「零売」をめぐる裁判の判決が話題になっています。


医療用医薬品は処方箋がなければ購入できないのが原則とされていますが、零売を専門とする零売薬局が存在するのはどういうことでしょうか?
現在の薬機法では、医療用医薬品は大きく「処方箋医薬品」と「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に分かれており、処方箋なし販売に対する法的な規制も同じではありません。
さらに、この仕組みは2027年5月に大きく変わる予定です
薬機法における零売の現在とこれから
まず初めに、そもそも零売とはなんなのか、現在の薬機法において零売がどう位置付けられているのか、改正薬機法によってそれがどう変わるのか、まとめてみたいと思います。
零売とは?
近年、「零売」とは、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品を処方に基づかず販売すること」を指して使われていますが、厚生労働省は「個々の顧客の求めに応じた「分割販売」を意味する言葉」と定義しています。
古い行政資料には、以下のように記されています。
(6)零売
零売(分割販売)とは、ひとつの容器又は被包に収められている一定数量の医薬品の一部を販売することであり、いわゆるバラ売りである。零売は、特定人の求めに応じる行為である点で小分けと異なり、特定人の特定疾病に対して特定の用法に適合される目的を有しない点で調剤と異なる。
第2回医薬品のうち安全上特に問題ないものの選定に関する検討会資料 薬種商全国統一薬事講習会テキスト −薬事行政における最近の動向− Ⅱ.薬種商販売業の責務と課題
ただ、最近の厚労省の資料には、「零売(医薬品の分割販売)は古くから薬局間の売買を中心に薬局で行われていた。」と記載されているので、薬局間の小分け(分譲)も「零売」に該当するようです。
ちなみに、この場合の「零」は「0」を意味するのではなく、「わずか」とか「はした」を意味しています。
「零細」とか「零余」 の「零」ですね。
医薬品の分類
この後の話を正確にするために、医薬品の分類について整理しておきます。


医薬品のうち、要指導医薬品や一般用医薬品以外の医薬品を「薬局医薬品」と言い、そのうち「薬局製造販売医薬品」以外の医薬品を「医療用医薬品」と言います。
「医療用医薬品」は「処方箋医薬品」と「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に分類されます。
- 薬局製造販売医薬品(薬局製剤):薬局の設備及び器具をもって製造し、その薬局において直接消費者に販売し、又は授与する医薬品(「薬局製造販売医薬品の取扱いについて〔薬事法〕」 薬食審査発第0325009号 平成17年3月25日)
- 医療用医薬品:医師若しくは歯科医師によって使用され又はこれらの者の処方せん若しくは指示によって使用されることを目的として供給される医薬品(「医薬品の承認申請について」薬食発第0331015 号 平成17年3月31日)
改正薬機法(R9.5施行)による零売の変化
現在(R8.9時点)の薬機法と改正薬機法(R9.5施行)における医療用医薬品の販売について整理します。
| 処方箋医薬品 (改正前後) | 処方箋医薬品以外 の医療用医薬品 (改正前) | 処方箋医薬品以外 の医療用医薬品 (改正後) | |
| 処方箋に 基づく調剤 | ◯ | ◯ | ◯ |
| 処方箋なし での販売 | × | △ | ×※ |
| 処方箋なしでの 販売の例外 | 正当な理由がある場合 | やむを得ない場合 正当な理由がある場合 | やむを得ない場合 正当な理由がある場合 |
| 販売制限の根拠 | 薬機法 第49条 | 通知のみ | 薬機法 第36条の3 第2項 |
「処方箋医薬品」の販売については改正薬機法による変更はありませんが、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」の販売は改正薬機法による見直しの対象となっています。
「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」※の販売ついては、改正前の薬機法では規定されておらず、通知ベースでの指導となっていましたが、改正薬機法により、新たに第36条の3第2項 第2号が設けられ(既存の第2号は第3号に移行)、薬機法の中で明確に処方箋なしので販売が禁止されることになりました。
「やむを得ない場合」についてはまだ具体的な内容は公開されていませんが、薬機法改正に向けて行われた検討会の中で具体的な内容があげられているため、それが採用されるものと思います(内容については後半にまとめます)。
法令と通知の違い
現状では、処方箋医薬品の販売に関しては法律(薬機法)上明記されている一方で、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売に関しては通知に記載されているだけになっています。
法律とは、国会が制定するもので、罰則付きの義務を定めることが可能です。
それに対して、通知とは、行政機関が法令の解釈・運用方針等を示すものにすぎず、罰則を設けるものではありません。通知に基づき、行政指導を行うことが可能ではありますが、行政指導自体は、対象となる相手の任意の協力を経て実現されるものとされており、従わなかったことのみを理由として、不利益な取扱いをしてはならないように定められています。
そのため、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売については、厚生労働省としての意向は示されていても、強制力を持つものではないというのが現状となっています。
「処方箋が必要な医薬品」の歴史
今回、処方箋医薬品の定義や零売の可否について調べているうちに、要指示医薬品から処方箋医薬品に移行した経緯が気になり・・・、それを調べていると、近藤は要指示医薬品が生まれた経緯が気になってしまい・・・。
これを繰り返していると、なかなか興味深い内容を知ることができたので、「処方箋が必要な医薬品」の歴史について整理しておこうと思います。
要指示医薬品という考え方はいつ生まれた?
薬事法は戦後間もない昭和23年(1948年)に交付されていますが、当時は「要指示医薬品」という言葉は登場していません。
ですが、第四十一條の七に以下の記述がありました。
第四十一條 左の各号の一に該当する医藥品又は用具は、これを不正表示医藥品又は不正表示用具とする。
七 厚生大臣の指定するアミノフエニルスルフアミド若しくはその誘導体、ペニシリン、ストレプトマイシン又はこれらの製剤その他の医藥品であつて、その標示に医師、歯科医師又は、獸医師の処方せん又はその指示によつて使用すべきである旨の注意が記載されていないもの
第四十四條 左に掲げる行爲は、これをしてはならない。
七 第四十一條第六号及び第七号に掲げる医藥品を医師、歯科医師又は獸医師の処方せんに基かず、又はこれらの者の指示によらずに、この法律に基いて登録されている藥局開設者、医藥品の販賣業者、医師、歯科医師及び獸医師以外の者に販賣し、又は授與すること、及び省令の定めるところにより、これらの医藥品の販賣又は授與に関する記録を保存しないこと
- スルホンアミド系抗菌薬(アミノフェニルスルファミドもしくはその誘導体)
- ペニシリン
- ストレプトマイシン
- その他
については、医師・歯科医師・獣医師の処方箋や指示により使用することとされています。
これはまさに「要指示医薬品」の原型ですね(あとで登場します)。
国会議事録(第61回国会 衆議院 社会労働委員会 第7号 昭和44年4月3日)にも、坂元政府委員の答弁で「要指示医薬品の制度というのは、戦後昭和二十三年にできて現在まできているわけでございます。」と記録されています。
要指示医薬品の誕生
薬事法を見ていくと、「要指示医薬品」という言葉が初めて登場するのは昭和35年(1960年)です。
第二節 医薬品の取扱い
(要指示医薬品の販売)
第四十九条 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方せんの交付又は指示を受けた者以外の者に対して、厚生大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師、薬局開設者、医薬品の製造業者若しくは販売業者、医師、歯科医師若しくは獣医師又は病院、診療所若しくは家畜診療施設の開設者に販売し、又は授与するときは、この限りでない。
2 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、その薬局又は店舗に帳簿を備え、医師、歯科医師又は獣医師から処方せんの交付又は指示を受けた者に対して前項に規定する医薬品を販売し、又は授与したときは、厚生省令の定めるところにより、その医薬品の販売又は授与に関する事項を記載しなければならない。
3 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、前項の帳簿を、最終の記載の日から二年間、保存しなければならない。
オレンジマーカーをつけた部分は現在の薬機法 第四十九条の「薬局開設者又は医薬品の販売業者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方箋の交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない。」とほぼ同じですね。
異なるのは「又は指示を」の部分。
要指示医薬品は医師等による処方箋に加え、指示でも販売を行うことが可能でした。
医療用医薬品と一般用医薬品の区別
1967年(昭和42年)には、「医薬品の製造承認等に関する基本方針」が示され、医薬品が「医療用医薬品」と「その他の医薬品(一般用医薬品)に区別されることになりました。
参考資料:Ⅱ 創薬研究の社会的意義とその規制 わが国の創薬研究の規制:歴史・現実・展望
実はこの時まで医療用医薬品と一般用医薬品は明確に区別されていなかったようです。
「医療用医薬品と一般用医薬品の両方の効能・効果等を有する昭和42年の基本方針前に承認された医薬品の取扱いについて」(薬食審査発0401第12号 平成22年4月1日)には「医療用医薬品と一般用医薬品の両方の効能・効果等を有する医薬品」として以下の医薬品が記されています。
- ベトネベートN軟膏
- ベトネベートクリーム0.12%
- デスパコーワ口腔用クリーム
- ヘパリンZ軟膏500単位/g
- クロマイ―P軟膏
- クロロマイセチン軟膏2%
- フルコートF軟膏
- ケナログ口腔用軟膏0.1%
- コールタイジン点鼻液
- テラ・コートリル軟膏
- テラマイシン軟膏



2009年の改正薬事法(OTCのリスク分類追加)まで、ケナログ口腔用軟膏0.1%の一般用医薬品は存在しませんでした。改正薬事法に伴い1類医薬品のケナログが登場するまで、医療用医薬品を一般用医薬品として販売(零売)していました。
※現在は医療用・一般用ともに発売中止
参考資料:口内炎治療薬「ケナログ口腔用軟膏0.1%」リニューアル発売
要指示医薬品の問題点
要指示医薬品は、処方箋または医師等の「指示」で販売を行うことが可能でした。
1968年の国会答弁(第58回国会 参議院 社会労働委員会 第13号 昭和43年5月14日)では、「従来から、要指示医薬品の販売がなかなか法律できまっているとおりの厳正な態度で売られていないということがたびたび御指摘を受けているわけでございます。」という発言が登場しています。
また、1974年には処方箋なのか指示書なのか判断が難しいという疑義が生じていたことが確認できます(薬事法上の疑義について 薬第六〇一号 昭和四九年八月二六日)
さらに、2001年には処方箋なしで要指示医薬品以外の医療用医薬品を販売する薬局が開局し、注目を集めました。
薬事法では要指示医薬品の販売制限については明記されていますが、要指示医薬品以外の医療用薬品については特に定義されておらず、販売に関する記載もありませんでした。
要指示医薬品の廃止
厚生労働省は要指示医薬品が抱える問題点を解消するため、新たな制度への移行を検討しはじめました。
- 要指示医薬品以外の医療用医薬品についても、保健衛生上の観点から、医師等の処方せん等なく販売することは望ましくないと考えられる。
- しかしながら、現行では、法令上販売規制に係る規定が存在しないため、法的な指導を行うことができない。
そこで、要指示医薬品制度を廃止し、医療用医薬品を処方せん薬(仮称)として指定する制度を考えました。
処方箋医薬品の誕生
薬事法及び採血及び供血あつせん業取締法の一部を改正する法律(平成14年法律第96号)により、薬事法の見直しが行われ、要指示医薬品は廃止、新たに処方箋医薬品という区分が導入されました。
- 要指示医薬品から処方箋医薬品へ呼称を改める
- 新49条(処方箋医薬品)の立法趣旨は旧49条(要指示医薬品)と同じ
- 旧要指示医薬品は原則として処方箋医薬品へ引き継ぐ
- 要指示医薬品でなかった医薬品についても基準を満たせば処方箋医薬品として指定する
第二節 医薬品の取扱い
(処方箋医薬品の販売)
第四十九条 薬局開設者又は医薬品の販売業者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方箋の交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号) 令和8年5月21日 施行
処方箋医薬品では、要指示医薬品では対象となっていなかった以下の医薬品も含まれるようになりました。
- 注射剤
- 麻薬
- 向精神薬
- 特定生物由来製品
また、販売・授与可能な対象を「処方箋の交付または指示をうけた者」から「処方箋の交付を受けた者」に一本化しました。
なぜ全ての医療用医薬品を処方箋医薬品にしなかったのか?
当初、厚労省は「医療用医薬品を処方せん薬(仮称)として指定する制度」を想定していたのに、実際に生まれた処方箋医薬品制度ではすべての医療用医薬品が処方箋医薬品とはなりませんでした。
処方箋医薬品に指定されなかった代表的なものが、
- 漢方薬
- パップ剤
- ビタミン剤
で、これらは「3匹の子羊」と呼ばれていました。
参考資料:北海道医報 第1039号 平成17年4月1日
そのほかにも抗ヒスタミン剤や抗高脂血症剤の一部が指定されず、当時承認されていた医療用医薬品の約3分の1(成分ベース)が処方箋医薬品以外の医療用医薬品となりました。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の取り扱いに関する通知
2002年に改正された薬事法のうち、処方箋医薬品に関する部分は2025年4月1日に施行されましたが、その直前となる2005年3月30日に以下の通知が公開されました。
2.処方せん医薬品以外の医療用医薬品について
(1)原則
処方せん医薬品以外の医療用医薬品についても、処方せん医薬品と同様に、医療用医薬品として医師、薬剤師等によって使用されることを目的として供給されるものであること。
このため、処方せん医薬品以外の医療用医薬品についても、効能・効果、用法・用量、使用上の注意等が医師、薬剤師等の専門家が判断・理解できる記載となっているなど医療において用いられることを前提としており、1.(2)に掲げる場合を除き 、薬局においては、処方せんに基づく薬剤の交付が原則であること。(2)処方せん医薬品以外の医療用医薬品の取扱いについて
処方せん医薬品以外の医療用医薬品については、病院、診療所、薬局等へ販売する場合を除き、処方せんに基づく薬剤の交付を原則とするものであるが、一般用医薬品の販売による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売を行わざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で、次に掲げる事項を遵守すること。
- 数量の限定
販売を行わざるを得ない必要最小限の数量に限定すること。- 調剤室での保管・分割
処方せん医薬品以外の医療用医薬品については、薬局においては、原則として、医師等の処方せんに基づく調剤に用いられるものであることから、通常、処方せんに基づく調剤に用いられるものとして、調剤室又は備蓄倉庫において保管すること。
また、販売に当たっては、薬剤師自らにより、調剤室において必要最小限の数量を分割すること。- 販売記録の作成
事後に保健衛生上の支障が生じた場合に、迅速な対応を講ずることができるようにしておく必要があることから、販売時において、販売品目、販売日、販売数量並びに患者の氏名及び連絡先を記録すること。- 薬歴管理の実施
販売された処方せん医薬品以外の医療用医薬品と医療機関において処方された薬剤等との相互作用・重複投薬を防止するため、患者の薬歴管理を実施すること。- 薬局における薬剤師の対面販売
販売に当たっては、薬局において、薬剤師が対面により販売すること。
※1.(2)は処方箋医薬品を販売可能な正当な理由を指します。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品に関する取り扱いについては薬機法には記載されていませんが、この通知により、処方箋医薬品と同様に処方せんに基づく薬剤の交付を原則とするが、「やむを得ず販売を行わざるを得ない場合」等において、処方箋なしで販売する場合の取扱いが示されました。
この通知が出る前日に公開されている「日医白クマ通信 No.89」(2005年3月29日)には以下の記載があります。
要指示薬制度から処方せん医薬品制度になったから、処方せんがなくても薬局で買えることになったのではなく、薬事法上の構造は改正前と改正後で基本的に変更はなく、今回の改正により、その範囲が狭まったものと理解している。
医療用医薬品と処方せん医薬品の範囲をできるだけイコールにするように努力しなければならないと考えており、処方せんの医薬品以外の医療用医薬品の販売についても、厚労省に処方せんがなければ販売しないように指導通知を出すように要請している。
まさにここに記載されていた要請が通った形なのか、要請がなくとも通知が行われるはずだったのかは不明です。
現在も続く二重構造の誕生
処方箋医薬品制度の導入により、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の取り扱いについては、
- 薬機法 第49条:規定なし
- 通知:処方箋による交付が原則(処方箋なし販売は例外)
という法律と通知による二重構造となりました。
その後、「処方せん医薬品等の取扱いについて」(薬食発第0330016号 平成17年3月30日)は廃止され、2014年に「薬局医薬品の取扱いについて」(薬食発0318第4号 平成26年3月18日)に移行されますが、この考え方に変更はありません。
これが、現在の零売問題につながっています。
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知
2022年、厚生労働省は「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」(薬生発0805第23号 令和4年8月5日)を公開し、2014年通知の趣旨を逸脱した不適切な販売が散見されるとして、ルールを改めて整理しました。
2005年に施行された処方箋医薬品制度への移行後も残った「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に関しては、法的に処方箋による調剤以外を認めないルールは存在せず、通知によってのみそのことが求められてきました。
ですが、この通知を逸脱した販売が増えてきたことを契機に、二重構造の見直しに向けた議論が進んでいくことになります。
改正薬機法による零売の見直し
2025年(令和7年)5月21日に公布された改正薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律)では、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売」の見直しも行われており、その部分は2076年(令和9年)5月20日に施行されます。
改正薬機法に向けた議論①:医薬品の販売制度に関する検討会
処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売については、改正薬機法に盛り込まれる内容の1つとして、2023年2月から12月にわたって開催された医薬品の販売制度に関する検討会の中で検討されました。
- 第1回 2023年2月22日(議事録・資料)
- 第2回 2023年3月8日(議事録・資料)
- 第5回 2023年6月12日(議事録・資料)
- 第7回 2023年8月4日(議事録・資料)
- 第8回 2023年9月4日(議事録・資料)
- 第9回 2023年10月30日(議事録・資料)
- 第10回 2023年11月30日(議事録・資料)
- 第11回 2023年12月18日(議事録・資料)
最終的なとりまとめでは処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について、以下の資料のようにまとめられています。


第3 医薬品販売制度をめぐる課題と対応策
1.処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売(2)具体的な方策 (資料 1【処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売】)
- 医療用医薬品は、医師の診断を経てその処方箋や指示に基づき医療の中で使用されることを前提に承認を受けた医薬品であるため、一般の者の需要に応じて医師の診断を経ずに販売されると、医薬品の適正使用が十分に確保されないおそれがある。医療用医薬品の役割及び規制の実効性に鑑み、医療用医薬品については処方箋に基づく交付が基本である。
- 処方箋医薬品以外の医療用医薬品についても、処方箋に基づく交付が原則であるが、やむを得ない場合に限り薬局での販売が認められてきた経緯等も踏まえつつ、例外的に「やむを得ない場合」については薬局での販売を認めることを法令上規定することとする。また、「医療用医薬品」の定義を法令上明記すること等について併せて検討する。
- 「やむを得ない場合」については、次の①又は②のいずれかを満たす場合とする。どのような事例が該当するのかについては、具体的な例示も含めてガイドラインを整備する。
- 次のア及びイをいずれも満たす場合
- ア.医師に処方され服用している医療用医薬品が不測の事態で患者の手元にない状況となり、かつ、診療を受けられない場合
- イ.OTC医薬品で代用できない場合、又は代用可能と考えられるOTC医薬品が容易に入手できない場合(例:通常利用している薬局及び近隣の薬局等において在庫がない場合等)
- 社会情勢の影響による物流の停滞・混乱や疾病の急激な流行拡大に伴う需要の急増等により保健衛生がかされる事態となり、薬局において医療用医薬品を適切に販売することが国民の生命・身体・健康の保護に必要である場合
- 上記の「やむを得ない場合」における販売に当たっては、以下の事項を要件とする。
- 原則として、必要としている医薬品を調剤した薬局や、継続して処方箋を応需するなど当該患者の状況を把握している薬局が販売すること(旅行中の場合等、通常利用している薬局の利用が難しい場合等の例外的な場合を除く。なお、例外的な場合に販売を行う薬局は、薬剤服用歴の記録を適切に作成・保管・管理して、必要に応じて確認できることを条件とし、通常利用している薬局(必要としている医薬品を調剤した薬局)に連絡を取り、連携を図ること。)。なお、患者の状況を把握し、処方した医療機関と連携することが重要であるという観点から、かかりつけの薬剤師・薬局が販売することが望ましい。
- 一時的に(反復・継続的に販売しない)、最小限度の量(事象発生時に休診日等の事情で受診できない場合に、通常受診している医療機関その他の医療機関に受診するまでの間に必要な量。最大で数日分程度。)に限り販売すること。
- 適正な販売のために購入者の氏名、販売の状況等を記録すること。また、「やむを得ない場合」の①に該当することにより販売を行った場合には、受診している医療機関に情報提供すること。
- 上記の要件を満たした上での販売は、処方箋の継続的な応需等、薬局が患者との関係性に基づいて対応する業務であり、一般消費者向けに医療用医薬品が販売可能である点を薬局の特色として強調する内容の広告については不適切であることから、このような広告は禁止すべきである。
- 現在は処方箋医薬品に指定されていない医療用医薬品のうち、用途等によっては副作用のリスクが高いといった一部品目については、個別にリスクを分析・評価した上で、リスクの高い医療用医薬品(従来の「処方箋医薬品」)として分類を見直すことについて検討すべきである。
- なお、漢方薬・生薬については、伝統医学としての知見の積み重ねや、古くからの使用経験等の長い歴史があり、一般用医薬品としての販売が認められていた。しかし、次第に医療用医薬品が主流となり、一般用医薬品の販売が中止されるなど、現在では医療用医薬品の製品しか製造販売されていない漢方製剤・生薬製剤が存在する。これらについては、
- 「薬局製造販売医薬品」の範囲の見直し(拡大)を検討する
- 医療用医薬品の漢方製剤を製造販売しているメーカーに一般用医薬品の製造販売等を行うよう働きかける
など、安全性を確保した上で、既存のルールの中で販売できるように対応を検討する。
改正薬機法に向けた議論②:厚生科学審議会 (医薬品医療機器制度部会)
このとりまとめを受けて、厚生科学審議会 (医薬品医療機器制度部会)でも検討が行われました。
最終的に2025年1月10日にとりまとめが公開されており、処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売については以下のように記載されています。


(5)医薬品の販売区分及び販売方法の見直し
① 処方箋なしでの医療用医薬品の販売の原則禁止
- 近年、処方箋なしでの医療用医薬品の販売を薬局営業の主たる目的として掲げるいわゆる零売薬局が増加し、本来診療が必要な疾病であっても、医師の診断を経ずに購入できると受け取れるような広告を行う等の事例も見られる。処方箋医薬品以外の医療用医薬品については、処方箋なしでの販売は禁止されておらず、通知により、要指導医薬品等の使用を考慮したにもかかわらずやむを得ず販売を行わざるを得ない場合に限るとされているにとどまる。
- そのため、薬機法上、医療用医薬品については処方箋に基づく販売を原則とした上で、やむを得ない場合(①医師に処方され服用している医療用医薬品が不測の事態で患者の手元にない状況となり、かつ、診療を受けられない場合であって、一般用医薬品で代用できない場合または②社会情勢の影響による物流の停滞・混乱や疾病の急激な流行拡大に伴う需要の急増等により保健衛生が脅かされる事態となり、薬局において医療用医薬品を適切に販売することが国民の身体・生命・健康の保護に必要である場合等)にのみ薬局での販売を認めるべきである。また、やむを得ない場合における販売方法については、原則としてかかりつけ薬局または当該患者の状況を把握している薬局が対応することとするとともに、数量は必要最小限度とし、販売する際には当該患者の薬歴の確認や販売状況等の記録を必要とすべきである。
- なお、法改正事項以外の見直し事項については、「医薬品の販売制度に関する検討会」のとりまとめにおいて、特殊事情があるものとして漢方薬・生薬について記載がなされており、これらについては現場での販売に支障を来たさないよう適切な形での対応がなされるべきである。
改正薬機法はこの内容を踏まえて検討されました。
改正薬機法の零売に関する記述
改正薬機法のうち、令和9年5月20日に施行される部分に、零売に関する見直しが含まれています。
具体的には、薬機法 第36条の3第2項が新設されます(旧来の第2項は第3項に移行)。
以下に改正後の薬機法 第36条の3第2項(オレンジ部分)を引用します。
(薬局医薬品の販売に従事する者等)
第三十六条の三 薬局開設者は、厚生労働省令で定めるところにより、薬局医薬品につき、薬剤師に販売させ、又は授与させなければならない。
2 薬局開設者は、医師、歯科医師又は獣医師から処方箋の交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく、薬局医薬品のうち、処方箋の交付を受けて使用すべきものとして厚生労働大臣が指定する医薬品※を販売し、又は授与してはならない。ただし、次の各号のいずれかに掲げる場合において、厚生労働省令で定めるところにより、販売し、又は授与するときは、この限りでない。
一 薬剤師、薬局開設者、医薬品の製造販売業者、製造業者若しくは販売業者、医師、歯科医師若しくは獣医師又は病院、診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者(以下「薬剤師等」という。)に販売し、又は授与する場合
二 医師、歯科医師又は獣医師から処方箋の交付を受けた者以外の者に対して販売し、又は授与することがやむを得ない場合として厚生労働省令で定める場合
3 薬局開設者は、薬局医薬品(前項の厚生労働大臣が指定する医薬品を除く。)を使用しようとする者以外の者に対して、正当な理由なく、薬局医薬品を販売し、又は授与してはならない。ただし、薬剤師等に販売し、又は授与するときは、この限りでない。令和9年5月20日 施行:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和七年法律第三十七号)
※「処方箋の交付を受けて使用すべきものとして厚生労働大臣が指定する医薬品」が具体的に何を指すかはまだ明記されていませんが、おそらくは「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」が該当するのではないかと思われます。
つまり、「処方箋の交付を受けて使用すべきものとして厚生労働大臣が指定する医薬品」の定義次第ではありますが、これまで通知にのみだった規制が、薬機法による法令上の規制になるということになります。
「やむを得ない場合」について、具体的にどうなるかは決定していませんが、とりまとめの内容が反映されるはずです。
零売をめぐる訴訟
2025年1月、いわゆる零売薬局を運営する3社が、国を相手に訴訟を起こしました。
原告側の訴えは、
処方箋医薬品以外の医療用医薬品について、厚生労働省が通知によって処方箋なしでの販売を「やむを得ない場合」に限定したり、広告を制限したりすることは、薬機法の規制を超えるものだと主張しました。
そのうえで、「やむを得ない場合」に限らず零売や広告を行える地位の確認に加え、厚生労働省の対応によって損害を受けたとして、国に損害賠償を求めました。
これに対し、東京地方裁判所は2026年9月18日、原告側の請求を退けました。
判決では、薬剤師が医師の処方箋なしに医療用医薬品を販売することについて「実質的に医行為に該当し、保健衛生上の危害が生じるおそれがある」とし、零売を「やむを得ない場合」に限定する厚生労働省の通知についても、薬機法の趣旨に反するものではないと判断しました。
ただし、これは零売そのものを一律に違法とした刑事判決ではありません。
また、原告側は判決を不服として控訴しており、2026年9月時点では判決は確定していません。




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