Q:モイゼルト軟膏ってどんな薬ですか?

服薬指導のポイント

A:アトピー性皮膚炎に対する適応をもつ薬剤で、日本で初めての外用PDE4阻害剤です。小児に対しても顔を含めた全身に使用できる、比較的安全性の高い薬剤です。

モイゼルト軟膏は日本で初めての外用PDE4(PhosphoDiEsterase 4)阻害薬です。(有効成分であるジファミラストが承認されたのは世界初です。)
有効成分のジファミラストがPDE4を阻害することでcAMPの分解を抑制することで、cAMPの低下による各種サイトカインの過剰産生を抑制、サイトカインによって引き起こされる炎症の悪化を防ぎます。

安全性が高く、長期間使用できる薬剤として開発

インタビューフォームに開発の経緯が記載されています。

I.概要に関する項目
1.開発の経緯
アトピー性皮膚炎の治療目標は、症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、急な悪化がおこらない寛解状態に到達し、それを維持することである。アトピー性皮膚炎の寛解導入及び寛解維持療法における基本的な薬物治療は外用療法であるため、既存薬とは異なる作用機序を持ち、安全性に優れ使用上の制約が少なく長期間使用できる抗炎症外用剤が望まれている。

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% インタビューフォーム

新しい作用機序(効果)をもつ薬剤で、安全性が高く、長期間使用できる製剤として開発されたのがモイゼルト軟膏です。

外用薬としては初めてのPDE4阻害薬

4. 効能又は効果
アトピー性皮膚炎

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% 添付文書

PDE4は細胞内の情報伝達物質(セカンドメッセンジャー)として働くcAMPを分解する酵素です。
cAMPは各種サイトカインの産生を調整する役割を担っており、PDE4により分解を受け、cAMPが減少すると生体内のサイトカインの産生が増加します。
モイゼルト軟膏はPDE4阻害薬であるジファミラストの働きにより、皮膚でのcAMP分解を抑制、サイトカインの過剰発現を防ぐことで皮膚の炎症を抑制、アトピー性皮膚炎の症状を改善します。

モイゼルト軟膏は外用薬として初めてのPDE4阻害薬です。

副作用が少ない

添付文書に記載されている副作用は以下の通りです。

11. 副作用
11.2. その他の副作用

皮膚
0.5%以上:色素沈着障害(1.1%)、毛包炎、そう痒症
0.5%未満:膿痂疹、ざ瘡、接触皮膚炎

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% 添付文書

外用薬とはいえ非常に少なくなっています。

審議結果報告書を見ても、プラセボと大差がなく、試験によってはプラセボよりも有害事象が少ない場合もあります。

妊婦・授乳婦に対する制限

ジファミラストの分子量は非常に小さい(分子量 446.44)ため、皮膚から容易に吸収されます。ですが、妊婦・授乳婦に対する使用は禁忌ではなく、予期せず使用してしまったからといって直ちに大きな問題があるわけではなさそうです。ただ、添付文書の記載内容から積極的な使用が推奨されるものではないことは明らかです。
基本的に妊娠中の使用は避け、明確に効果が期待できる場合を除いて授乳中の使用も避けるという形になるのではないかと思います。

妊娠に関する注意

添付文書に以下のように「妊娠中は投与を避ける」旨の記載があります。

9.4 生殖能を有する者
妊娠可能な女性には、本剤投与中及び投与終了後一定期間は適切な避妊を行うよう指導すること。

9.5 妊婦
妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、投与しないことが望ましい。動物実験(雌ラット:皮下)において、臨床曝露量の263倍の曝露で、胚・胎児の死亡率高値及び胎児の心室中隔膜性部欠損が報告されている。

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% 添付文書

下線部に記載されているように、動物実験での結果を踏まえて記載されている文章です。
禁忌ではないこと、下線部の記載内容からも分かるように、人で同様のことが起こるかどうかは不明ですが、基本的には妊娠中の方には避ける薬剤となっています。

授乳中に関する注意

9.6 授乳婦
治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。動物実験(雌ラット:皮下)において、乳汁中への移行(乳汁中濃度は血液中濃度の約14倍)が報告されている。

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% 添付文書

下線部に記載されているように動物実験で乳汁中への濃縮移行が報告されているため、使用の可否を検討する必要があります。
モイゼルト軟膏を用いることで明確な効果が期待できる症例であれば継続を検討していいのではないかと思います。(赤ちゃんにどれくらい影響があるかは下の方で検討しています)

基本的には使用部位の制限はない

以下の画像はメーカー作成の患者向け資料です。
モイゼルト軟膏は、使用量の差はあっても、部位に関わらず使用することが可能です。

「モイゼルト軟膏を使用される方へ」(大塚製薬)より
ただし、感染部位・粘膜等への使用は避ける

9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 皮膚感染症を伴う患者

皮膚感染部位を避けて使用すること。なお、やむを得ず使用する場合には、あらかじめ適切な抗菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤による治療を行う、若しくはこれらとの併用を考慮すること。

14. 適用上の注意
14.1 薬剤投与時の注意
14.1.1 粘膜、潰瘍、明らかに局面を形成しているびらん等への塗布は避けること。
14.1.2 万が一、眼に入った場合は、直ちに水で洗い流すこと。

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% 添付文書

PDE4阻害という作用機序から免疫細胞の活性化を抑制する可能性があるため、皮膚感染部位への使用は避けるように記載されています。ただ、臨床試験では感染症の発生率に関してプラセボとの間で有意差は見られませんでした。

粘膜部等からの吸収についても不明なため使用が推奨されていません。

中等度のステロイドと同等の効果?

モイゼルト軟膏とステロイド製剤の効果の比較が行われているわけではありませんが、海外で発売されている外用PDE4阻害薬(crisaborole外用薬)が中等度のアトピー性皮膚炎に対する適応を取得していることから、モイゼルト軟膏も同程度の効果が期待できるのではないかと予想されます。

既存薬で効果不十分な場合の使用はもちろん、寛解維持療法の使用によりステロイド外用薬を減量したり中止できるのではないかと期待されます。

おまけ:授乳時に使用した場合の赤ちゃんへの暴露量

授乳婦に対するデータをもとに、赤ちゃんへの曝露量を考えてみます。
添付文書に記載されているラットでの実験結果をそのままヒトに置き換えて考えてみます。

16. 薬物動態
16.1 血中濃度
健康成人に本剤0.3%、1%及び3% 5gを上背部皮膚1,000㎠に1日2回 14日間反復塗布した時の血漿中濃度推移及び薬物動態パラメータを図16-1及び表16-1に示す。本剤0.3%、1%及び3%は、いずれも反復塗布7日目に定常状態に達した。

(表16-1)
本剤0.3%:Cmax=0.506±0.348ng/mL
本剤1%:Cmax=0.795±0.208ng/mL

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% 添付文書

高用量製剤である1%で考えてみます。
まず、実験での塗布量ですが、「5gを上背部皮膚1,000㎠に1日2回」となっており、これは承認された成人用量の5倍に該当します。

6. 用法及び用量
通常、成人には1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。
通常、小児には0.3%製剤を1日2回、適量を患部に塗布する。症状に応じて、1%製剤を1日2回、適量を患部に塗布することができる。

7. 用法及び用量に関連する注意
7.1 塗布量は、皮疹の面積0.1㎡あたり1gを目安とすること。

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% 添付文書

5倍に使用した条件でCmax=0.795±0.208ng/mL。
14倍に濃縮された場合の血中濃度は最大で約14ng/mLとなります。
完全母乳の場合、一般的に赤ちゃんの哺乳量は750〜800mL/日と言われています。
これを元に計算すると、赤ちゃんが1日あたり11.2μgのジファミラストを摂取することになります。
これは5倍量を使用した場合の結果なので、1/5にすると2.24μgということになります。

個人的には非常に少ないという印象ですが、いかがでしょうか?
いずれにせよ、経口投与した場合の影響は不明なので、摂取してしまうことがリスクであることに変わりはないです。

参考資料

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% 添付文書 – 大塚製薬

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% インタビューフォーム – 大塚製薬

モイゼルト軟膏0.3%/モイゼルト軟膏1% 審議結果報告書

日本皮膚科学会マニュアル – ジファミラスト軟膏(モイゼルト®︎軟膏0.3%,1%)安全使用マニュアル

コメント

タイトルとURLをコピーしました