べオーバ錠(ビベグロン)の特徴・作用機序・副作用〜添付文書を読み解く【2剤目の選択的β3アドレナリン受容体作動薬】

  • 2018年11月8日
  • 2021年1月10日
  • 泌尿器
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平成30年9月21日、選択的β3アドレナリン受容体作動薬であるべオーバ錠(成分名:ビベグロン)が承認されています。
ベタニス(成分名:ミラベグロン)に続く、2つ目の選択的β3アドレナリン受容体作動薬になります。
平成30年11月20日に薬価収載され、11月27日に販売開始されました。
今回はべオーバ錠の特徴についてベタニス錠と比較しながらまとめてみたいと思います。
結論から言うと、ベオーバはベタニスの欠点のほとんどを解消している薬剤になります。

参考資料

まずはじめに。
この記事を作成する上で参考にした資料は以下の通りです。

過活動膀胱やその治療薬については過去記事でもまとめています。

過活動膀胱とは?

薬剤についての説明に入る前に過活動膀胱について復習しておきます。
過活動膀胱(OAB*1)とは尿意切迫感を主な症状とし、時に頻尿を伴う排尿障害です。

正常な働きを維持している膀胱であれば、蓄尿期には尿を溜め込み、排尿期に尿を排出するように動きます。
ですが、過活動膀胱の膀胱は蓄尿期にしっかり尿を溜め込むことができない状態になっています。
その結果、膀胱に少ない尿量が溜まっただけで刺激を感じ、強い排尿感に襲われてしまいます。
これを切迫頻尿と言います。

膀胱の働きに関与する受容体

膀胱の働きは蓄尿期と排尿期に分けることができます。
膀胱には膀胱平滑筋という筋肉があり、膀胱平滑筋が収縮すると膀胱も収縮し、逆に膀胱平滑筋が弛緩すると膀胱も緩みます。
つまり、蓄尿時には膀胱平滑筋が弛緩し、排尿時には膀胱平滑筋が収縮するのが正常な膀胱の働きです。

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蓄尿期の膀胱ではノルアドレナリンが放出されることで、アドレナリンβ3受容体が刺激され、膀胱平滑筋が弛緩しています。
また、ノルアドレナリンは尿道のα1受容体にも作用し、尿道平滑筋を収縮させています。
それに対し、収縮期の膀胱ではアセチルコリンが放出され、ムスカリン受容体が刺激されることで、膀胱平滑筋が収縮しています。
(図にはムスカリンM3についてのみ記載していますが、実際は複数のサブタイプが複雑に作用しています)

OABの病態

過活動膀胱においては、蓄尿期にもアセチルコリンが放出され、膀胱平滑筋の収縮が起こってしまいます。
その結果、膀胱を弛緩させて蓄尿を行うべきタイミングなのに、膀胱の収縮が同時に起こることで十分な蓄尿ができず、排尿感を引き起こしてしまいます。

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少量の尿で排尿を行うため、何回も排尿を繰り返す頻尿状態になることが多くなります。
また、急激に強い尿意を感じてしまう結果、トイレに間に合わず漏らしてしまう(切迫性尿失禁:UUI*2)こともあります。

選択的β3アドレナリン受容体作動薬について

選択的β3アドレナリン受容体作動薬の作用について復習しておきます。

選択的β3アドレナリン受容体作動薬の作用機序

アドレナリンβ3受容体作動薬はその名前の通り、ノルアドレナリンと同じように、アドレナリンβ3受容体を刺激する作用を持ちます。
アドレナリンβ3受容体が刺激されると、アデニル酸シクラーゼが活性化され、cAMP増加、細胞内Ca2+が減少し、膀胱平滑筋を弛緩させ、膀胱容積が拡大されます。

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(抗コリン薬の作用について、ムスカリンM3についてのみ記載していますが、実際は複数のサブタイプに対して複雑に作用します)

抗コリン薬とは異なる作用機序

トビエース(成分名:フェソテロジン)やベシケア(成分名:ソリフェナシン)、ステーブラ・ウリトス(成分名:イミダフェナシン)などの抗コリン剤はムスカリンM3を遮断することで、アセチルコリンによる膀胱平滑筋の収縮を抑制し、膀胱容積が縮小するのを抑制します。
選択的β3アドレナリン受容体作動薬と抗コリン薬はどちらも膀胱平滑筋に対して作用し、過活動膀胱の症状を軽減させますが、作用する受容体が異なり、膀胱容積の拡大を直接促進する薬剤と膀胱容積の縮小を防ぐ薬剤という作用の部分が異なります。

選択的β3アドレナリン受容体作動薬で抗コリン薬が抱える問題点を回避できる?

抗コリン薬は副作用の点で問題になることが多いです。
特に多いのは口渇や便秘で、服用を継続するのが困難になることもあります。
また、高齢者においてはせん妄状態や、記憶障害や注意力の障害が起こることも知られています。
選択的β3アドレナリン受容体作動薬は、当然、抗コリン作用を持たないのでこれらの副作用を引き起こすことなく治療を行うことが可能です。
もちろん、選択的β3アドレナリン受容体作動薬には特有の副作用が存在しますが・・・。

また、個人的に気になるのが(高齢)男性の頻尿に対して抗コリン薬が安易に処方されるケースです。
男性、特に50歳以上においては前立腺肥大症(BPH*3)の症状として頻尿症状が出ていたり、前立腺肥大症と過活動膀胱とを合併しているケースが多くなります。
ですので、まずは前立腺肥大症を疑って治療を開始すべきなのですが、単純なOABとして診断判断され、抗コリン薬のみが処方される例があります。
ご存知の通り、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞疾患を合併している場合は抗コリン作用を持つ薬を服用することで尿閉を起こしてしまうことがあります。
ですので、男性の場合、まずはBPHを疑い、その治療を行うことが先決なのですが、頻尿症状に対してすぐに抗コリン薬が処方されてしまうケースは少なくないと思います。
そういう意味では、選択的β3アドレナリン受容体作動薬を使用することで尿閉のリスクはかなり少なくなります。

頻尿に対して使用する薬剤に抗コリン薬以外の選択肢ができるのは非常にありがたいです。

選択的β3アドレナリン受容体作動薬ベタニスとべオーバ

これまで国内で使用できる選択的β3アドレナリン受容体作動薬はベタニス(成分名:ミラベグロン)しか存在しませんでした。
抗コリン薬が抱える多くの問題を回避できる選択的β3アドレナリン受容体作動薬ですが、ベタニスにおいてはいくつかの注意点が存在しました。
べオーバの特徴はベタニスと比較することでわかりやすくなります。
ですので、今回の記事ではベタニスと比較する形でべオーバについてまとめてみようと思います。

開発経緯・命名など

Merck & Co., Inc. Kenilworth, N.J., U.S.A.(米国とカナダ以外ではMSD)が創薬、海外で販売していますが、国内での権利を杏林製薬が取得、キッセイ薬品と共同開発した薬剤です。

II.名称に関する項目
1. 販売名

  1. 和名
    ベオーバ®錠 50mg
  2. 洋名
    Beova® Tablets 50mg
  3. 名称の由来
    Beta 3 agonist for the patient with Overactive bladder

ベオーバ錠50mg インタビューフォーム

タニスをオーバーするという挑戦的な製品名かと思ってました(笑)

ちなみにベタニスは、

II.名称に関する項目
1.販売名
(3)名称の由来
Beta 3 agonist より命名した。

ベタニス錠 インタビューフォーム

ということです。

性状:べオーバ錠の方が服用しやすい

べオーバは速放性のフィルムコーティング錠です。
フィルムコーティングされている理由は原薬が光に不安定であるためです。

2.1.4 原薬の安定性
原薬で実施された主な安定性試験は表2のとおりである。また、光安定性試験の結果、原薬は光に不安定であった。

ベオーバ錠50mg 添付文書

2.2.4 製剤の安定性
製剤で実施された主な安定性試験は表4のとおりである。光安定性試験の結果、製剤は光に安定であった。

ベオーバ錠50mg 添付文書

原薬自体は光に不安定ですが、フィルムコーティングされている製剤は光に安定になっています。
粉砕に関するデータはないでしょうけど、直前の粉砕であれば可能かもしれません。

ちなみに、ベタニスは徐放性製剤なので粉砕することができませんでした。

8.適用上の注意
(2)服用時:本剤は徐放性製剤であるため、割ったり、砕いたり、すりつぶしたりしないで、そのままかまずに服用するよう指導すること。[割ったり、砕いたり、すりつぶしたりして服用すると、本剤の徐放性が失われ、薬物動態が変わるおそれがある。]

ベタニス錠 添付文書

実際の錠剤ですが、べオーバはベタニスよりも小さくなっています。

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ベタニスは結構大きい上に半割や粉砕ができなかったため、飲めない場合がありました。

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高齢の方に使う機会も多い薬剤なので飲みやすい形状になっているのはかなりありがたいです。

ベタニスを調剤する際は、本人や介護者が飲みにくいからと粉砕したり割ったりするんじゃないかと(説明はしていますが)気になっていたので少しでも飲みやすく、割ったとしても大きな影響がないのは嬉しいです。

警告:べオーバには記載なし

ベタニスを使用する際の注意点で一番大きかったのが「生殖可能な年齢の患者への投与」が基本的にできないことでした。

警告
生殖可能な年齢の患者への本剤の投与はできる限り避けること。[動物実験(ラット)で、精嚢、前立腺及び子宮の重量低値あるいは萎縮等の生殖器系への影響が認められ、高用量では発情休止期の延長、黄体数の減少に伴う着床数及び生存胎児数の減少が認められている。]

ベタニス錠 添付文書

VIII.安全性(使用上の注意等)に関する項目
1.警告内容とその理由
(解説)
動物実験(ラット)において、生殖器系への影響が認められた 45〜49)。本剤の性ホルモンに対する作用について検討したデータはなく、ラット生殖器系への影響の発現機序は不明であることから、ヒトでの安全性に最大限の注意をはらうため、【警告】の項に生殖可能な年齢の患者への投与はできる限り避けるよう注意喚起するため設定した。

ベタニス錠 インタビューフォーム

これに対して、べオーバ錠の警告の項は該当なしとなっています。
ベタニスでは処方された際に年齢をチェックする必要がありましたが、べオーバではその必要ななくなります。

禁忌:べオーバは圧倒的に少ない

べオーバの禁忌は過敏症の既往歴のみです。

禁忌(次の患者には投与しないこと)
本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

ベオーバ錠50mg 添付文書

特に禁忌はないと言ってもいいですね。

これに対してベタニスの禁忌は以下の通り。

禁忌(次の患者には投与しないこと)

  1. 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
  2. 重篤な心疾患を有する患者[心拍数増加等が報告されており、症状が悪化するおそれがある。]
  3. 妊婦及び妊娠している可能性のある婦人(「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照)
  4. 授乳婦[動物実験(ラット)で乳汁移行が認められている。また、授乳期に本薬を母動物に投与した場合、出生児で生存率の低値及び体重増加抑制が認められている。(「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項参照)]
  5. 重度の肝機能障害患者(Child-Pughスコア10以上)[血中濃度が過度に上昇するおそれがある。(「薬物動態」の項参照)]
  6. フレカイニド酢酸塩あるいはプロパフェノン塩酸塩投与中の患者(「相互作用」の項参照)

ベタニス錠 添付文書

ベタニスと比較して、べオーバは圧倒的に禁忌の数が少ない事がわかります。
なぜそうなっているのか?
その理由を見て行こうと思います。

重篤な心疾患

「重篤な心疾患」について、

  • べオーバ:慎重投与(重篤な心疾患のある患者)
  • ベタニス:投与禁忌(重篤な心疾患を有する患者)

となっています。

この根拠となっているのが、循環器(心臓障害)の副作用の種類と頻度だと思います。

  • べオーバ
    • その他の副作用:
      • 動悸(1%未満)
      • QT延長(頻度不明)
  • ベタニス
    • 重大な副作用:高血圧(頻度不明)
    • その他の副作用:
      • 右脚ブロック、動悸、上室性期外収縮、頻脈、心室性期外収縮、血圧上昇、心拍数増加(1%未満)
      • 心房細動(頻度不明)

条件等が異なるため、添付文書に記載されている情報のみで副作用頻度の比較はできませんが、臨床試験の段階で報告されている副作用を見る限り、べオーバは循環器系に大きな影響を与えるようには見えません。

妊娠・授乳

「妊婦及び妊娠している可能性のある婦人」・「授乳婦」についてはベタニスでは禁忌ですが、べオーバでは禁忌には含まれていません。
それぞれの添付文書の「妊婦、産婦、授乳婦等への投与」の項に詳しい内容が記載されています。

妊婦、産婦、授乳婦等への投与

  1. 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ投与すること。[妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。動物実験(ラット)において胎児への移行が報告されている。]
  2. 授乳中の婦人には投与しないことが望ましいが、やむを得ず投与する場合には、授乳を中止させること。[動物実験(ラット)において乳汁中に移行することが報告されている。]

ベオーバ錠50mg 添付文書

妊婦、産婦、授乳婦等への投与

  1. 妊婦等:妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。[動物実験(ラット、ウサギ)で、胎児において着床後死亡率の増加、体重低値、肩甲骨等の屈曲及び波状肋骨の増加、骨化遅延(胸骨分節、中手骨、中節骨等の骨化数低値)、大動脈の拡張及び巨心の増加、肺副葉欠損が認められている。]
  2. 授乳婦:授乳中の婦人には投与しないこと。[動物実験(ラット)で乳汁移行が認められている。また、授乳期に本薬を母動物に投与した場合、出生児で生存率の低値及び体重増加抑制が認められている。]

ベタニス錠 添付文書

ベタニスではラットにおける実験で妊娠中・授乳中の投与で胎児・出生児に対する明確な影響があったため、禁忌とされていることがわかります。
べオーバでは明確な影響はなかったようですが、胎児への移行・乳汁中への移行が報告されているため、可能な限り避けたいところではありますね。

重度の肝機能障害患者

「肝機能障害」については、

  • べオーバ:慎重投与(高度の肝機能障害のある患者)
  • ベタニス:投与禁忌(重度の肝機能障害患者)

となっています。

それぞれのインタビューフォームに肝機能障害者を対象とした試験の結果が掲載されています。

VII.薬物動態に関する項目
1. 血中濃度の推移・測定法
(3)臨床試験で確認された血中濃度
4)肝機能障害者
健康成人(正常な肝機能を有する被験者)と中等度の肝機能障害(Child-Pugh スコアが7点〜9点)を有する男 女(外国人)8例にビベグロン100mgを単回経口投与したときのCmax及びAUCinfを健康成人と比べると、中等度の肝機能障害者ではそれぞれ1.35及び1.27倍であった。(013試験)

ベオーバ錠50mg インタビューフォーム

VII.薬物動態に関する項目
1.血中濃度の推移・測定法
(3)臨床試験で確認された血中濃度
5)肝機能障害患者における薬物動態(外国人データ)
軽度及び中等度(Child-Pughスコア5〜6で軽度、7〜9で中等度)の肝機能障害患者各8例及び、軽度又は中等度肝機能障害患者を対照とした正常肝機能被験者群各8例に、本剤100mgを単回経口投与した。軽度の肝機能障害患者において、本剤のCmax及びAUCinfは正常肝機能被験者と比べてそれぞれ1.09倍、1.19倍高く、中等度の肝機能障害患者においてはそれぞれ2.75 倍、1.65倍高かった。

ベタニス錠 インタビューフォーム

べオーバでは中等度の肝機能障害者(Child-Pughスコア7〜9)において、Cmax及びAUCinfが上昇していはいますが、そこまで大きな変化ではないため、慎重投与となっています。
ベタニスでは中等度の肝機能障害者(Child-Pughスコア7〜9)において、Cmax及びAUCinfがともに大きく上昇しているため、Child-Pughスコア10以上を禁忌としていることがわかります。

併用禁忌について

ベタニスにおいては、「フレカイニド酢酸塩」あるいは「プロパフェノン塩酸塩」投与中の患者が禁忌となっています。
これについては後で詳しくまとめたいと思います。

効能・効果

これはべオーバ・ベタニスは全く同じです。
効能・効果に関連する使用上の注意については、選択的β3アドレナリン受容体作動薬(OAB治療薬)の決まり文句のようなものですね。

効能・効果
過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁
効能・効果に関連する使用上の注意
本剤を適用する際、十分な問診により臨床症状を確認するとともに、類似の症状を呈する疾患(尿路感染症、尿路結石、膀胱癌や前立腺癌などの下部尿路における新生物等)があることに留意し、尿検査等により除外診断を実施すること。なお、必要に応じて専門的な検査も考慮すること。

ベオーバ錠50mg 添付文書

 

用法・用量:べオーバはシンプルな投与方法

べオーバは1日1回食後に50mgのシンプルな投与方法になっています。

用法・用量
通常、成人にはビベグロンとして50mgを1日1回食後に経口投与する。

ベオーバ錠50mg 添付文書

ベタニスは肝機能障害・腎機能障害がある場合には低用量からの開始を検討する必要があります。

用法及び用量
通常、成人にはミラベグロンとして50mgを1日1回食後に経口投与する。
用法及び用量に関連する使用上の注意

  1. 中等度の肝機能障害患者(Child-Pughスコア7~9)への投与は1日1回25mgから開始する。[肝機能障害患者では血中濃度が上昇すると予想される。(「慎重投与」及び「薬物動態」の項参照)]
  2. 重度の腎機能障害患者(eGFR15~29mL/min/1.73m2)への投与は1日1回25mgから開始する。[腎機能障害患者では血中濃度が上昇すると予想される。(「慎重投与」及び「薬物動態」の項参照)]

ベタニス錠 添付文書

ベオーバは腎機能障害や肝機能障害の程度によって投与量を変える必要がありません。
まず、肝機能障害について。
禁忌の項でも書きましたが、べオーバは中等度の肝機能障害でも血中濃度やAUCに特に大きな影響は与えないため、用法・用量に関しては特に縛りがありません。
次に、腎機能障害について。

6. 生物薬剤学試験及び関連する分析法、臨床薬理試験に関する資料並びに機構における審査の概略
6.R 機構における審査の概略
6.R.3 腎機能障害患者への投与について
申請者は、腎機能障害患者への本薬の投与について、以下のように説明した。014試験において、本薬100mgを単回経口投与したときのCmax及びAUC0-infは腎機能が正常な被験者と比較して、軽度腎機能障害被験者ではそれぞれ1.96及び1.49倍、中等度腎機能障害被験者ではそれぞれ1.68及び2.06倍、重度腎機能障害患者ではそれぞれ1.42及び1.83倍に増加することが示されたが(6.2.3.2 参照)、腎機能障害の重症度別の有害事象の発現状況に大きな差異は認められなかった。なお、日本人健康成人において本薬200mgの1日1回反復経口投与の忍容性及び安全性が確認されているが、当該用量における本薬のCmax(1380nmol/L)及びAUC0-24(9.76μmol・h/L)は、日本人集団のうちで最も高曝露になると考える高齢女性に臨床用量である本薬50mgを1日1回反復経口投与したときの推定Cmax(317nmol/L)及びAUC0-24(2.62μmol・h/L)のそれぞれ4.35及び3.73倍に相当し、また T301試験及びT302試験において、本薬の長期投与時も含めた安全性が本薬100mgまでの用量で確認されている。
以上より、重症度によらず腎機能障害患者への本薬の投与に関して、添付文書で注意喚起する必要はないと考える。

ベオーバ錠50mg 審議結果報告書

腎機能障害によりCmax、AUCともに上昇するが、それは臨床試験において安全性が認められた用量を服用した場合と大きな差がないので腎機能障害があっても通常量の服用で問題ないと判断したということですね。

薬局としては複数規格を在庫しなくていいのは嬉しいです。

慎重投与

べオーバは心疾患と肝機能障害を有する場合にのみ注意が必要となっています。

慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)

  1. 重篤な心疾患のある患者[心拍数増加等により、症状が悪化するおそれがある。]
  2. 高度の肝機能障害のある患者[血中濃度が上昇するおそれがある。]

ベオーバ錠50mg 添付文書

それに対してベタニスは以下のように多くの注意対象が記載されています。

慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)

  1. クラスIA(キニジン、プロカインアミド等)又はクラスIII(アミオダロン、ソタロール等)の抗不整脈薬を投与中の患者を含むQT延長症候群患者(「重要な基本的注意」の項参照)
  2. 重度の徐脈等の不整脈、急性心筋虚血等の不整脈を起こしやすい患者[心室頻拍(Torsades de Pointesを含む)、QT延長を起こすことがある。]
  3. 低カリウム血症のある患者[心室頻拍(Torsades de Pointesを含む)、QT延長を起こすことがある。]
  4. 肝機能障害患者(重度を除く)及び腎機能障害患者[血中濃度が上昇するおそれがある。]
  5. 高齢者(「高齢者への投与」の項参照)
  6. 緑内障の患者[眼圧の上昇を招き、症状を悪化させるおそれがある。]

ベタニス錠 添付文書

単なる心疾患ではなく、具体的にQT延長に関するリスクが記載されています。
また、高齢者、緑内障患者についても注意が必要となっています。

重要な基本的注意

べオーバは前立腺肥大症等の下部尿路閉塞疾患を合併している場合にそちらの治療を優先することのみが記載されています。
最初の方にも触れましたが、当然のことです。
が、その診断に至らないケースがあるから怖いんです。

重要な基本的注意
下部尿路閉塞疾患(前立腺肥大症等)を合併している患者では、それに対する治療を優先させること。

ベオーバ錠50mg 添付文書

それに対して、ベタニスは以下の通り多くの記載があります。

重要な基本的注意

  1. 本剤投与によりQT延長を生じるおそれのあることから、心血管系障害を有する患者に対しては、本剤の投与を開始する前に心電図検査を実施するなどし、心血管系の状態に注意をはらうこと。
  2. QT延長又は不整脈の既往歴を有する患者、及びクラスIA(キニジン、プロカインアミド等)又はクラスIII(アミオダロン、ソタロール等)の抗不整脈薬等QT延長を来すことが知られている薬剤を本剤と併用投与する患者等、QT延長を来すリスクが高いと考えられる患者に対しては、定期的に心電図検査を行うこと。
  3. 過活動膀胱の適応を有する抗コリン剤と併用する際は尿閉などの副作用の発現に十分注意すること。
  4. 下部尿路閉塞疾患(前立腺肥大症等)を合併している患者では、それに対する治療(α1遮断薬等)を優先させること。
  5. 緑内障患者に本剤を投与する場合には、定期的な眼科的診察を行うこと。
  6. 現時点では、ステロイド合成・代謝系への作用を有する5α還元酵素阻害薬と併用した際の安全性及び臨床効果が確認されていないため併用は避けることが望ましい。
  7. 血圧の上昇があらわれることがあるので、本剤投与開始前及び投与中は定期的に血圧測定を行うこと。(「重大な副作用」の項参照)

ベタニス錠 添付文書

ベタニスにおいては避けることが望ましいとされている5α還元酵素阻害薬との併用がべオーバでは可能になっていることも一つ大きなポイントだと思います。
ベタニスと5α還元酵素阻害薬の併用が重要な基本的注意に記載されている理由についてはベタニスのインタビューフォームに記載されています。

VIII.安全性(使用上の注意等)に関する項目
6.重要な基本的注意とその理由及び処置方法
(6)5α還元酵素阻害薬と本剤を併用した試験は実施されていないため、両薬剤併用時の安全性、有効性及び薬物相互作用は明確ではない。5α還元酵素阻害薬は、その主作用(ジヒドロテストステロン濃度低下作用)とともに生殖器官への影響として動物実験の結果より男子胎児の外生殖器の発達を阻害する可能性が示唆されており、副作用として勃起不全、乳房障害などが報告されている。また、本剤の動物実験(ラット)において精嚢及び前立腺の萎縮が認められていることから、本剤がヒトの生殖器系に影響を及ぼす可能性は否定できない。したがって、両剤を併用した際には、生殖器系への作用が増大する可能性が考えられることから、本剤と5α還元酵素阻害薬との併用は避けることが望ましいとした。

ベタニス錠 インタビューフォーム

要は警告への記載と同じ理由ですね。

相互作用

気になる飲み合わせについてです。

相互作用の概略:酵素やトランスポーターの影響

相互作用に関連する代謝酵素やトランスポーターの影響を比較してみます。
まずはべオーバ。

相互作用
相互作用の概略
ビベグロンはCYP3A4又はP-糖タンパク(P-gp)の基質であることが示唆されている。

ベオーバ錠50mg 添付文書

続いてベタニス。

相互作用
相互作用の概略
本剤は、一部が薬物代謝酵素CYP3A4により代謝され、CYP2D6を阻害する。また、P-糖蛋白阻害作用を有する。(「薬物動態」の項参照)

ベタニス錠 添付文書

(解説)
In vitro代謝試験において、CYP3A4がミラベグロンのCYP代謝に最も寄与する分子種でありまた、ミラベグロンがCYP2D6を阻害することが示されている 。また、薬物相互作用試験において、ミラベグロンがP-糖蛋白の基質であり、P-糖蛋白を阻害することが示唆されている。

ベタニス錠 インタビューフォーム

比較してみると、以下の表のようになります。

薬品名CYP3A4CYP2D6P-糖蛋白
べオーバ
(ビベグロン)
基質基質
ベタニス
(ミラベグロン)
基質阻害基質
阻害

べオーバの成分であるビベグロンはCYP3A4とP-gpの基質であることから、その活性に影響を与える薬剤との併用には注意が必要であるもの、そこまで影響が大きいものは多くないようです。
これに対して、ベタニスの成分であるミラベグロンはビベグロンと同様にCYP3A4とp-gpの基質であることに加え、CYP2D6とP-gpを阻害する性質を持っているため、併用禁忌を含め相互作用が非常に多くなっています。

併用禁忌:べオーバには該当なし

べオーバには併用禁忌はありませんが、ベタニスには存在します。
相互作用
併用禁忌(併用しないこと)

薬剤名等臨床症状・措置方法機序・危険因子
フレカイニド酢酸塩
(タンボコール)
QT延長、心室性不整脈(Torsades de Pointesを含む)等を起こすおそれがある。ともに催不整脈作用があり、また本剤のCYP2D6阻害作用により、これらの薬剤の血中濃度が上昇する可能性がある。
プロパフェノン塩酸塩
(プロノン)

ベタニス錠 添付文書参照

ベタニスは心機能への影響、CYP2D6阻害作用があるため、フレカイニドやプロパフェノンとの併用が禁忌となっています。

併用注意:べオーバは対象が少ない

まずは、べオーバから。
相互作用
併用禁忌(併用に注意すること)

薬剤名等臨床症状・措置方法機序・危険因子
アゾール系抗真菌剤
(イトラコナゾール等)
ケトコナゾールと併用したとき、ビベグロンの血中濃度が上昇したとの報告がある。CYP3A4及びP-gpを阻害する薬物と併用することにより、ビベグロンの血中濃度が上昇する可能性がある。
HIVプロテアーゼ阻害剤
(リトナビル等)
リファンピシンビベグロンの作用が減弱する可能性がある。CYP3A4及びP-gpを誘導する薬物と併用することにより、ビベグロンの血中濃度が低下する可能性がある。
フェニトイン
カルバマゼピン

ベオーバ錠50mg 添付文書参照

続いて、ベタニス。
以下の通り、併用注意として記載されている内容もべオーバと比較して圧倒的に多くなっています。
相互作用
併用禁忌(併用に注意すること)

薬剤名等臨床症状・措置方法機序・危険因子
カテコールアミン
  • アドレナリン
  • イソプレナリン等
頻脈、心室細動発現の危険性が増大する。カテコールアミンの併用によりアドレナリン作動性神経刺激の増大が起こる。
イトラコナゾール
リトナビル
アタザナビル
インジナビル
ネルフィナビル
サキナビル
クラリスロマイシン
心拍数増加等があらわれるおそれがある。これらの薬剤はCYP3A4を強く阻害し、また一部の薬剤はP-糖蛋白の阻害作用も有することから、併用により本剤の血中濃度が上昇する可能性がある。
リファンピシン
フェニトイン
カルバマゼピン
本剤の作用が減弱する可能性がある。これらの薬剤はCYP3A4及びP-糖蛋白を誘導し、併用により本剤の血中濃度が低下する可能性がある。
CYP2D6の基質
  • デキストロメトルファン
  • フェノチアジン系抗精神病剤
  • ペルフェナジン
  • ドネペジル等
これらの薬剤又はその活性代謝物の血中濃度が上昇するおそれがあり、これらの薬剤の作用を増強するおそれがある。本剤のCYP2D6阻害作用により、これらの薬剤又はその活性代謝物の血中濃度が上昇する可能性がある。
三環系抗うつ剤
  • アミトリプチリン塩酸塩
  • ノルトリプチリン塩酸塩
  • イミプラミン塩酸塩等
類薬であるデシプラミンとの併用によりデシプラミンのAUCが3.41倍に上昇したとの報告があり、これらの薬剤の作用を増強するおそれがある。本剤のCYP2D6阻害作用により、これらの薬剤又はその活性代謝物の血中濃度が上昇する可能性がある。
メトプロロール本剤とメトプロロールとの併用によりメトプロロールのAUCが3.29倍上昇したとの報告があり、メトプロロールの作用を増強するおそれがある。本剤のCYP2D6阻害作用により、これらの薬剤又はその活性代謝物の血中濃度が上昇する可能性がある。
ピモジドQT延長、心室性不整脈(Torsades de Pointesを含む)等を起こすおそれがある。本剤のCYP2D6阻害作用により、ピモジドの血中濃度が上昇する可能性があり、かつ本剤及びピモジドがともに催不整脈作用を有する。
ジゴキシンジゴキシンの血中濃度が上昇するおそれがあるので、併用する場合には、ジゴキシンの血中濃度をモニタリングすることが望ましい。本剤のP-糖蛋白阻害作用により、ジゴキシンの血中濃度が上昇する可能性がある。

ベタニス錠 添付文書参照

 

副作用:べオーバによる報告数は少ない

べオーバの重大な副作用は尿閉のみです。

副作用
副作用等発現状況の概要
国内で実施された過活動膀胱患者を対象とした第III相比較試験及び第III相長期投与試験において、本剤50mg又は100mg注1)を投与した906例中75例(8.3%)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められた。主な副作用は、口内乾燥、便秘各11例(1.2%)、尿路感染(膀胱炎 等)、残尿量増加各6例(0.7%)、肝機能異常、CK(CPK)上昇各3例(0.3%)であった。(承認時)
注1):本剤の承認用量は50mgである。
重大な副作用
尿閉(頻度不明)
尿閉があらわれるおそれがあるので、観察を十分に行い、症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

ベオーバ錠50mg 添付文書

ただし、後期第II相国際共同試験のみで報告されており、国内第III相比較臨床試験と国内第III相長期投与試験での報告はありません。
その内容を見るとべオーバ50mg単独投与での発生は1/1158例のみ。
ビベグロン100mgとトルテロジンER4mg(国内:デトルシトール4mg)併用群で3/378例となっており、どちらかというとデトルシトール由来のもののような気もします。

対して、ベタニスは以下の通りです。

副作用
国内で過活動膀胱患者を対象に安全性を評価した総症例数1,207例中、臨床検査値異常を含む副作用発現症例は313例(25.9%)で、主なものはγ‐GTP上昇45例(3.7%)、便秘35例(2.9%)、CK(CPK)上昇31例(2.6%)、Al‐P上昇30例(2.5%)、口内乾燥21例(1.7%)、ALT(GPT)上昇21例(1.7%)、AST(GOT)上昇19例(1.6%)、尿中蛋白陽性17例(1.4 %)、白血球数減少15例(1.2%)であった。(承認時:2011年7月)
重大な副作用

  1. 尿閉(頻度不明):尿閉があらわれることがあるので、観察を十分に行い、症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。
  2. 高血圧(頻度不明):血圧の上昇があらわれることがあり、収縮期血圧180mmHg以上又は拡張期血圧110mmHg以上に至った例も報告されているので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。

ベタニス錠 添付文書

尿閉だけでなく、高血圧が報告されているのが特徴です。
この点が重要な基本的注意にも反映されています。

その他の副作用を見てみても、ベタニスよりもべオーバの方が種類・発現頻度ともに少なくなっています。(異なる添付文書で頻度を比較することはできませんが・・・)

肝心な効果は?

インタビューフォームにはべオーバの効果に関する臨床試験のデータが掲載されています。
ビベグロンの服用はプラセボと比較して1日平均排尿回数(主要評価項目)、1日平均尿意切迫感回数及び1日平均切迫性尿失禁回数(副次評価項目)のいずれにおいても優位な改善が見られています。
また、トルテロジンER 4mg(デトルシトールカプセル 4mg)と比較した試験でもほぼ同等の効果が得られています。
さらに、ビベグロン 100mgをトルテロジンER 4mgと併用した場合、各試験において、4週の時点でトルテロジンER 4mg単独よりも優位な効果(減少)を示しています。

ベタニスはプラセボとの比較試験しかありませんでしたが、べオーバは同じOAB治療抗コリン薬との比較試験が行われ同等の効果であるという結果を得ているのが大きいですね。

まとめ

最後にベオーバとベタニスを比較した表を掲載します。
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飲みやすさ、年齢・腎機能・肝機能に対する注意、副作用・・・。
いずれの面でもベタニスよりベオーバの方が使用しやすい薬剤であることがわかると思います。
ちなみに、ベオーバ錠50mgの薬価は185.70円/錠で、ベタニス錠50mgの薬価と完全に同じです。

現在、すでにベタニスを飲んでいる人からベオーバに切り替える必要はないと思いますが、新規に選択的β3アドレナリン受容体作動薬を服用する場合にはベオーバを使いたいなと思います。
1年間は新薬の投与日数制限の問題がありますけど。
嚥下機能の低下によりベタニスの服用が困難な場合は迷わず切り替えの対象になりますね。
気になるのは、海外で長く発売されている医薬品ではないので、データがまだ十分ではないことくらいかな。

*1:OverActive Bladder

*2:Urgency Urinary Incontinence

*3:Benign Prostatic Hyperplasia

 

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