理由
国内で実施された深在性真菌症に対する第3相臨床試験(AK1820-301試験)における肝機能障害に関連する有害事象の発現割合は、Cohort A(対象疾患:侵襲性アスペルギルス症および慢性肺アスペルギルス症)の本剤群で36.7%(22/60例)、Cohort Aの対照群(ボリコナゾール群)で46.7%(14/30例)、Cohort B(対象疾患:ムーコル症およびクリプトコックス症、本剤群のみ)で15.4%(2/13例)であった。
海外で実施されたアスペルギルスまたは他の糸状菌による侵襲性真菌症患者を対象とした第3相臨床試験(9766-CL-0104試験)における肝機能障害に関連する有害事象の発現割合は、本剤群で20.6%(53/257例)、対照群(ボリコナゾール群)で31.7%(82/259例)であった。
肝毒性はアゾール系抗真菌剤のクラスエフェクトとして知られており、本剤でも臨床試験や海外市販後において発現が報告されている。以上の事から、肝機能障害を重要な特定されたリスクとした。

国内AK1820-301試験(侵襲性アスペルギルス症および慢性肺アスペルギルス症)

  • イサブコナゾニウム硫酸塩群:36.7%(22/60例)
  • ボリコナゾール群:46.7%(14/30例)

海外9766-CL-0104試験(アスペルギルスまたは他の糸状菌による侵襲性真菌症患者)

  • イサブコナゾニウム硫酸塩群:20.6%(53/257例)
  • ボリコナゾール群:31.7%(82/259例)

ブイフェンド(ボリコナゾール)と比較して肝機能障害の頻度が少ない

ことがわかりますね。

妊娠・授乳に関する注意

9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.4 生殖能を有する者
妊娠可能な女性に対しては、本剤投与中及び投与終了後一定期間は適切な避妊を行うよう指導すること。
9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。ラット及びウサギにおいて、それぞれ臨床曝露量(AUC)未満の曝露量で、胎児に骨格異常(催奇形性)が認められた
9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。ラットで乳汁中への移行が報告されている。

海外の添付文書でも類似した注意喚起が行われており、妊娠中の投与に対する評価は以下のとおりです。

  • FDA分類:Pregnancy Category 評価なし(2022年2月)
  • オーストラリア分類:Category D(2022年9月)

※Category D:ヒト胎児の奇形や不可逆的な障害の発生頻度を増す、または、増すと疑われる、またはその原因と推測される薬。

妊娠・授乳ともに、基本的には投与を避けるべきと考えざるを得ないですね。

催奇形性についてはRMPで【重要な潜在的リスク】に記載されています。

発がん性リスク

動物実験で発がん性が認められています。

8. 重要な基本的注意
8.4 ラット及びマウスにおいて発がん性が認められているので、本剤を長期投与する場合は治療上の有益性と危険性を考慮して投与の継続を慎重に判断すること

肝機能障害の影響もあるのかもしれませんが、肝臓の方が影響を受けやすいようです・

15. その他の注意
15.2 非臨床試験に基づく情報
15.2.1 マウスのがん原性試験(2年間投与)において、肝芽細胞腫の増加及び肝臓の血管腫の増加が臨床曝露量(AUC)のそれぞれ0.6倍及び1.0倍以上の曝露量で認められたラットのがん原性試験(2年間投与)において、皮膚線維腫の増加及び子宮内膜腺癌の増加が臨床曝露量のそれぞれ2.6倍及び3.8倍の曝露量で認められた。なお、臨床試験においてヒトにおける本剤の投与と腫瘍発生との間に明確な関係は報告されていない。

RMPの【重要な潜在的リスク】にも「悪性腫瘍」の記載があります。

副作用(SJS、肝障害、腎障害)

11.1 重大な副作用
11.1.1 皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)(頻度不明)
11.1.2 肝機能障害
肝機能検査異常(13.7%)、肝機能異常(6.8%)、肝損傷(1.4%)、肝炎(頻度不明)があらわれることがある。
11.1.3 急性腎障害(1.4%)、腎不全 (頻度不明)
11.1.4 ショック(頻度不明)、アナフィラキシー(頻度不明)

肝機能障害についてはすでに説明しました。

「急性腎障害、腎不全」、「皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)」、「ショック、アナフィラキシー」に関する記載は重要な基本的注意にもあります。

8. 重要な基本的注意
8.2 急性腎障害、腎不全があらわれることがあるので、定期的に腎機能検査を行うなど、患者の状態を十分に観察すること。
8.3 本剤の投与に際しては、アレルギー歴、薬物過敏症等について十分な問診を行うこと。

また、RMPでは、「急性腎障害、腎不全」、「ショック、アナフィラキシー」が【重要な特定されたリスク】に、「皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)」が【重要な潜在的リスク】に記載されています。

その他の副作用

5%以上のものに

  • 悪心(胃腸障害)
  • ほてり(血管障害)

があるので、重大な副作用と合わせて注意しておきたいところです。

透析による除去は不可

13. 過量投与
13.1 処置
本剤は血液透析によって除去されない。

過量投与の際には透析を利用して除去することはできません。

まとめ

クレセンバカプセルについてまとめたいと思います。

  1. クレセンバカプセルはトリアゾール系に分類される深在性真菌症治療薬
  2. 免疫抑制剤や抗癌治療に伴う真菌の日和見感染に対して使用されるが予防適応・小児適応はない
  3. 投与開始の負荷投与は6回(48時間)行われ、その後は1日1回の服用
  4. 食事の影響は無視できるため服用しやすいタイミングで服用可能
  5. 妊婦・妊娠の可能性のある女性については禁忌に準ずる対応が望ましい
  6. CYP3A4による代謝を受け、中程度の阻害作用を有するため相互作用の十分なチェックが必要
  7. 吸湿性を抑制するため薬剤とともに乾燥剤が封入された特殊なPTPシートになっているため指導が必要
  8. 長期服用の際には肝機能障害、腎機能障害とともに発がん性も考慮にいれること

薬局では目にする機会の少ない薬ではありますが、処方を受ける可能性は0ではありません。
クレセンバを含めて真菌症治療薬は注意点の多くなっているので、普段からある程度の知識を持っておくことが大切と思います。

子ぺんぎん(ジェンツー)
抗真菌薬に触れることはあっても深在性真菌症治療薬となると機会は少ないのかもしれないね。
ぺんぎん薬剤師
それだけに知識を固定しにくい薬でもあるので、新薬が登場する機会に目を通してもらうことが大切だと思っています。

参考資料

 

医療用医薬品情報提供データベースDrugShotage.jp

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