(2013年4月に作成した記事です)
ある日の調剤業務中。
テモダールカプセル 100mg 2C 1×v.d.S 5日分
という処方の薬剤料を見て、改めて驚きました。
16390点!!
つまり、テモダールカプセル100mg 10カプセルにかかる費用だけで16万3900円!
3割負担で考えておよそ5万円弱です。
(2013年当時の薬価なので現在はだいぶ安くはなっています)
テモダールの特徴
テモゾロミド(商品名:テモダール)の効能・効果は「悪性神経膠腫」です。
神経膠腫に対する薬として、19年ぶりに登場した新薬で2006年7月に承認されました。
第二世代のアルキル化剤に位置づけられており、DNA合成を阻害することで悪性腫瘍細胞(グリオーマ)の増殖を防ぎます。
テモゾロミドの作用機序
テモゾロミドはプロドラッグとなっており、そのままでは抗ガン活性も細胞毒性もありません。
服用後、まずは生理的pHで加水分解を受け、速やかに活性体のMTIC*1に変換されます。
この反応は非酵素的でチトクロムP450(CYP450)の影響をほとんど受けないため、人種差・個人差による薬物代謝酵素活性の違いを考える必要がありません。
このMTICはさらに加水分解を受け、AIC*2とメチルジアゾニウムイオンになります。
このメチルジアゾニウムイオンが活性代謝物でアルキル化作用を有しています。
(AICはプリン体と核酸の合成過程における中間産物であり、生体内物質と一緒に処理されます。)
メチルジアゾニウムイオンによるアルキル化(メチル化)は主にグアニン塩基のO6とN7に対して起こります。
テモダールがグリオーマに対して効果を発揮する理由
脳腫瘍治療薬が効果を発揮するためには、脳を保護する血液脳関門(Blood Brain Barrier:BBB)というバリアーを通過し、作用部位である脳に達しなければいけません。
血液脳関門を通過しやすい条件としては、
- 分子量が小さいこと
- タンパク結合率が低いこと
- 脂溶性が高いこと
などが挙げられます。
テモゾロミドの分子量は194と極めて小さいため、血液脳関門を通過して患部に届きやすいという特長があります。
テモゾロミドの注意点
特徴的な注意点をまとめておきます。
禁忌
テモダールの禁忌には以下のように記載されています。
禁忌
(次の患者には投与しないこと)
1.本剤又はダカルバジンに対し過敏症の既往歴のある患者
ダカルバジン(商品名:ダカルバジン注用100)もプロドラッグで、テモゾロミドと同様に生体内でMTICを経て効果を発揮します。
生体内で同じ物質に変換されて効果を発揮するため、ダカルバジンで過敏症を起こした場合はテモゾロミドも禁忌になってしまうということです。
テモゾロミドとダカルバジンの違い
テモゾロミドとダカルバジンの一番の違いは活性化の課程です。
ダカルバジンがテモゾロミドと異なるのは、生体内でMTICに代謝される課程が酵素反応による脱メチル化であることです。
副作用
抗がん剤の中では副作用は比較的軽いと言われています。
軽い骨髄抑制(白血球や血小板の減少)、吐き気と嘔吐、便秘、頭痛、体のだるさや頭痛などです。
骨髄抑制が強い場合、間質性肺炎やニューモシスティス・ジロヴェチ肺炎を生じることがあるので、予防的に抗菌剤としてST合剤(バクタ)を飲むか、イセチオン酸ペンタミジン(商品名:ベナンバックス)の吸入を定期的に行います。
また、B型肝炎が悪化して重症化することがあるので、肝炎ウィルスを保有しているかどうかを検査してからテモダールの投与を開始します。
服用方法
最後に服用方法ですが、テモゾロミドはpH 7.4以上のアルカリ性になると効果が減弱していまいます。
胃の中に食物が入っているとpHがアルカリ性に近づくため、この薬の効果が落ちてしまうので、空腹時に服用する必要があります。
用法及び用量
1. 初発の場合
放射線照射との併用にて、通常、成人ではテモゾロミドとして1回75mg/m2(体表面積)を1日1回連日42日間、経口投与し、4週間休薬する。
その後、本剤単独にて、テモゾロミドとして1回150mg/m2を1日1回連日5日間、経口投与し、23日間休薬する。この28日を1クールとし、次クールでは1回200mg/m2に増量することができる。
2. 再発の場合
通常、成人ではテモゾロミドとして1回150mg/m2(体表面積)を1日1回連日5日間、経口投与し、23日間休薬する。この28日を1クールとし、次クールで1回200mg/m2に増量することができる。
維持量では5日間服用して23日間休薬が1クールです。
再発の場合は初回から維持量で服用します。
非常に高いテモダールの薬価
とても高い薬価になっています。
20mgが1カプセルで2,610.10円、100mgが1カプセルで12,009.40円します。(2018年4月)
(2013年4月当時は20mgが3,345円、100mgが16,746円でした。)
体表面積が1.5㎡の成人に対し、維持療法を行うと、1日あたり300mgで約3.6万円、月に5日間で約18万円です。
3割負担でも6万円を越します。
多くの患者さんが高額療養費制度の対象となると思います。
状況によっては、限度額適用認定証の発行について提案を行いたいところです。
まとめ
毒薬に指定されていることも特徴です。
経口薬の毒薬は限られているので珍しいですね。
また、2010年からは注射剤も販売されています。
テモダール点滴静注用100mg:36,310.00円/瓶(2018.4月〜)(2010年時点での薬価:37,845.00円/瓶)
吐き気がひどい等で経口摂取ができないなどの場合には有用ですね。
2017年12月に剤型違いのジェネリックが発売されました。
薬価も安いし錠剤なので飲みやすいといいことづくめですね。
- テモゾロミド錠100mg「NK」:6587.90円/錠(2018.4〜)
- テモゾロミド錠20mg「NK」:1321.30円/錠(2018.4〜)
2018年8月、再発・難治性ユーイング肉腫の公知申請が認められました。
これにより、保険上、テモダール は「再発・難治性ユーイング肉腫」に対しての使用が認められた事になります。